認知症予防のための14の行動

認知症の45%は予防可能、リスクは何歳からでも下げられる
予防のための14の行動とは、医学誌「ランセット」の委員会がリストを発表

 2025年1月に医学誌「ネイチャー・メディシン」に掲載された研究報告は、米国で1年間に新たに認知症を発症する人数が2060年までに現在の2倍の100万人に増え、55歳以上の人が生涯に認知症を発症するリスクも従来の見積もりの2倍にあたる42%に増加すると推定している(編注:2020年に医学誌「Neurology」に発表された研究によると、日本人高齢者(60歳以上)の認知症の生涯リスクは55%)。

 数字を見て怖くなった人もいるかもしれないが、この結果は、人々が認知症になりやすくなったことを意味しているのではない。ここ数十年の社会と医療の進歩により、かつてないほど多くの人が心血管疾患やがんで若いうちに命を落とさずにすむようになったことで、認知症になるまで長生きできるようになったという意味だ。

 実際、認知症のほとんどは高齢者で発症する。今回の研究の最終著者で、米ニューヨーク大学グロスマン医学部のオプティマル・エイジング研究所の初代所長であるジョゼフ・コレシュ氏によると、米国では75歳の4%が何らかの認知症であり、その後は年齢とともに認知症のリスクは急激に高まるという。85歳ではほぼ20%が認知症で、その後もリスクは1年ごとに高まり続ける(編注:厚生労働省の研究班による「認知症及び軽度認知障害の有病率調査並びに将来推計に関する研究」によると、2022年時点で75~79歳の7.1%、85~89歳の32.8%が認知症と推定される)。

 だが幸いなことに、認知症のリスクを減らすためにできることはたくさんあると、米ジョンズ・ホプキンズ大学ブルームバーグ公衆衛生大学院の疫学者で、今回の研究の筆頭著者であるマイケル・ファング氏は言う。ただし、何も手を打たなければ、家族や介護者や経済に深刻な打撃を与えるおそれがあるとも氏は指摘する。(参考記事:「睡眠薬が脳の掃除を妨げているおそれ、認知症とも関連、最新研究」)

認知症のリスクを下げるためにできること
 人々を認知症になるほど長生きできるようにした進歩は、同時に、多くの人の認知症の発症年齢を遅らせている。

 年齢別の認知症リスクの低下は、心血管系の状態の改善やより良い教育など、多くの領域の進歩が原因だと、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校の認知症研究者であるクリスティン・ヤッフェ氏は述べている。幼少期の教育や生涯にわたる認知刺激は認知症の症状を予防する。「こうした点は、本当に大きく変化しました」と氏は言う。

 認知症の発症年齢が1970年代に比べて遅くなっている理由は、これらの進歩や、喫煙率の低下、過度の飲酒の減少、大気汚染の改善、うつ病治療の改良などの生活の質の変化によって説明できる可能性が高い。

 認知症のリスク要因の中には、自分では変えようのないものもある。例えば、特定の型の「アポE遺伝子」を持つ人は、認知症の最も一般的な原因であるアルツハイマー病になるリスクが他の人よりも高い。しかし、認知症のリスク要因の多くは、自分で変えることができる。

 2024年、医学誌「ランセット」の認知症に関する委員会が報告書を発表し、子どもから高齢者まで、生涯にわたって認知症リスクを減らすためにできる14の具体的な行動をリストアップした。いくつかの研究から、これらの行動による予防効果は足し合わせられることが示されている。

 同委員会は、以下に挙げるリスクを減らす行動により、認知症の約45%は予防したり遅らせたりできる可能性があるとしている。

・すべての人が質の高い教育を受けられるようにし、中年期には認知能力を刺激する活動を奨励する

・難聴の人々が補聴器を利用できるようにし、有害な騒音への暴露(ばくろ、さらされること)を減らす

・うつ病を効果的に治療する

・コンタクトスポーツ(競技者間の接触があるスポーツ)をするときや自転車に乗るときにはヘルメットや頭部保護具を使う

・運動する

・喫煙を減らす

・高血圧を予防、低減、治療する

・中年期以降の高コレステロールを治療する

・糖尿病の予防や治療をする

・健康的な体重を維持し、肥満はできるだけ早く治療する

・過度な飲酒を減らす

・高齢者に優しい支援的なコミュニティー環境や住宅を重視し、活動への参加や同居を通じて社会的孤立を予防する

・すべての人が視力低下のスクリーニングと治療を受けられるようにする

・大気汚染への暴露を減らす

「ネイチャー・メディシン」の論文で基礎データの作成に携わったパトリシア・クロウリー氏は、10年ほど前に退職した後、以前から軽度認知障害(MCI)と診断されていた夫と共に、これらの行動のいくつかを実践した。「友人関係と運動」を続けていた2人とも幸運なことに、今でも健康状態は良好で、高度な介護も不要だという。(参考記事:「認知症と生きる」)

 こうした生活様式の改善も効果があるが、専門家がすすめる最も強力な予防介入策は医薬品だ。高血圧やコレステロールを治療する薬は認知症リスクを減らすのに特に役立つ可能性がある。

 いくつかの初期の証拠によると、セマグルチド(商品名オゼンピック、ウゴービなど)やチルゼパチド(商品名マンジャロなど)といったGLP-1受容体作動薬は、おそらく脳の炎症を抑制する効果により、認知症リスクを下げる作用があるのではないかと考えられている。(参考記事:「「やせ薬」は炎症も抑える、驚きの効果を解明、幅広い応用に光」)

 アルツハイマー病の主な原因とされるアミロイドベータの脳内の蓄積を減らすレカネマブ(商品名レケンビ)のような新薬の投与が、症状がまだ現れていない人々の認知症の予防に役立つかどうかについても多くの関心が寄せられているとヤッフェ氏は言う。科学者たちは現在、この疑問に答えようと努力しているが、結果が出るのは5年から10年後になるだろうと氏は予想している。(参考記事:「アルツハイマー病新薬「レカネマブ」、効果は? 副作用は?」)

認知症について話すことを恐れないで
 残念ながら、認知症と診断されることに対する偏見が原因で、記憶力が下がってきた兆候に気づいても医師に相談できない人は多い。

 これは本当に残念なことだと、米エモリー大学の認知症疫学者であるレジーナ・シー氏は言う。「認知症は必ずしも死を意味するものではありません。認知症を予防する方法も、認知症と診断された後にできることもたくさんあるのです」(参考記事:「脳にとって「最高の刺激」とは何か、脳の劣化を防ぐ秘訣」)

 クロウリー氏と夫は、認知症予防の知識のおかげで良い選択ができたが、知識と同じくらい重要なのは、現実と向き合い、それに適応するために変化を起こす能力かもしれないと言う。氏は20代前半に慢性の目の疾患と診断され、法的に重い視覚障害とされる状態になったときに、そのスキルを身につけたという。(参考記事:「いつまでも記憶力は保てる、脳にいい運動の程度と食事とは」)

「私は早い段階で、現実をありのままに受け入れないと、自分の人生を台無しにしてしまうことに気づきました」と氏は言う。「現実を受け入れることが、良い方向への変化につながるのです」(参考記事:「「老いるのはいいこと」と思うほうが健康で長寿に、米国」)

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