認知機能について勉強する


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はじめに

一億総活躍、生涯現役という言葉にあるように、高齢者でも病気や障害があっても、いつまでも社会参加ができる世の中の到来が報じられています。
しかしながら、加齢やストレスにともない認知機能をはじめ様々な機能低下から、心身に不調をきたしたり生活に支障が出たりすることがあります。そして、その結果自立した生活の維持が難しくなる場合があります。

たとえば、高齢者が地域から孤立して会話の機会や活動の機会を失うと、廃用症候群により認知機能が低下することは有名です。同様に「ひきこもり」も脳の前頭前野の機能低下(注意力記憶力遂行力などの低下)をきたすことがわかっています。また、育児や介護により社会との関わりが少なくなって孤立した状態になる場合も認知機能の低下が予見されます。

また、最近では「脳しんとう」がラグビー、アメリカンフットボール、柔道などのスポーツ関連頭部外傷として最も身近な問題となっていますが、一時的な認知機能の低下が見られることが報告されています。

認知機能は、認知症高次脳機能障害発達障害統合失調症、うつ病などの医療や支援において重要な概念ですが、介護や育児、ひきこもり、スポーツ障害など私たちの身近にある社会課題とも深く関係があるものです。

◎暮らしのヒント・支援のポイント ~ はじめに ~ 
 自分自身や周りの人の認知機能について知り、考えることは、毎日をより良く、より安心・快適に暮らせることにつながります。「暮らしのヒント 支援のポイント」では、暮らしの中で自分自身でできる工夫や、支援者としてできる工夫について考えていきます。

認知機能を身近なものに

私たちは、五感を通して外部から入ってきた情報から、物事や自分の置かれている状況を認識し、言葉を自由に操って表現したり、お金の計算や管理をしたり、新しい友人の名前やお店の場所を記憶したり、問題解決のために手段を考えたりしながら、日常生活を送っています。

例えば、新しく商品を購入するときには、「どのメーカーのものが売れているのか」、「性能はどうか」等の情報収集と分析をします。そしてショップに行って、店員とやりとりをして、最終的にどうするかの判断をします。
この一連の過程には、様々な『認知機能』が関わっています。私たちは、『認知機能』なくしては社会生活を営むことはできません。

『認知機能』は、「注意」「記憶」「遂行機能」といった基礎的な神経認知機能を指す場合が多く、車を運転する、買い物をする、乗り物に乗るといった日常生活の行為だけでなく、地域・職域など社会性を適切に維持しながら生活していく上でも必要な機能です。

<主な認知機能>

記憶力ものごとを忘れずに覚えておき、必要な時に取り出す力
計画力その場の状況に合わせて最適な計画を考え、準備し、行う力
注意力大切なことや必要なことに気づいて入手し、意識を集中させ、持続する力
見当識現在の年月や時刻、自分がどこにいるかなど基本的な状況を把握している力
空間認識力物体の位置・方向・姿勢・大きさ・形状・間隔など、物体が3次元空間に占めている状態や関係を、すばやく正確に把握、認識する力

認知機能の詳しい説明は「認知機能とは」のページをご覧ください

暮らしのヒント・支援のポイント ~ 実は身近な認知機能 ~ 
 一言で「認知機能」と言っても、認知機能にはさまざまな働きがあり、1種類の働きをさすものではありません。「認知機能」という言葉は一見難しく感じますが、私たちの身体と生活の維持にとっては欠かせない機能です。例えば上記の5つの認知機能を、私たちは生活の中で意図せずに使っています。日々の生活の中で、「見当識が働いているな」とか「計画力を活かして予定を立てよう!」など、「認知機能」を意識をしてみると、より身近に思えますよ。

早期発見により適切な医療につなげる

認知機能の低下は、加齢やストレス、病気や障害によって起こります。日々の生活の中で、継続的に記憶力や注意力の低下が続く場合には、医療期間を受診し相談することが大切です。普段との違いに気づき、早期に受診するためには、日頃から自分自身の認知機能の特性を知り、状態をモニタリングしておくことが大切です。

