CBT-H-1-3 学習補助

この学習のまとめでは、認知行動療法(CBT)の歴史、基本的な考え方、そして様々なアプローチについて深く掘り下げていきます。

CBTの核となる3つの原則

  1. 認知活動は行動に影響を与える: これは、私たちがどのように考え、解釈するかが、どのように感じ、行動するかに直接影響を与えるという基本的な考えです。
  2. 認知活動は観察し、変化させることができる: 私たちの思考パターンは固定されたものではなく、意識的に認識し、修正することができます。
  3. 望ましい行動の変化は、認知の変化によってもたらされる: 思考パターンを変えることで、感情や行動に良い影響を与えることができます。

CBTの歴史的背景

CBTは、主に2つの流れから発展してきました。

  1. 行動療法: 行動療法は、問題行動に直接焦点を当て、条件付けの原理を用いて行動を修正することを目指します。
  2. 精神力動療法: 精神力動療法は、無意識の葛藤や過去の経験が現在の行動に与える影響を重視します。

1960年代に入ると、行動療法における認知の役割への関心が高まり、行動と認知の両方に焦点を当てたCBTが誕生しました。

CBTの発展に寄与した要因

  • 従来の行動療法では、複雑な人間の行動を十分に説明できないという限界が見えてきたこと。
  • 認知心理学の発展により、思考、感情、行動の関係に関する理解が深まったこと。
  • アルバート・エリスやアーロン・ベックといった先駆的な臨床医が、認知に焦点を当てた革新的な治療法を開発したこと。

CBTの主なアプローチ

  1. 合理的感情行動療法 (REBT): アルバート・エリスによって開発されたREBTは、不合理な信念が感情的な苦痛の根本原因であると提唱しています。この治療法では、不合理な信念を特定し、反論し、より合理的で現実的な信念に置き換えることを目標としています。
  2. 認知療法: アーロン・ベックによって開発された認知療法は、うつ病などの精神障害が、否定的な思考パターンやスキーマ(物事に対する根本的な見方)によって引き起こされると考えています。この治療法では、否定的な思考パターンを特定し、検証し、よりバランスの取れた思考パターンに置き換えることを目標としています。
  3. 自己指導トレーニング (SIT): ドナルド・マイケンバウムによって開発されたSITは、自己への語りかけ(セルフトーク)が行動に与える影響に着目しています。この治療法では、クライアントが否定的なセルフトークを特定し、より肯定的で建設的なセルフトークに置き換えることを目標としています。
  4. セルフコントロール治療: セルフコントロール治療は、クライアントが自分の行動をより良くコントロールできるようにすることを目標としています。この治療法では、自己監視、自己評価、自己強化といったスキルを学習します。
  5. ストレス接種トレーニング: ストレス接種トレーニングは、クライアントがストレスの多い状況に効果的に対処できるようにすることを目標としています。この治療法では、ストレスに対処するためのスキルを学習し、それらを段階的に困難な状況で練習します。
  6. 問題解決療法: 問題解決療法は、クライアントが問題を特定し、解決策を考え出し、最も適切な解決策を選択し、実行し、その結果を評価するための体系的なプロセスを学習することを目標としています。
  7. 構造的および構成主義的心理療法: これらのアプローチは、個人の自己と世界に関する知識構造に焦点を当てています。構造的アプローチは、これらの構造を修正することに重点を置いているのに対し、構成主義的アプローチは、クライアントが自身の経験に意味を与え、より適応的なライフストーリーを創造する方法を支援することに重点を置いています。
  8. 「第三波」認知行動療法: 第三波CBTは、受容とコミットメント療法(ACT)などが含まれます。ACTは、苦痛な思考や感情を回避するのではなく、それらを受け入れ、価値観に基づいた行動をとることを強調しています。

小テスト

指示: 以下の各質問に対して、2~3文で答えてください。

  1. CBTの核となる3つの原則を簡潔に説明してください。
  2. 行動療法と精神力動療法は、CBTの発展にどのように貢献しましたか?
  3. REBTと認知療法の主な違いは何ですか?
  4. SITはどのような問題を抱えるクライアントに有効ですか?具体的な例を挙げて説明してください。
  5. ストレス接種トレーニングは、予防接種になぞえられることがありますが、なぜですか?
  6. 問題解決療法の5つの段階を順番に挙げてください。
  7. 構造的および構成主義的心理療法は、他のCBTアプローチと比べてどのような点で異なりますか?
  8. 第三波CBTの特徴は何ですか?
  9. CBTの共通点とされている特徴を3つ挙げてください。
  10. CBTの今後の研究課題として、どのようなものが考えられますか?

