ある人の話から考えたこと。
その人は医師であり、そもそも肩こりも首こりも経験したことがなかった。
しかし先日、9月の中頃から、首こりが始まった。右側だった。
パソコンに向かって根を詰めたからだろうと思っていた。
一週間後くらいに肩こりが始まった。これも右側だった。マウスでクリックしているからかと思った。
変だなと思っているうちに、右肩が抜けるような変な感じがあった。
さらに一週間して、右鎖骨あたりに発赤が出た。軽いアレルギーか湿疹かと思っていた。
2日後くらいになって、右首のあたりの皮膚が変だった。手で触れるとざらざらしていた。
鏡を見ると丘疹になっていた。症状と年齢から、帯状疱疹だと自己判断した。
薬を飲み始めて、軟膏も塗った。結果として、あまり拡大せずに終息した。
しかしそのあと、後遺症があった。右首のあたりがチクチクしてむず痒い。夜の方が痒みを強く感じる。
また同時にこりのようなものを感じた。肩こりと首こりだった。
主観的には、肩こり・首こりではじまり、特有の発疹を経過、そのあと発疹がなくなり、再度肩こり・首こりとなり、同時に後遺症としての皮膚違和感・痒みが生じる。肩こりを通過して発赤に至り、最盛期を過ぎてまた肩こりを通過して治癒するというイメージである。
それは、発病→身体症状→精神症状→身体症状→終息、といった精神医学的な観察とよく似ていた。
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肩こりは普通は、筋肉の緊張があり、血行が悪くなる、その結果、筋肉活動により生じた老廃物を処理しきれなくなり、局所にこりを感じるなどと説明されることがある。筋弛緩薬やビタミンB複合剤、また各種の漢方薬などが用いられる。軽い運動が勧められ、精神的なリラックス法も勧められる。
しかし上記例では、ヘルペスウィルスの活動に関連して、肩こりと首こりが発生している。たぶん、神経根とか神経節に住み込んだウィルスが神経を刺激して、関連痛として、痒み・痛み・違和感が生じているのだろうと推定される。
このことから類推すると、世間に多い肩こり・首こりの原因の一部は、潜伏しているウィルスが原因ではないかと思われる。だとすれば、免疫力をもう一段上げることができればよいのだが。
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古くからある精神病における精神症状と身体症状の時間的関連についての模式図がある。中井久夫などが書いている。
この図で考えると、Aの場合には、身体症状で始まり、精神症状を呈することなく、治癒に至る。
Bの場合には、身体症状で始まり、精神症状が発現し、治癒の過程で再び身体症状を経過して、治癒に至る。この場合、初期の身体症状と治癒期の身体症状は同じである場合もある。精神症状の時期には身体症状が消えている場合もあるし、消えていない場合もある。
Aの場合は、昔フロイトが観察したような神経症の身体症状の一部を説明できるかもしれない。
脳の病変と考えられる病気がどのような仕組みで身体症状を呈するものであるか、メカニズムは難しいが、とりあえず経過を模式図で理解することは昔から行われてきた。
もちろん、この図を、脳の構造と解釈して、脳の身体領域から始まり、精神領域に至り、精神領域から引き返して、身体領域に戻り、治癒に至ると考えてもよい。
たとえば、脳の身体領域部分にウィルスのようなものが住みついたとして、影響は身体症状で始まり、最大に拡大した時に精神症状を呈し、影響が小さくなるにつれて、身体症状だけになり、その後に治癒に至ると考えたとすれば、つじつまが合う。
もっと脳構造に即した図示をすると上図になる。
こうした事情を今回の帯状疱疹で考えると次のようになる。
2番目の説明図で書けば、次のようになる。
この場合に、皮膚症状を呈しない、帯状疱疹のタイプを想定すると、次のようになる。
この状態を考えると、いわゆる神経痛を説明できるように思う。
長年患い、梅雨の時期や台風の気圧変化の時に痛み出す。薬も効かないし、気を紛らわすくらいしか対策はない。本当は筋肉の問題ではないので、もみほぐすとしても効果的ではない。感覚神経を麻痺させてしまえば当然痛みは消えるが、日常生活を生きるには、そのようなわけにはいかない。
ヘルペスウィルスが長期間神経節に隠れ住んで消失しないのは、ある種の感染症にかかりにくくなるというメリットがあるのではないかとの議論がある。
どのようなメカニズムでヘルペスウィルスはヒトと共存しているのか、免疫系の攻撃を免れているのか、明確な説明はない。
実際に肩こりや神経痛の一部が、何かのウィルス感染の潜伏によるものだと仮説を考えるとして、そのような実証的なデータはないし、何かの炎症反応や、免疫系の明確な変化が実証されているわけでもない。しかし考え方としてはいいところもあるかもしれない。プリオンの影響などは一時言われたが最近は誰も言わない。
これまで一度も肩こりで悩んだこともない人が、帯状疱疹の前兆として肩こりを感じ、発疹に至り、発疹が消失しても、しばらく肩こりとピリピリ感に悩まされたという経過からは、このような説明が合理的ではないかと思う。
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同様のことは片頭痛の場合に観察されている。片頭痛はもちろん頭痛が伴うのであるが、特有の前兆発作と、特効薬がある。頭痛亡き片頭痛というものがあって、キラキラした幾何学図形→頭痛 が普通であるが、ときには頭痛ではなく腹痛や下痢などの場合もあり、キラキラ→腹痛・下痢、となるのも片頭痛と同じメカニズムは同じではないかという議論が昔あった。もちろん、前兆発作がない場合もあるので、その場合は、原因不明の、たとえば腹痛ということになる。片頭痛は血管運動発作によるものと考えられている。同じメカニズムで一部の腹痛など、いろいろな症状を呈することは理解できる。しかしこの種のものは血液検査などで検出できる変化は残さないので、診断が困難な場合が多い。
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一方で、免疫機能の低下時に帯状疱疹が発症するので、全身状態を良好に保つことがよいと言われている。ワクチンも有効だと言われている。このことの説明も、精神科的模式図で説明することができる。
上の図で、Aのときは免疫系が良好で、身体症状も精神症状も出ていない。
免疫系がBまで低下すると、身体症状が現れる。
免疫系がCまで低下すると、身体症状と精神症状が現れる。
人によっては精神症状が先に現れることもある。これはその人の「弱いところ」がどこかによる。生まれつき弱いところとか、ケガなどで昔痛めたところとか、ウィルスが潜伏している部分などが考えやすい。
治療としては、山を削るのではなく、免疫系を整えることがよい。
A→B→C→B→A という経過をたどる。
同じ図で、帯状疱疹の症状も説明できる。
精神症状なき精神病、頭痛なき片頭痛、発疹なき帯状疱疹など、可能性を考える。