高齢期では、認知機能の特性と経時変化を把握し、脳の変化の予兆を掴むことは、認知症の予防と早期発見のために大切です。「軽度認知障害(MCI)」やその前段階である「プレ・クリニカル期」における認知機能の低下に気づき、認知症の予防に取り組むためにも、日頃から認知機能について把握することがとても重要だと言えます。

認知機能に関係する疾患の詳しい説明は「認知機能と疾患」のページをご覧ください

プレ・クリニカル期疾患における超早期の段階で、例えばアルツハイマー病の場合にはアルツハイマー病の病理変化はあるが認知機能 は正常な時期とされています。
暮らしのヒント・支援のポイント ~ 早期発見・早期対応のために ~  
 認知機能には、「認知機能を身近なものに」で述べられているように様々な機能がありますが、体調やケガや病気など様々な原因で、若い人もご高齢の人も、認知機能に影響が及ぶ場合があります。「おかしいかも?」と思ったら、早期に受診をすることが必要です。そして、普段との違いに気づくためにも、日頃の自分自身の体調とともに認知機能の状態にも目を向けることが大切です。
 もちろん、認知症についても早期発見・早期対応が大切です。「あれ?もしかして?」と気になったら、主治医や専門医、またはお住まいの地域の地域包括支援センターに相談しましょう。

生活機能維持のために自身の認知機能をセルフモニタリングする

認知機能は、毎日の生活の中でも精神状態や体調によって変動するため、日々の健康チェックのひとつとして認知機能を自分自身でモニタリング(セルフモニタリング)することが、社会生活をマネジメントしていくうえで重要です。

例えば、朝起きて認知機能をチェックしたところ、いつもより注意力や計画力が低下していることがわかった場合、「今日はいつもよりも念入りに予定を確認しよう」とか「メールを送信する前にもう一度見直そう」など、ミスをしないように心掛けることが可能になります。また、「今日は無理をしないでおこう」とか「慌てない、急がないようにしよう」と心掛けることで、精神の安定にもつながります。

このように、心身の状態によって変動する『認知機能』をセルフモニタリングし、必要な環境調整や対処法を知ることは、日常の生活の維持や、社会とのコミュニケーションを良好かつ円滑にしていくことにつながります。なお、『認知機能』は通常目に見えるものではありませんが、『認知機能の見える化』によって、セルフモニタリングを容易にし、生活に役立てることが可能になります。

暮らしのヒント・支援のポイント ~ セルフモニタリングとは?なぜ大切なの? ~ 
 朝起きたときに「あれ?体がだるい。そういえば寒気もするし、いつもと違い食欲もない」と思い体温を計ってみると38度だった…という経験は多くの方にあると思います。この、自分の身体の調子を自分で観察することを「セルフモニタリング」と言います。
 身体の状態について、私たちはある程度自分自身で確認することができ、また、体温計や血圧計などの計測器により身体情報は数値化され、その情報を元にどのように配慮するかを決めることができます。もし、セルフモニタリングが出来なければ、自分の健康を自分で守ることが難しくなります。
 では、認知機能はどうでしょう?認知機能のセルフモニタリングはできていますか?
 認知機能を意識すると、「今日はちょっと注意力が落ちているな」と思える人もいるかもしれませんが、難しい場合もあります。なぜなら、観察(モニタリング)する機能も、認知機能が行っているからです。ですから、認知機能が低下している場合には、自分の認知機能を自分で把握することが難しくなります。
 日頃から身体に加え認知機能に意識を向けることは大切です。そして、体温計や血圧計で測れるように、認知機能も「見える化」で把握ができると便利ですね。

認知機能を心理学的階層の視点で必要な対処法を考える

神経心理ピラミッドは認知機能を中心とした心理学的機能を階層的に捉えたもので、前頭葉機能を模式化したものです。
一番底辺には、精神的・心的エネルギーが位置し、神経疲労すなわち精神的な疲労感の存在は、それより上位機能の各種に影響を与え、例えば抑制の困難(イライラ感)、無気力(意欲のなさ)、注意・集中、情報処理や記億にも悪影響を及ぼします。