小テスト解答

  1. CBTの核となる3つの原則とは、(1)認知活動は行動に影響を与える、(2)認知活動は観察し、変化させることができる、(3)望ましい行動の変化は認知の変化によってもたらされる、というものです。これは、私たちの思考パターンが感情や行動に影響を与え、それらの思考パターンは変化させることができ、その結果、より良い行動変容につながることを意味します。
  2. 行動療法は、問題行動とその修正に焦点を当てるというCBTの基礎を提供しました。一方、精神力動療法は、思考と感情の役割、そして過去の経験の影響を考慮することの重要性を示唆しました。CBTは、これらの療法の長所を取り入れながら発展してきました。
  3. REBTと認知療法は、どちらも不適応な思考パターンに着目しますが、その焦点は異なります。REBTは、不合理な信念を特定し、反論することに重点を置いています。一方、認知療法は、否定的な自動思考やスキーマを特定し、検証し、より現実的な思考パターンに置き換えることに焦点を当てています。
  4. SITは、衝動的な行動や感情をコントロールするのが苦手なクライアントに有効です。例えば、注意欠陥多動性障害(ADHD)の子供は、課題に集中するのが苦手ですが、SITを用いることで、「落ち着いて、集中しよう」といった肯定的なセルフトークを学び、行動をコントロールできるようになることが期待できます。
  5. ストレス接種トレーニングは、事前に少量のストレスに曝露することで、より大きなストレスに対処する能力を高めるという点で、予防接種になぞえられます。この治療法では、ストレスに対処するためのスキルを学習し、それらを徐々に困難な状況で練習することで、ストレスへの耐性を高めます。
  6. 問題解決療法の5つの段階は、(1)問題の定義、(2)代替案の生成、(3)意思決定、(4)実行、(5)評価です。
  7. 構造的および構成主義的心理療法は、他のCBTアプローチと比べて、個人の主観的な経験や意味づけを重視します。構造的アプローチは、個人の認知構造を修正することに焦点を当てる一方、構成主義的アプローチは、クライアントが自身の経験に意味を与え、より適応的なライフストーリーを創造する方法を支援することに焦点を当てます。
  8. 第三波CBTは、苦痛な思考や感情を回避するのではなく、それらを受け入れ、価値観に基づいた行動をとることを強調しています。マインドフルネスや自己受容といった概念も重視されます。
  9. CBTの共通点とされている特徴としては、(1)時間制限があること、(2)問題指向であること、(3)クライアントが変化を起こす主体であることを強調していること、などが挙げられます。
  10. CBTの今後の研究課題としては、(1)様々なアプローチの効果を比較検証すること、(2)神経科学的な知見を取り入れること、(3)予防分野への応用を進めること、などが考えられます。

エッセイテーマ案

  1. CBTの歴史を辿り、行動療法と精神力動療法の影響について論じてください。
  2. REBT、認知療法、SITの中から2つを選び、その理論的背景、治療技法、有効性に関する研究を比較検討してください。
  3. セルフコントロール治療とストレス接種トレーニングは、どのような共通点と相違点がありますか?それぞれの治療法の適用事例を挙げて説明してください。
  4. 構造的および構成主義的心理療法は、他のCBTアプローチと比べて、どのような点で革新的と言えますか?
  5. 第三波CBTは、従来のCBTの限界をどのように克服しようとしているのでしょうか?今後の展望も含めて論じてください。

主要用語集

認知「思考、信念、態度、知覚などの精神的プロセスを指します。」

行動「観察および測定可能な行動を指します。」

認知行動療法 (CBT)「思考、感情、行動の関係に焦点を当てた、心理療法のアプローチです。」

合理的感情行動療法 (REBT)「不合理な信念が感情的な苦痛の原因となると考える治療法です。」

認知療法「否定的な思考パターンがうつ病などの精神障害の一因となると考える治療法です。」

自己指導トレーニング (SIT)「クライアントが否定的なセルフトークを特定し、より肯定的なセルフトークに置き換えることを支援する治療法です。」

セルフコントロール治療「クライアントが自分の行動をより良くコントロールできるようになることを目標とした治療法です。」

ストレス接種トレーニング「クライアントがストレスの多い状況に効果的に対処できるようにすることを目標とした治療法です。」

問題解決療法「クライアントが問題を特定し、解決策を考え出し、最も適切な解決策を選択し、実行し、その結果を評価するための体系的なプロセスを学習することを目標とした治療法です。」

構造的および構成主義的心理療法「個人の自己と世界に関する知識構造に焦点を当てた治療法です。」

第三波CBT「受容とコミットメント療法(ACT)などが含まれ、苦痛な思考や感情に対する柔軟な対応を重視する治療法です。」

スキーマ「物事に対する根本的な見方や信念体系を指します。」

自己効力感「特定の状況において、自分が必要な行動をとることができるという信念を指します。」

マインドフルネス「現在の瞬間に意識的に注意を向けることを指します。」

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