CT10 ゲシュタルト療法ver2 2025-3-29


ゲシュタルト療法

ゲイリー・ヨンテフ & リン・ジェイコブズ
フリッツ・パールズ(1893-1976)

  1. 概要
  2. 基本概念
    1. ホーリズム(全体論)と場(フィールド)理論
    2. 変化の逆説的理論(パラドキシカル・セオリー・オブ・チェンジ)
    3. ゲシュタルト療法
      1. コンタクト(接触)
      2. 意識的な気づき
      3. 実験(試すこと)
    4. 気づきのプロセス
    5. ゲシュタルト療法と他の心理療法の違い
    6. クライエント中心療法、論理情動行動療法(REBT)、ゲシュタルト療法
    7. 新しい精神分析モデルと関係性ゲシュタルト療法
    8. 認知行動療法、REBT、ゲシュタルト療法
    9. 歴史
      1. 前史(ゲシュタルト療法の前身)
    10. 哲学的な影響
    11. ゲシュタルト療法の発展
    12. ゲシュタルト療法
      1. ルーウィンの研究とゲシュタルト療法の基盤
      2. 哲学的背景
      3. ゲシュタルト療法の始まり
      4. ゲシュタルト療法の特徴
      5. 現在のゲシュタルト療法
    13. ゲシュタルト療法の発展と現在
      1. ゲシュタルト療法の組織と活動
      2. ゲシュタルト療法の「口伝」と「文書化」
      3. ゲシュタルト療法の変化と「関係性」の重要性
    14. 人格理論(パーソナリティ理論)
      1. ゲシュタルト療法の人格理論とは?
      2. フィールド理論とは?
      3. 自己とは「関係性」の中にある
      4. 接触(コンタクト)と境界(バウンダリー)
      5. 心理的成長のために必要なもの
    15. 有機体的自己調整(Organismic Self-Regulation)
    16. ゲシュタルト(図と背景)の形成(Gestalt Formation)
    17. 意識と無意識(Consciousness and Unconsciousness)
    18. 健康とは?(Health)
    19. 成長への傾向(Tendency Toward Growth)
    20. 人生は関係性の中にある(Life Is Relational)
  3. 境界で起こる問題(Disturbances at the Boundary)
  4. 創造的適応(Creative Adjustment)
  5. 成熟(Maturity)
  6. 心のバランスが崩れるとき(Disrupted Personality Functioning)
  7. 神経症的な自己調整と本来の自己調整の違い
    1. 1. 認知による不安(Cognitive Anxiety)
    2. 2. 呼吸による不安(Breathing and Anxiety)
    3. ゲシュタルト療法と不安の治療
    4. セラピーの目標
    5. セラピーはどのように行われるか?
    6. 何をするか・どうするか;ここで・今この瞬間
    7. 意識(気づき)
    8. 接触(コンタクト)
    9. 実験(Experiment)
    10. 自己開示(Self-Disclosure)
    11. ダイアログ(Dialogue)
    12. 心理療法のプロセス(Process of Psychotherapy)
    13. スタイルとモダリティの多様性
    14. ゲシュタルト療法の始まり
    15. 患者の話の進め方とセラピストの関わり方
    16. 患者の強みと弱みの評価
    17. 治療の進め方
  8. 心理療法のメカニズム
    1. 意識を向ける(Focusing)
      1. 例:感情にとどまる
    2. セラピストとのやり取りが感情に与える影響
  9. 行動化(Enactment)
    1. 行動の誇張(Exaggeration)
    2. 創造的表現(Creative Expression)
  10. イメージを使った技法(Mental Experiments, Guided Fantasy, and Imagery)
      1. 例:イメージを使った気づき
    1. イメージを活用する意義
    2. イメージが自然に浮かび上がることもある
    3. イメージを使った自己支援(Self-support)
  11. 瞑想的技法(Meditative Techniques)
    1. 身体の気づき(Body Awareness)
    2. 緩める技法と統合する技法(Loosening and Integrating Techniques)
      1. 緩める技法(Loosening Techniques)
      2. 統合する技法(Integrating Techniques)
  12. 応用(Applications)
    1. 誰に使えるのか?(Who Can We Help?)
    2. 文化の違いに対する配慮
    3. 原則の適用と調整
  13. セラピストの訓練(Training for Therapists)
    1. 創造性と注意のバランス
  14. さまざまな場面での応用(Various Applications)
    1. 治療(Treatment)
    2. 例1:トム(Tom)
      1. セラピストとのやりとり(Tom’s Dialogue with Therapist)
    3. 例2:ボブ(Bob)
      1. セラピストとのやりとり(Bob’s Dialogue with Therapist)
    4. グループセラピー(Groups)
    5. カップル・家族療法(Couples and Families)
      1. カップルの問題の例:悪いパターンの繰り返し(Circular Causality)
      2. 本当の気持ち
      3. 解決への第一歩
      4. カップルセラピーでの実験(練習)
      5. セラピストの役割
    6. ゲシュタルト療法は科学的に証明された治療法なのか?
    7. RCT(ランダム化比較試験)とゲシュタルト療法
    8. 科学的証拠の枠組みの変化
    9. ゲシュタルト療法の研究方法の問題点
    10. ゲシュタルト療法 vs. 認知行動療法(CBT)
    11. 現場の心理療法と研究のギャップ
    12. ゲシュタルト療法の研究の発展
    13. 治療関係と体験的技法の検証
    14. 神経学、幼児期の発達、感情、そしてゲシュタルト療法
    15. レビューとメタ分析
    16. まとめと結論
    17. 症状別の効果
    18. ゲシュタルト療法の適用範囲
    19. 長期的な効果
    20. 他の心理療法との比較
    21. 社会的・対人関係の向上
    22. ゲシュタルト療法の基本的なアプローチ
    23. ゲシュタルト療法の再評価
    24. 心理療法の比較と限界
    25. 多文化社会における心理療法
    26. 多文化的な心理療法で求められること
  15. ケース例:ミリアムの物語
    1. 背景
    2. ミリアムの内面世界
    3. 孤独と他者とのつながりの間で揺れる心
    4. 4年目のセラピーでの出来事
    5. セッションの会話
    6. 触れられたい気持ちと、触れられることへの恐れ
    7. セラピストとのやりとり(続き)
    8. その後の変化
    9. ゲシュタルト療法の技法
    10. 現代の心理療法との関係
    11. 短期療法と長期療法の適応性
    12. ゲシュタルト療法の発展
    13. ゲシュタルト療法の今後
    14. ケース・リーディングの説明部分の翻訳

概要

ゲシュタルト療法は、フレデリック(「フリッツ」)・パールズと、その協力者であるローラ・パールズ、ポール・グッドマンによって創始されました。彼らは、1940年代から1950年代のさまざまな文化的・知的な潮流を統合し、新しい「ゲシュタルト(全体像)」を生み出しました。この療法は、当時の二大理論である行動主義古典的精神分析に対する、洗練された臨床的・理論的な代替手段を提供しました。

ゲシュタルト療法は、もともと精神分析の修正として始まりました(F・パールズ, 1942/1992)。しかし、すぐに独立した統合的なシステムとして発展しました(F・パールズ、ヘファーライン、グッドマン, 1951/1994)。

ゲシュタルト療法は体験的人間中心的なアプローチであり、患者の**気づき(アウェアネス)**やそのスキルを重視します。これは、伝統的な精神分析のように、無意識を解釈する分析者に依存する方法とは異なります。また、ゲシュタルト療法のセラピストは、患者との関わりを積極的かつ個人的に持つため、精神分析のように中立的な立場を取って「転移(患者がセラピストに過去の関係を投影すること)」を促すことはしません。

ゲシュタルト療法の理論では、プロセスを重視するポストモダン的な場(フィールド)理論が採用されており、従来の精神分析のような機械的で単純な「ニュートン的」な考え方に取って代わっています。

ゲシュタルト療法のセラピストは、患者の気づきを深めるだけでなく、気づきの幅を広げ、行動の選択肢を増やすための積極的な方法を用います。これらの方法やセラピストの関わり方は、患者が自分で自由に選択し、主体的に生きることを助けるためにあります。つまり、行動療法やエンカウンター・グループ(集団セラピーの一種)のように、あらかじめ決められたゴールに向かわせるものではありません

ゲシュタルト療法は、感情、感覚、思考、人間関係、行動といったさまざまな要素を統合する、本当に包括的なシステムです(ジョイス & シルズ, 2009)。また、セラピストと患者は、気づきを深めるために創造的に関わることが推奨されており、ゲシュタルト療法には決まった技法や禁止された技法は存在しません


基本概念

ホーリズム(全体論)と場(フィールド)理論

ほとんどの人間性心理学(ヒューマニスティック心理学)の理論は**ホーリズム(全体論)**の考え方を持っています。ホーリズムとは、人間は本来、自分を調整する力を持ち、成長を目指しているという考え方です。つまり、人の問題や症状は、その人の環境と切り離して理解することはできません。

ゲシュタルト療法では、このホーリズムと場(フィールド)理論が深く結びついています。場理論とは、「人の体験は、その人が置かれている状況(コンテクスト)によって影響を受ける」という考え方です。これは、アインシュタインの相対性理論によって美しく説明されており、現実の本質と、私たちが現実とどう関わるかについての理論です(フィリップソン, 2001)。場理論は科学から生まれたものであり、現在のポストモダン的な考え方に大きな影響を与えています。

場(フィールド)には、相互に依存し合う要素が含まれています。つまり、ある人の行動や体験を形作る要因は、その人が生きている「今この瞬間の場」にあるのです。そのため、人を理解するには、その人が生きている環境や状況を理解することが不可欠です。

たとえば、患者の過去の体験は、その人が「現在どのようにその過去をとらえているか」を教えてくれます。しかし、実際に「過去に何があったか」は、現在の場(フィールド)には存在しません。重要なのは、「その過去の記憶が、現在の体験をどう形作っているか」です。

また、場理論では、「すべての体験は、現在進行形で作られ続け、状況によって変化する」と考えます。誰もが場(フィールド)の中に組み込まれているため、「絶対的に客観的な視点は存在しない」というのも、場理論の重要なポイントです。これは、セラピストも例外ではありません。


変化の逆説的理論(パラドキシカル・セオリー・オブ・チェンジ)

「変化の逆説的理論」(ベイザー, 1970)は、ゲシュタルト療法の中心的な考え方です。

この理論では、次のような**逆説(パラドックス)**を示します。

「なりたくない自分になろうとすればするほど、人は変わらない」

つまり、健康とは「自分自身をひとつの全体(ホール)として受け入れること」です。癒しとは、「自分を再びひとつにすること」なのです。

もし人が「本来の自分とは違う何かになろう」と努力しすぎると、かえって自分がバラバラになり、変われなくなるのです。

**自己調整(オルガニズミック・セルフ・レギュレーション)**のためには、まず自分が何を感じ、何を求め、何を信じているのかを知り、それを自分のものとして受け入れることが大切です。

成長は、「今この瞬間に、自分の中で何が起こっているのか」を意識することから始まります。そして、自分が他人にどう影響を与え、他人からどう影響を受けているのかを知ることが重要です。

「今ここで」自分を理解し、受け入れることで、人は本当の意味で変わることができるのです。


ゲシュタルト療法

ゲシュタルト療法は、自分自身を理解し、受け入れ、成長することを目指す心理療法です。そのために「今、この瞬間」に集中し、現実に起こっていることと向き合うことを大切にします。「こうあるべきだった」「こうすればよかった」と過去を振り返るのではなく、「今の自分はどう感じ、何をしたいのか」に意識を向けます。こうすることで、自分の本当の気持ちや願い、目標、価値観を明確にすることができます。

ゲシュタルト療法の中心となる考え方は、「コンタクト(接触)」「意識的な気づき」「実験(試すこと)」の3つです。

コンタクト(接触)

「コンタクト」とは、今この瞬間に起こっていることをしっかりと感じ取ることを意味します。

意識的な気づき

「意識的な気づき」とは、自分が今何を感じているのか、何を考えているのかに注意を向けることです。特に、複雑な問題や対立が生じている場面、いつもの考え方や行動のパターンがうまくいかない場面では、この気づきが重要になります。例えば、ある出来事に対して何も感じない(麻痺したような感覚)とき、その「何も感じない」という感覚自体に意識を向けることで、新たな気づきを得ることができます。

実験(試すこと)

「実験」とは、新しいことを試してみることによって、より深い理解を得ることです。例えば、心理分析では言葉による説明が中心となりますが、ゲシュタルト療法では、実際に行動を通じて理解を深めることが重視されます。

例えば、患者が過去の辛い出来事について何度も語るものの、気持ちが整理されたり軽くなったりしていない場合、セラピストは「その時の気持ちを、実際に相手に伝えてみる」ことを勧めるかもしれません(直接会って話すか、ロールプレイをする)。これにより、患者は感情を直接表現することで、悲しみや感謝など新たな感情が生まれることがあります。

「コンタクト」「意識的な気づき」「実験」という言葉には専門的な意味がありますが、日常的な意味でも使われます。ゲシュタルト療法では、まずセラピストが患者としっかり向き合い、患者が何を感じ、何をしているのかをともに確認します。そして、患者が自分自身と向き合い、気づきを深められるよう手助けをします。

