フォーカシング(Focusing)とは?
フォーカシング(Focusing)は、心理学者**ユージン・ジェンドリン(Eugene Gendlin)**によって開発された心理療法的技法であり、身体の内側にある「漠然とした感覚(フェルトセンス, Felt Sense)」に意識を向け、それを言語化し、深い気づきを得るプロセスです。
この技法は、来談者中心療法(ロジャーズのパーソン・センタード・セラピー)の研究から生まれ、**「効果的なセラピーを受ける人の特徴」**を研究する過程で発見されました。ジェンドリンは、セラピーの効果が高い人は「言葉にならない感覚」に意識を向け、それをゆっくりと探る能力が高いことを発見しました。
フォーカシングは、心理療法だけでなく、自己探求・セルフケア・ストレスマネジメントにも活用されています。
フォーカシングの基本概念
1. フェルトセンス(Felt Sense)
フォーカシングの中心概念は、「フェルトセンス(Felt Sense)」です。これは、明確な感情や考えとして表現される前の、**「ぼんやりとした、しかし確かにそこにある身体感覚」**のことです。
例えば:
- 仕事のストレスについて考えたときに、なんとなく「お腹が重い感じがする」
- 人間関係の問題を思い浮かべると、「胸の奥にモヤモヤした感じがある」
- 重要な決断をしようとすると、「のどが詰まるような感じがする」
このような漠然とした感覚がフェルトセンスです。フォーカシングでは、この感覚に意識を向け、そこから深い自己理解を引き出します。
2. 身体志向のアプローチ
フォーカシングは、思考や分析ではなく、身体の感覚を通じて気づきを得る点が特徴です。
私たちは普段、言語的な思考に頼りがちですが、フォーカシングでは「体が知っていること」に注意を向けます。
3. 言葉にすることの重要性
フェルトセンスを明確にするためには、「ピッタリくる言葉」を見つけることが重要です。
例えば、「なんとなくモヤモヤする」と思っていた感覚を探っていくと、「実は怒りだった」「寂しさだった」と気づくことがあります。
言葉にすることで、漠然とした感覚が明確になり、気づきが深まります。
フォーカシングの6つのステップ(ジェンドリンの方法)
フォーカシングには、以下の6つの基本ステップがあります。
1. クリアリング・ア・スペース(心のスペースをつくる)
- 目を閉じて、静かな場所でリラックスする。
- 「今、気になっていることは何だろう?」と自分に問いかける。
- 体の中のどこかに違和感や重さを感じる部分があるか探る。
- すぐに分析せず、ただ「そこにある」と認識する。
2. フェルトセンスを感じる
- 漠然とした感覚(フェルトセンス)に注意を向ける。
- 例えば、「仕事のことを考えると、胸が苦しくなる感じがする」と気づく。
- どのような感覚なのか、はっきりしなくても大丈夫。
3. フェルトセンスに名前をつける
- その感覚に合う「言葉」や「イメージ」を探す。
- 例えば:
- 「胸が苦しい → 何かが締め付けられるような感じ」
- 「お腹が重い → 黒い石が詰まっているような感じ」
- 「肩がこわばる → 鎧を着ているような感じ」
- 言葉やイメージがピッタリくるまで、しばらく探る。
4. 言葉のフィットを確かめる
- その言葉やイメージが本当に自分の感覚に合っているか、確認する。
- 例えば、「胸が苦しい」という表現がしっくりこなければ、「不安が渦巻いている感じ」「怒りが詰まっている感じ」など、別の表現を探す。
- 体が「そう、それ!」と感じる表現が見つかるまで、ゆっくりと確かめる。
5. フェルトシフト(感覚の変化)
- フェルトセンスに適切な言葉を見つけると、体の感覚が少し変化することがある(これを「フェルトシフト(Felt Shift)」と呼ぶ)。
- 例えば、「胸が締め付けられる感じ」が「あ、少し楽になった」と変わる。
- これが起こると、感情の解放や気づきが進む。
6. 受け入れと終了
- どんな気づきがあったかを振り返り、自分をねぎらう。
- フェルトセンスにしっくりくる言葉を見つけたことを確認し、「また必要なときに戻ってこられる」と思う。
- ゆっくり目を開け、日常に戻る。
フォーカシングの効果
1. ストレスや不安の軽減
- 抑圧された感情を言語化することで、不安が軽減する。
- 体の違和感を認識し、適切に対処できるようになる。
2. 自己理解の深化
- 自分の本当の気持ちを知ることで、問題解決のヒントが得られる。
- 無意識の感情や価値観を明確にできる。
3. 心理療法との併用
- 認知行動療法(CBT)、感情焦点化療法(EFT)、マインドフルネスなどと組み合わせて使われることが多い。
- クライエント自身が「自分で気づきを得る力」を高めることができる。
フォーカシングと他の心理療法の違い
比較項目 | フォーカシング(Focusing) | 認知行動療法(CBT) | 感情焦点化療法(EFT) |
---|---|---|---|
主な焦点 | 体の感覚(フェルトセンス) | 思考の修正 | 感情の変容 |
アプローチ | 体験的 | 認知的 | 感情的 |
目的 | 内面の気づき | 認知の再構成 | 感情の統合 |
技法 | 身体感覚に焦点を当てる | 思考の歪みを修正 | 感情を表現し変容させる |
まとめ
- フォーカシングは、「フェルトセンス(漠然とした身体感覚)」に意識を向け、それを言葉にすることで自己理解を深める技法。
- 感情を抑圧せず、体験的に気づきを得ることを重視する。
- ストレス管理、自己探求、心理療法の補助として広く活用されている。
フォーカシングは、言葉にならない感覚を探ることで、**「本当の自分の気持ち」**を見つける強力なツールです。