女性の自閉症が爆発的に増えている
セレニティ・カイザーさんは48歳で自閉スペクトラム症(ASD、自閉症)と診断された。診断結果は驚きであると同時に、彼女がずっと抱えていた問題に対する答えでもあった。子どものころ、カイザーさんはいつも「度が過ぎる」と言われ、笑い声が大きすぎる、動きが不自然、おかしなタイミングでおかしなことを言うといった指摘を受けていた。11歳のとき、彼女は施設に2度入れられたが、それがなぜなのかは、自分ではよくわからなかった。
自閉症と診断されたあと、カイザーさんは施設に収容されていた当時の書類を調べた。自分が施設に入れられる原因となった特徴が「ほぼ教科書通りの自閉症」だったことに気づいたのはそのときだったと、カイザーさんは言う。医師たちの記録には、彼女が目を合わせようとしないこと、単調な声で話すこと、医師たちの権威を疑っていることが記されていた。
米国における自閉症の診断例が増えている。2024年10月30日に医学誌「JAMA Network Open」に発表された、2011~22年までの年間900万人を超えるデータを調べた研究によると、その割合は過去10年間で175%も増えた。増加率が最も大きかったのは、年齢で見ると24歳から36歳までの450%で、女性はどの年齢でも300%を超えて男性より大幅に増えていた。
この爆発的な増加の原因は、自閉症に対する認識が高まったこと、また、臨床的な定義が広がり、アスペルガー症候群などを含むようになったことだと、専門家は考えている。
しかし同時に、自閉症の症状がかつて考えられていたものとは大きく異なる可能性があるという理解も深まりつつある。
「一般に存在するステレオタイプはいまだに、自閉症は子ども時代の障害で、自分だけの世界に閉じ込もり、社会やコミュニティから孤立して悲しみや苦しみにさいなまれている、というものです」と、英ダラム大学の自閉症心理学者で、自閉症に見られる偏見に焦点を当てた研究を行うモニーク・ボサ氏は言う。「自閉症の実態は、そうした固定観念とはかけ離れたものです」
見落とされがちな女性の自閉症
自閉スペクトラム症は、コミュニケーション、学習、行動における差異を特徴とする発達障害だ。
ASDを持つ人々は、興味の範囲が限られていたり、同じ行動を繰り返したりすることが多い。彼らはたとえば、電車に強い関心を抱いていたり、スポーツの統計を暗記していたり、非常に予測しやすい日課を持っていたりする。
また、他者が話した言葉やフレーズを繰り返す「エコラリア」や、特定のストレスが多い状況で話せなくなる「場面緘黙(かんもく)」など、コミュニケーションに困難を抱えていることが少なくない。
自閉症に見られるさまざまな症状を認識する研究者や臨床医の能力は格段に向上しているものの、見落とされている人たちもまだ多く存在する。
「平均して、女児や女性は診断を受けるまでにより長い時間がかかります」と、英ブリストル大学の研究員で、10代以降の自閉症の精神衛生と幸福に焦点を当てた研究を行っているローラ・ハル氏は言う。「女性は診断される年齢が高く、検査を受ける回数も多い傾向にあります」
なぜ女性は気づかれにくいのか
ハル氏が指摘するように、女児と女性が見落とされる理由のひとつには、彼女たちが短い会話や少しの間目を合わせるといった基本的な社交スキルに長けており、苦労するのは友人関係の構築や維持などの、より複雑な社会状況に限られている点が挙げられる。
女児や女性はまた、電車やコンピュータではなく、ポニーやファッションに夢中になるなど、自閉症に典型的には関連付けられない対象に特別な興味を抱くことがある。
自閉症の男児と女児の比率はこれまでずっと4対1とされてきた。だが、現在では多くの研究で、自閉症の女児や女性は、われわれが認識している以上に多いとされている。この事実は、自閉症が歴史的に男児を対象に研究されてきたせいだと多くの人が考えている。