気づきのプロセス

ゲシュタルト療法では、「気づきのプロセス」、つまり自分の意識の流れに注意を向けることを大切にします。人はそれぞれ、特定のパターンに沿って物事に気づく傾向があり、セラピーではそのパターンを明らかにしていきます。

このアプローチにより、患者は「今の自分が何を考え、何を感じ、どのような選択をしているのか」を理解しやすくなります。また、「無意識のうちに気づかないようにしていること」にも注意を向けることができます。

例えば、ある女性(ここでは「ジル」とします)は、悲しい気持ちを感じるとすぐに怒りに変えてしまう癖があるとします。彼女は「怒り」を感じることで、実は「悲しみ」や「弱さ」を感じることを避けているのかもしれません。このような場合、セラピストはジルが「自分が怒ることで、本当は悲しみを隠している」ことに気づく手助けをします。また、彼女自身がそのパターンに気づき、自分の気持ちをモニターできるようになることも重要です。

ゲシュタルト療法と他の心理療法の違い

ゲシュタルト療法は、従来の心理分析(フロイトの精神分析)や行動療法とは異なるアプローチを取ります。

精神分析では、過去の経験や無意識の衝動を解釈することに重点を置きます。そのため、セラピストは患者の発言や行動を「過去の経験に基づくもの」として分析しがちです。しかし、ゲシュタルト療法では、過去よりも「今、この瞬間」に注目します。また、患者の感情を「単なる無意識の表れ」として解釈するのではなく、患者が「今、何を感じ、何を考えているのか」を尊重します。

一方、行動療法は、観察できる行動に注目し、「問題行動をコントロールする」ことを目的とします。患者の内面的な体験や主観的な感情は、あまり重要視されません。

ゲシュタルト療法は、この両者の間に位置するアプローチです。患者の行動を観察すると同時に、患者の主観的な体験も大切にします。そして、セラピストと患者が協力して、セラピーの方向性を決めていく点が特徴です。


このように、ゲシュタルト療法は「今この瞬間に注意を向け、自分自身を深く理解すること」を重視する心理療法です。


クライエント中心療法、論理情動行動療法(REBT)、ゲシュタルト療法

ゲシュタルト療法とクライエント中心療法には共通点が多くあります。どちらも「人間には成長する力がある」と考え、その成長を助けるために、セラピストが「温かく、正直な態度(真実性)」で関わることが重要だとしています。

また、どちらの療法も「現実をどう感じるか」という、患者の主観的な体験(主観的意識)を大切にします。しかし、ゲシュタルト療法の方がより積極的なアプローチを取ります。ゲシュタルト療法では、「気づきの実験」と呼ばれる方法を使って、患者の主観的な意識を明確にします。これらの実験は、行動療法のテクニックに似ていますが、目的は「患者の気づきを深めること」であり、「行動をコントロールすること」ではありません。

もう一つの違いとして、ゲシュタルト療法では、患者とセラピストの両方の主観的な体験を大切にします。クライエント中心療法では、セラピストが自分の気持ちをあまり語らないのに対し、ゲシュタルト療法では、セラピストが自分の感じたことや経験を患者に伝えることが多くあります。

ゲシュタルト療法は、REBT(論理情動行動療法)のような「対決的(強く意見をぶつける)」アプローチと、カール・ロジャーズのクライエント中心療法のような「指示をしない(受容的)」アプローチの中間的な立場を取ります。

クライエント中心療法では、セラピストは患者の言葉を全面的に信じ、患者の主観を大切にします。一方、REBTでは、セラピストが患者の「間違った考え方や非合理的な思考」に対して、積極的に異議を唱えます。ゲシュタルト療法では、「気づきの実験」やセラピスト自身の気持ちの共有を通じて、患者が自分の意識を広げられるように手助けします。

(1960〜70年代には、フリッツ・パールズが非常に対決的なスタイルのゲシュタルト療法を広めましたが、現在のゲシュタルト療法ではこのような方法は一般的ではありません。)

新しい精神分析モデルと関係性ゲシュタルト療法

ゲシュタルト療法と精神分析(フロイトの理論をもとにした心理療法)は、どちらも変化してきました。ゲシュタルト療法は、もともと哲学者マルティン・ブーバーの「我と汝」の関係(人と人が対等に向き合う関係)をモデルにしていましたが、この関係の重要性が明確に説明されたのは1980年代以降のことです。

ゲシュタルト療法は、以下の点で従来の精神分析とは異なります。

  • 「患者は病気で、セラピストは健康である」という考え方をしない
  • 「対決的な手法」を基本としない
  • 無意識の衝動(ドライブ理論)よりも「人間関係」を重視する

最近の精神分析も、これと似た方向に変化してきました。特に、「関係性精神分析」や「間主観性理論」といった新しい考え方では、フロイトの古典的な精神分析の限界を指摘し、「患者の主観を大切にすること」が重視されています。つまり、精神分析とゲシュタルト療法は、お互いに近い方向へ進んできているのです。

現在の精神分析とゲシュタルト療法の共通点として、以下のような考え方があります。

  • 「人間全体(人格全体)」や「自己の感覚」を大切にする
  • 「プロセス(変化の流れ)」を重視する
  • 「主観(個人の感じ方)」や「感情(気持ち)」を大切にする
  • 人生の出来事(例:幼少期の虐待)が人格形成に与える影響を認める
  • 「人間は成長し、発展する力を持っている」と考える(フロイトのように「人は退行しやすい」とは考えない)
  • 「赤ちゃんは生まれつき人と関わりたい、愛着を持ちたい、満足を得たいという動機を持っている」と考える
  • 「他者との関係がなければ、自己は存在しえない」と考える(「人は本能だけで生きる」という考えを否定する)
  • 「人間は、他者との関わりの中で人格が形成される」と考える(孤立した個人としては語れない)

認知行動療法、REBT、ゲシュタルト療法

ゲシュタルト療法は、「患者の思考(考え方)には関心がない」と誤解されることがあります。しかし、ゲシュタルト療法は常に「患者が何を考えているか」に注目してきました。

例えば、ゲシュタルト療法のセラピストは、「未来を悲観することで生じる不安」に注目します。これは、認知行動療法のセラピストと同じ視点です。また、REBTが「道徳的すぎる考え方(〜すべき、〜でなければならない)が罪悪感を生む」と考えるように、ゲシュタルト療法も「非合理的な考え方」に注目することがあります。

ただし、ゲシュタルト療法とREBT・認知行動療法には、大きな違いがあります。それは、「何が非合理的かを、セラピストが決めるのではない」という点です。

REBTや認知行動療法では、セラピストが「それは非合理的な考え方だから、こう変えるべき」と指導することがあります。しかし、ゲシュタルト療法では、セラピストは「客観的な真実」を持っているとは考えません。代わりに、セラピストは「患者の考え方のプロセス」を観察し、「患者自身が自分の考え方を見つめ直し、新しい考え方を試せるように」サポートします。

つまり、ゲシュタルト療法では、「患者の主観を尊重しつつ、新しい視点を試す機会を提供する」ことを重視するのです。

歴史

前史(ゲシュタルト療法の前身)

ゲシュタルト療法は、まったく新しい「発見」によって生まれたわけではなく、さまざまな学問の考えを統合し、性格や心理療法を理解するための新しいシステムとして発展しました。フリッツ・パールズとローラ・パールズは、1940年代から1960年代にかけて、アメリカの仲間たち(イサドア・フロムやポール・グッドマンなど)と共に、ゲシュタルト療法を作り上げていきました。彼らは、20世紀の科学、哲学、宗教、心理学、芸術、文学、政治などのさまざまな分野で起きた革命的な変化の中で影響を受け、学び、考えを深めていきました。この時代は、異なる分野の知識人たちが互いに影響を与え合う、活発な交流があった時代でした。

フリッツ・パールズが医学博士号(M.D.)を、ローラ・パールズが博士号(D.Sc.)を取得した1920年代のフランクフルト・アム・マインは、心理学の分野で非常に活気のある場所でした。彼らは直接的または間接的に、当時の重要なゲシュタルト心理学者、実存主義哲学者(人間の存在を重視する哲学者)、現象学者(主観的な体験を研究する哲学者)、自由主義的な神学者(宗教について新しい考え方をする人々)、精神分析の研究者たちと交流を持ちました。

フリッツ・パールズは精神分析に深く関わり、自身も精神分析の訓練を受けた分析家でした。しかし、彼は古典的な精神分析の厳格な考え方に対して不満を持っていました。フロイトが発見した「無意識の動機(人間が自覚していない心の動き)」という考え方は、西洋文化に革命的な影響を与えました。しかし、パールズは、精神分析だけにこだわるのではなく、「全体論(ホーリズム)」「ゲシュタルト心理学」「場の理論」「現象学」「実存主義」などの考え方と結びつける必要があると考えました。

これらの学問はそれぞれ、「人間とは何か?」という新しい視点を生み出そうとしていました。これらの考え方は「人間性を重視する思想(ヒューマニズム)」と呼ばれるようになり、ゲシュタルト療法はこの考え方を心理療法の世界にもたらしました。

フロイトの精神分析では、「人間の人生は本能によって決まり、葛藤があり、それを抑える必要がある」と考えられていました。一方、実存主義の哲学者たちは、「人間の本質(エッセンス)よりも、実際に生きていること(エグジステンス)が重要であり、人は自由に生き方を選択できる」と考えました。つまり、実存主義の立場では、「人間の生き方は本能で決まるのではなく、自分の選択による」と主張したのです。

精神分析の中でも、パールズは特に型破りな考えを持つオットー・ランクやヴィルヘルム・ライヒの影響を受けました。ランクとライヒは、

  • 意識的な体験 を重視する
  • 身体 が感情や心の葛藤を表す大切なものだと考える
  • セラピストとクライエントの関係 を「今ここ」での生きた体験として大切にする

といった考えを持っていました。

特に、ライヒは「キャラクター・アーマー(性格の鎧)」という概念を提唱しました。これは、人が無意識のうちに繰り返す行動パターンや姿勢が、社会によって作られた固定的な役割に縛られていることを示す概念です。また、ライヒは「クライエントが話す内容(言葉)よりも、どのように話すか(話し方や動き)が重要だ」と考えました。

ランクは、人間の創造的な力や個々のユニークさを強調し、「クライエント自身が最良のセラピストになれる」と主張しました。フリッツ・パールズと同じく、ランクも「セラピストとクライエントが『今ここ』の関係をどう体験するかが重要」だと考えていました。

哲学的な影響

フリッツとローラ・パールズに大きな影響を与えたのは、「二元論(デカルト的な考え方)」を否定したヨーロッパの哲学者たちでした。二元論とは、「主観と客観」「自分と世界」が別々に存在するという考え方です。しかし、実存主義者や現象学者、ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインのような哲学者は、「主観と客観は分けられない」と主張しました。

また、ゲシュタルト療法は「場の理論」「ゲシュタルト心理学」「ホーリズム(全体論)」や、禅(Zen)の思想・実践にも影響を受けました。

フリッツ・パールズは、最初の著書『自我、飢え、攻撃』(1942年)で、「人は環境との相互作用の中で生きている」と述べました。人間の行動は、意識に浮かび上がる「必要性」によって方向づけられる、という考え方です。また、「創造的な無関心(creative indifference)」という概念を提唱しました。これは、「その場に本当に必要なことを見極める力」を意味します。パールズはこれを、西洋における禅の実践と考えました。

ゲシュタルト療法の発展

フリッツとローラ・パールズは、ナチス政権が台頭するとドイツを離れ、後にナチス占領下のオランダからも逃れました。そして南アフリカに移住し、そこで精神分析の訓練センターを設立しました。この時期、当時の南アフリカの首相であるヤン・スマッツが「ホーリズム(全体論)」という概念を提唱しました。しかし、スマッツが人種隔離政策(アパルトヘイト)を進めたため、パールズ夫妻は南アフリカを離れました。

ホーリズムの基本的な考え方は、「生き物(有機体)は自己調整する存在である」ということです。 フリッツ・パールズにとって、ゲシュタルト心理学、有機体理論、場の理論、ホーリズムは、統一された思想として結びつきました。

「ゲシュタルト(Gestalt)」という言葉には、英語に正確に訳せる単語がありませんが、「まとまりのある全体」「構成された体験」という意味があります。人間の知覚は、細かい部分を積み上げて全体を作るのではなく、最初から「全体的なパターン」として捉えられるのです。

これはかなり専門的な内容なので、高校生にも理解しやすいように、できるだけ平易な日本語に訳していきます。少し意訳も含めますが、逐語的な正確さも保つようにしますね。

ゲシュタルト療法

ルーウィンの研究とゲシュタルト療法の基盤

ルーウィンはゲシュタルト心理学者たちの研究を引き継ぎ、「ゲシュタルト(まとまりのある全体)」がどのようにしてできるのかを研究しました。彼は、ゲシュタルトは「環境の可能性」と「生物(人間)の欲求」の相互作用によって形成されると考えました。つまり、人間の欲求が知覚(ものの見え方)や行動を整理し、方向づけるということです。

