ある性格傾向の人にうつ病発症の頻度が高いことは以前よりよく知られている.
わが国では下田が,躁うつ病の病前性格として「熱中性,徹底性,几帳面,真面目,強い責任感」などを特徴とする執着気質を提唱した.中でも,うつ病者は「几帳面,真面目,強い責任感」がより重要と考えた.この執着性格とうつ病との関係について下田は,ある期間の過労事情(誘因)によって睡眠障害,疲労性亢進をはじめとする各種の神経衰弱症状が起こると,正常者では情緒興奮減退,活動欲消失が起こっておのずから休養状態に入るのに,執着性格者では休養生活に入ることが妨げられ,疲憊に抵抗して活動を続け,ますます過労に陥り,その疲憊の頂点においてかなり突然に抑うつ症候群を発するものと説明している.
海外では,ドイツのテレンバッハが,うつ病とメランコリー親和型性格との関連を提唱した.これは,仕事上での正確性,綿密性,勤勉性,良心的で責任感が強く,対人関係では他人との衝突を避け他人に尽くそうとするなど,秩序性を基本とする性格傾向であり,うつ病はこうした傾向を保持することが困難な状況下で発症するというものである.
一方,回復した患者においても,受動性,対人依存性,低い感情安定性などが再発の危険性を増すという報告がなされている 9).