私たちは、仕事の段取りが覚えられないときや、スケジュールの管理ができないときに、記憶力が衰えたと考えがちです。そして、対処法としてメモ帳やスケジュール表などの整理や整備を行おうとします。しかし、物事の覚えられなさの背景には、実は極度に疲労した状態であったり、やる気がなくなっていたり、あるいは物事に集中できない状態になっていることがあり、それらが原因で記憶力が低下しているケースが少なくありません。
このような場合には、メモ帳やスケジュール表の整理よりも、神経疲労の改善に努め、休息をとったりリフレッシュできることを行い、まずは心身の状態を整えることが大切です。

この神経心理ピラミッドを用いた考え方は、高次脳機能障害のリハビリテーションで用いられています。私たちは日々の生活の中で、心身の状態と認知機能を『見える化』し、どのような対処をすることが生活機能の維持に必要となるのかを考えることに応用することができます。

自身の認知特性を知ることで良好なコミュニケーションを構築する

認知特性とは、(視覚や聴覚など)感覚器から入力された情報を記憶したり、脳の中で理解したり表現したりする能力のことで、記憶力、コミュニケーション能力、集中力など多岐の能力について関わりがあります。

私たちはそれぞれ、見た方が理解しやすい「視覚が優れた人」、聞いた方が理解しやすい「聴覚が優れた人」、文字や言葉の扱いが得意な「言語の処理能力が優れた人」など、個々に得意・不得意があります。情報のインプットからアウトプットまでの脳での情報処理の過程には、個性や個人差があります。

例えば、『自分の感覚を大切に受け止めてから、表現する』ことを特徴にする体性(身体)感覚が優位な人は、ゆったりとしたテンポでのコミュニケーションになりやすく、返答も遅くなりやすい傾向があると言われています。一方、中には『感じたことや思ったことが、すぐに口からでてくる』ともいます。

認知特性は集中力にも影響を及ぼします。例えば、耳から聞くことに集中しやすく電話のほうが理解がしやすかったり、目で見ることに集中しやすくメールのほうが理解がしやすいなど、人それぞれに特性があります。集中のしやすさやしにくさの原因が、視覚や聴覚など、どういう感覚器や情報によるものかのかは、認知特性をアセスメントすることで確認することができます。

自分自身の認知特性を知ることで、環境調整を図ることが可能になり、良好な社会生活の維持につながります。

認知特性の詳しい説明は「認知特性」のページをご覧ください

われわれを取り巻くさまざまな社会環境は,高齢期だけでなく人生全体において認知機能に影響を及 ぼしており,これはヒトが社会的な群れで生きてい くように進化し,他者との関係を発展させ,維持させる機能を有する “社会脳” を持ったことに関連している(Grossmann & Johnson, 2007 ; Seeman et al., 2011).
◎暮らしのヒント・支援のポイント ~ 理解しやすい方法は、人によりさまざま ~
 学生のころ、テスト勉強で英単語や歴史の年号をどのような方法で覚えていましたか?たくさん書く、単語カードで見て覚える、読み上げる、特に何もしなくても覚えられた…。いろんな工夫をした記憶があるかと思います。
 記憶や理解の方法には、人それぞれに好みがありますが、これはテスト勉強の時だけでなく、普段の生活にも関係しています。
 もし、「言葉で言ってもわかってもらえない」、と思ったら、文章にして書いてみたり、挿絵を入れたりして説明してみると伝わりやすくなるかもしれません。
 ご高齢の方を支援する場合には、いつの間にか耳が聞こえにくくなっていらっしゃったり、目が見えにくくなったりしていらっしゃる場合があります。伝えたいことが伝わりにくい場合、認知症につながる機能低下を考慮すると同時に、聴力や視力についても配慮が必要です。
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