たとえば腕で言えば、自分の腕が自分の腕であることは理解しているのに、どうしても自分の腕であるという実感がわかない。
転じて、自分以外の外界の感覚についても、現実感喪失を意味する。例えば、いつもの机に、「いつもの机らしさがない」と感じられる。
通常その程度なら生活に支障はないだろうと感じる人もいるだろうが、実際は苦しいことが多い。
自分の体とか外部のものについては、離人感とか現実感喪失などと言うが、自分の感情が自分の感情と感じられないという場合はどうだろうか。また自分の思考が自分の思考と感じられない。ではそれは誰の感情や思考なのか。それが他人のものであれば、程度によってはさせられ体験とか考想伝播とかの名前で呼ぶが、あくまで自分の感情であることは分かっているのに、自分の感情であるという実感がわかない。
私はこれらを含めて、時間遅延仮説で説明しています。
例えば、自分の腕を見ているとします。腕についての感覚情報は視覚を通じて脳の中に形成されています。しかしそれと同時に、脳の内部で、これまでの経験の総合から、腕はこのようなもので、腕についてこのように意思すればこのように変化すると言った、内部感覚が生成されています。
脳の中には、この、外部感覚と内部感覚を比較照合する部分があります。
その時、照合部分に、内部感覚が先に到着して、外部感覚があとから到着すると、能動感になります。しみじみと、この腕は自分の腕だ、腕らしい腕がここにあると感じるわけです。
逆に、照合部分に先に外部感覚が到着して、あとに内部感覚が到着すると、腕の腕らしさが失われます。このように能動感と離人症は関係しています。
机についても同様で、外部のものとして机があり、視覚を通じて脳内に像が形成されます。また一方で、過去の経験などからその机の内部イメージが形成されます。照合部分に先に内部管区が届いて、その後に外部感覚が届けば、自分の予想は実現し、能動感が生まれ、物に関して言えば、物のものらしさがしみじみと感じられることになります。
音楽などもそのような側面があります。何度か効いている音楽を自分の内部でも演奏するようになります。すると、外部からの音楽と内部からの音楽が比較対照されることになります。ここで、内部情報が先に照合部分に到着して、そのあとで外部情報が到着して、それが一致したときには能動感が生じます。生き生きとした感覚が生じるのです。
腕も、机も、音楽も、外部に物理時な存在があり、人間はそれを感覚していました。同時に脳内で感覚を生成してもいました。そして両者を比較していました。
思考についてはどうでしょうか。
思考については、外部に物理的実体がありません。自分の脳内での出来事です。しかしここでも、二種類の思考が生成されています。
考えたこと1があったとして、それを内部でもう一度生成して、考えたこと2を作ります。照合部分にはたいていは考えたこと2が到着して、後に考えたこと1が到着します。すると、これは自分が考えたことだという、能動感や自己所属感が生じます。
逆に、先に、照合部分に考えたこと1が到着して、あとに、考えたこと2が到着すると考えさせられたとかの体験になります。
到着時間が同時なら、自生思考、考えたこと2が遅れると、させられ体験になります。
幻聴も同じです。幻聴は、物理的実体が外部にありません。ですから、腕、机などとは違うカテゴリーに属します。むしろ、自分の内部で生成された思考1とそれをシミュレーションする思考2の事情と似たことになります。つまり、幻聴は、正確に言えば、感覚体験ではなく、意味体験だということです。
意味1が内部で生成されて、それをシミュレーションして意味2が生成される。照合部分に意味2が先に到着していれば、意味は普通のものと売れ取られる。逆に、意味1が先に到着して、意味2が後に到着すれば、それは「聞かされている」という感覚に近くなる。
意味が声になるというのは人間の感覚の特徴として、聴覚はいつでも開かれていて、受動的な受け取りがしやすい。視覚は瞼もあり、聴覚よりは、為されるがままにはならない。したがって、意味は、活字になって画像として現れるよりは、声となって音声として現れるのだろうと思う。しかし生成されているのは実際は意味だろうと思う。
離人感は複雑な心理現象で、個人によって経験の仕方が異なる場合がありますが、一般的に以下のような症状や特徴が挙げられます:
- 自己感の変化:
- 自分自身の全体が非現実的に思える
- 自分の思考や行動が自分のものではないような感覚
- 鏡に映った自分が他の人のように見える
- 環境の知覚の変化:
- 周囲の世界が非現実的、遠い、または夢のように聞こえる
- 物事がぼんやりしたり、霧がかかったりする
- 色彩が薄れたり、平面的に感じられたりする
- 感情の鈍麻:
- 感情を感じにくくなる、または感情が薄れたと感じる
- 愛情や喜びなどの感情を呼び起こす力を失っている
- 身体感覚の変化:
- 自分のものではないような感覚
- 手足が大きくなったり小さくなったりしたように見える
- 体が浮いているような感覚
- 時間感覚の歪み:
- 時間の流れが通常と離れている
- 過去の記憶が遠い、または非現実的に聞こえる
- 注意力と集中力の変化:
- 注意や集中ができない
- 自分の思考や感覚に過度に注目してしまう
- 不安や恐怖:
- 自分が正しいと信じられない
- 現実感を取り戻せないのではないかという不安
- 社会的機能への影響:
- 人間関係や日常生活に支障をきたす場合がある
- 社会的状況で不快感や違和感を感じる
重要なポイントとして、離人感を経験している人は通常、現実検討能力は保持されており、自分の状態が異常であると考えています。また、これらの症状は一時的なものから持続するものまで様々で、ストレスや疲労、薬物使用、うつ病や不安障害などの他の精神疾患に伴って現れることも多くあります。
深刻な場合や日常生活に支障をきたす場合は、専門家のサポートを受けることが望まれます。