CT32 フォーカシング(Focusing)

フォーカシング(Focusing)とは?

フォーカシング(Focusing)は、心理学者**ユージン・ジェンドリン(Eugene Gendlin)**によって開発された心理療法的技法であり、身体の内側にある「漠然とした感覚(フェルトセンス, Felt Sense)」に意識を向け、それを言語化し、深い気づきを得るプロセスです。

この技法は、来談者中心療法(ロジャーズのパーソン・センタード・セラピー)の研究から生まれ、**「効果的なセラピーを受ける人の特徴」**を研究する過程で発見されました。ジェンドリンは、セラピーの効果が高い人は「言葉にならない感覚」に意識を向け、それをゆっくりと探る能力が高いことを発見しました。

フォーカシングは、心理療法だけでなく、自己探求・セルフケア・ストレスマネジメントにも活用されています。


フォーカシングの基本概念

1. フェルトセンス(Felt Sense)

フォーカシングの中心概念は、「フェルトセンス(Felt Sense)」です。これは、明確な感情や考えとして表現される前の、**「ぼんやりとした、しかし確かにそこにある身体感覚」**のことです。

例えば:

  • 仕事のストレスについて考えたときに、なんとなく「お腹が重い感じがする」
  • 人間関係の問題を思い浮かべると、「胸の奥にモヤモヤした感じがある」
  • 重要な決断をしようとすると、「のどが詰まるような感じがする」

このような漠然とした感覚がフェルトセンスです。フォーカシングでは、この感覚に意識を向け、そこから深い自己理解を引き出します。

2. 身体志向のアプローチ

フォーカシングは、思考や分析ではなく、身体の感覚を通じて気づきを得る点が特徴です。
私たちは普段、言語的な思考に頼りがちですが、フォーカシングでは「体が知っていること」に注意を向けます。

3. 言葉にすることの重要性

フェルトセンスを明確にするためには、「ピッタリくる言葉」を見つけることが重要です。
例えば、「なんとなくモヤモヤする」と思っていた感覚を探っていくと、「実は怒りだった」「寂しさだった」と気づくことがあります。
言葉にすることで、漠然とした感覚が明確になり、気づきが深まります。


フォーカシングの6つのステップ(ジェンドリンの方法)

フォーカシングには、以下の6つの基本ステップがあります。

1. クリアリング・ア・スペース(心のスペースをつくる)

  • 目を閉じて、静かな場所でリラックスする。
  • 「今、気になっていることは何だろう?」と自分に問いかける。
  • 体の中のどこかに違和感や重さを感じる部分があるか探る。
  • すぐに分析せず、ただ「そこにある」と認識する。

2. フェルトセンスを感じる

  • 漠然とした感覚(フェルトセンス)に注意を向ける。
  • 例えば、「仕事のことを考えると、胸が苦しくなる感じがする」と気づく。
  • どのような感覚なのか、はっきりしなくても大丈夫。

3. フェルトセンスに名前をつける

  • その感覚に合う「言葉」や「イメージ」を探す。
  • 例えば:
    • 「胸が苦しい → 何かが締め付けられるような感じ」
    • 「お腹が重い → 黒い石が詰まっているような感じ」
    • 「肩がこわばる → 鎧を着ているような感じ」
  • 言葉やイメージがピッタリくるまで、しばらく探る。

4. 言葉のフィットを確かめる

  • その言葉やイメージが本当に自分の感覚に合っているか、確認する。
  • 例えば、「胸が苦しい」という表現がしっくりこなければ、「不安が渦巻いている感じ」「怒りが詰まっている感じ」など、別の表現を探す。
  • 体が「そう、それ!」と感じる表現が見つかるまで、ゆっくりと確かめる。

5. フェルトシフト(感覚の変化)

  • フェルトセンスに適切な言葉を見つけると、体の感覚が少し変化することがある(これを「フェルトシフト(Felt Shift)」と呼ぶ)。
  • 例えば、「胸が締め付けられる感じ」が「あ、少し楽になった」と変わる。
  • これが起こると、感情の解放や気づきが進む。

6. 受け入れと終了

  • どんな気づきがあったかを振り返り、自分をねぎらう。
  • フェルトセンスにしっくりくる言葉を見つけたことを確認し、「また必要なときに戻ってこられる」と思う。
  • ゆっくり目を開け、日常に戻る。

フォーカシングの効果

1. ストレスや不安の軽減

  • 抑圧された感情を言語化することで、不安が軽減する。
  • 体の違和感を認識し、適切に対処できるようになる。

2. 自己理解の深化

  • 自分の本当の気持ちを知ることで、問題解決のヒントが得られる。
  • 無意識の感情や価値観を明確にできる。

3. 心理療法との併用

  • 認知行動療法(CBT)、感情焦点化療法(EFT)、マインドフルネスなどと組み合わせて使われることが多い。
  • クライエント自身が「自分で気づきを得る力」を高めることができる。

フォーカシングと他の心理療法の違い

比較項目フォーカシング(Focusing)認知行動療法(CBT)感情焦点化療法(EFT)
主な焦点体の感覚(フェルトセンス)思考の修正感情の変容
アプローチ体験的認知的感情的
目的内面の気づき認知の再構成感情の統合
技法身体感覚に焦点を当てる思考の歪みを修正感情を表現し変容させる

まとめ

  • フォーカシングは、「フェルトセンス(漠然とした身体感覚)」に意識を向け、それを言葉にすることで自己理解を深める技法。
  • 感情を抑圧せず、体験的に気づきを得ることを重視する。
  • ストレス管理、自己探求、心理療法の補助として広く活用されている。

フォーカシングは、言葉にならない感覚を探ることで、**「本当の自分の気持ち」**を見つける強力なツールです。

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