人が世界をどのように認識するかは、その人自身の状態と周囲の環境との関係によって決まります。ゲシュタルト療法の「生物の自己調整(オーガニズミック・セルフレギュレーション)」という考え方は、こうしたゲシュタルト心理学の「知覚」や「全体性(ホーリズム)」の原則を基にしています。

哲学的背景

ゲシュタルト療法の発展には、「現象学(フェノメノロジー)」や「実存主義(エグジステンシャリズム)」という哲学の考え方が大きく影響しました。これらの思想は、フリッツ・パールズとローラ・パールズがドイツやアメリカで活動していた時代にとても人気がありました。

特に、対話的実存主義の哲学者マルティン・ブーバーの影響は非常に強く、ローラ・パールズは彼から直接学んでいました。ブーバーは、「自己(わたし)」という存在は、常に「他者(あなた)」との関係の中で成り立つと考えました。この**「わたしとあなた(I-Thou)」の関係**は、ゲシュタルト療法における「患者とセラピストの関係」の基盤となりました。

ゲシュタルト療法の始まり

フリッツ・パールズが最初に発表した本は『自我、飢え、攻撃(Ego, Hunger and Aggression)』(1942年)ですが、ゲシュタルト療法の体系的な理論がまとめられた最初の本は、『ゲシュタルト療法(Gestalt Therapy)』(1951年)です。

この本は、当時のさまざまな思想や学問を融合し、新しい「ゲシュタルト(まとまり)」を作り出したものでした。この本が出版された後、ニューヨーク・ゲシュタルト療法研究所が設立され、そこからゲシュタルト療法が広がっていきました。

特に、ニューヨーク、クリーブランド、マイアミ、ロサンゼルスでは、定期的に研修が行われ、学習グループが形成されました。これらの都市には、それぞれ独自のゲシュタルト療法の訓練機関が作られ、特にクリーブランドのゲシュタルト研究所は、多様な背景を持つ研修生を受け入れ、幅広い講師陣を育成することに力を入れました。

ゲシュタルト療法の特徴

ゲシュタルト療法は、人間性心理学(ヒューマニスティック・サイコロジー)に多くの影響を与えました。その特徴として、次のような点が挙げられます。

  1. 現象学的な体験への注目
    • ゲシュタルト療法では、「体験をありのままに観察すること」を大切にします。
    • これは「現象学」と呼ばれる哲学的な考え方に基づいています。
  2. セラピストと患者の関係
    • 対話的(ダイアローグ)な関係を重視します。
    • これは、マルティン・ブーバーの「I-Thou」の考え方に基づいています。
    • セラピストは、患者の体験を「自分の体験のように感じつつも、自己を保つ(インクルージョン)」ことを行います。
    • セラピストは自分自身を正直に表現し、透明性を持つことが求められます。
    • セラピストは対話に完全に関わり、結果をコントロールしようとしません。この関係の中で、セラピスト自身も変化するのです。
  3. 「今ここ」の体験を重視
    • 過去や未来ではなく、「今この瞬間」の体験を大切にする
    • 患者の気づきを深めるために、実験的な方法を用いることもある。
  4. 自己調整の信頼
    • 人間は本来、自分自身を調整する力を持っている(自己調整機能)。
    • セラピーの目的は、その自然な調整能力を引き出すこと。
  5. 患者の「文脈」と「内面」の両方を重視
    • 人は環境の影響を受けるため、その人が置かれている状況(コンテクスト)も重要。
    • しかし、同時に、個人の内面で起こっていることにも目を向ける。

現在のゲシュタルト療法

この55年間で、ゲシュタルト療法の研究所、書籍、学術雑誌が世界中に広まりました。現在、アメリカの主要都市には必ず1つ以上のゲシュタルト療法の研修センターがあります。

また、ヨーロッパ、北米・南米、オーストラリア、アジアにも数多くのゲシュタルト療法の研修機関が設立され、世界中でゲシュタルト療法を実践するセラピストが増えています。


ゲシュタルト療法の発展と現在

ゲシュタルト療法の組織と活動

近年、さまざまな国や地域で、ゲシュタルト療法に関する**組織(アンブレラ組織)**が作られるようになりました。これらの組織は、専門家の会議を主催したり、基準を定めたり、研究や公教育を支援したりしています。

国際的な会員組織としては、**ゲシュタルト療法促進協会(Association for the Advancement of Gestalt Therapy)**があります。この協会は、専門家だけでなく、誰でも参加できるオープンな組織です。この協会は、ゲシュタルト療法の原則に従いながら、自律的に運営されています。

また、ヨーロッパでは**ヨーロッパ・ゲシュタルト療法協会(European Association for Gestalt Therapy)が、オーストラリアとニュージーランドではGANZ(Gestalt Australia & New Zealand)**が、地域ごとの会議を主催しています。

ゲシュタルト療法の「口伝」と「文書化」

ゲシュタルト療法はもともと口伝の伝統が豊かで、理論や実践のすべてを文書として残すことは少なかった傾向があります。そのため、体験を重視するセラピストが多く、体験的な学びなしにゲシュタルト療法を教えることはほぼ不可能だと言われています。

しかし、1973年にポルスター夫妻(Polster & Polster)が画期的な本を出版して以来、ゲシュタルト療法の「口伝」と「文書化」の間のギャップが小さくなりました。現在では、ゲシュタルト療法に関する多くの本が出版され、その理論や実践方法が詳しく書かれています。

現在、英語のゲシュタルト療法に関する専門誌は5つあります。

  1. International Gestalt Journal(旧 The Gestalt Journal)
  2. British Gestalt Journal(イギリスのゲシュタルト専門誌)
  3. Gestalt Review
  4. Studies in Gestalt Therapy-Dialogical Bridges
  5. Gestalt Journal of Australia and New Zealand

さらに、Gestalt Journal Pressでは、ゲシュタルト療法に関する本や論文、ビデオ、オーディオ教材などの包括的な文献リストを公開しており、www.gestalt.org で閲覧できます。

また、インターネット上には**「Gestalt!(www.g-gej.org)」**というオンラインジャーナルもあり、研究論文や記事を読むことができます。

このように、ゲシュタルト療法の文献は世界中に広がり、英語以外の言語でも多くの書籍や論文が出版されています。例えば、フランス語、ドイツ語、イタリア語、ポルトガル語、デンマーク語、韓国語、スペイン語などでも重要な理論書が出ています。

ゲシュタルト療法の変化と「関係性」の重要性

この10年間で、ゲシュタルト療法の「人格」と「セラピー」に対する理解が大きく変化しました。特に、「人間が成長するための関係性」についての理解が深まったことが大きなポイントです。

・以前は「自立(セルフサフィシエンシー)」が重視されていましたが、人間は本質的に「相互依存(インターディペンデンス)」する存在であるという認識が高まっています。
・文化的に「自立」が求められることが、人に「恥の感覚(シェイム)」を与えることがあると理解されるようになりました。
・幼少期に「恥」がどのように生まれ、人間関係の中でどのように引き起こされるのかについても、より深く研究されています。

こうした理解の変化により、ゲシュタルト療法のセラピストのアプローチも変わりました
・以前のセラピーでは、患者に対して「対決的(コンフロンテーション)」な姿勢をとることが多かったのですが、最近ではより受容的で、支援的な態度が重視されるようになりました。


人格理論(パーソナリティ理論)

ゲシュタルト療法の人格理論とは?

ゲシュタルト療法には、独自の高度に発展した人格理論があります。その根本的な考え方は、「健康な人」と「神経症的な人」の違いを、プロセス(変化の流れ)として捉えることです。これは、「原因と結果」の直線的な考え方を超え、「フィールド理論(場の理論)」という視点から人格を理解するという、従来とは異なる新しいパラダイム(考え方の枠組み)に基づいています。

フィールド理論とは?

ゲシュタルト療法は、**「生き物は環境との関わりの中でしか意味を持たない」**と考えます。つまり、個人を「個人だけで」理解するのではなく、「環境とどのように関わっているか」を見る必要があるということです。

心理学的にも、**「人間は他者との関係なしには存在しえない」**と考えます。環境を認識するには、必ず誰かの視点を通して見ることになるため、「完全に客観的な認識」は不可能です。

自己とは「関係性」の中にある

ゲシュタルト療法では、「自己(セルフ)」は単独で存在するのではなく、「環境との関係」の中で形成されると考えます。もっと具体的に言うと、
・「自己」とは、常に「他者との関係」の中にあるものである。
・「経験(エクスペリエンス)」とは、すべて「接触(コンタクト)」を通して生まれる。
・特に、人と人との接触(対人関係)が、人格の形成と機能に大きな影響を与える

接触(コンタクト)と境界(バウンダリー)

人間の関係には、「接触(つながること)」と「分離(離れること)」の両方が必要です。
つながりがなければ、人は孤独になり、生きていけません。
しかし、適切な距離がないと、自分という存在がなくなり、圧倒されてしまいます。

この「接触」と「分離」のバランスをとることが、人間の成長には重要です。
・適切な接触を通じて栄養となるものを取り入れ、不要なものを拒絶することができる。
・このプロセスが「自己調整(オーガニズミック・セルフレギュレーション)」につながる。

心理的成長のために必要なもの

心理的な成長には、お互いの経験を尊重しながら、対話を通じて関わることが大切です。
・セラピーの中でも、「対話的な接触」を通して、相手の気持ちや価値観を理解し合うことが求められます。



有機体的自己調整(Organismic Self-Regulation)

ゲシュタルト療法の考え方では、人は本来、自分自身を調整し、環境に応じて適切に対応し、問題を解決しようとする力を持っているとされています。

人の欲求(必要なもの)や願望(やりたいこと)は優先順位があると考えられています。一番重要な欲求が最優先され、私たちの意識を占めます。そして、その欲求が満たされると、次に大事なものが意識の中心に移ります。


ゲシュタルト(図と背景)の形成(Gestalt Formation)

この自己調整の考え方に関連する概念として、「ゲシュタルト形成」というものがあります。

ゲシュタルト心理学によると、人間はものごとを「まとまり(全体)」として認識する傾向があります。また、私たちは**「対比(コントラスト)」によって物事をはっきりと認識する**ことも分かっています。

例えば、今あなたが読んでいるこのページの文字は、あなたにとって「はっきりと見える対象(図)」です。しかし、周りの机や椅子、他の物は背景になっており、あまり意識されていません。ですが、もし誰かが「机のことを考えてみて」と言ったら、今度は机が「図」となり、文字の方が背景に回るでしょう。

私たちが意識できるのは、一度に「はっきりした対象(図)」が1つだけですが、その対象(図)と背景はとても速く入れ替わることもあります。


意識と無意識(Consciousness and Unconsciousness)

ゲシュタルト心理学を人格(性格や行動)の理論に応用したとき、意識と無意識についての考え方は、フロイトの考え方とは大きく異なるものになりました。

フロイトは、「無意識」とは本能的な欲求がたくさん詰まっている場所であり、そうした欲求は無意識の奥深くに抑圧(おさえつけ)されていると考えました。そして、人が社会の中でうまく生きるには、無意識の欲求を意識的に抑えたり、別の形に変えたり(昇華する)することが必要だとしました。

しかし、ゲシュタルト療法では「無意識」という言葉の代わりに、「意識している(awareness)」と「意識していない(unawareness)」という概念を使います。この考え方では、私たちの意識は流動的で、今意識していないことでも、状況によってすぐに意識に浮かび上がるとされています。

例えば、普段は気にしていない音楽が、ある瞬間に急に意識に上がることがあります。同じように、心の中にある大切な感情や考えも、適切な環境があれば意識に浮かんできます。

しかし、神経症(精神的な不安や悩み)を持つ人は、ある特定の考えや感情を**無意識的に背景に押しやる(意識しないようにする)**ことを繰り返している、とゲシュタルト療法では考えます。この考え方は、フロイトの「抑圧」に似ていますが、ゲシュタルト療法では「無意識の本能的な欲求を抑える」のではなく、「今の環境の中で何を意識し、何を意識しないか」ということが問題になると考えています。

治療の中で、患者が安全だと感じられる環境が作られると、これまで抑えてきた感情や考えを、自然に意識の中に取り戻すことができるのです。


健康とは?(Health)

ゲシュタルト療法における「健康」とは、とてもシンプルな考え方です。
・人はその時々で最も大切なことを意識し、それに従って行動するのが自然な状態である。
・自分の気持ちや周りの環境に対して柔軟に気づくことができることが、健康な心の状態である。

健康な人は、人間関係や環境とのつながりを持ちつつ、自分の気持ちにも気づくことができるのです。例えば、愛や思いやりを持つこと、環境を大切にすることも、自然な自己調整の一部とされています。

また、人は**「今この瞬間に起きていること」をしっかり感じ取り、それに合わせて行動することが大切**です。新しいことに挑戦すれば、「何がうまくいくか」「何がうまくいかないか」を学ぶことができ、それが成長につながります。

しかし、何かが意識に上がるのを妨げたり、誤った方向に導いてしまうと、気づきや人との関係がうまくいかなくなり、心のバランスが崩れてしまうのです。


成長への傾向(Tendency Toward Growth)

ゲシュタルト療法では、人はもともと成長しようとする力を持っており、環境がそれを許す限り、人は成長できると考えます。

また、人の行動や症状は、環境との関係なしには理解できないというのも大きなポイントです。

ゲシュタルト療法では、人生にはさまざまな**「存在のテーマ」**があると考えます。
例えば、
・人とのつながりと孤立
・生と死
・選択と責任
・本当の自分(本物であること)と自由

