「時間」とはなにか?→「量子もつれ」によって作られた“副産物”かも イタリアの研究者らが提唱
イタリアのフィレンツェ大学などに所属する研究者らが発表した論文「Magnetic clock for a harmonic oscillator」は、時間が量子もつれから生じるという理論モデルを提唱した研究報告である。研究チームの計算結果は、時間が物理的現実の基本的な要素ではなく、量子もつれの結果として生成されたものである可能性を示唆している。
一般相対性理論では、時間は宇宙の構造に組み込まれており、この物理的現実は時空に設定されている。この理論では、重力の存在によって時間がゆがんだり遅れたりする。一方、量子理論では、時間は可変でないものとされ、他の物体の特性のようには変化しない。その経過を記録するには、物体の外部にある時計を参照する必要がある。
今回研究チームは、ある物体が時間とともに変化するのを見るのは、その物体が“時計と量子もつれ状態だからではないか”と考えた。「変化する物体」と「時計」が量子もつれになっており、この量子もつれによって「時間」が生まれるという理論モデルである。量子もつれとは、2つの物体がどれだけ離れていても密接に結びついており、一方を乱すとその瞬間もう一方も影響を受けるという現象だ。
研究チームは、量子もつれした状態を数学的にモデル化するために「時計」役に小さな磁石のシステムを、「変化する物体」役にバネのように振動するシステム(量子オシレーター)を準備した。なお、磁石のシステム(時計)と量子オシレーター(変化する物体)は、量子もつれの状態に設定した。
この設定下で、シュレーディンガー方程式を用いて系の時間発展を記述。その結果、通常の時間変数の代わりに、磁石のスピンを数え上げる変数が現れることが分かった。磁石のスピン状態が変化するたびに、量子オシレーターの状態も変化する。この変化は、観測者にとって「時間の経過」として認識される。
このモデルでは、時間とは実際には磁石のスピン状態の変化にすぎない。外部の観察者から見ると、全体のシステムは静的で変化のないものとして見えるが、内部の観察者には変化が時間として感じられる。
研究チームのこの実験結果は、時間は量子もつれの結果として現れるものであり、もつれがなければ時間も存在しないことを示す。もし私たちが時間の経過を知覚するならば、物理的世界に量子もつれが織り込まれていると考えられる。逆に、量子もつれのない宇宙では、全てが静的で変化がないように見えるのかもしれない。