問題解決療法(Problem-Solving Therapy, PST) 概要 2025


問題解決療法(Problem-Solving Therapy, PST)

概要

問題解決療法(PST)は、ストレスや心理的な困難に直面した際に、適応的な問題解決スキルを身につけることを目的とする認知行動療法の一種である。1970年代にD’ZurillaとGoldfriedによって開発され、その後Nezuらによって改良が加えられた。PSTは、うつ病、不安障害、ストレス関連障害などの治療に有効であり、個人、グループ、家族療法など様々な環境で適用されている。


PSTの理論的基盤

1. 社会問題解決モデル

社会的な問題解決とは、日常生活の中で直面する問題を効果的に解決するための自己制御型の認知行動プロセスである。これは以下の3つの要素から成り立つ。

  1. 問題解決の方略(Problem-Solving Orientation)
    • 問題に対する認識や態度(ポジティブ/ネガティブ)
  2. 問題解決スキル(Problem-Solving Skills)
    • 問題を明確化し、解決策を考え、評価・実行する能力
  3. 自己制御(Self-Regulation)
    • 問題解決スキルを適切に適用し、長期的に維持する力

2. ストレスと幸福の関係モデル

  • ストレスの多い出来事(仕事の問題、人間関係のトラブルなど)は、適応的な問題解決スキルが不足していると心理的な苦痛を引き起こす。
  • しかし、適切な問題解決スキルを持つことで、ストレスの影響を軽減し、ポジティブな心理状態を維持できる。

PSTの主要な概念

PSTでは、問題解決の方法を5つの側面に分類している。

側面説明
ポジティブな問題志向問題を「解決可能な挑戦」と捉え、前向きな姿勢を持つ。
ネガティブな問題志向問題を「脅威」として捉え、解決を困難と感じる。
合理的な問題解決系統的・計画的に問題を分析し、最適な解決策を選択する。
衝動的/不注意な問題解決即興的で計画性のない解決方法を選び、適切な対処ができない。
回避的問題解決問題を先送りし、解決を他者に依存する傾向がある。

PSTは、ポジティブな問題志向と合理的な問題解決能力を高めることを目指し、ネガティブな問題志向、衝動的・回避的な問題解決を抑制することを目標とする。


PSTの実践

1. 問題解決の6つのステップ

PSTでは、以下の6つのステップを踏むことで問題を効果的に解決する。

  1. 問題の定義と理解
    • 問題を明確化し、何が課題となっているかを特定する。
  2. 目標の設定
    • 望ましい解決結果を具体的に設定する。
  3. 解決策の生成(ブレインストーミング)
    • 複数の選択肢を考え、柔軟な発想を促す。
  4. 解決策の評価と選択
    • 各選択肢のメリット・デメリットを比較し、最適な解決策を選ぶ。
  5. 解決策の実行
    • 実際に解決策を試し、実行可能かどうかを検討する。
  6. 結果の評価と調整
    • 解決策がうまく機能しているか評価し、必要に応じて修正する。

PSTの適用例

1. うつ病や不安障害への応用

  • うつ病患者は、ネガティブな問題志向を持ちやすく、PSTを通じて問題解決の自信を高めることで抑うつ症状が軽減される。
  • 不安障害患者は、問題解決を回避する傾向があり、PSTで回避行動を減らし、適応的な対処を学ぶ。

2. 健康問題や慢性疾患の管理

  • 慢性的な病気(糖尿病、がんなど)を持つ患者にPSTを適用することで、治療の意思決定やストレス管理を向上させる。
  • 医療従事者と患者の間のコミュニケーションを円滑にし、治療への積極的な関与を促す。

3. 対人関係や職場のストレス

  • 人間関係の問題に対して、合理的な問題解決スキルを適用し、対立を減らす。
  • 職場のストレス管理として、効果的なタスク管理や問題解決スキルを向上させる。

PSTの評価と効果

PSTの有効性は、さまざまな研究によって証明されている。

対象PSTの効果
うつ病患者抑うつ症状の軽減、自己効力感の向上
不安障害患者ストレス耐性の向上、回避行動の減少
高齢者認知機能の向上、孤独感の軽減
慢性疾患患者治療遵守率の向上、ストレス管理能力の向上
職場のストレス問題解決能力の向上、職場適応の向上

PSTは、問題解決能力を向上させることで、精神的健康の改善だけでなく、日常生活の質の向上にも寄与する。


まとめ

  • PSTは、日常の問題を適切に解決するためのスキルを訓練する心理療法である。
  • ポジティブな問題志向と合理的な問題解決を強化し、ネガティブな問題志向や回避的行動を減少させることが目標である。
  • 6つのステップを用いて、問題を体系的に解決する手法を提供する。
  • うつ病、不安障害、慢性疾患の管理、職場ストレスの軽減などに有効であり、多くの臨床研究でその効果が証明されている。

PSTは、個人の問題解決能力を向上させ、より良い精神的健康を促進するための有力な手段である。


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