などのテーマです。

ゲシュタルト療法の「気づき」の理論は、こうした人生のテーマを、実際に自分がどのように経験するかを重視します。つまり、経験を通して人間を理解し、その経験の意味を大切にするのです。


人生は関係性の中にある(Life Is Relational)

ゲシュタルト療法では、「気づき」と「人間関係」は切り離せないと考えます。

子どもは、周りの人との関わりの中で、少しずつ気づきを学びながら成長します。そして、そのプロセスは大人になっても続きます。

人は、自分が他人とどのように関わるかによって、自分自身を定義するとも言えます。これは、他人からどう扱われるか、また自分が他人をどう考え、どう行動するかによって決まります。

この考え方は、哲学者マルティン・ブーバーの言葉**「本当の生きることとは、出会うことだ」**(1923年)に基づいています。

人生とは、常に新しい欲求が生まれ、それが満たされたり、満たされなかったりする流れの中にあります。

健康な状態では、環境との適切な関係を持ちつつ、自分を保つことができるのです。


さまざまな概念

境界で起こる問題(Disturbances at the Boundary)

人は通常、他人と関わる(つながる)ことと、一人になる(離れる)ことをバランスよく繰り返しながら生活しています。しかし、もし誰かとつながることが繰り返し妨げられると、人は孤立した状態になります。これは「境界の問題(boundary disturbance)」の一つです。なぜなら、孤立が固定されてしまうと、さまざまな欲求に対して適切に対応できなくなり、親しい関係を築くことが難しくなるからです。

反対に、一人になりたいときにそれが妨げられると、**「融合(confluence)」**という境界の問題が起こります。これは、自分と他人の区別があいまいになり、自分らしさ(個性)を失ってしまう状態です。

人は何かを取り入れるとき(たとえば、新しい考え方、食べ物、愛など)、意識的にそれを受け入れ、自分に合うかどうかを判断することが理想的です。しかし、もし何かを無意識のうちにそのまま受け入れてしまうと、「取り込み(introjection)」という境界の問題が起こります。この状態では、取り入れたものが自分に合っているかどうかを考えずに受け入れてしまうため、本来の自分らしさが失われることがあります。

人が本当に成長するためには、取り入れたものを**自分のものとして消化する(assimilate)**ことが必要です。このプロセスでは、取り入れたものをしっかりと体験し、必要な部分だけを残し、不必要な部分は捨てることが大切です。たとえば、授業を聞いたとき、すべての内容をそのまま覚えるのではなく、自分にとって大事なことだけを選び取るようなものです。

また、自分の中にある感情や考えを他人のものだと勘違いすることを**「投影(projection)」**といいます。これは、自分の感情に気づくことを避けるために起こります。たとえば、「あの人は私のことを嫌っている」と思い込むことで、本当は自分がその人のことを苦手だと感じていることに気づかない、というような状況です。

また、本来は他人と一緒にすべきことを、一人でしてしまうことを**「反動形成(retroflection)」**といいます。たとえば、本当は誰かに優しく触れてほしいのに、自分で自分を抱きしめるような行動がそれにあたります。こうした状況では、自分の一部を切り離してしまい、本来の行動が抑えられてしまうのです。


創造的適応(Creative Adjustment)

すべてをまとめると、人は**「創造的適応(creative adjustment)」**という原則にしたがって生きています。心理学者フレデリック・パールズらは、「すべての人間の関わりは、環境と自分自身との創造的な調整である」と述べています。

生き物は、それぞれの環境に適応しながら生きています。しかし、人間はただ環境に合わせるだけでなく、自分にとってよりよい環境を作ることも大切です。

人は成長を求める存在であり、できるだけ自分の力と環境の資源を活用して問題を解決しようとします。しかし、一度に意識できることには限りがあり、普段は意識しないで行動している部分も多くあります。これらの無意識的な行動は、必要なときに意識にのぼり、変化することができます。

「創造的適応」という言葉は、環境に合わせることと、自分自身を表現して環境を変えることのバランスを取ることを意味します。人間は社会の一員として生きているため、社会のルールに適応しながらも、自分の興味や価値観を大切にする必要があります。これは、自分と環境との間の絶え間ない交渉によって成り立っています。

人が何かを必要とするとき、それは意識の中心に現れ(「図」となる)、その欲求を満たす行動をします。そして、それが満たされると、また新しい欲求が「図」となります。この流れを**「ゲシュタルト形成サイクル(Gestalt formation cycle)」**と呼びます。このサイクルの中で、常に「創造的適応」が行われています。

たとえば、お腹がすいたら新しい食べ物を食べる必要があります。すでに食べたものでは満たされません。同じように、新しい行動をすることで環境と関わり、自分の欲求を満たしていくことが重要なのです。

しかし、過去の経験や知識も重要です。まったく新しいことばかりを試すのではなく、これまでの学びを活かしながら、新しいことにも挑戦することが大切なのです。


成熟(Maturity)

健康な心を持っている人は、しっかりとした「ゲシュタルト(まとまり)」を持っています。

「良いゲシュタルト」とは、物事がはっきりとした形を持ち、意味が明確である状態です。たとえば、重要な情報が目立ち(「図」となり)、それを支える背景(「地」)が適切にあることで、物事の意味が分かりやすくなります。

健康で成熟した人は、環境の中で自由に適応しながらも、自分らしさを持っています。その人の「気づき(awareness)」は、過剰な不安や抑圧、偏った考え方によって妨げられることが少なくなります。

健康な人は、必要に応じて意識の中心(「図」)を変えることができます。たとえば、ある問題が解決すれば、次の問題に意識を向けることができます。この変化が速すぎると、満足を得られず(ヒステリー)、逆に遅すぎると新しいことを受け入れられなくなります(強迫的)。また、「図」と「地」のバランスが崩れると、衝動的になったり、物事の意味を見失ったりすることがあります。

健康な人は、環境に適応するだけでなく、環境に変化をもたらすこともできます。適応するだけでは、ただの「従順さ」となり、成長が止まってしまいます。しかし、周りを無視して自分のやりたいことだけをすると、自己中心的(病的なナルシシズム)になってしまいます。


心のバランスが崩れるとき(Disrupted Personality Functioning)

精神的な問題は、自分が本当に興味を持っていることをはっきり認識できなくなることから生じます。

また、過去に豊かな経験をする機会が少なかった人は、環境に適応する力や創造的に問題を解決する力が弱くなりやすいのです。


神経症的な自己調整も「創造的適応」の一つ

たとえ神経症的な(不安や葛藤による)自己調整であっても、それは**「創造的適応(creative adjustment)」**の一つと考えられます。

ゲシュタルト療法では、神経症的な自己調整とは、過去の困難な状況において適応するために創造的に編み出された方法が、その後、状況が変化しても修正されないまま残っている状態だと考えます。

たとえば、ある患者は8歳のときに父親を亡くしました。彼女はひどく悲しみ、恐れ、孤独を感じていました。しかし、唯一の頼れる大人であった母親は、夫の死による深い悲しみに沈み、娘の気持ちを受け止める余裕がありませんでした。

そのため、娘は悲しみや恐怖と向き合うことができず、それらから逃れるために、とにかく忙しく過ごすことで気を紛らわせるようになりました。これは、当時の環境(母親の支えが得られないという状況)において、自分を守るための創造的な適応でした。

しかし、彼女は大人になった今でも、同じ方法(忙しくすることで気を紛らわせる)を使い続けています。本来ならば、新しい環境に合わせて適応の仕方を変えるべきなのに、過去の方法が「性格の一部」として固定化されてしまっているのです。

これは、その方法がかつては緊急事態を乗り越えるのに役立ったため、似たような状況が起こると無意識のうちに同じ方法を使ってしまうことによります。

神経症的な自己調整と本来の自己調整の違い

神経症的な自己調整が続くと、本来あるべき「生き物としての自然な自己調整(organismic self-regulation)」が失われてしまいます。

その結果、患者は自分の本当の感情や欲求を信じることができなくなり、過去の習慣的な解決策ばかりを使うようになります。

本来の自己調整は、今この瞬間の状況に応じて自然に行われるものですが、神経症的な自己調整が続くと、「こうあるべきだ」という固定観念(shoulds)によって、自分の経験をコントロールしようとするようになります。

このような患者に対して、ゲシュタルト療法では**「新しい緊急事態」を作り出す**ことが治療の一環となります。

ただし、ここでの「緊急事態」は、患者にとって過去のトラウマを思い起こさせるような場面を作り出しつつ、**安全に体験できるように配慮されたもの(safe emergency)**です。

例えば、治療の中で患者の感情が高まる場面をあえて作り出しますが、その際にはセラピストが落ち着いて支え、安心感を提供することで、患者が新しい適応方法を学べるようにします。

この新しい経験が十分に安全なものであれば、患者はこれまでとは違う、より柔軟で適応力のある方法を身につけることができます。


対立する要素(Polarities)

人の経験は、ゲシュタルト(まとまりのある形)として現れます。
**「図」と「地」(目立つ要素と背景)**は、お互いに対立しながらも、バランスを取り合っています。

健康な心を持つ人は、このバランスを自然に変化させながら生きています。そのとき必要なものが前面(図)に現れ、それ以外は背景(地)になるという流れが、スムーズに行われているのです。

人生には、さまざまな対立する要素(極 polarity)があります。

  • 生と死
  • 強さと弱さ
  • つながりと孤立

健康な人は、これらの対立をうまく調整しながら生きています。たとえば、あるときは**「強さ」が前面に出ていても、必要に応じて「弱さ」にも目を向けることができる**のです。

しかし、神経症的な自己調整をしている人は、「自分の一部」を無意識のうちに排除してしまい、極端な対立構造を作ってしまいます。

例えば、ある人が「自分は強くなければならない」と思い込むことで、「弱さ」を感じることを完全に否定してしまうことがあります。

このような極端な考え方のせいで、自分の弱さに直面したときに強い不安を感じたり、問題が解決できなくなったりするのです。


抵抗(Resistance)とは何か

「抵抗(resistance)」という概念は、もともとは精神分析の中で**「自分にとってつらい真実を認めたくない気持ち」**を指していました。

しかし、ゲシュタルト療法では、抵抗もまた、生き物が自分を守るための自然な反応の一つであると考えます。

抵抗とは、ある感情や衝動が出てくるのを無意識のうちに抑え込むことです。

例えば、過去に泣いたことでバカにされた経験がある人は、現在の環境が本当は安全であっても、「泣いたらまたバカにされるかもしれない」と感じ、無意識に涙をこらえてしまいます。

このように、過去の経験が影響して、現在の状況とは関係なく「防衛的な習慣」が続いてしまうのです。

治療では、こうした抵抗に気づくことで、過去の「防衛」が今の自分に本当に必要なのかを再評価できるようにします。


コンタクト(Contact)とサポート(Support)

「コンタクト(contact)」とは、自分の経験をしっかりと感じ取り、それを周囲と共有できることを指します。

しかし、コンタクトをするためには、それを支える**サポート(support)**が必要です。

サポートには、**自分で自分を支える力(自己サポート)**と、**周囲からの支え(環境サポート)**の両方が含まれます。

例えば、人は呼吸をすることで自分を支えていますが、空気という環境の支えがなければ生きられません。

健康な人は、今の環境と自分の状態をバランスよく見極めながら適応していきます。

しかし、過去の未解決な問題(unfinished business)や、未来への過剰な不安(catastrophizing)にとらわれていると、今ここ(the present)で必要なサポートをうまく活用できなくなります。

ゲシュタルト療法では、「今ここ」に意識を向けることで、自分の本来の力を取り戻し、より健康な生き方を実現することを目指します。


不安(Anxiety)

ゲシュタルト療法では、不安が「どんな内容の不安なのか」よりも、「不安がどのように生じるのか」というプロセスに注目します。

フリッツ・パールズ(Fritz Perls)は、不安を**「興奮(excitement)からサポートを引いたもの」**と定義しました(Perls, 1942/1992; Perls et al., 1951/1994)。

つまり、不安とは、「興奮(エネルギーの高まり)」があるのに、それを支えるもの(サポート)がないために生じるものなのです。

不安は、主に**「考え方(認知)」「呼吸の仕方」**の2つの要因によって作られます。

1. 認知による不安(Cognitive Anxiety)

不安は、私たちの「考え方(認知)」によって引き起こされることがあります。

特に、**「未来のことを考えすぎる(futurizing)」**と、不安が生まれやすくなります。
「今ここ(present)」に集中できず、未来のことを悪い方向に想像しすぎると、不安が強まるのです。

たとえば、スピーチを控えた人が「観客が自分をバカにするかもしれない」と心配しすぎると、緊張しすぎてうまく話せなくなります。

これは、「未来の失敗」への恐れが、今のパフォーマンスに悪影響を及ぼしてしまう例です。

ステージ恐怖症(stage fright)」はその典型で、本来なら「興奮(excitement)」として感じられるはずのエネルギーが、「不安(anxiety)」として解釈され、パニックにつながるのです。

2. 呼吸による不安(Breathing and Anxiety)

