磁力と重力の発見 1
古代・中世
近代物理学成立のキー概念は力、とりわけ万有引力だろう。天体間にはたらく重力を太陽系に組み込むことで、近代物理学は勝利の進軍の第一歩を踏み出した。
ところが、人が直接ものを押し引きするような擬人的な力の表象とちがって、遠隔作用する力は〈発見〉され説明されなくてはならなかった。遠隔力としての重力は実感として認めにくく、ニュートンの当時にも科学のリーダーたちからは厳しく排斥された。むしろ占星術・魔術的思考のほうになじみやすいものだったのである。そして、古来ほとんど唯一顕著な遠隔力の例となってきたのが磁力である。
こうして本書の追跡がはじまる。従来の科学史で見落とされてきた一千年余の、さまざまな言説の競合と技術的実践をたどり、ニュートンとクーロンの登場でこの心躍る前=科学史にひとまず幕がおりるとき、近代自然科学はどうして近代ヨーロッパに生まれたのか、その秘密に手の届く至近距離にまで来ているのに気づくにちがいない。
6年前の著書『古典力学の形成』のあとがきで遠回しに予告されていた大テーマ、西洋近代科学技術誕生の謎に、真っ向からとりくんだ渾身の書き下ろし、全3巻。
目次
序文
第一章 磁気学の始まり——古代ギリシャ
1 磁力のはじめての「説明」
2 プラトンと『ティマイオス』
3 プラトンとプルタルコスによる磁力の「説明」
4 アリストテレスの自然学
5 テオプラストスとその後のアリストテレス主義
第二章 ヘレニズムの時代
1 エピクロスと原子論
2 ルクレティウスと原子論
3 ルクレティウスによる磁力の「説明」
4 ガレノスと「自然の諸機能」
5 磁力の原因をめぐる論争
6 アプロディシアスのアレクサンドロス
第三章 ローマ帝国の時代
1 アイリアノスとローマの科学
2 ディオスコリデスの『薬物誌』
3 プリニウスの『博物誌』
4 磁力の生物態的理解
5 自然界の「共感」と「反感」
6 クラウディアヌスとアイリアノス
第四章 中世キリスト教世界
1 アウグスティヌスと『神の国』
2 自然物にそなわる「力」
3 キリスト教における医学理論の不在
4 マルボドゥスの『石について』
5 ビンゲンのヒルデガルト
6 大アルベルトゥスの『鉱物の書』
第五章 中世社会の転換と磁石の指向性の発見
1 中世社会の転換
2 古代哲学の発見と翻訳
3 航海用コンパスの使用のはじまり
4 磁石の指向性の発見
5 マイケル・スコットとフリードリヒ二世
第六章 トマス・アクィナスの磁力理解
1 キリスト教社会における知の構造
2 アリストテレスと自然の発見
3 聖トマス・アクィナス
4 アリストテレスの因果性の図式
5 トマス・アクィナスと磁力
6 磁石に対する天の影響
第七章 ロジャー・ベーコンと磁力の伝播
1 ロジャー・ベーコンの基本的スタンス
2 ベーコンにおける数学と経験
3 ロバート・グロステスト
4 ベーコンにおける「形象の増殖」
5 近接作用としての磁力の伝播
第八章 ペトロス・ペレグリヌスと『磁気書簡』
1 磁石の極性の発見
2 磁力をめぐる考察
3 ペレグリヌスの方法と目的
4 『磁気書簡』登場の社会的背景
5 サンタマンのジャン
磁力と重力の発見 2
ルネサンス
古代以来、もっぱら磁力によって例示されてきた〈遠隔力〉は、近代自然科学の誕生をしるしづける力概念の確立にどのように結びついていったのか。第2巻では、従来の力学史・電磁気学史でほとんど無視されてきたといっていいルネサンス期を探る。
機械論・原子論的な要素還元主義と、物活論・霊魂論的な有機体的全体論のふたつの自然観がせめぎあった古代ギリシャのあと、ローマ時代からキリスト教中世にかけては後者が圧倒的優勢を誇る。ではその次にくるルネサンスの時代に遠隔力の観念を担い、近代初頭へとひきついだものはいったい何だったのだろうか。ガリレイやデカルトの機械論哲学がアリストテレス‐スコラにとってかわる新哲学として現れて、科学革命をなしとげたなどという単純な図式は、とうてい成り立たないのではないか。
