インフレーションが「無数の宇宙」を生んだ
執筆:松下安武 監修:野村泰紀
2024年2月1日
真空に起きた劇的な変化
今回はいよいよ、宇宙の急激な膨張インフレーションが無数の宇宙、すなわちマルチバースを生んだ、という話に入っていこう。
前回紹介したとおり、私たちの住む宇宙は誕生直後にインフレーションと呼ばれる空間の急激な膨張を起こしたと考えられている。その後、インフレーションが終了すると、物質と光が誕生し、宇宙は高温、高密度の火の玉状態(ビッグバン宇宙)となった。インフレーションを引き起こした、空間に満ちていたインフラトン場のエネルギーが、物質と光のエネルギーに転化したのだ。
インフラトン場のエネルギーは、空っぽの空間、つまり真空状態の空間に満ちたエネルギーだと言える。真空にエネルギーが満ちているというのは何とも不思議な話だが、実際、現代物理学によると、真空は単なる空っぽの空間ではなく、様々なものが満ちた、活気あふれた状態だということが分かっている。このことは現代宇宙論最大の謎である「ダークエネルギー」について取り上げる回でまた詳しく紹介することにしよう。
さて、誕生直後の私たちの住む宇宙は高いエネルギーが満ちていたわけだが、インフレーションが終わるとそのエネルギーは物質と光のエネルギーに転化し、その結果、真空は低いエネルギー状態へと移り変わった。
このように真空の状態が劇的に変化することは、一般に「真空の相転移」とよばれている。「相」とは状態のことで、「相転移」とは、物質などの状態が温度の変化などに伴って、大きく変化することをいう。例えば、液体の水が固体の氷になったり、気体の水蒸気になったりするのも相転移だ。
インフレーションは永遠に続く!?
エネルギーが高い比較的安定した真空の状態は「偽真空(false vacuum)」と呼ばれ、インフレーションを引き起こす。一方で、インフレーションが終了した後のエネルギーが低い安定した状態は「真真空(true vacuum)」と呼ばれる。この真真空の領域がその後、私たちが住んでいる世界になったと考えられている。
真空の相転移は、水が沸騰して水蒸気になる際の相転移と似ているところがある。水は100℃になると沸騰する。このとき水の中では小さな泡(水蒸気)があちこちで発生し、泡はすぐに大きくなって、ボコッと水面から出てくる。水の体積は当然ながら有限なので、いずれ水はすべて水蒸気となってなくなってしまうことになる。
一方、真空の相転移では、水の相転移とは全く異なることが起きる。まず偽真空の領域のあちこちに真真空の泡が発生する。それぞれの泡はほぼ光の速さで急激に大きくなっていく。拡大する真真空の泡が、偽真空の領域をすべて埋め尽くしてしまえば、インフレーションは空間全体で終了することになるわけだが、事はそう簡単ではない。真真空の泡は急激に大きくなっていくが、その間にも偽真空の領域はそれを上回る超急激な膨張、つまりインフレーションを続けている。その結果、無数の真真空の泡が発生して、それらが大きくなっていったとしても、真真空が偽真空の領域全体を埋め尽くすことはできないだろうと一般的に考えられているのだ(図1)。水の喩えでいうと、水と容器が急激に大きくなっていくため、沸騰を続けながらも水がいつまでたってもなくならない、といった状況にあたる。
以上のことから、インフレーションは空間全体で終了することはなく、広い視点から見るとインフレーションは永久に続く、ということになる。このようなインフレーションの描像は「永久インフレーション」と呼ばれている。
永久インフレーションが無数の宇宙を生む
永久インフレーションを起こしている空間全体を「親宇宙」とすると、その中では、無数の真真空の泡が発生し、そのそれぞれが「子宇宙」へと成長していくことになる。その中の一つが私たちの住む領域だ。これが永久インフレーションが生む無数の宇宙、すなわちマルチバースである。永久インフレーションを起こしている親宇宙の中に生じた、真真空の領域は、「泡宇宙」や「ポケット宇宙」などとも呼ばれる。