不安は、「呼吸の仕方」が正しくないことで引き起こされることもあります。

人は興奮すると、身体が活発になり、より多くの酸素を必要とします

健康な自己調整ができている人は、自然に深く呼吸して、必要な酸素を体に取り入れます(Clarkson & Mackewn, 1993, p. 81)。

しかし、呼吸が浅くなると、身体が必要とする酸素を十分に取り込めなくなり、不安の症状が出てきます。

特に、速く呼吸しすぎて(過呼吸)、息を十分に吐き出せないと、体内に二酸化炭素がたまり、次のような不安の典型的な症状が現れます。

  • 心拍数が上がる
  • 息苦しさを感じる
  • 過呼吸(hyperventilation)になる

こうした症状は、実際には酸素不足ではなく、二酸化炭素が十分に排出されないことによるものです(Acierno, Hersen, & Van Hasselt, 1993; F. Perls, 1942/1992; F. Perls et al., 1951/1994)。

ゲシュタルト療法と不安の治療

ゲシュタルト療法では、「身体」と「心」の両方にアプローチする方法を用います。

患者は、**「不安がどのように作られているのか」**を理解し、次のような方法で不安を克服することを学びます。

  • 「今ここ」に意識を向ける(未来のことを考えすぎない)
  • 呼吸を意識する(深く吸い、しっかり吐く)
  • 身体の感覚に注意を向ける(体の緊張をほぐす)

こうした**「認知」と「身体」の両方に働きかけるアプローチ**は、不安を軽減するのに効果的です(Yontef, 1993)。


行き詰まり(Impasse)

「行き詰まり(impasse)」とは、これまで頼ってきた支え(サポート)がなくなり、新しい支えをまだ見つけられていない状態のことを指します。

この状態は、**強い恐怖(existential terror)**を伴います。

  • 「後戻りはできない」(過去の方法では対応できない)
  • 「でも、前に進むのも怖い」(新しい方法が見つかっていない)

この2つの力がぶつかり合い、**身動きが取れなくなる(paralysis)**のが、行き詰まりの特徴です。

この状態は、よく次のような比喩で表現されます。

  • 「暗闇」
  • 「虚無感」
  • 「崖から落ちそうな感覚」
  • 「溺れるような感じ」

しかし、この行き詰まりを乗り越えることができれば、本当の意味での「自分らしさ(authentic existence)」に到達できると、ゲシュタルト療法は考えます。

行き詰まりを突破できた人は、

  • 現実をありのままに受け入れる(幻想にとらわれない)
  • 自分の力で支えられるようになる(自己サポート)
  • 創造的で、生き生きとした感覚を取り戻す

一方で、行き詰まりを乗り越えられないと、過去の「適応のクセ(maladaptive behaviors)」を繰り返してしまうことになります。


発達(Development)

ゲシュタルト療法は、長い間、**「子どもの発達」**に関する理論をあまり重視していませんでした。

しかし、最近の精神分析の研究によって、ゲシュタルト療法の発達観が裏付けられるようになってきました。

この理論では、次のように考えます。

  1. 赤ちゃんは、生まれながらに「自己調整(self-regulation)」する力を持っている。
  2. しかし、その力を発達させるためには、「養育者との相互作用」が必要である。
  3. 養育者が、赤ちゃんの感情に適切に反応すると、子どもの「自己調整能力」が発達する。
  4. 子どもは、「他者との関係(relatedness)」を通じて成長する。

フランク(Frank, 2001)は、この考えをもとに、「身体(embodiment)」と「関係性(relatedness)」に基づくゲシュタルト発達理論を提唱しました。

また、マコンビル(McConville)とウィーラー(Wheeler, 2003)は、**「場の理論(field theory)」と「関係性」**を使って、子どもと青年の発達理論を説明しています。


このように、ゲシュタルト療法は、「今ここ」での経験を大切にしながら、人の成長や発達、不安の解消をサポートする心理療法です。


セラピーの目標

ゲシュタルト療法の唯一の目標は「気づき(アウェアネス)」を得ることです。これには、特定の分野での気づきを深めることと、自分の自動的な習慣を必要に応じて意識に引き出せる能力を高めることが含まれます。

最初の意味での「気づき」とは、具体的な内容についての気づきのことです。二つ目の意味では、プロセス、特に「気づきの気づき」と呼ばれる、自己を振り返るような意識を持つことを指します。「気づきの気づき」とは、自分が持っているスキルを意識的に使って、自分の意識の中で起こる問題を修正できる能力のことです。セラピーが進むにつれて、内容としての気づきも、プロセスとしての気づきも、どんどん広がり深まっていきます。

気づきには、以下のことが必要です:

  • 自分自身を知ること
  • 周りの環境を知ること
  • 自分の選択に責任を持つこと
  • 自分を受け入れること
  • 他者と接触する能力を持つこと

セラピーを始めたばかりの患者は、主に問題を解決することに関心を持っています。そして、多くの場合、セラピストが医者のように自分を「治してくれる」と思っています。しかし、ゲシュタルト療法は病気を治すことを目的としているわけではなく、問題について話すことだけに限られるわけでもありません。

ゲシュタルト療法では、セラピストとの活発な関係や、積極的な方法を使って患者が自分自身を支える力を得られるように助けます。セラピストは、セラピーの関係を通じて患者をサポートし、患者が自分の意識や行動を妨げている部分に気づけるように手助けします。

セラピーが進むにつれて、患者とセラピストは、問題を超えて患者の全体的な性格やパーソナリティの問題にも目を向けるようになります。セラピーが成功して終わる頃には、患者自身が多くの作業を自分で進められるようになり、問題解決、性格に関するテーマ、セラピストとの関係の問題、自分自身の意識の調整を統合できるようになります。


セラピーはどのように行われるか?

ゲシュタルト療法は、行動を直接変えようとするものではなく、探索することを目的としています。目標は、意識を高めることによって成長し、自立できるようになることです。この方法は「直接的な関わり」を大事にするもので、セラピストと患者の関わりであれ、患者の接触や意識のプロセスに問題がある場合であれ、直接取り組むことを指します。

この「関わり」のモデルは、ゲシュタルト療法の重要な概念である「接触(コンタクト)」から来ています。接触とは、人が成長したり学んだりするための手段のことです。そのため、実際に体験することが、説明することよりも常に重要視されます。

ゲシュタルト療法では、セラピストは患者との間に距離を置いて冷静に分析するのではなく、活気に満ちた、熱意ある、温かく直接的な存在として関わります。

このオープンで積極的な関係の中で、患者は正直なフィードバックを受け取ることができます。そして、その本物の関わりを通じて、セラピストが患者をどう感じているのか、患者がセラピストにどう影響を与えているのかを知ることができます。患者が興味を持てば、セラピスト自身についても何かを学ぶことができます。また、セラピストが患者の考えや感情を深く気にかけ、しっかりと耳を傾けてくれるという癒しの体験を得られるのです。


何をするか・どうするか;ここで・今この瞬間

ゲシュタルト療法では、二つのことに常に注意を払います:

  1. 患者が「何をしているか」そして「それをどうしているか」。
  2. セラピストと患者の間でどのようなやり取りが行われているか。

例えば、セラピーの時間の中で、患者が自分をどう支えているのか。また、セラピストとの関係の中で、そして自分の生活全体の中で、どのように自分を支えているのかを見ていきます。


ゲシュタルト療法では「直接体験すること」が最も重要なツールです。そして常に「今この瞬間」に焦点を当てるようにします。

「現在(今)」とは、過去と未来をつなぐものです。もし現在を中心にできないと、それは「時間に関する問題」があることを意味します。しかし、過去を思い出せないことや、将来について計画を立てられないことも同様に問題です。

多くの場合、患者は今この瞬間との接触を失い、過去の中で生きています。また、時にはまるで過去が存在しないかのように現在だけを生きることもあります。そうすると、過去から学ぶことができません。

しかし、一番よくある問題は「未来に起こりうること」をまるで今起こっているかのように感じながら生きることです。


「今」とは、患者の現在の意識を指します。ゲシュタルト療法のセッションで最初に起こるのは「幼少期の出来事」ではなく「今、患者が感じていること」です。

「気づき」は今この瞬間に起こります。過去の出来事も今の意識の対象になることはできますが、気づきのプロセス自体は「今」に存在するのです。

例えば、「今、私は周りの世界と接触している」「今、私は過去の記憶や未来の期待と接触している」というように、「今」というのはこの瞬間のことを指します。

患者がセラピーの時間以外での生活について話したり、セッション中の少し前のことを話したりする場合、その内容自体は「今」ではありませんが、話をしている行動自体は「今」起こっていることです。


ゲシュタルト療法では、他のどの心理療法よりも「今、この瞬間」に意識を向けることを大切にしています。この「何をするか・どうするか;ここで・今この瞬間」の方法は、患者の性格に関するテーマや成長の過程を扱うためによく使われます。

過去の体験を探る場合でも、それは現在の意識の中に取り入れられます。たとえば「今、この特定の記憶を思い出させたのは何なのか?」といった具合です。

できる限り、ただ過去を話すだけではなく、過去の体験を今この瞬間の体験として再現できるようにする方法が使われます。


意識(気づき)

ゲシュタルト療法の重要な柱の一つは「自分の意識のプロセスに気づくこと」を発達させることです。つまり、自分が意識していることがどのように深まっていくのか、完全に発展するのか、それとも途中で止まってしまうのかを見ていきます。

意識の中で現れる「対象(フィギュア)」が自然に消えて、新しい対象に意識を向けられるかどうかも大事です。ある一つの対象ばかりが意識を占領してしまい、他の対象に気づけなくなることもあります。


本来であれば、意識されるべきプロセスは、生活の中で必要な時に自然に意識に上がってくるものです。もし状況が複雑になった時には、より意識的に自分をコントロールすることが必要です。これが発達し、意識的に行動できるようになれば、人は経験から学ぶことができるようになります。


意識という概念は「連続的なもの」として存在しています。例えば、ゲシュタルト療法では「ただ知っているだけ」という状態と「自分が実際にやっていることを自覚している状態」を区別します。

ただ知っているだけの状態は、そのことが完全に意識の外にある状態と、意識の中心にある状態(はっきりと気づいている状態)の間の「中間状態」といえます。


人が「自分が何かに気づいている」と言いながらも、「どうしても望む変化を起こせない」と感じることがあります。この場合、ただ「知っているだけ」で、次のような問題を抱えていることが多いです:

  • そのことを完全には感じ取れていない。
  • それがどう起こっているのか、詳しい仕組みを理解していない。
  • それを本当に自分のものとして受け入れ、統合していない。

さらに、多くの場合、次のような困難もあります:

  • 別の選択肢を想像するのが難しい。
  • 別の選択肢が実現できると信じられない。
  • 選択肢を試してみるためのサポート方法が分からない。

完全に意識するということは、その人自身と環境にとって最も重要なプロセスに注意を向けることを意味します。健康的な自己調整ができている場合、それは自然に起こります。

完全な意識のためには次のことを理解しなければなりません:

  • 何が起こっているのか? どうやってそれが起こっているのか?
  • 自分は何を必要としていて、何をしているのか?
  • 他の人は何を必要としているのか?
  • 誰が何をしていて、誰が何を必要としているのか?

