心理療法についてのメモ
・人間が他人の心を完全に分かるはずはない。背景が違う。人生の経験も違う。しかしそうはいっても、スタートラインで、理解されたと感じることが不可欠である。
・例えば、ロールプレイを考えればよいかもしれない。一般に治療者はこうで、一般に相談者はこうで、というような共通理解を持ち寄って、とりあえず大雑把に焦点距離を決めて、そこから徐々に精密にピントを合わせてゆく。ロールプレイの気分で初めて、徐々にカウンセリングに移行する。そのような時間的移行を考える。
・相談者も、人間の心理について文章のレベルで理解している事項はある。そこからスタートするのもよい。相談者が個々の体験として何を感じているかではなく、一般にこうだとされているものにひとまず頼る。そうした一般理解に沿っての話ならば、自分はそうではないと感じたとしても、それは徐々に話していけばいいわけで、目の前にいる治療者が取りあえず世間的に普通の感性の人間であると信頼してもらうことはできる。知識のレベルで間違っていることはあるだろうが、それでも良い。単なるスタートラインである。まず共通の合意事項をもってスタートするのがよい。
・人間を理解するというよりは、疾患理解の公式をあてはめることはできる。PTSDの場合はこうとか、うつ病の場合はこうとか。それも理解の一種ではある。しかし、当てはめになりやすいし、誘導も起こりやすい。しかしまた、誘導されることで、相談者は自分が自分を理解し、同時に、自分は相手に理解されたと感じることもある。そしてそれはそれで、よいスタートラインである。
・相手の気持ちが分からないということを前提にして、鏡になることはできる。相談者が自分の心を見つめることができるように、できるだけ歪みのない鏡になる。もちろん実際には難しいのだが、そのような方向で努力することはできる。鏡は何かを理解しているわけではない。鏡は誘導しない。それでも治療には大きく貢献する。