躁状態とうつ状態2011-04-16

  躁うつ病(双極性障害)は、その考え方が昔と現在ではずいぶん変わってきました。 

  昔(と言っても10年〜15年くらい前のことですが)は、「躁うつ病」という名前の通りに、ハイな気分の「躁病」という時期と気持ちが沈んで動けなくなる「うつ病」という時期が繰り返し起ってくる疾患だと考えられていました。 なので、「躁病」になったら高揚した気分を抑える薬、「うつ病」になったら落ち込んだ気分を持ち上げる薬、を交互に(場当たり的に)使うということが普通に行われたりしていました。

  ところが、途中から「躁うつ病」は気分が「躁病」と「うつ病」という真反対の状態にひっくり返ることを繰り返す疾患なのではなく、むしろ安定した気分状態を維持することが困難であり、基本的に気分の波がずっとありつづけるのが問題の本質なのだろうという見方に変わってきました。 気分の波が落ち込んだ方向に振り切れてしまうと「うつ病」と呼ばれる状態になり、ハイな方向に振り切れてしまうと「躁病」と呼ばれる状態になるのですが、基本的に「普通」に見えている時でも気分の波はあるのであり、安定していることが難しいのだ・・・ということです。

  そうすると、「躁うつ病」の治療の方針も変わり、「うつ病になったら気分を持ち上げ、そう病になったら気分を抑える」のではなく、もともとある気分の波そのものをなくしていくこと(小さくしていくこと)がより本質的な治療だということになります。 こうして、現在では「躁うつ病」(双極性障害)やその比較的ソフトな亜系である「双極II型障害」(軽症うつ状態〜うつ病ははっきりあるものの、躁病ははっきりとはないために、一見すると難治性・反復性のうつ病に見えるようなものです)については、「気分調整薬 mood stabilizer」と呼ばれる、気分の波を小さくする薬が治療の中心になっています。

  ところで、「躁うつ病」(双極性障害)の患者さんは、病気の大部分を「躁病」ではなく「うつ病」で過ごすことが多いことが分かっています。 ほとんどの患者さんは、まずは圧倒的に多いこの「うつ病」の時に治療にかかりはじめ、途中でただの「うつ病」ではなく「躁うつ病」(または「双極II型障害」)であることが判明し、(うつ病として抗うつ薬を中心とした治療をするのではなく、躁うつ病として気分調整薬を中心とした治療になるという意味で)躁うつ病の治療に切り替わっていく、という経過をとります。

  では、最初の段階で「うつ病」なのか「躁うつ病」なのか分からないのではなく、最初から(特徴的な病歴から判断がついてしまうなど)躁うつ病のうつ状態であるということが分かっていた場合、最初から抗うつ薬ではなく、気分調整薬一本で行く方が良いのでしょうか? 

Van Lieshout RJ, et al.  Efficacy and acceptability of mood stabilizeres in the treatment of acute bipolar depression: systematic review.  The British Journal of Psychiatry, 2010; 196: 266-273.

  でも、この問題についてのこれまでの多くの研究結果をレビューしており、ここでの気分調整薬にはラモトリギン、カルバマゼピン、バルプロ酸が含まれていますが(なぜか炭酸リチウムが抜け落ちていましたが)、(1)躁うつ病(双極性障害)におけるうつ状態では気分調整薬一本でいけること、(2)そこに抗うつ薬を加えても加えなくても治療効果はあまり変わらないこと、などの結論を引きだしていました。

  今でも、日本国内では躁うつ病(双極性障害)におけるうつ状態に対して抗うつ薬を使ってしまうことが多いのですが、気分調整薬だけで行けるのであれば、それ一本で行った方が当然良いのでしょう。 

  (もっとも、上図にあげてある「躁うつ病(双極性障害)に有効な薬剤」のうち、日本の保険診療で普通に「躁うつ病」に使えるのはバルプロ酸とカルバマゼピンだけです。他の薬剤、ラモトリギンやオランザピン、クエチアピンは、いずれも既に国内で発売されていますが、保険適応が通っているのは「てんかん」や「統合失調症」だけであり、躁うつ病の治療にはまだ保険適応が通っていないものです。 日本独特と言っても良いような、保険適応で薬が使えるようになることへのこの異常なほどの遅れ(アジアの諸外国と比較しても最も遅れていると言っていいくらい遅れている)は、もうずっと以前からのものであって、これから先もなかなか治りそうにないのが大きな問題の1つなのでしょうが・・・)

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というような記事があり

私見では躁状態を抑制すればうつ状態を回避できる

躁状態には避けがたい甘美な旨みがあるのでどうしても回避できない

その結果としてうつ状態に陥る

時間がたってうつが回復すると

再び躁状態に突入する準備ができる

どうしてと言って

甘美な誘惑なのだから

これはもう仕方がない感じもする

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