シミュラクラ現象とは?
シミュラクラ現象とは、逆三角形に配置された点や線など本来は顔ではないものが顔に見えてしまう現象です。人間は瞬時に顔を認識する能力に長けており、これは外敵を識別するための防衛本能のひとつであると考えられています。
1976年7月25日にNASAが撮影した火星の地表写真には、人の顔のような外観をした岩が映っていたため火星人による人工物ではないかと騒がれたこともありました。人間は外敵を判断したり、相手の感情などを予測する目的で本能的に相手の目を見る習性をもっています。人や動物の目と口は逆三角形に配置されていることから、シミュラクラ現象は点や線などが逆三角形に配置されたものを見ると無意識のうちに顔だと判断してしまう錯覚認識ではないかといわれています。
また、人間の「顔認識能力」は非常に高く、顔のように見える刺激はほかの刺激と比べて検出性能が向上することが確認されています。シミュラクラ現象が生じる背景についての詳細なメカニズムは明らかにされていませんが、人間がもつ防衛本能のひとつとしての外敵識別能力の発達が影響しているとの仮説もあります。
シミュラクラ現象とパレイドリアの違い
またシミュラクラ現象とよく似た現象に、パレイドリアというものがあります。パレイドリアとは、視覚刺激や聴覚刺激を受け取ったときに、自分がふだんからよく知っているものが見えたり思い浮かべてしまう知覚現象のことです。パレイドリアには聴覚性など複数の種類があり、視覚のみの現象であるシミュラクラ現象はパレイドリアの一種とされています。
ちなみにシミュラクラとは「人や物を表現または模写したもの」を意味する英語の複数形であるsimulacraに由来しています。和訳では「類像現象」といいます。言葉としては俗用のもの(春木 2010)であり、学術的な原典はみあたりません。また、シミュラクラ現象やパレイドリア現象をふまえて考えると、心霊写真と呼ばれる現象の多くがこの理屈で説明できるともいわれています。
商品パッケージにおけるシミュラクラ現象
「人の顔の識別」というテーマに近接するシミュラクラ現象についての検討は、近年も情報処理やマーケティング領域などで研究が重ねられています。シミュラクラ現象が人間の錯覚認識であるならば、計算機も同様に幾何模様を人の顔として認識できるのではないかという仮説にもとづいた人工物顔検出手法の研修では計算機も人間と同様に、シミュラクラ現象をふまえて人工の顔を検出できることが示されました。また、人を認知・識別するうえで「顔」は重要な要素であることから、商品の顔である商品パッケージのコミュニケーション力について検討した研究では下記のような知見が得られました。
消費者が潜在的に化粧品の1次パッケージを顔のように認識しようとしている可能性が示唆された
通常では得ることができにくいとされるブランド・パーソナリティ(Aaker2014)は、擬人化しやすい1次パッケージの特性を生かすことによって、効果的に獲得しやすくなる可能性が高まると考えられる
上記の研究によって、消費者が無意識のうちに化粧品のパッケージを人の顔のように捉えてしまう、シミュラクラ現象が生じる可能性が示されました。擬人化的なデザインは人間にとって親しみを感じさせます。ユーザーの選択を支持することでデザインの評価が向上し、ブランドイメージの浸透にも役立てることができるかもしれません。
まとめ
模様やデザインとして点や線が逆三角形に配置されていたとき、本来は「顔」ではないものが「顔」に見えてしまうシミュラクラ現象についてまとめました。「顔認識」は人にとってはもちろん、デジタルやマーケティング分野でも重視される時代です。パッケージ・コミュニケーションを主要因としてヒットにつながる事例も多く、商品の「顔」と記憶再生研究などにも注目が集まっています。