本書は技術者たちの技術にたいする実験的・合理的アプローチと、俗語による科学書執筆の意味を重視しつつ、思想の枠組としての魔術がはたした役割に最大の注目を払う。脱神秘化する魔術と理論化される技術。清新の気にみちた時代に、やがてふたつの流れは合流し、後期ルネサンスの魔術思想の変質——実験魔術——をへて、新しい科学の思想と方法を産み出すのである。
目次
第九章 ニコラウス・クザーヌスと磁力の量化
1 ニコラウス・クザーヌスと『知ある無知』
2 クザーヌスの宇宙論
3 自然認識における数の重要性
4 クザーヌスの磁力観
第十章 古代の発見と前期ルネサンスの魔術
1 ルネサンスにおける魔術の復活
2 魔術思想普及の背景
3 ピコとフィチーノの魔術思想
4 魔力としての磁力
5 アグリッパの魔術——象徴としての自然
第十一章 大航海時代と偏角の発見
1 「磁石の山」をめぐって
2 磁気羅針儀と世界の発見
3 偏角の発見とコロンブスをめぐって
4 偏角の定量的測定
5 地球上の磁極という概念の形成
第十二章 ロバート・ノーマンと『新しい引力』
1 伏角の発見
2 磁力をめぐる考察
3 科学の新しい担い手
4 ロバート・レコードとジョン・ディー
第十三章 鉱業の発展と磁力の特異性
1 一六世紀文化革命
2 ビリングッチョの『ピロテクニア』
3 ゲオルギウス・アグリコラ
4 錬金術に対する態度
5 ビリングッチョとアグリコラの磁力認識
第十四章 パラケルススと磁気治療
1 パラケルスス
2 パラケルススの医学と魔術
3 パラケルススの磁力観
4 死後の影響——武器軟膏をめぐって
第十五章 後期ルネサンスの魔術思想とその変貌
1 魔術思想の脱神秘化
2 ピエトロ・ポンポナッツィとレジナルド・スコット
3 魔術と実験的方法
4 ジョン・ディーと魔術の数学化・技術化
5 カルダーノの魔術と電磁気学研究
6 ジョルダノ・ブルーノにおける電磁力の理解
第十六章 デッラ・ポルタの磁力研究
1 デッラ・ポルタの『自然魔術』とその背景
2 文献魔術から実験魔術へ
3 『自然魔術』と実験科学
4 『自然魔術』における磁力研究の概要
5 デッラ・ポルタによる磁石の実験
6 デッラ・ポルタの理論的発見
7 魔術と科学
磁力と重力の発見 3
近代の始まり
近代物理学成立の真のキーは力概念の確立にある。そこから〈遠隔力〉概念の形成過程を追跡してきた長い旅は、第3巻でようやく近代科学の誕生に立ち会う。
実験的研究と「地球は磁石である」という結論によって近代科学への道を開いたと高く評価されるギルバートは、一方、それゆえに地球は霊魂を有した生命的存在であるとも論じた。しかし、ルネサンスの魔術師デッラ・ポルタ(本書第2巻)に通じるその認識こそが、地球を不活性で不動の土塊と見るアリストテレス宇宙像を解体し、地動説の受容を促したのである。実験と観察の重視という方法もまた、スコラ学に対立する魔術・錬金術の系譜にある。他方、スコラにかわる新哲学として登場した機械論は、原因やメカニズムの解明を要求することで魔術の解体をはかったが、みずからは遠隔力の説明に失敗したのである。
霊魂論・物活論の色彩を色濃く帯びたケプラーや、錬金術に耽っていたニュートン。重力理論を作りあげていったのは彼らであり、近代以降に生き残ったのはケプラー、ニュートン、クーロンの法則である。魔術的な遠隔力は数学的法則に捉えられ、合理化された。壮大な前=科学史の終幕である。
目次
第十七章 ウィリアム・ギルバートの『磁石論』
1 ギルバートとその時代
2 『磁石論』の位置と概要
3 ギルバートと電気学の創設
4 電気力の「説明」
5 鉄と磁石と地球
6 磁気運動をめぐって