なお、本連載でこれまでに紹介してきた、私たちが住む泡宇宙の中で起きたインフレーションと、親宇宙の永久インフレーションは別物である。真空の相転移で生じた泡の中で、さらに別のインフレーション(1)が起き、それが終了して、物質と光が存在する私たちの住む世界が誕生したと考えられているのである。
さて、私たちの住む泡宇宙では138億年前にインフレーションは終わったが、泡宇宙の外では、インフレーションは終わらずにずっと続いていることになる。インフレーションは、現在の最先端テクノロジーでも測定できない一瞬の間に、塵ほどのサイズの空間が観測可能な領域のサイズにまで成長してしまうような、とんでもない勢いの膨張だということを思い出してほしい。泡宇宙と泡宇宙の間はインフレーションを起こしている空間(偽真空)によって隔てられている。そのため泡宇宙どうしは、基本的にはインフレーションによって光が止まって見えるような猛烈な速度で遠ざかっていることになる。
光速は自然界の最高速度であり、光速を超える速度での物体の移動は原理的にできないので、ある泡宇宙から別の泡宇宙に移動するなんてことはできない。それどころか、偽真空の領域で隔てられた泡宇宙どうしは光を含めた一切の情報のやり取りもできない。しかも泡宇宙どうしは素粒子の質量などが異なり、一部の物理法則すら異なっていると考えられている(このことについては、次回詳しく取り上げる)。以上のことを踏まえると、泡宇宙どうしは事実上、別々の宇宙だと言えるだろう。
空間の膨張と光速についてのよくある誤解
ここで空間の膨張について少し補足しておこう。連載の第3回でも紹介したが、宇宙空間は膨張しているため、遠くの銀河ほど、地球から見ると速く遠ざかっていくように見える。遠くになるほど、空間の膨張の効果が積み重なっていくからだ。これは銀河だけに限った話ではない。より一般化して言えば、「遠くの地点ほど、速く遠ざかっていくように見える」ということになる。
そして、ある地点Aから見た別の地点Bの遠ざかる速度が光速を超えることもあり得る。また、インフレーションは、現在の宇宙膨張よりはるかに凄まじい勢いの膨張なので、ほんの少し離れた空間上の点すら光速を超えて遠ざかることになる。
こう書くと、「光速は宇宙の最高速度で、絶対に超えられないのではなかったのか?」と思うかもしれない。確かに相対性理論によると、光速は宇宙の最高速度であり、どんなものの速度も、原理的に光速を超えることはできない。もう少し正確に言うと、「どんなものも、近くで並走する光より、速く進むことはできない」ということになる。光速を超える移動や情報の伝達は相対性理論によって禁じられているのだ。
しかし、空間の膨張によって銀河Aから見た銀河Bの遠ざかる速度が光速を超えたとしても、それは銀河Aと銀河Bの間の空間が伸びたことによる、ある意味で見かけ上の話であって、相対性理論に反するわけではない。銀河Bの近くで並走する光を銀河Bが追い抜くわけでもなければ、銀河Aの近くで並走する光を銀河Aが追い抜くわけでもないからだ(図2)。また、このような空間の膨張を使って、銀河Aから銀河Bに光速を超えて情報を伝えることもできない。
図2 ある銀河Aから見て、別の銀河Bの遠ざかる速度が光速を超えることもある。
泡宇宙は有限でもあり、無限でもある⁉
さて、再び永久インフレーションに基づいたマルチバースに話を戻そう。
本連載の第2回では、有限の宇宙(大きさが有限で果てがない宇宙)と無限の宇宙(大きさが無限で果てがない宇宙)がそれぞれどのようなものかを紹介した。そこでは、有限の宇宙と無限の宇宙は“別もの”という前提で話を展開したが、実は、永久インフレーションによって生じた泡宇宙は、「有限の宇宙であり、無限の宇宙でもある」という何とも不思議な見方ができることが分かっている。いったいどういうことだろうか?