こうした詳細な理解を通じて、自分自身がどのように影響を受けるかを受け入れ、それに対して適切に反応できるようになる必要があります。


接触(コンタクト)

接触とは、患者とセラピストの関係のことであり、ゲシュタルト療法のもう一つの重要な柱です。この関係は時間をかけて続くものです。

この関係の中で起こることが非常に重要です。それはセラピストが患者に何を言うかということ以上のものであり、使用される技法だけではありません。最も重要なのは、非言語的な部分です(姿勢、声のトーン、言葉の使い方、興味の持ち方など)。これらは、セラピストが患者をどのように見ているのか、何が重要なのか、セラピーがどのように行われるのかについて多くの情報を伝えます。


良いセラピー関係では、セラピストは患者がその瞬間ごとに何をしているのか、またセラピストと患者の間で何が起こっているのかを細かく観察します。セラピストは患者の体験に注意を払うだけでなく、患者の主観的な体験も自分自身の「現実」と同じくらい本当で価値があると深く信じています。

セラピストは患者に対して力を持つ立場にあります。しかし、もしセラピストが正直さ、愛情、思いやり、親切さ、尊敬を持って患者に接すれば、患者にとって安心して自分がこれまで気づいていなかったことを意識できる環境が作られます。これによって、患者はこれまで安全ではないと感じていた考えや感情を体験し、表現できるようになります。


セラピストは患者の体験に深く入り込むことで、意識のプロセスを導くことができます。マルティン・ブーバーはこのことを「包含(inclusion)」と呼んでいます。これは、他者の体験をまるで自分の体の中で感じるかのように感じつつも、自分自身の意識も同時に保つことを意味します。


セラピストには、人としての思いやりから患者の痛みを和らげたいという気持ちと、患者自身が自分の痛みを深く理解する必要性という矛盾が存在します。

セラピストが患者の痛みを共感的に感じ取ることで、患者は人とのつながりを感じることができます。しかし、患者を「良い気分にさせようとする」ことは、しばしば患者に「自分が良い気分であるときだけ受け入れられる」というメッセージとして受け取られてしまうことがあります。セラピストにその意図がなくても、患者はそう感じることが多いのです。


実験(Experiment)

クライエント中心療法では、セラピストは患者の主観的な体験を反映すること(繰り返したり、言い換えたりすること)に限られています。また、現代の精神分析では、セラピストは解釈や反映を行うことに限られています。

これらの技法はどちらもゲシュタルト療法で使われる方法ですが、ゲシュタルト療法にはさらに「実験的な現象学的アプローチ」が加わります。

簡単に言うと、患者とセラピストが一緒に様々な考え方や行動を試してみることで、単に行動を変えるのではなく、本当の理解を得ることを目指します。研究において実験が新しいデータを集めるために行われるのと同じように、ゲシュタルト療法でも実験によって新しい情報を得ることを目的とします。ここでの「データ」は、患者自身の体験です。


実験の最大のリスクは、特に傷つきやすい患者が「変わることが強制されている」と感じてしまうことです。この危険性は、セラピストが自分の意識を見失ったり、「変化の逆説的理論(paradoxical theory of change)」から外れてしまったりすると大きくなります。

ゲシュタルト療法では、セラピストは常に次のことを明確に保つ必要があります:

  • 変化の方法とは、患者が自分自身をよく知り、受け入れることである。
  • 今この瞬間に現れてくるものを理解し、サポートすることが大切である。

もしセラピストが実験を「気づきのための実験」であり、「観察したものへの批判ではない」とはっきり伝えることができれば、患者が自分を否定するリスクは最小限に抑えられます。


自己開示(Self-Disclosure)

ゲシュタルト療法の大きな特徴のひとつは、セラピストが自分の体験を患者に伝えることが許されているだけでなく、むしろ推奨されているという点です。これは、その瞬間に感じていることや、自分自身の人生で経験したことを含みます。

古典的な精神分析では、セラピストは自分自身について話すことを避けるのが基本です。しかし、ゲシュタルト療法では、患者だけでなくセラピストもデータ(体験)を提供する存在とみなされます。そして、患者とセラピストが共に体験を探求しながらセラピーを進めることが理想とされています。


このようなセラピー関係を築くためには、セラピストが自分と患者との違いを受け入れることが必要です。そして、セラピストが患者の感じている「現実」が自分自身の現実と同じくらい価値のあるものだと本当に信じていることが重要です。

自分自身の主観が絶対ではないと理解することで、セラピストは自分の反応を患者に伝えることができるようになります。そして、それを通して患者に変化を求めるわけではない、という姿勢を保つことが大切です。

このような会話は、慎重かつ丁寧に行われるべきですが、一般的に非常に興味深く患者の自信や自分の価値を高めることに繋がります。


ダイアログ(Dialogue)

対話(ダイアログ)は、ゲシュタルト療法の関係性の基礎です。この対話の中で、セラピストは次のことを実践します:

  • 包含(inclusion): 患者の体験を自分自身のものとして感じること。
  • 共感的な関わり(empathic engagement): 患者の感じ方や考え方を深く理解すること。
  • 個人的な存在感(personal presence): セラピスト自身の体験や感情を適切に伝えること(自己開示)。

セラピストは、患者の体験を想像し、その体験がどのようなものかを理解しようとします。こうすることで、患者の存在や可能性を確認することになります。

しかし、それだけでは本当の意味での「対話」にはなりません。


本当の対話 が成立するためには、セラピストがそのやりとりやそこで起こることに対して、自分を委ねる(開かれた状態でいる)ことが必要です。つまり、対話によって自分自身が変わることを恐れない姿勢を持つということです。

このような対話の中では、セラピストが自分の間違いや傲慢さ、過ちを認めることも含まれます。こうした認める行為は、セラピストと患者を平等な立場に置きます。


このようなオープンな自己開示を行うためには、セラピスト自身が自分の中にある防御やプライドを減らすために、個人的なセラピーを受けることも重要です。


心理療法のプロセス(Process of Psychotherapy)

人は子どもの頃に自分の「自己感覚」や「意識や行動のスタイル」を形成します。これらは習慣的なものとなり、新しい体験によって改善されたり見直されたりすることはあまりありません。

しかし、成長して家族の外へ出て社会と関わるようになると、新しい状況に直面することになります。そして、それまでの考え方や感じ方、行動のやり方が新しい環境ではもはや必要でなかったり、適応できなかったりすることがあります。


ところが、古い方法は意識の外にあるため、意識的に見直されることがありません。そのため、役に立たないやり方がいつまでも続いてしまうのです。

ゲシュタルト療法では、患者は自分の体験を本当に大切にしてくれる存在と出会います。セラピストとのこの新しい、尊重に満ちた関係を通じて、患者は新しい自己感覚を形成することができます。


ゲシュタルト療法では、セラピストとの関係性と現象学的な集中技法を組み合わせることで、患者はこれまで気づくことができなかったプロセスを意識できるようになります。

セラピストと患者の間の接触(コンタクト)は、患者がその瞬間ごとに変わりゆく興味や意識に触れ、それと接する能力を発展させるための土台を作ります。


スタイルとモダリティの多様性

ゲシュタルト療法は、おそらく他のどの療法よりも多様なスタイルと方法を持っています。療法は短期的なものから長期的なものまで幅広く、以下のような様々なモダリティが含まれます:

  • 個人療法
  • カップル療法
  • 家族療法
  • グループ療法
  • 大規模なシステムを対象とした療法

また、スタイルも様々です:

  • 構造化の程度や種類
  • 使用される技法の量と質
  • セッションの頻度
  • 対立(コンフロンテーション)と優しさ(コンパッション)のバランス
  • 身体、認知、感情、人との接触などへの焦点の違い
  • 精神分析的テーマへの理解と働きかけ
  • 対話と存在感の重視
  • 技法の使い方

全てのスタイルに共通するのは以下のポイントです:

  • 直接的な体験実験(エクスペリメント) の重視
  • 直接的な接触個人的な存在感 の使用
  • 「何が起こっているのか」「どう起こっているのか」に焦点を当てること
  • 「今ここで」の体験に集中すること

この療法は、状況やセラピストと患者の個性によって変化することがあります。


ゲシュタルト療法の始まり

ゲシュタルト療法は、セラピストと患者が最初に出会った瞬間から始まります

最初に、セラピストは患者に**「どんなことを求めているのか、何が必要なのか」**を尋ねます。そして、セラピスト自身がどのような方法でセラピーを行うのかを説明します。

この時点から、「今、何が起こっているのか」「今、何が必要なのか」に焦点を当てます。セラピストはすぐに、患者が「自分自身」や「周囲の環境」に対する意識をはっきりさせる手助けを始めます。この場合、セラピストとの関係も「環境」の一部になります。


セラピストと患者は、患者が本当に必要としていることは何か、そしてこのセラピストが適しているかどうかを一緒に考えます。

もし、両者の相性が良さそうであれば、セラピーが進められます。その際、まずはお互いを知ることから始め、関係を深めながら、患者の「気づき」を鋭くするプロセスに入ります。

最初の段階では、このセラピーが短期間のものになるのか、長期間のものになるのか、さらには患者とセラピストの相性が本当に合うのかさえも、はっきりとはわかりません。


セラピーの初期では、**患者の「今の感情」「今のニーズ」「生活環境やこれまでの人生」**について話します。

ゲシュタルト療法では、長い人生の経歴を最初に細かく聞くことはほとんどありません。しかし、それを禁じているわけではありません。

患者の過去についての話は、セラピーの過程で、必要になったときに、患者が話しやすいペースで語られることが一般的です。


患者の話の進め方とセラピストの関わり方

  • 人生のストーリーから話し始める人もいれば、今現在の出来事に焦点を当てる人もいます。
  • セラピストの役割は、患者が話している中で「何が浮かび上がっているのか」「どんな感情があるのか」「どんなことを求めているのか」に気づけるように手助けすることです。

この手助けの方法として、セラピストは:

  • 患者の言葉や感情を反映させる言葉を返す(「あなたは○○と感じているようですね」)
  • 「意識を向ける方法」について提案する(または、そのための質問を投げかける)

例えば、ある患者が最近の出来事を話し始めたとします。しかし、その出来事が「自分にどのような影響を与えたか」については話していません。

この場合、セラピストは:

  • **「その出来事があったとき、どんな気持ちになりましたか?」**と質問する
  • **「今、その話をしながら、どんな気持ちになりますか?」**と尋ねる
  • 話の流れを振り返りながら、各場面での感情に意識を向けるように促す

患者の強みと弱みの評価

セラピストは、**患者の性格や個性に注目しながら、「どのような部分が強みで、どのような部分が不安定なのか」**を見極めます。

ゲシュタルト療法は、基本的に心理療法が必要なほとんどの患者に適用可能ですが、それぞれの患者に合わせて柔軟に方法を変える必要があります

良いセラピストは、自分の経験やトレーニングの限界を理解しており、その範囲内で適切に治療を行います。


治療の進め方

治療は通常、個人セラピーやカップルセラピーから始まります(または両方)。

場合によってはグループセラピーが追加されることもあります。そして、最終的にグループセラピーが治療の中心になることもあります。

しかし、ゲシュタルト療法の創始者であるフリッツ・パールズが提唱した「グループセラピーだけで患者を治療できる」という考えは、現在のゲシュタルト療法のセラピストたちには受け入れられていません

グループセラピーは個人やカップルセラピーを補完するものであり、それに取って代わるものではありません。


ゲシュタルト療法はあらゆる年齢の人々に適用可能ですが、特に子どもを対象にする場合は専門的なトレーニングが必要です

子どもに対するゲシュタルト療法は:

  • 個別セラピー
  • 家族を含めたゲシュタルト家族療法
  • (時には)グループセラピー

などの形で行われます。


心理療法のメカニズム

ゲシュタルト療法では、全ての技法は「実験(エクスペリメント)」と考えられています

セラピストは患者に対して、**「これを試してみて、どう感じるか確かめてください」**と繰り返し伝えます。


ゲシュタルト療法には多くの技法がありますが、技法自体が重要なのではありません

ゲシュタルト療法では、原則に沿っていれば、どんな技法でも活用できます

実際、セラピストには自由な発想で創造的に介入することが推奨されています


意識を向ける(Focusing)

ゲシュタルト療法で最もよく使われるのは、「意識を向ける」ためのシンプルな介入です。

「意識を向ける」とは、今この瞬間に何が起こっているのかを明確にすることです。

セラピストは:

  • 患者が今、何を意識しているのかを明確にする手助けをする
  • 意識の流れ(モーメント・トゥ・モーメント)に注目する

典型的な質問の例:

  • 「今、あなたは何に気づいていますか?」
  • 「今ここで、どんな感覚がありますか?」

また、セラピストは**患者が「意識の流れを遮る瞬間」**を注意深く観察します。

例えば、患者が過去の出来事を話しているときに:

  • 突然歯を食いしばる
  • 息を止める
  • 感情を言葉にしない

といった場合、それが**「気づきを遮る行動」なのか、それとも怒りの表現なのかを探ります**。


こうした観察をもとに、セラピストは患者に気づきを促し、**「自分自身をより深く理解する」**手助けをしていきます。


感情に「とどまる」こと(Stay with it)

患者が「ある感情を感じている」と言ったとき、もう一つの技法として**「その感情にとどまる」**(Stay with it)という方法があります。

これは、患者がその感情をさらに深め、じっくりと向き合うことを促す技法です。こうすることで、患者は感情を深く掘り下げ、それを乗り越える力を養うことができます

次の短いやり取りは、この技法の実例です。


例:感情にとどまる

P = 患者、T = セラピスト

P: (悲しそうな表情をする)
T: 「今、何を感じていますか?」
P: 「悲しいです。」
T: 「その感情にとどまってみてください。」
P: (涙がにじむ。しかし、体をこわばらせ、目をそらし、考え込むような表情をする。)
T: 「今、体がこわばっていますね。何を感じていますか?」
P: 「悲しみを感じたくないんです。」
T: 「その『感じたくない』という感情にとどまってみましょう。『感じたくない』という気持ちを言葉にしてみてください。」


このようなやり取りを通じて、患者は自分の感情に対する抵抗(たとえば「泣くのは恥ずかしい」「ここでは安全じゃないから泣けない」「本当は怒っているのに、悲しいとは認めたくない」など)に気づくことができます。


セラピストとのやり取りが感情に与える影響

ゲシュタルト療法では、患者が話題を急に変えるとき、それはセラピストとの関係の中で何かが起こっているサインだと考えます。

例えば:

  • セラピストの言葉や態度が患者の不安や恥の感情を引き起こしている可能性があります。
  • しかし、多くの場合、患者自身はそれに気づいていません

こうした無意識の感情は、セラピストが注意を向け、一緒に対話をすることで明確になっていきます(Jacobs, 1996)。


行動化(Enactment)

患者に**「感情や思考を実際に行動で表現してみる」**ことを提案する技法です。

たとえば、次のような方法があります。

  • 「その言葉を相手に直接言ってみましょう」(もし相手がその場にいる場合)
  • 役割演技(ロールプレイ)
  • 心理劇(サイコドラマ)
  • 「空の椅子」技法(Empty-chair technique)

