三菱UFJ銀行、違法行為が止まらず…
ビジネス
トップメガバンクの称号を持つ三菱UFJ銀行を中核とする三菱UFJフィナンシャル・グループで、信じがたい不祥事が相次いでいる。
同行行員による顧客の貸金庫からの資産窃取事件について16日、記者会見を実施。支店の元副支店長が顧客企業に脅迫行為を行い逮捕・起訴されるという事件も起きていたが(19日発売「週刊文春」<文藝春秋>より)、同行は公表しておらず、会見でも一切触れなかったことに批判が広まっている。これ以外にも、6月には、同行が顧客企業の事業統合などに関する非公開の情報を、同じグループ傘下の三菱UFJモルガン・スタンレー証券に流し、同証券がその一部をモルガン・スタンレーMUFG証券に流すなど、「ファイアーウォール規制」に違反していたとして、金融庁から金融商品取引法に基づく業務改善命令を発令されていた。昨年には三菱UFJモルガン・スタンレー証券が発売していた950億円分ものクレディ・スイス発行「AT1債」が無価値化したことを受け、損失を被った顧客が損害賠償を求めて集団訴訟を提起。購入した人の多くは、グループ企業である三菱UFJ銀行から取次を受けた富裕層や高齢者だった。このほか、前出「週刊文春」記事によれば、三菱UFJモルガン・スタンレー証券が社員向け研修で、高齢者向けに元本割れリスクのあるハイリスク商品を販売するロールプレイ型教育を行っていたという。専門家は「背景には、コンプライアンス意識の低下と人材力の低下がある」と指摘する。
そんな三菱UFJが揺れている。大きなニュースとなったのが、貸金庫をめぐる事案だ。11月、同行は、玉川支店の元店頭業務責任者が練馬支店と玉川支店の顧客の貸金庫から金品を詐取していたと公表。貸金庫のスペアキーは専用の封筒に入れて顧客の印鑑と銀行の管理者の印鑑を使って封をして専用キャビネットに保管するという運用になっているが、この行員は店頭業務責任者であったためキャビネットを開けることができ、スペアキーを使って貸金庫を無断で開けていた。この行員は20年4月~24年10月の約4年半の間に計約十数億円に上る資産を窃取していたが、会見によれば、貸金庫の中を確認したいという顧客に対し、詐取が発覚しないような対応を取っていた可能性があるという。
三菱UFJの不祥事はこれだけではない。6月には、同行が顧客企業の事業統合などに関する非公開の情報を、同じグループ傘下の三菱UFJモルガン・スタンレー証券とモルガン・スタンレーMUFG証券で共有していたことが発覚。三菱UFJ銀行が顧客企業に対し、証券2社との取引を条件に貸出金利を優遇することなども提案していたという。金融商品取引法では、顧客情報の適切な管理、利益相反取引の防止、優越的地位の濫用防止などを目的としたファイアーウォール規制が定められており、銀行と証券会社が顧客の承諾なしで非公開情報等を共有することは禁止されている。金融庁は同行に対して業務改善命令を発令した。
銀行業界トップであり、コンプライアンスが徹底しているはずの三菱UFJで不祥事が相次いでいる背景には何があるのか。元銀行員で金融ライターの椿慧理氏はいう。
「三菱UFJに限らず銀行業界全体の現状として、コンプライアンス意識の低下があげられます。銀行では行員に対するコンプライアンス教育が徹底されており、業務プロセス・ルールも厳しく決められていますが、その一方で近年は業務の効率化も迫られており、現場ではプロセスを省略・簡略化したり、一部業務を子会社などに委託するということが進んでいます。そのようななかで、効率化が優先されてコンプラ意識が薄れつつある面もあると考えられます。
もう1点が人材力の低下です。低金利の時代が長く続いたことも影響して、以前と比べて優秀な人材が入ってこなくなり、新卒採用でもメガバンクから内定をもらった人がそれを蹴って他業界に行ってしまうというケースが目立つようになりました。そこにベテラン行員の大量退職が加わり、全体的な人材の質の低下が進みつつあります」
公表されていないだけで、実は銀行業界では以前から行員による違法行為などの不祥事は頻繁に起きているのではないかという見方もある。
「貸金庫からの詐取については、行内で発覚したにもかかわらず公表していない事案があるというのは考えにくいですが、現時点では発覚していないものの調査してみると実は起きていたというケースはあるかもしれません。
不祥事と一口にいってもレベルがあり、三菱UFJ副支店長のような顧客企業への恐喝というのは行員個人の資質に由来する特殊な事例といえます。また、行員による横領というのは、長く銀行に勤めていれば1度くらいは行内のどこかの支店や部署で発生するというレベルです。
トラブルで多いのが、銀行が販売した金融商品で損失が出た顧客から『説明された内容と違う』『こんなリスクがあるとは説明されていなかった』などとクレームを受けるケースです。金融ADR制度によって、訴訟に至る前の段階である、あっせん・調停・仲裁などのかたちで解決に至るケースも多く、こうした細かい事例を含めると不祥事は公表されている件数以上に多いでしょう」
前出「週刊文春」記事によれば、三菱UFJモルガン・スタンレー証券は社内研修で65歳以上の富裕層をターゲットにハイリスク債券を販売する教育を行っていたというが、これは金融機関では一般的なものなのか。
「日本証券業協会と金融庁は高齢者への金融商品の販売について厳しいガイドラインを定めており、銀行によっては担当者は複数回にわたり役職者の同席のもとで顧客と面談しなければならなかったりと、多くの手順を踏まなければならず非常にハードルが高いです。また、銀行としては、できるだけ将来的に長く運用してくれる顧客のほうがありがたいという事情もあるため、むしろ主要ターゲットとしては、これから長い取引が期待できる若い年齢層のほうになってくるのではないでしょうか」