フット・イン・ザ・ドア・テクニック

フット・イン・ザ・ドア・テクニックとは?

フット・イン・ザ・ドア・テクニックとは、相手の同意を得たいときにはまず最初に「相手に受け入れてもらえそうな控えめな依頼」から始めることで「あとからする本当に承諾してほしい大きな依頼」が受け入れられる可能性を高めるというテクニックです。

人は最初に小さな要請を承諾してしまうと、2番目の要請を断りにくくなるという心理が働きます。日本語では段階的要請法とも呼ばれています。まずはドアの内側に靴先だけ入れてみる。靴先を中に入れたら、靴先を起点に扉をこじあけていくというようなイメージです。フット・イン・ザ・ドア・テクニック(Foot-in-the-Door technique)最初に小さな頼みごとから始めて、次に大きな頼みごとを2段階で依頼するという段階的な要請法。

逆に、最初にあえて相手に断られるような大きな要請をしたあとで、本当に承諾してほしい小さな要請をもちかける手法に、ドア・イン・ザ・フェイス・テクニックがあります。この場合、相手は最初の要請を断ったことを申し訳なく思っているため、次に提示される小さな要請に対して「相手が譲歩してくれたのだから、こちらも譲歩して受け入れてみよう」と承諾に向けた心理が働くのです。ドアの内側にまず顔を入れてみて、難しかったらすぐにひっこめて、それから控えめなお願いをしてみる(大きな頼みごと→小さな頼みごと)という流れです。

2つの要請法の効果をそれぞれ証明した研究報告

フット・イン・ザ・ドア・テクニックについて、その効果を証明した研究報告があります。1966年にスタンフォード大学のジョナサン・フリードマンとスコット・フレイザーによって、次のような調査が行われました。

  1. 主婦を対象に、台所用品に関する電話アンケートを実施する
  2. 3日後に「今度は家庭用品を調査したいので家を訪問したい」と電話で依頼する

いきなり家庭訪問だけを依頼した場合、承諾してくれた人は22%でした。電話アンケートの協力者に依頼した場合、家庭訪問も承諾してくれた人は53%と、フット・イン・ザ・ドア・テクニックを用いて2段階で依頼すると承諾率は2倍以上になるということがわかりました。

ドア・イン・ザ・フェイス・テクニックについて研究を行ったのは、アメリカの社会心理学者であるチャルディーニです。彼は1975年に次のような調査を行いました。

  1. 大学のキャンパス内を歩いている学生に、「非行少年の相談役のボランティア活動を無報酬で毎週2時間、2年間やって欲しい」と大きめの要請をする
  2. 大きめの要請を断られたあとに、「非行少年を週末の2時間、1回だけ動物園に連れていく役割」という中くらいの要請を依頼してみる

「1回だけ動物園に連れて行く」依頼をした場合、承諾してくれた学生は17%、大きな要請を断られてから中くらいの要請をした場合、承諾してくれた学生は約50%と、これもまた2倍以上の承諾率という結果が出ました。

ドア・イン・ザ・フェイスのほうが成功率が高かったその理由

興味深いのは、チャルディーニが共同研究者のアスカニとともに、これら2つの要請法に対する応用研究として1976年に、フット・イン・ザ・ドア・テクニックとドア・イン・ザ・フェイス・テクニックの効果を、比較できるような研究を行っていることです。

  1. 大学のキャンパス内で、「これから3年間にわたって2か月に1回、献血に協力して欲しい」と、大きな要請をする
  2. 大きな要請を断られたあとに、「では、明日1回でいいので献血して欲しい」という要請を依頼してみる

この実験では、最初から「明日1回」と依頼をしたときに承諾してくれた学生の率よりも、大きな要請を断られてからそれより控えめな要請をしたときに承諾してくれた学生の率のほうが、統計学的にみて高かったという結果が出ました。

フット・イン・ザ・ドア・テクニックと比べて、ドア・イン・ザ・フェイス・テクニックのほうが成功しやすい理由として、チャルディーニは、依頼者とそれを受ける人の間に働く「譲歩の返報性」を挙げています。返報性とは、「受け取ったものを同じように返そうとする」人の心の法則です。そこに「譲歩(先に相手が譲ってくれた)」というプロセスが入るために、「自分も同じように譲ってお返しをしようとする」心理がより強く働くのではないかと考察しています。

ちなみに「好意の返報性」という言葉を耳にしたことがある人は、少なくないかもしれません。これは、人は自分に好意をもってくれる人間に対して自分も好感をもつという現象です。人の心は無意識のうちに、相手に影響されたり共鳴する性質をもっているといえます。

社会心理学における説得的コミュニケーションとは?

相手を説得するまでのプロセスや心の働きを、社会心理学では説得的コミュニケーションと呼んでいます。先行研究で整理されているその定義は、以下のように少し幅があります。

社会心理学における説得の定義

  • メッセージの受け手の態度や行動を、自分の意図する方向に変化させようとすること
  • 主に言語コミュニケーションを用いて説得を行う
  • 相手に対して、決して強制的ではない文脈の中で行う
  • 社会的影響行為、あるいは社会的影響を及ぼすコミュニケーションのプロセスである

(深田, 2002a)より

そして説得的コミュニケーションには、「一面的提示」と「二面的提示」の2つがあることも知られています。

  • 一面的提示:勧めたいものの長所(プラスの面)だけを相手に伝える
  • 二面的提示:勧めたいものの長所と短所(メリットとデメリット)を相手に伝える

良いところだけを伝えると、人は思わず納得してしまうものです。しかしながら、あとになってほかの参考材料も見聞きしてしまうと、説得の前に信頼を失うことになりかねません。誠意を示して良い関係性を築くことも視野に入れることが大切でしょう。

タイトルとURLをコピーしました