まず大きさ(長さ)はどうやって測ればよいかについて考えてみよう。「長さなんて物差しで測ればよいだけで、それで話は終わりではないのか」と思われるかもしれない。確かに止まっている物体の長さを測るのは簡単だ。物体のそばに物差しを置き、物体の左端と一致している物差しの目盛を見る。そして次に物差しの右端と一致している物差しの目盛を見る。最後に右端と左端の目盛の値の差を計算すれば、物体の長さを求めることができる。
では動いている車の前端から後端までの長さはどうやって測ればよいだろうか? 前端の目盛を見て、その後に後端の目盛を見てしまうと、その間に車は前に進んでいるので正しい長さが測れない。そんな測り方をしていては、実際の長さより短い値になってしまうはずだ。
動いている車の長さを正確に測るには、前端と後端の目盛を「同時に」測定する必要がある。しかし実は、相対性理論によると、何を「同時」とみなすかは、観測者の運動速度によって変わってしまうことが分かっている。観測者Aと観測者Bの運動速度が異なっていると、ある二つの出来事が同時に起きたのか、そうでないのかは意見が一致しないのだ! これを「同時性の不一致」と呼ぶ。
つまり、観測者Aが、動いている車の前端と後端を同時に測定して車の長さを測ったとしても、それは観測者Bから見ると同時ではなく、その結果、車の長さについて両者の意見が一致しない、ということが起きるのである。
なお、同時性の不一致は、観測者の速度が光速に比べて無視できないほど大きい場合に初めて顕著に表れてくる。そのため、私たちが日常生活で経験するような速度では、同時性の不一致は顕著には表れてこないのだ。
何を「同時」とみなすかは立場によって異なる
「二つの出来事が同時に起きたのなら、それは誰から見ても同時ではないのか?」 そう思ったとしても無理はない。しかし相対性理論は、「二つの出来事が同時に起きたか否かは、観測者の立場によって異なる」という、常識的な感覚に反する衝撃の事実を明らかにしたのだ。理解の鍵を握るのは、「光の速度は誰から見ても一定(秒速30万キロメートル)である」という「光速度不変の原理」である。
以下では、話を簡単にするために、車を中が空っぽの長い箱だとして話を進める。車のちょうど真ん中に光源を置いて、一瞬だけフラッシュをたくことを考えよう。光速度不変の原理によると、動いている車の中の観測者Aから見て、光は前後両方向に秒速30万キロメートルで進む。光源はちょうど真ん中にあるので、光は前端と後端に同時に到着する(図3)。
今度は図3と同じ状況を、車の外の静止した観測者Bから見ることを考えよう。光速度不変の原理によると、観測者Bから見て、光は前後両方に秒速30万キロメートルで進む。ただし、光が進んでいる間にも車は前方に動いているので、車の後端は、後方に進む光に向かっていくことになり、その結果、光は車の後端に先に到着することになる(図4-1)。一方、車の前端は前方に進む光から逃げていくので、光は遅れて車の前端に到着することになる(図4-2)。
図4-1 前方に動いている車を、車の外で静止した観測者Bから見た場合(光が先に後端に到着)
図4-2 前方に動いている車を、車の外で静止した観測者Bから見た場合(光が遅れて前端に到着)
光は光源から前後両方向に同時に発せられ、車の中の観測者Aから見たら、前端と後端に光が同時に到着した。にもかかわらず、車の外で静止した観測者Bから見ると、光は前端と後端に時間差をもって到着した、つまり同時には到着しなかったということになる。
相対性理論によると、観測者Aと観測者Bの見方のどちらかが間違っているわけではなく、どちらも正しい。二つの出来事が同時かどうかは、観測者の立場によって異なるのである。
「絶対的に静止しているもの」など存在しない
おそらく多くの読者は観測者Aの見方に疑問をもつのではないだろうか。車は前方に動いているのだから、前方に進む光は遅く見え、後方に進む光は速く見えるのではないかと。
