サイコモーターリターデーションという表現があって、精神運動抑制と翻訳される。
どのような意味かについては、やや幅があって、単純な理解は、精神の働きが抑制されることと筋肉運動の働きが抑制されることの両方を指すというもの。うつ病の時には、悲哀が強くなったり、興味関心がなくなったり、精神の働きが悪くなるので、妥当である。また、体を動かすのもけだるくなり、筋肉運動が少なくなる。つまり、脳神経細胞と、体の筋肉細胞と、両方の働きが悪くなる、そのような意味だと説明している人がいる。
もう一つの理解は、脳には、精神の働きを駆動する、つまり、精神を運動させるメカニズムがあって、それを精神運動と呼ぶ。精神の力学モデルである。もっと踏み込んで言うと、多分、ひとつには、精神を運動させるにはエネルギーが必要だ。精神のエネルギーが切れると、精神運動が鈍くなるだろう。セロトニンの働きなどがイメージされるかもしれない。そしてもう一つ、容易に考えられるのは、エネルギーがあって、運動は発生しているのだけれど、その運動を伝達する、自動車で言えばギアとかシャフトとか、そのあたりが悪くなると、やはり精神の運動が不自由になる。そのように、簡単に言えば、自動車のガソリンとモーターとギアとシャフトのような部分を考えて、精神の運動がうまくいかない状態をサイコモーターリターデーションと言うのだという説明もある。
力学的に考えようという時代の名残だと思う。
どちらにしても、科学的に検証できない話なので、あまり気にしなくていいし、どのような説明を採用するとしても、どうせ精神病の話をしているので、あまり困ることもない。そのくらい大雑把な現状なのである。ドイツ語で言えば、Hemungが近いがぴったり重なるわけではなく、意味が広いと考えられる。