行動の誇張(Exaggeration)

ときには、「行動化」と「誇張(エクサジェレーション)」を組み合わせることもあります。

この場合、患者に対して:

  • 「今の動作をもっと大げさにやってみてください」
  • 「その表情をもっとはっきりさせてみてください」

などと促します。

この目的は、単なる感情の発散(カタルシス)ではなく、感情をより深く理解するための実験です。


創造的表現(Creative Expression)

言葉だけでは表現しにくい感情を、創造的な方法で表現することもあります。

方法の例

  • 日記を書く(ジャーナルライティング)
  • 詩を書く(ポエトリー)
  • 絵を描く(アート)
  • 体を動かして表現する(ムーブメント)

特に子どもとのセラピーでは、このような方法がとても重要になります(Oaklander, 1969/1988)。


イメージを使った技法(Mental Experiments, Guided Fantasy, and Imagery)

ある出来事を視覚的にイメージすることで、より強い気づきを得ることができる場合があります。

次の例を見てみましょう。


例:イメージを使った気づき

P = 患者、T = セラピスト

P: 「昨夜、彼女と一緒にいたんですが、なぜか勃起できませんでした。」
(患者が詳しく状況を説明する)
T: 「目を閉じて、昨夜の状況を思い浮かべてください。そして、そのときの気持ちや体の感覚を言葉にしてください。」
P: 「ソファに座っています。彼女が隣に座って、僕は興奮します。でも、途中で萎えてしまう。」
T: 「もう一度、スローモーションで詳しく思い出してみましょう。どんな考えや感覚があるか、一つひとつ丁寧に感じ取ってみてください。」
P: 「ソファに座っている。彼女が隣に来て、僕の首に触れる。温かくて柔らかい感じがする。僕は興奮する——つまり勃起する。彼女が腕を撫でる。すごく心地いい……。(少し間を置き、驚いたような表情になる) あ、そのとき、こう思いました。『今日は一日中緊張してたから、勃たないかも……』」


イメージを活用する意義

患者の感情が単なる言葉では説明しにくい場合、イメージを使うと感情がよりはっきりと見えてくることがあります。

例えば、患者が**「ひとりぼっちで、砂漠にいるような気持ち」**
と言ったとします。

このとき、セラピストはこう促します。

  • 「その砂漠の中に、今実際にいると想像してください。どんな感じがしますか?」
  • 「その気持ちにとどまってみてください。」

イメージが自然に浮かび上がることもある

時には、患者自身が突然イメージを思い浮かべることもあります。

例えば:

  • 「今、すごく寒い感じがします。まるで宇宙に一人ぼっちでいるみたい……」

この場合、それはセラピストとの関係性の中で何かが起こっていることを示している可能性があります

例えば、患者が**「セラピストが感情的に寄り添ってくれていない」**と感じているのかもしれません。


イメージを使った自己支援(Self-support)

また、イメージは患者の自己肯定感を高めるためにも使えます。

例えば、強い「恥」の感情を持っている患者には:

  • 「あなたを無条件に愛し、受け入れてくれる『理想の母親』をイメージしてみてください。」

といったワークを行うことがあります(Yontef, 1993)。


瞑想的技法(Meditative Techniques)

ゲシュタルト療法では、東洋の心理療法から取り入れた「瞑想的な技法」も活用することがあります

瞑想やマインドフルネスの要素を取り入れることで、患者が**「今ここ」に集中しやすくなり、気づきを深める**ことができます。


身体の気づき(Body Awareness)

ゲシュタルト療法では、体の活動への気づきがとても重要です。これについては、特に**「呼吸のパターン」**に注目することがあります(Frank, 2001; Kepner, 1987)。

例えば、落ち着いて気持ちを感じ取れるような呼吸ができていないと、不安を感じやすくなります

  • 不安を感じている人の呼吸は、普通は息を吸うのが速く、息を完全に吐き出せていないことが多いです。
  • セラピストは、普通のセラピーの時間の中で呼吸の練習を取り入れることもできますし、完全に体に焦点を当てたゲシュタルト療法を行うこともできます(Frank, 2001; Kepner, 1987)。

緩める技法と統合する技法(Loosening and Integrating Techniques)

緩める技法(Loosening Techniques)

ある人は考え方がとても固くなってしまっていて、他の考え方をまったく考慮しないことがあります。

これは文化的な影響や心理的な理由から来ることもあります。

  • このような時、想像やイメージを使ったり、今とは逆のことを頭の中で試してみることで、その固さを和らげることができます。

統合する技法(Integrating Techniques)

時には、患者が自分の中で切り離しているものを結びつけることが必要です。

  • たとえば、「ポジティブな気持ちとネガティブな気持ちを同時に感じる」ことです。
    • 「彼のことは好きだけど、彼のふざけた態度には本当に腹が立つ」というように。
  • また、**「体で感じていることを言葉にする」「言葉にしたことを体の感覚として感じる」**という技法もあります。
    • 例えば、「その気持ちを体のどこで感じるか探してみてください」というように。

応用(Applications)

誰に使えるのか?(Who Can We Help?)

ゲシュタルト療法は**「プロセス理論」**なので、セラピストが理解し、安心して接することができる人なら誰にでも効果的に使えます

  • Yontef は、この療法が境界性パーソナリティ障害(ボーダーライン)や自己愛性パーソナリティ障害を持つ人にも使えると述べています(1993年)。
  • 大事なのは、セラピストが患者とどう関わり、患者に合わせて技法を調整できるかどうかです。
  • ゲシュタルト療法は、特定の問題や人に対する決まったやり方があるわけではなく、「気づき」「対話」「実験」をベースに、個々の患者に合わせて調整することが必要です

文化の違いに対する配慮

患者が自分と異なる文化背景を持つ場合でも、ゲシュタルト療法は効果的に使えます。

  • セラピストは患者の生活や文化を理解することが大切です(Jacobs, 2000)。
  • この療法の**「対話を重視する姿勢」「複数の正しい現実があるという考え方」**は、異なる文化を持つ患者と相互理解する助けになります。

原則の適用と調整

ゲシュタルト療法では、「決まったやり方」に患者を合わせるのではなく、患者に合わせて方法を調整することが必要です。

  • 例えば、精神病やパーソナリティ障害を持つ人には、方法や注意点を変えなければならないことがあります
  • また、薬の使用、デイケア(通所治療)、栄養指導などのサポートを組み合わせることもあります。

セラピストの訓練(Training for Therapists)

ゲシュタルト療法を効果的に行うには、次のような幅広い知識と訓練が必要です

  • パーソナリティ理論(人の性格や行動の特徴を理解する理論)
  • 精神病理学と診断方法(さまざまな心の問題を理解し診断すること)
  • 他の心理療法の理論と応用
  • 心理力動学(心の中の無意識の動きや葛藤を理解する理論)
  • 個人の心理療法の経験と訓練、監督

創造性と注意のバランス

ゲシュタルト療法では、セラピストが新しい行動を試したり、患者と一緒に創造的に取り組むことが重要です。

  • しかし、セラピストは**「ただ自由にするだけ」ではいけません**。
  • 専門的な判断力、注意深さ、責任感を持つことが必要です

さまざまな場面での応用(Various Applications)

ゲシュタルト療法は、個人セラピー(週に何度も行う集中セラピーから短期の危機対応まで)、グループセラピー、学校や組織での取り組みなど、非常に幅広い場面で応用されています

  • 精神病を持つ人
  • 心身症(体の症状が心の問題と関係する病気)を持つ人
  • 心的外傷後ストレス障害(PTSD)を持つ人

など、多くの人々に効果的に使われています。


治療(Treatment)

患者は似たような問題を抱えていることが多いですが、性格やセラピストとの関係の中で起こることが違うため、治療の仕方も異なります。次の2つの例では、どちらの患者も**「感情的に見捨てられた親」に育てられた**という共通点があります。


例1:トム(Tom)

トムは45歳の男性で、自分の知性、自己完結性、独立心を誇りにしていました

  • しかし、彼は自分が満たされていない依存欲求や怒りを抱えていることに気づいていませんでした。
  • 彼の「自分だけでやっていける」という信念は、彼の自尊心(自分を大事に思う気持ち)の基盤でした。
  • そのため、セラピストはトムのプライドを傷つけないように慎重に対応する必要がありました

セラピストとのやりとり(Tom’s Dialogue with Therapist)

P(トム): [誇らしげに] 小さい頃、母親はとても忙しかったから、自分で頼るしかなかったんだ。

T(セラピスト): あなたの強さは素晴らしいですね。でも、そんなに自分に頼っていた子どもだったと聞くと、あなたを撫でてあげたり、親としての愛情を与えたい気持ちになります。

P(トム): [少し涙ぐむ] 誰もそんなことをしてくれなかった。

T(セラピスト): 悲しそうに見えますね。

P(トム): 子どもの頃のことを思い出しているんだ…


トムはセラピストの共感的な反応に心を開きました。セラピストはトムに対して「人に頼りたくなる気持ち」を否定せず、むしろ受け入れました。

  • この対話を通して、トムは親からの愛情を得られなかったことによる悲しみや、それを補うために自分で頑張ろうとしてきたことに気づきました
  • 彼の「他人に頼りたくない」という気持ちを直接否定せず、自然に自分の気持ちを探るように導いたのです。

例2:ボブ(Bob)

ボブも45歳の男性ですが、トムとは全く違うタイプです。

  • ボブは、誰かとのやりとりが少しでもネガティブだと、すぐに恥を感じて自分を孤立させてしまうことがよくありました。
  • 常に自分で決めることを避け、他人に頼りきりでした。
  • これまでのセラピーでは、セラピストが共感や同情を示すことで、逆に「自分は無力だ」という思い込みを強めてしまっていたのです。

セラピストとのやりとり(Bob’s Dialogue with Therapist)

P(ボブ): [泣き言のような声で] 今日何をすればいいかわからない。

T(セラピスト): [ボブを見つめるが、話さない](セラピストが指示を出すと、ボブはそれにすぐ従ってしまい、本当に自分が感じていることを探れないからです。)

P(ボブ): じゃあ、一週間のことを話そうかな? [セラピストを見て、助けを求めるような目つき]

T(セラピスト): 今、あなたから引っ張られている感じがします。私に指示を出してほしいということですね?

P(ボブ): はい。それの何が悪いんですか?

T(セラピスト): 別に悪くないですよ。でも、今はあなたを導くつもりはありません。

P(ボブ): どうしてですか?

T(セラピスト): あなた自身で自分を導くことができるからです。今、あなたは自分の内側から離れる方向に私たちを導いていると思います。私はそれに協力したくないです。

[沈黙]

P(ボブ): なんだか迷子になった感じがする。

T(セラピスト): [注意深く見つめるが、話さない]

P(ボブ): あなたは私を導いてくれないんですね?

T(セラピスト): そうです。

P(ボブ): じゃあ、「自分で自分のことをできない」という思い込みをどうにかすることをやってみようか。


ボブは、セラピストが彼を指示しないことで、自分自身で問題を探るきっかけを見つけました

  • セラピストが助け船を出さなかったことで、ボブは自分自身の中にある不安や恥の気持ちを探り始めることができました。
  • 最終的に、彼は**「親からの見捨てられた不安」や「自分はダメだという思い」**に気づくことができました。

このように、同じ「感情的に見捨てられた」という問題を持っていても、患者の性格や問題の感じ方によって治療のアプローチは大きく異なります

グループセラピー(Groups)

グループでの治療も、ゲシュタルト療法のプログラムの一部としてよく行われます。ゲシュタルト療法のグループセラピーには、大きく分けて3つのモデルがあります。

  1. 個別作業モデル
    • 参加者が1人ずつセラピストと向き合って作業を行います。
    • 他の参加者はその間、静かに見て学びます。
    • 作業が終わった後、他の参加者とフィードバックや感想を共有します。
  2. グループ相互交流モデル
    • 参加者同士が直接コミュニケーションを取ります。
    • 「今この瞬間」に感じていることを伝え合うことに重点を置きます。
    • これは、心理療法家ヤーロムが提唱する「実存的グループ療法」と似ています。
  3. ミックスモデル
    • 上の2つのモデルを組み合わせたものです。
    • グループ全体で話し合ったり、個別でセラピストと向き合ったりと柔軟に進めていきます。

ゲシュタルト療法のすべての技法はグループでも使うことができます。また、グループ向けに特別に考えられた技法もあります。

例:

  • 参加者が互いに向き合い、「今この瞬間」に何を感じているかを言葉にする。
  • 「あなたに対してイライラしているのは…」や「あなたに感謝しているのは…」などの特定の感情を表現する練習。

セラピストによっては、決まった手順を使う場合もあれば、グループの中で自然に起こることを大事にして進める人もいます。


カップル・家族療法(Couples and Families)

カップル療法や家族療法は、グループセラピーと似ています。個別に取り組む時間と、全員でのやり取りを行う時間を組み合わせて行います。

セラピストによってスタイルは異なります。

  • **構造化された方法(決まった手順に従う方法)**を使う人もいれば、
  • 自然に起こるやり取りを観察して進める人もいます。

カップルの問題の例:悪いパターンの繰り返し(Circular Causality)