ここで大事なのは「動いている」または「静止している」とはどういうことかだ。今、あなたは椅子に座ってこの記事を読んでいるかもしれない。その場合、あなたは地面に対して静止している。しかし、その間にも地球は自転しているので、地球の外から見れば、あなたは地球の自転速度と同じ秒速380メートル(東京の緯度での値)で動いているとも言える。また、地球は太陽のまわりを秒速30キロメートルで公転しているので、太陽から見れば、あなたは秒速30キロメートルで動いているとも言える。さらに言えば、地球を含む太陽系も天の川銀河の中を約2億年で1周しており、その速度は秒速240キロメートルにも達する。天の川銀河の外から見れば、あなたは秒速240キロメートルで動いているとも言えるのだ。
つまり、速度とは絶対的な量ではなく、どこから見ているかによって決まる、相対的な量だと言える。「絶対的に静止している」と言えるものはこの世に存在しないのだ。物理学では、一定速度で動いている観測者からの視点(座標系)を「慣性系」と呼ぶ。そして相対性理論によると、すべての慣性系は同等、つまり、どの慣性系から見ても物理法則は同じになる、ということが分かっている。
つまり、上述の車の思考実験において、地上に対して動いている車の中の観測者Aも、地上で静止している観測者Bも同等だということになる。そのため、光(電磁波)の進み方を司っている物理法則(電磁気学の法則)は、観測者Aから見ても、観測者Bから見ても同等だということになり、光速は観測者Aから見ても、観測者Bから見ても一定になるのである。
泡宇宙は外から見ると有限、中から見ると無限
泡宇宙の大きさの話に戻ろう。永久にインフレーションを続ける空間(偽真空の領域)の中で、無数の泡宇宙(真真空の領域)が生まれ、そのうちの泡宇宙の一つが私たちの住む泡宇宙となった。この様子を、永久インフレーションを起こしている領域からの視点、つまり泡宇宙の外からの視点で簡略化して描いたのが図5だ。濃い灰色の領域が永久インフレーションを起こしている領域で、薄い灰色の三角形の領域が泡宇宙である。
鉛直方向が時間軸で、上が未来、下が過去、水平方向は3次元空間のうちの一つの方向の距離である(空間軸)。水平方向の点線は泡宇宙の外から見た場合の「同時刻のライン」だ。泡宇宙の外からの視点では、同時刻のライン上で起きた出来事は、すべて同時に起きたことだとみなされる。こういった時間軸と空間軸を使った図は、一般に「時空図」と呼ばれる(なお、時空図では通常、光の軌跡の傾きが45°になるように縦軸と横軸の縮尺を決める)。
濃い灰色と薄い灰色の領域の境界の線が、真空の相転移を起こしている場所に当たる。そしてこの左右の境界の間の水平方向の長さが、その時点での泡宇宙の大きさだ。つまり、泡宇宙の外から見ると、泡宇宙は有限の大きさに見える。この視点だと、泡宇宙は、永久インフレーションを続けている領域の中でどんどん大きくなっていることになる。
私たちの住む泡宇宙では、泡宇宙誕生後、ビッグバン(物質と光の誕生)が起き、さらに数億年経つと太陽のように自ら輝く恒星が誕生したと考えられている。図5のような泡宇宙を外から見た視点では、同時刻のラインを左右にたどっていくと、同じ時刻に恒星が誕生している領域も、ビッグバンが起きている領域も、泡宇宙が誕生している領域もあることが分かる。場所によって、泡宇宙誕生から経過した時間が異なっているわけだ。
では、泡宇宙の内部から見たらどうなるだろうか。泡宇宙の中では、同時に起きた出来事を結んだ「同時刻のライン」は、何に基づいて引けばよいのだろうか? 図3~図4で説明したように、何を同時とみなすかは、観測者によって異なる。これは相対性理論の中でも特殊相対性理論に基づいた話なのだが、理論物理学者シドニー・コールマン(1937~2007)は、特殊相対性理論をさらに発展させた一般相対性理論に基づいて、泡宇宙の中での最も自然な同時刻のラインの引き方を考えた。それは、真空の相転移が起きた点を結んだラインを時刻0として、その後の時刻のラインは物質の密度が一定になるように引く、というものだ。それを表したのが図6である。同時刻のラインはそれぞれなめらかな曲線になる。
