認知機能とひきこもり

「ひきこもり」とは、「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態」を「ひきこもり」と呼んでいます。(三宅由子,地域疫学調査による「ひきこもり」の実態調査、平成16年厚生労働科学研究補助金こころの健康科学研究事業)

「ひきこもり」は単一の疾患や障害の概念ではなく、生物学的要因、心理的要因、社会的要因などが背景になる状態、自宅に引きこもって社会参加しない、長期間にわたって生活上の選択肢が狭められた精神的健康の問題とされています。
「ひきこもり」をめぐる地域精神保健活動のガイドライン,厚生労働科学事業「地域精神保健活動における介入のあり方に関する研究」,2003)

ひきこもりは、厚労省の研究班が行った調査では、著しい高齢化傾向であることがわかりました。(齋藤環,思春期のひきこもりをもたらす精神科疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究,2010)

高齢化の背景には、かつては不登校からはじまることが多かったのが近年では離職後にひきこもるケースが増えたことと、ひきこもり状態の長期化の2つがあると考えられています。最近では当事者の高齢化とともに生活を支える親世代が高齢になり、80歳代の親と50歳代の単身無職の子が同居する世帯に着目した社会問題である「8050問題」が取り上げられるように、親が他界した後、生活保護に頼らざるを得ないケースが予見されています。

生活保護の高齢受給者が増加が予想される中で、ひきこもり当事者の健康状態の把握や予防対策を強化することが必要となります。

ひきこもりと精神障害

ひきこもりは、厚生労働省の研究班の調査結果から、しばしば未治療の発達障害や統合失調症が潜んでいる場合があり、ときに専門家による鑑別診断も必要であるとされています。この調査では184名のひきこもりの人を分析した結果、149名は精神障害と診断されていたことがわかりました。(厚生労働省:ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン,2010)

同様に、確定診断がなされる前の統合失調症が含まれている可能性は低くないことに留意すべきであるという報告もあります。(Guedj-Bourdiau,M,-J,Annales Medico-Psychologiques,revue psychiatrique,169;668-673,2011)

ひきこもりと関連の深い精神障害の主なものとして、「広汎性発達障害」、「強迫性障害を含む不安障害」、「身体表現性障害」、「適応障害」、「パーソナリティ障害」、「統合失調症」などがあげられています。

ひきこもりを臨床単位にすることが困難である理由として、それがもともと非特異的な精神症状の一つであることのほかに、①ひきこもり状態から二次的にさまざまな精神症状が生じうること、②ひきこもり状態が潜在する基礎疾患のカムフラージュとなっている可能性があること、が考えられています。(斎藤環,医学のあゆみ,250(4),243-248,2014)

精神疾患における認知機能の詳しい説明は「精神疾患と認知機能」をご覧ください。

ひきこもりと発達障害

ひきこもりと発達障害との関連性の調査では、県の精神保健福祉センターにひきこもり相談で訪れた人の3割近く(152名中42名)が発達障害と診断された報告があります。(近藤直司ら,「思春期ひきこもりにおける精神医学的障害の実態把握に関する研究」,2010)

発達障害の二次障害は、外在化障害と内在化障害に大別され、外在化障害は内的ないかりや葛藤を反抗、暴力、家出、窃盗など行動上の問題という形で自己以外の対象に向けて表現するもので、反抗性挑戦性障害(ODD)や素行障害(CD)に相当し、内在化障害は、内的な葛藤を不安、抑うつ、強迫症状(不潔恐怖など)、対人恐怖、分離不安障害、社交不安障害(SAD)、気分障害、強迫性障害などに相当し、不登校や引きこもりとの関連も大きいと考えられています。(須見よし乃,臨床小児医学,59(1-6):15-19,2011)

全国の精神保健福祉センター一覧(厚生労働省ホームページ)

発達障害における認知機能の詳しい説明は「発達障害と認知機能」をご覧ください。

ひきこもりとゲーム

オンラインゲームがひきこもりの状態を長引かせる要因のひとつであることが注目されています。(牟田武生,教育新聞,2003)

オンラインゲームへの依存傾向とひきこもりとの関連を検討した研究では、自覚をもちながらオンラインゲームに依存するほど、無力感は高まり、自覚なしにオンライゲームに没頭するほど、日常生活への意欲が減退する傾向が高まること、ストレスによる疲労感に気づきにくいタイプとひきこもり品性との関連が、間にオンラインゲーム依存が起こることによって、負から正へ大きく逆転することが報告されています。(平井大祐ら,心理臨床学研究,24(4):430-441,2006)

一方で、オンラインゲーム内で形成された仲間関係が、オフ会などを通じた対面での交流のようなオフラインの現実世界にもよい波及効果を持ちうるといったポジティブな可能性を示唆した報告もあります。(小林哲郎ら,社会心理学研究,22:58-71,2006)

また、オンラインゲーム利用が現実生活に正の影響を及ぼすのか、負の影響を及ぼすのかは各個人がもつ志向性(個人志向で自分が楽しむためにプレイをする、対人志向で他者との交流を求めてプレイする、など)に依存するという報告もあります。(藤桂ら,心理学研究,80:494-503,20109

ゲームによる認知機能への影響の詳しい説明は「認知機能と社会生活『ゲーム』」をご覧ください。

社会的孤立と認知機能

社会的孤立とは「便りにする人がいない状態」や「人間関係を喪失した状態」、「家族やコミュニティとほとんど接触がないということ」などと定義されています。(石田光槻,無縁社会の処方箋 94,勁草書房,東京,2014)

脳梗塞などの運動機能障害をもたらす疾病がないのに寝たきりになる高齢者が多く存在することから、外出せずに家に閉じこもることが寝たきり状態や認知症の促進要因になるとしています。(竹内孝仁,老人保健の基本と展開,医学書院,東京,1984)

社会から隔離された生活を続けると、脳内でたんぱく質が作用し、大脳の側坐核の働きが鈍って不安感が高まることの報告があります。(Yuichi Deguchi,et al;Cell Reports,17(9),2405–2417,2016)

※側坐核(そくざかく):大脳腹側の線条体とされ、 感性を司どり、人間の資質に存在する報酬、快感、恐怖、嗜癖などの感性に 重要な役割を果たす脳部位

mDia and ROCK Mediate Actin-Dependent Presynaptic Remodeling Regulating Synaptic Efficacy and Anxiety

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