7 磁力の本質と球の形相
8 地球の運動と磁気哲学
9 磁石としての地球と霊魂
第十八章 磁気哲学とヨハネス・ケプラー
1 ケプラーの出発点
2 ケプラーによる天文学の改革
3 天体の動力学と運動霊
4 ギルバートの重力理論
5 ギルバートのケプラーへの影響
6 ケプラーの動力学
7 磁石としての天体
8 ケプラーの重力理論
第十九章 一七世紀機械論哲学と力
1 機械論の品質証明
2 ガリレイと重力
3 デカルトの力学と重力
4 デカルトの機械論と磁力
5 ワルター・チャールトン
第二十章 ロバート・ボイルとイギリスにおける機械論の変質
1 フランシス・ベーコン
2 トマス・ブラウン
3 ヘンリー・パワーと「実験哲学」
4 ロバート・ボイルの「粒子哲学」
5 機械論と「磁気発散気」
6 特殊的作用能力の容認
第二十一章 磁力と重力——フックとニュートン
1 ジョン・ウィルキンズと磁気哲学
2 ロバート・フックと機械論
3 フックと重力——機械論からの離反
4 重力と磁力の測定
5 フックと「世界の体系」
6 ニュートンと重力
7 魔術の神聖化
8 ニュートンと磁力
第二十二章 エピローグ——磁力法則の測定と確定
1 ミュッセンブルークとヘルシャムの測定
2 カランドリーニの測定
3 ジョン・ミッシェルと逆二乗法則
4 トビアス・マイヤーと渦動仮説の終焉
5 マイヤーの磁気研究の方法
6 マイヤーの理論——仮説・演繹過程
7 クーロンによる逆二乗法則の確定
あとがき
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『磁力と重力の発見』全3巻 書評より
山形浩生・書評「現代科学は魔法直系の末裔だった!」抜粋
正解にたどりついておしまいの出来レースではない、ダイナミックな観念の歴史を、本書は各時代の世界観との関わりで入念に描き出す。
本書の世界観へのこだわりを、ぼくは懐かしい思いで読んだ。それはかつて著者に予備校で教わったものだったからだ。 本書の著者名を聞いて、書評委員会は一瞬どよめき、自分の知らない時代のできごとが、三十年たっても深い刻印を残していることにぼくは改めて驚いた。それは多くの点でマイナスの刻印だっただろう。全共闘騒動の最大の損失は、山本義隆が研究者の道を外れ、後進の指導にもあたれなかったことだ、という人さえいた。でもプラスの刻印もあった。その事件のおかげで、ぼくをはじめ無数の受験生が予備校でこの人に物理を教われたのだもの。かれが教えてくれたのはただの受験テクニックじゃなかった。物理は一つの世界観で、各種の数式はその世界での因果律の表現だということを、かれは(たかが受験勉強で!)みっちりたたき込んでくれたのだった。
本書はその物理的な世界観を思い出させてくれた。同時に本書は、磁力や重力という常識化した概念/現象の不思議さに、改めて読者の目を開かせてくれるだろう。さらに本書を読むことで、世界はちょっとちがって見えるだろう。無味乾燥な科学が支配していたこの世界に魔法が戻ってきたのをあなたは感じるだろう。さあ、ハリー・ポッターに夢中になっている子供に、いつか本書を見せて教えてやろう。魔法の世界は、いま、きみの目の前にあるんだよ、と。
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野家啓一・書評「「科学への歴史」を見事に描く」抜粋