「同時刻のライン(空間軸)は、時間軸に対して垂直に引くべきではないのか?」と思われた方もいるかもしれない。確かに高校までの物理学では、「空間軸と時間軸は直交させる」と習ったはずだ。しかし、車の思考実験で見たように、何を「同時」とみなすかは観測者によって異なる。これは時空図での言葉で表現すると、「空間軸(同時刻のライン)は時空図上で傾くことができる」ということを意味しているのだ。
ビッグバンによって物質と光が誕生した頃は、泡宇宙は超高密度だった。その後、時間が経つにつれて空間が膨張を続けた結果、密度はどんどん低くなっていった(密度=質量÷体積)。普通はこのように考えるのだが、コールマンの考え方では、逆に密度を指標にして同時刻を決めるわけだ。このように考えると、泡宇宙の中でビッグバンはすべて同一時刻(時刻1)に起きており、恒星の誕生もすべて同時刻(時刻2)に起きたということになる。
なお、銀河が多く分布する銀河団のような場所では密度は高いし、銀河の大規模構造のうち、銀河がほとんど存在しないボイドと呼ばれる領域では密度は低い。そのため、ここでいう密度とは、もっと大きなスケールで見た場合の平均的な密度のことを指している。
さて、もう一度、図6を見て欲しい。図を無限に大きくすることができないので、上端を適当なところで切っているが、実際の宇宙は図の上の方向に永久に続く。それぞれの同時刻のラインも、図では上端が切れているが、実際はさらに先まで続いている。同時刻のラインは図5とは違って、永久に泡宇宙の端とは交わらずにずっと続くので、泡宇宙の中の同時刻のラインの長さは無限大ということになる。泡宇宙の中の同時刻のラインの長さとは、すなわちその時点での泡宇宙の大きさのことなので、泡宇宙の大きさは無限大ということになる。しかも泡宇宙の大きさは生まれた瞬間(図の時刻0)から無限大なのだ!
泡宇宙の外から見ると有限の大きさで、中から見ると無限の大きさ。頭がこんがらがりそうになってしまうが、これは、ここまでの説明でみてきたように、「何を同時とみるか」が立場によって異なることから導き出された結論である。常識的な感覚にとらわれていたら、決して到達できない宇宙観だと言えるだろう。
なお、「泡宇宙の中から見ると、泡宇宙は無限の大きさに見える」という結論は、時間が未来の方向に永遠に続く、ということを暗に仮定している。単純に考えれば、永久インフレーションは未来に向かって永遠に続くと考えられそうだが、インフレーション理論自体がまだ確固たる証拠が得られているとは言えない段階なので、最終的な結論は将来の天文観測や宇宙論の発展に委ねられていると言えるだろう。
図6について、もう一つ重要な指摘をしておこう。泡宇宙の外のインフレーションを起こし続けている領域は、泡宇宙の中から見ると、時刻0よりも下、つまり過去に当たる。つまり、永久インフレーションを起こしている領域は、泡宇宙の中から見ると泡宇宙が誕生する「前」に当たるのだ。「泡宇宙の外=泡宇宙誕生の前」、またしても禅問答のような話になってしまったが、これもまた「何を同時とみなすかは立場によって異なる」という相対性理論の結論から導き出された宇宙観だと言えるだろう。
第5回の要点
- 永久インフレーションに基づいて考えると、インフレーションを続ける空間の中で、「泡宇宙」が無数に生まれた(永久インフレーションに基づくマルチバース)。
- 泡宇宙は外から見ると有限の大きさだが、中から見ると無限の大きさだと考えることもできる。
- 泡宇宙の「外」は、泡宇宙の中の視点からすると、泡宇宙の「誕生前」だとみなすこともできる。
注
- 話が複雑になるので詳細な説明は省くが、私たちの泡宇宙の中でさらに起きたインフレーション、すなわち前回まで話していたインフレーションは、専門的には「スローロール(slow – roll)・インフレーション」と呼ばれるものであり、永久には続かずに、泡の生成とは異なる仕組みによって有限の時間で終了すると考えられている。