病気の流行

ある本からの抜粋。

アメリカで2000年以降、性別違和を訴えるティーンエイジャーの少女たちが急増している。少女たちの苦しみを疑っうわけではない。しかし、その現象を懐疑的に受け止めている人もいる。それは心理的な流行ではないか?

「人間の心はこうした心理的流行にとても影響されやすいと思います。」 「前頭葉白質切断術でも起きました。多重人格障害でも起きました。一九三○年代と一九四○年 代のドイツで。人間は心理の伝染に影響を受けやすいのです。そういう存在なのです。誰もが」
ドイツでは戦争の影響で、また更には敗戦の影響で、心理学的な流行と思われる現象が起きていた。
戦争神経症はその代表である。日本でも国立の戦争神経症の専門研究施設が作られた。この流れは、アメリカでのベトナム戦争や湾岸戦争の復員兵にみられるPTSDとして研究された。
また、リストカットをしたがる人が増えた時期がある。その後、自傷行為のバリエーションは広がった。しかし現在は一時ほどではない。その当時の病名はボーダーライン・パーソナリティ障害などであった。まだ精神分析が影響力を持っていた時代だった。
アイドルの自殺を引き金として、自殺が流行した時代もあった。
神経性食思不振症も流行のようなことがあった。その後に、過食・嘔吐の時期があった。
PTSDの拡大解釈の時期があり、その時期にはカウンセラーが過去の性的虐待の歴史に過剰に関心を寄せ、その結果、患者は過剰に想起する現象もあった。
うつ病は製薬企業の大キャンペーンがあり、流行になった。その流行はいったんはしぼんでいる。そのあとは双極性障害のキャンペーンを始めたが、いろいろな事情でとん挫した。アメリカで流行した後に日本で流行するといういつものパターンを正確に反復している。そして、うつ病新薬の特許が切れてジェネリック薬に移行するころにブームは終わり、別の薬剤に関心が移る。日本での特許は、アメリカに10年遅れて、無効になるからだ。
うつ病流行の引き金になったのは、電通社員が過酷な労働によりうつを発症して自殺し、両親が会社を訴えた事件だという。これにより、過労からうつへの図式が確定され、仕事により疲れを感じたら無理せず精神病院へ行こう、そして風邪薬と同じ感覚でうつ病治療薬を服用しよう、という流れが強調されていくこととなった。うつはこころの風邪とCMが流れた。

もっとさかのぼると、ヒステリーという病名をたくさんの人が語ったことがあった。
日本では神経衰弱という名前が広く用いられたこともある。夏目漱石などたくさんの有名知識人。
ストレス性胃炎と診断されて、大量の胃薬が投与された歴史もある。その後は胃カメラ検査のために逆流性胃炎という病名が急増した。そしてこれは胃カメラ、逆流性胃炎、プロトンポンプ阻害剤の三点セットとなって、医療界を潤していった。
新型鎮痛剤に関しての流行もあった。
最近では、発達障害の関係で、ADHDやアスペルガー、自閉性スペクトラム症などの流行があげられる。

検査にはっきりとは現れない主観的な状態を表現しようとして、それぞれの時代の流行の医療診断に一致する症状を無意識に生み出そうとする。

精神的につらくなると、わたしたちは他者が真剣に受け止めてくれる方法で説明したくなる。「誰も聞いたことがないような目新しい方法で(つらさを)表わしたら、 きっと軽くあしらわれてしまう。でも、すでに語られていることにうまくはまれば、無意識はそ れに飛びつきます。説明に役立って、心配されて注意を引けるから」

これは精神医学史家エドワード・ショーターが展開し、ジャーナリストのイーサン・ウォッターズが広めた考えだ。患者は『症状プール』に引きよせられる―――すでに認知されている診断につながる、文化的に受け入れられる苦痛の表わし方のリストだ。「患者は時代に即した診断に 該当する症状をつくりあげる」それを発見したのがショーターだとウォッターズは言う。「患者は無意識のうちに心の苦しさを認められ正当化されることを求めるので、潜在意識はその目的を達する症状に引きつけられるのです。」社会的な感染はこうして広がる。(『クレイジー・ライク・アメリカ(心の病はいかに輸出されたか)』Watters,Ethan著。紀伊国屋書店)

たとえば、香港では西欧人が“無食欲症”と呼ぶもの、―――つまり自分は太っているという思いに囚われた少女たちがみずからを飢えさせるという症状―――が流行ったことはなかった。一九九四年に 香港のテレビ局が悲劇的な死を遂げた少女の話を神経性無食欲症というなじみのない西欧の病気の例として説明し、広く伝えるまでは。その後まもなく、同じ症状を訴える少女たちが大発生した。一九九四年までは、香港の誰ひとり自分を飢えさせることなど考えなかったのに。無食欲症が文化に認められた心の苦しみの表現となって初めて、無食欲症が広がりはじめたのだ。

同様に、インターネットやヴァニティ・フェア誌や〈アイ・アム・ジャズ〉のような人気テレビ番組の影響で性別違和も『症状プール』入りした。性別違和はそれまで聞いたことのないもの から、母親のハイヒールをはいてパカパカ歩いている少年を見て真っ先か二番めに頭に浮かぶも のに押しあげられた。「二十一世紀初頭の症状プールには、子供たちは誤った身体で生まれた結 果として非常に苦しむ場合があるという認識がふくまれた。」そし て、大きく伝えられた数件の事例経由で性別違和が症状プールに入ると―――驚いたことに―――親もセラピストも医師もこれまでよりはるかに多くの症状を目にしはじめたのだ。

これらの社会的潮流を作り出す力としては、製薬会社などの経済的力、人権・差別・性などに関する政治的力がまず挙げられる。
日本でも近年、LGBTQとか夫婦別姓とか。同性婚を役所が認めて、ニュースになるとか、そんなことが時々起こっている。
最近で大金が動いた流行病は新型コロナである。マーケッティングと利潤と権力とマスコミ。

ディオバン事件 https://www.med.or.jp/dl-med/doctor/member/kiso/h12.pdf

ブロプレス問題 https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/hotnews/int/201403/535271.html

バルサルタン問題 https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/massie/201401/534688.html?ref=RL2?ref=RL2

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クレイジー・ライク・アメリカ―心の病はいかに輸出されたか
ウォッターズ,イーサン【著】〈Watters,Ethan〉紀伊国屋書店

科学的知識の普及か?善意の支援か?治療のための研究か?それとも金儲けか?―アメリカ版の精神疾患の概念が流入して以後、各国で発症率が急増し、民族固有の多様な症候群や治療法は姿を消しはじめた…。4つの国を舞台に、精神疾患のグローバル化がそれぞれの文化に与えた衝撃と、その背景を追う。
目次
第1章 香港で大流行する拒食症
第2章 スリランカを襲った津波とPTSD(異文化における精神医学とカウンセリングの問題)
第3章 変わりゆくザンジバルの総合失調症
第4章 メガマーケット化する日本のうつ病
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こうしたことについては、各個人を検査してみても、異常は見つからない。しかし本人の主観としては、そのような病気だと認定されることに利益がある。自分はいま新しく認知され始めた、〇〇病だと公言し、合理的配慮を他人と会社。学校、社会に対して求める。ときにはある種の抜け道を構成する。

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