全三巻、総計一千頁に及ぶ大著である。ようやく読了し、主人公の「磁力」が時を経て「重力」へと成長して行く壮大な大河小説を読み終えたような心躍りと充実感を味わった。 本書を手にし、タイトルと目次を眺めていささか奇異の念を覚えたことは否めない。山本義隆氏といえば、『重力と力学的世界』や『古典力学の形成』などの労作、そしてカッシーラーやボーアの翻訳で知られる科学史家であり、そのフィールドは近代以降の物理学のはずだったからである。実際、山本氏も「これまでの仕事はある程度ホームでのゲームであったが、今回はまったくアウェーでの勝負ということになる」(あとがき)と述べているように、本書の舞台は古典古代から近代初期にいたる「科学以前」の世界であり、扱う資料もギリシア語やラテン語の文献であってみれば、その困難と労苦は想像に余りある。
ところが、ハンディのあるアウェーでのゲームとは思えないほど、氏のフットワークは自在闊達であり、次々と枠を捉えて的確なシュートを決めていくさまには、思わず手に汗を握り、ときに歓声を上げたくなるほどである。そのような試合運びを可能にしているのは、近代科学の核心を万有引力に象徴される遠隔作用としての「力の概念」の獲得に見定め、その源流を古代中世以来の魔術的伝統、とりわけ「磁力」をめぐる考察の中に探ろうとする著者の一貫した問題意識だと言ってよい。(……)
本書を通読してまっさきに思い浮かんだのは、かつて下村寅太郎が科学史は「『科学の歴史』ではなく『科学への歴史』でなければならぬ」と説いてやまなかったことである。しかし、下村は早くから魔術の重要性に着目しつつも、「科学への歴史」を完成させるには至らなかった。この下村が企図しつつなしえなかった「科学への歴史」を、山本氏は本書において見事なまでに実現したと言うことができる。しかも本書は、科学史の本道からは無視され、埋もれてきた思想家たちの著作を丹念に発掘してその意義を宣揚し、従来の科学史の通説・俗説に書き直しを迫らずにはおかない、数々の創見に満ちた力作である。
このような質・量ともに群を抜いた科学史書が、資料収集の面でも大きなハンディを背負ったアカデミズムの外部で書かれたことに心からの敬意を表するとともに、著者が構想しつつある「一六世紀文化革命論」の今後の展開を刮目して待ち望みたい。 …続きを読む »
(週刊読書人2003年9月12日、著者の同意を得て抜粋・転載)
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河本英夫・書評抜粋
議論の焦点は、書名にも現れているように、磁力、重力の語に共通に伴っている「力」という概念そのものに向けられていく。「力」というのはいったい何なのか。明らかに遠隔的に働くが、それ自体は変化し、さまざまな形態を取る。後に力の変化のさなかに量的な保存が見出されたとき、それが力の保存則、すなわちエネルギー保存則となる。力は近代の自然学のなかでさまざまな発見をもたらした稀有な概念であった。 本書は、こうした力の概念に引き継がれていく前史までをギリシャから丹念に掘り起こしている。文句のない力作である。
本書のように斬新な問題設定で一貫した議論を展開した著作は、実にさまざまなことに気づかせてくれる。遠隔作用というとき、すでに広がりを示す空間が前提になっている。空間をどう考え、空間とさまざまな作用との関係をどう考えるかは現在なお大問題である。個人的には、私の研究テーマであるシステム論でも、個々のシステムの位相空間の形成は、要となる大問題の1つである。また眼で物を見るさいも離れたものが、離れたところに見えるのだから、視覚でさえ光を介した遠隔作用だと見ることもできる。この光学と生態心理にかかわる事態を精確に定式化しようとすれば、ただちに難題が噴出する。多様で根源的な問題群の根っこに、おそらく本書は触れているのである。 …続きを読む »
(『科学』2003年10月号、著者の同意を得て抜粋・転載)
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江沢洋・書評抜粋