カイザーさんは子どものころ、クラスにいた自閉症の男の子に引き付けられる気持ちがあったという。手をパタパタと動かしたり、上下に飛び跳ねたりといったその子の動きは、自分自身と非常によく似ていた。ところが、教師からは、あの子は自閉症であなたは違うのだから、そんな動きをしてはいけないと言われたという。
「わたしが子どもだったころには、自閉症と診断を受けるのは男子だけでした」とカイザーさんは言う。「わたしはいつもピョンピョン飛び跳ね、手をパタパタと動かしていましたが、そんなときにはすぐに、やめなさいと厳しく言われました」
コミュ「能力の欠如」から「スタイルの違い」へ
自閉症は社会性コミュニケーション症に分類されるが、研究により、これらの困難はコミュニケーション「能力の欠如」というよりその「スタイルの違い」によることが、より明確に示されつつある。
「自閉症の人々は、共感能力や心の理論、つまり他者が何を考えているかを理解する能力に欠けているという固定観念があります」と、脳や神経の特性の違いを多様性ととらえて社会の中で活かそうとする「ニューロダイバーシティ(神経多様性)」に特化した施設「トータル・スペクトラム・カウンセリング」の心理学者ジョエル・シュワルツ氏は言う。
2012年、英国の社会学者ダミアン・ミルトン氏が「二重共感問題」を提唱した。これは、コミュニケーションがうまくいかないのはそれぞれの経験が異なるからであり、世界を同じように体験する人同士の方が、うまく交流できる可能性が高いとするものだ。
確かに「自閉症の人たちを集めて何か作業をしてもらうと……彼らは非常にうまく協力し合い、お互いを非常によく理解し、非常に深く共感し合うようになります」とシュワルツ氏は言う。
この新たな理解は、診断における自閉症のあり方についての概念を広げ、またどのような支援が必要かについての知見を深めるのに役立ってきた。
核心的な特徴は「感覚の違い」
こうしたコミュニケーションのスタイルにおける違いは、自閉症の核心的な特徴である感覚的な差異から生じると考えられている。
われわれがどのように世界を経験するかは、騒音や痛みなどの刺激を脳がどのように処理し、解釈するかによって決まる。この事実は、自閉症の人々における、異常なほど高い痛みへの耐性や、音や光に極めて敏感であることに関連しているのかもしれない。
自閉症の人々は、情報の過剰なインプットに圧倒されやすく、思考が停止したり、感情のコントロールができなくなったりする。これが、体を揺らす、くるくる回る、頭を激しく振る、手をパタパタさせるといった、典型的な行動につながる。しかし研究によると、「自己刺激行動」と総称されるこうした反復行動は避けるべきものというよりも、感情の制御を助けるものだという。
「処理しなければならない情報が多すぎるのです」と、自閉症を専門とする心理学者のカリッサ・バーネット氏は言う。「自閉症の人は、情報の処理に少し時間がかかります。特に感情をコントロールする方法を教わっていない場合には、圧倒されてしまうこともあります」
こうした感覚的な差異があることは、見方を変えれば、自閉症の人々には世界に対する異なる視点が備わっているとも解釈できる。人が一度に処理できる感覚入力には限りがあるため、自閉症の人々は多くの場合、世界のより小さな断片を処理しているということになる。ただし、その解像度ははるかに高い。
「そうした経験の深さが、周囲のものと強くつながり、極度の喜びを感じ、物事を深い明晰さで見る能力につながるのです」とシュワルツ氏は言う。
自閉症の妻を持つシュワルツ氏は言う。「世界を妻の目を通して見ることを少しだけ知ることによって、わたしの経験の深さが増し、以前は見過ごしていただろう物事に、より大きな喜びを見出すようになりました。妻を通して、また妻が物事を受け止める方法を通してそれを体験できるのは、実にすばらしいことです」