「メラニー・クライン入門 (現代精神分析双書第II期)」H. スィーガル

「メラニー・クライン入門 (現代精神分析双書第II期)」は、メラニー・クラインの精神分析理論を紹介する一冊です。メラニー・クラインは、フロイト派の精神分析学者であり、特に児童精神分析の分野で著名です。彼女の理論は、子供の早期の心理発達や無意識のファンタジー、対象関係論など、多くの側面を含んでいます。本書は、H. スィーガルがメラニー・クラインの理論を分かりやすく解説し、岩崎 徹也が翻訳したものです。

本書は1960年Melanie Kleinの死後4年たった1964年に,著者H.SegalがPsychoanalytic Instituteのcandidateたちに講議したノ ートを基礎にして作られたものであり,それだけに系統的に理解しやすいようにまとめられている。Kleinの原著には,年代的にさ まざまな思考の発展があるために,ひとつふたつの原著を読んでも,なかなかKlein理論の全貌を 整理した形で把握しにくい。そ の点,本書はたんにKlein入門書としての意義をもつだけでなく,対象関係論の入門書としても,基礎的な教科書のひとつであると考える。Melanie Kleinの業績の源泉がS.Freudにあること,また彼女の仕事にはS.Freudを超えた,新たな側面を含んでいて,それがその後のKlein学派や対象関係論へと発展していったことは事実である。Melanie Kleinが, S.Freudから受継ぎ,さらにS.Freudを超えていってKlein学派の基礎を作った諸点について要約する。

メラニー・クラインの理論の主要なポイント

  1. 早期の心理発達:
    クラインは、子供の心理発達が生後数ヶ月で重要な段階を迎えると主張しました。特に、赤ん坊が母親との関係を通じて経験する初期の感情やファンタジーが、後の人格形成に大きな影響を与えると考えました。
  2. 分裂-対象関係論:
    クラインの理論の中核は「分裂-対象関係論」です。彼女は、子供が「良い母親」と「悪い母親」という二つの異なるイメージを持ち、それを統合する過程を通じて心理的に発達すると説明しました。これは、赤ん坊が経験する満足感と不満足感を分けて考えることに基づいています。
  3. 無意識のファンタジー:
    クラインは、無意識のファンタジーが人間の行動や感情に大きな影響を与えると主張しました。彼女は、これらのファンタジーがどのようにして子供の心理発達に影響を及ぼすかを詳細に研究しました。
  4. エディプス・コンプレックス:
    フロイトが提唱したエディプス・コンプレックスに対し、クラインはその発生時期をさらに早期に位置づけました。彼女は、子供が生後1年目からエディプス・コンプレックスを経験し始めると考えました。

クラインの理論の実践的応用

  • 児童分析:
    クラインは、遊びを通じて子供の無意識を理解し、治療する方法を開発しました。これにより、子供が言葉で表現できない感情や葛藤を明らかにし、それを治療に活かすことが可能となりました。
  • 成人分析への影響:
    クラインの理論は、成人の精神分析にも応用されています。特に、患者の初期の経験や無意識のファンタジーを理解することで、現在の心理的問題を解決する手がかりを提供します。

クラインの理論の意義と評価

  • 革新性:
    クラインの理論は、フロイトの理論をさらに発展させ、心理発達や治療の新しい視点を提供しました。特に、早期の母子関係の重要性を強調した点が評価されています。
  • 批判:
    一方で、クラインの理論には批判もあります。彼女の理論があまりにも内向的で、外部環境の影響を軽視していると指摘されることがあります。また、彼女の理論が抽象的で理解しづらいという批判もあります。

具体的なケーススタディ

本書では、クラインの理論を具体的に理解するためのケーススタディも紹介されています。これにより、読者は理論が実際の治療現場でどのように適用されるかを学ぶことができます。ケーススタディは、クラインの治療法の効果やその限界を理解するのに役立ちます。

結論

「メラニー・クライン入門」は、メラニー・クラインの理論を理解するための優れた入門書です。H. スィーガルによる解説は、クラインの複雑な理論を分かりやすく説明しており、岩崎 徹也の翻訳も的確です。この本を通じて、読者はクラインの理論の深さとその実践的な意義を学ぶことができます。クラインの理論は、現代の精神分析学において重要な位置を占めており、その理解は心理学や精神分析を学ぶ上で欠かせないものとなっています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
こういう本についての論評は難しい。
ほかの分野だと、いつまでも、ニュートンの入門書を読めと言うものでもないし、アインシュタインの古い定評のある解説を読めと言うものでもない。
アインシュタインとボーアがどのような論争をしたかなど、趣味の範囲のことだ。
現代的に適切な説明がどんどん更新されているはず。
必要ならば国家試験の問題種の中で解説されているはず。

一方で、クライン大好きとか分析大好きな人からすれば、こんな否定的なことを言うのは、言う人がこの著作の真の価値を理解していないからだということになる。
趣味を同じくする人以外にはあまり関係がないということになるのだろう。
精神分析的用語を口に出して歓迎されることはまずない。時代は変わったのだ。

-----

翻訳の岩崎先生の御兄弟が岩崎学術を経営していて、ずっと昔、その人とお話しする機会があった。岩崎先生のことを話した後で、会社の話をして、
(いまではもう言葉もはっきり記憶にないので、私がかなり脚色して言うと、)出版社に勤めようと考える人は、人間は当然本を読むものだと思っているらしいところがないでもない、今どきはそんな前提は成り立たないのだから、・・・、出版社に勤めようという人が本が好きなのはいいけれども、世の中の人全般について、本が好きだと思うのはどうしてなのかな・・・・などとお話ししていたように思う。

謙虚な経営者の話は共感しやすかった。

タイトルとURLをコピーしました