接触による普通の力と違って、磁石は距離を隔てて鉄片を引くように見える。古代ギリシャの哲学者たちは、この磁力を目に見えない粒子を介した近接作用とみるか、霊的な遠隔作用とみるかの二通りの思想を生み出した。 本書は、ここから説き起こし、磁力が魔術とみなされた中世から、イスラム社会(そこに伝えられていたギリシャ科学)との接触による十三世紀の転換、十五世紀の思弁的魔術から十六世紀の経験的・数学的・実践的な魔術への脱皮(自然界は諸事物とそれらの相互作用からなり人は観察によりその力を知ることができる)を経て、ケプラーが惑星の運動を太陽の磁力に帰しつつも観測データに助けられて彼の三法則を発見し、やがてニュートンが「私は仮説を立てません」といって重力の機構の追究を放棄し惑星の運動の三法則を解析して重力を厳密な数学的法則に従わせることにより魔術的な遠隔作用をひとまず合理化するまでを、原典に直接あたりながら精細に跡づけたものである。それだけに、新事実の発掘、通説の誤りの指摘も多い。たとえば、近代電磁気学の出発点とされてきたギルバートの『磁力論』(1600)が無視した先行者デッラ・ポルタの存在(『自然魔術』、1558)。さらに時代時代の思潮の社会的・技術的背景にも細かい目配りを忘れていない。 …続きを読む »
(『日本物理学会誌』第59巻5号、2004年、著者の同意を得て抜粋・転載)
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池内了・書評「魔術思想と近代科学」抜粋
本書の著者山本義隆は、アインシュタインとは異なった方法で力の本質について深く考えた人である。万有引力の発見によって近代物理学が成立し得たと言っても過言ではない。では、万有引力の発見において、力は接触によって作用するという考えを超越して、いかに遠隔作用という魔術的な力の概念が生まれ出たのだろうか。 遠隔作用といえば磁石の力も同じである。離れた所に空間を越えて伝わるからだ。ならば、まず磁石の歴史を辿ることによって、遠隔作用の概念がどのように生まれてきたかを探ることが第一である。遠く古代ギリシャ以来、磁石の力について考察が重ねられてきたからだ。そして、それがどのように遠隔作用としての万有引力に収斂していったのか。その過程において、魔術と技術がどのような役割を果たしたかを明らかにしたい。それが著者の問題意識であり方法であった。
それ故に、本書では古代から中世のさまざまな人物の磁力の理解がどうであったかが克明に追われ、ルネサンス期の魔術思想とのせめぎ合いにも多くの章が割かれている。さらに、一七世紀の機械論を挟みながら、ガリレオの静力学(力の概念を用いない)からケプラーやフックやニュートンの動力学へと転換する過程で、魔術的要素がむしろ功を奏して万有引力の発見に至ったことが活写されている。
従来の科学史は、科学の諸概念の萌芽を古代ギリシャ時代の自然哲学に求めつつも、その後一挙に千年以上も飛んで、ルネサンスから近代初頭におけるアリストテレス哲学との格闘を通じて近代科学が成立したという筋書きになっている。著者は、むしろ近代以前の占星術や魔術思想に遠隔力の源泉を求め、近代においても機械論の限界をはっきりと認識すべきとして、新しい科学史を書き上げたのだ(書き直したのではない)。
(……)本書を読みつつ、さらに中国における磁石(慈石というべきか)の歴史があれば、と思ったものである。中国では原理を追い求めるよりは実用価値に重きをおく傾向が強く、近代科学に直接影響を及ぼすことがなかったから多くを書いていないとは思うのだが、その限界を示すためにも章を割いて欲しかったのだ。どの段階まで理解や応用が進んでいたのか、なぜそこで磁力の理解が止まってしまったのか、そんな考察を聞きたかった。
ともあれ、これまでの科学史の定説を覆す内容が多く、蒙を啓かれたことが多くあった。著者の執念と勉強ぶりに脱帽した。 …続きを読む »
(『文學界』2004年6月号、著者の同意を得て抜粋・転載)