カップルの間でよく見られる問題の1つは「循環因果(じゅんかんいんが)」と呼ばれるパターンです。これは、お互いが悪い反応を引き起こし合う悪循環のことです。

例:夫婦のやり取り

  • 妻: 夫が毎晩仕事から帰るのが遅くて、家にいても心がここにない感じがする。寂しいし、イライラする。
  • 夫: 妻から責められると感じる。自分は一生懸命働いているのに感謝されず、逆に批判されていると思ってしまう。
    • それに加えて、「批判されることへの恥ずかしさ」も感じている。
  • 夫: 怒って、「お前は優しくないし、自分を気遣ってくれない」と責め返す。
  • 妻: 「あなたはいつも防御的で、攻撃的で、冷たくて、自分を見てくれない」と非難する。

このやり取りが続くことで、お互いがますます怒りや悲しみを感じる悪循環が生まれます。


本当の気持ち

実際には、妻は「夫に会いたいし、一緒に過ごしたい」という気持ちがあります。でも、これをうまく伝えられず、「責める」形で表現してしまいます。

一方、夫も「妻と一緒にいたいし、仕事のストレスから解放されたい」という気持ちがあります。でも、疲れているときに責められると、防御的になってしまいます。


解決への第一歩

  1. 自分の本当の気持ちを表現すること(例:「寂しい」「一緒にいたい」など)
  2. 相手の気持ちを本当に理解しようとすること

カップルセラピーでの実験(練習)

  • 夫婦がお互いに向き合って座り、膝が触れるほど近づいて話をする。
  • 「私はあなたに対して〇〇を感じています」とお互いに伝え合う。
  • 「あなたに対して〇〇を感謝しています」や「私は〇〇のことであなたを恨んでいます」など、素直な気持ちを伝える練習をする。

セラピストの役割

  • 相手の話をしっかり聞く方法を教えること
  • お互いの気持ちをうまく伝え合うサポートをすること

このようなやり取りを繰り返しながら、相手を責めるのではなく、本当の気持ちを伝えられるようになることが目標です。


ゲシュタルト療法は科学的に証明された治療法なのか?

ゲシュタルト療法には、その有効性を示す研究結果があります。しかし、「科学的証拠」とは何を指すのでしょうか?


RCT(ランダム化比較試験)とゲシュタルト療法

1995年、アメリカ心理学会(APA)の臨床心理学部門は、「科学的に証明された治療法」のリストを発表しました。このリストでは、**RCT(ランダム化比較試験)**の結果のみを証拠として採用しました。

RCTとは、以下のような方法で治療法の有効性を調べる研究です。

  • 無作為(ランダム)に患者を2つのグループに分ける(治療を受けるグループと受けないグループ)。
  • 研究者が治療の内容をマニュアル化する(決められた手順通りに治療を進める)。
  • セラピストの性格や人間関係などの影響を取り除く(あくまで技法の効果だけを見る)。
  • 精神的な症状がどれだけ改善したかを数値化する

しかし、この方法は「病気」と「治療技法」を調べるものであり、「人」や「治療全体の流れ」を研究するものではありません

ゲシュタルト療法は、患者とセラピストの対話や、個々の状況に合わせた実験的アプローチを重視するため、RCTには適していません。ゲシュタルト療法では、治療の進め方があらかじめ決まっているのではなく、セラピストと患者が一緒に作り上げていくものです。また、単に「症状をなくすこと」だけが目的ではなく、その人全体の生き方や経験を大切にします

そのため、RCTの方法ではゲシュタルト療法の本当の価値を測ることが難しいのです。


科学的証拠の枠組みの変化

RCTが短期間の行動療法や認知行動療法(CBT)に向いているのは、RCT自体がそれらの治療法の考え方に基づいて作られているからです(Freire, 2006; Westen, Novotny, & Thompson-Brenner, 2004)。

RCTのみに基づいた評価に対して批判が出たため、後に「科学的に証明された治療法(empirically supported treatments)」という概念に変わりました。そして、さらに「科学的根拠に基づく治療(evidence-based practice)」という、より幅広い研究方法を含む考え方へと変化していきました。

しかし、それでもRCTの証拠を「最高レベル(ゴールド・スタンダード)」とする風潮は続いています。その結果、RCT以外の研究方法から得られた証拠は、RCTほど重視されない傾向にあります

ただし、RCTの枠組みに入らない**質的研究(数値化できない体験や関係性を重視した研究)**を含めると、ゲシュタルト療法の有効性を示す証拠は十分にあります。


ゲシュタルト療法の研究方法の問題点

RCTのためにゲシュタルト療法を「単純化」して研究することは可能ですが、それによって得られた結果が、実際の治療の効果を示しているとは限りません。

例えば、RCTではセラピストと患者の関係性の重要性を「余計な要素」として排除してしまいます。しかし、ゲシュタルト療法ではこの関係性こそが治療の鍵となります。そのため、RCTの結果だけでゲシュタルト療法の効果を証明したり否定したりするのは適切ではありません。

また、Westenら(2004)による研究では、「研究を行った人がどの治療法を支持しているか(研究者のバイアス)」が結果に大きく影響することが示されています。例えば、行動療法を支持する研究者が行った研究では、行動療法のほうが良い結果が出やすくなるのです(Strümpfel, 2004, 2006)。Luborskyら(2003)の研究では、この「研究者のバイアス」が治療結果の92.5%を予測できることが分かっています。

要するに、RCT自体が行動療法や認知行動療法(CBT)を有利にするように設計されているのです。これは、ゲシュタルト療法や人間性心理学、精神分析などの**「体験重視の療法」**とは相性が悪いということを意味します。


ゲシュタルト療法 vs. 認知行動療法(CBT)

それでも、Strümpfel(2006)の研究によると、ゲシュタルト療法とCBTを比較した場合、大きな効果の違いは見られませんでした

むしろ、ある研究では、ゲシュタルト療法のほうが「人間関係の問題を克服する力」を向上させる効果が高かったという結果が出ています(Strümpfel, 2006)。

ゲシュタルト療法はもともと「症状を消すこと」だけを目的とした治療ではありません。それにも関わらず、CBTと同じくらい症状を改善できるというのは、ゲシュタルト療法の有効性を示す重要なポイントです。


現場の心理療法と研究のギャップ

RCTの研究では、「特定の治療法だけ」を使うように制限されます。しかし、実際の治療現場では、さまざまな治療法を柔軟に組み合わせて使うのが普通です(Westen et al., 2004)。

例えば…

  • 認知行動療法(CBT)の研究では、精神分析的な技法を使うことは禁止される。
  • しかし、実際のCBTのセラピストは、患者の状況によって精神分析的なアプローチを取り入れることがある。
  • ゲシュタルト療法のセラピストも、必要に応じてCBT的な技法を使うことがある。

つまり、RCTで研究された「純粋な治療法」と、実際の治療現場で行われている治療法は違うのです。


ゲシュタルト療法の研究の発展

ゲシュタルト療法の研究者たちは、臨床の複雑さを反映した新しい研究方法を模索しています。そのため、最近では中長期的な効果を検証する研究が増えています(Strümpfel, 2006)。

また、ゲシュタルト療法に関する研究が活発に行われ、リストサーブ(専門家向けのメーリングリスト)や学術誌で発表されています。さらに、ゲシュタルト療法の研究方法を学ぶための本も出版されています(Barber, 2006)。


治療関係と体験的技法の検証

心理療法の研究では、「セラピストと患者の関係性」を分析する方法もあります(Norcross, 2001, 2002)。

Les Greenbergらの研究では、「治療の流れ(プロセス)」と「治療の結果(アウトカム)」の関係を詳しく調査し、良好な関係と体験的技法の組み合わせが効果的であることを証明しています(Greenberg, 1991)。

つまり、ゲシュタルト療法の有効性を証明するためには、RCT以外の研究方法がより適しているのです。

Greenbergは、彼が「プロセス体験療法(process-experiential therapy)」と呼ぶものを使って、より高度な研究を続けています。これは、ロジャーズ流のクライエント中心療法の関係性とゲシュタルト療法の技法を組み合わせた、積極的な体験療法です。Greenbergは、技法と関係性の焦点を組み合わせることの有効性を示す証拠を提供し、これはゲシュタルト療法の中心的な信念を確認するものです。

私たちはこれを現代の「関係性ゲシュタルト療法(relational Gestalt therapy)」の一形態と見なし、ゲシュタルト療法の有効性を示す証拠として含めています(Strümpfel, 2006; Strümpfel & Goldman, 2001)。研究の目的として、私たちはGreenbergのプロセス体験療法を「関係性ゲシュタルト療法」と同等と見なします。ただし、ゲシュタルト療法の実践では、彼のプログラムでこれまで研究されたものよりも遥かに幅広い技法が用いられています。

Greenbergのようなマニュアル化されたアプローチ(例えばエンプティチェア技法の使用)から得られるデータは非常に有用ですが、それだけではゲシュタルト療法を正しく評価することはできません。なぜなら、それはゲシュタルト療法の中心的な原則と矛盾するからです。

一方で、技法と治療関係の有効性を測定する研究は、ゲシュタルト療法のアプローチと非常に一致しています。

Greenberg、Elliott、Lietaer(1994年)は、認知療法や行動療法と体験療法を比較する13の研究をメタ心理学的な統計を用いてレビューしました。その結果、認知療法や行動療法の方がわずかに効果的であることが示されました。しかし、7つの研究で指示的体験療法(プロセス体験療法)を認知療法や行動療法と比較したところ、指示的体験療法の方がわずかに効果的であるという小さな統計的に有意な差が見られました。

これは、積極的な現象学的実験を欠いた純粋なクライエント中心療法や認知療法・行動療法よりも、指示的体験アプローチの方が効果的であることを示しています。

Greenbergと彼の様々な同僚たち(Strümpfel, 2006を参照)は、多数の実験を行いました。これらの実験では、ゲシュタルト療法の「二椅子技法(two-chair technique)」を使用することで、共感的な反映だけでは達成できない深い体験が得られ、重要な他者との未解決の感情的問題を解決するのに効果的であることが示されました。

事前と事後のテストによって、一般的なストレスが減少し、未解決の問題も減少することが確認されました。また、この技法は「厳しい内なる批判者(harsh internal critic)」を和らげることで内面的な分裂を癒すのにも効果的であることが示されています(Greenberg, 1980)。

厳しい、批判的、または自己否定的であることは、癒しや成長を妨げる原因となります。Greenbergはまた、二椅子対話法を使った葛藤解決が、以前は拒否されていた自己の側面をより深く体験することで起こることを示しています。これはゲシュタルト療法の「変化の逆説理論(paradoxical theory of change)」を裏付けるものです。

最近の研究では、このアプローチがうつ病の治療に効果的であり、改善が維持されることが示されています(Ellison, Greenberg, Goldman, & Angus, 2009)。また、重要な他者によって感情的に傷つけられた人々の治療にも効果的であることが示されています(Greenberg, Warwar, & Malcom, 2008)。

ゲシュタルト療法に対する現実的かつ有効な研究は、治療関係の重要性と、ゲシュタルト療法の方法論に不可欠な幅広い介入法を考慮する必要があります。科学的な正確性を達成するためにセラピストの介入を制限することは、研究の均一性を高めるかもしれませんが、それによってゲシュタルト療法の方法論を誤って伝えてしまう可能性があります。また、それは人間性心理学の主要な信条とも矛盾することになります(Cain & Seeman, 2001)。


神経学、幼児期の発達、感情、そしてゲシュタルト療法

最近の神経学と乳児の発達に関する研究結果は、「今ここ(here and now)」の重要性と感情と思考の不可分性についてのゲシュタルト療法の見解を支持しています(Damasio, 1995, 1999; Stern, 2004)。さらに、ゲシュタルト療法が身体と共に行うアプローチを心理療法の方法論に含めていることは、心理療法の効果を評価する上で強力な要素であり、本来なら評価に含まれるべきですが、ほとんどの心理療法研究では含まれていません(Strümpfel, 2006)。

レビューとメタ分析

CainとSeeman(2001)は、ゲシュタルト療法を含む人間性心理学的療法の有効性を検証する問題についてレビューを行いました。彼らは関連する研究を引用し、その全体的な結果をCarl Rogersの言葉を引用して説明しています:「事実は友好的である(The facts are friendly)」(Rogers, 1961/1995, p. 25)。

Yontef(1995)も、ゲシュタルト療法に関する研究をレビューしています。

Strümpfelは、治療過程と結果に関する74の公開された研究を再分析し、それを10のメタ分析に統合したデータをレビューし、自身の計算も加えています(Strümpfel, 2006)。有効性のテストは、臨床実践で治療を受けた約4,500人の患者に対して行われました。そのうち約3,000人はゲシュタルト療法によって治療され、1,500人は対照群でした。また、個別のケース報告も431件含まれています。

これらの研究には、通常の臨床実践と一致するように複数の診断を持つ患者も含まれていましたが、精密なデータを得るためにほとんどの実験室ベースの研究では除外されています(Strümpfel, 2006; Westen et al., 2004)。

StrümpfelはElliott(2001)およびElliott et al.(2004)によって行われた比較も取り上げ、測定された数に対して、有意な結果が人間性心理学的療法において、行動療法や精神力動的アプローチよりも頻繁に見られたことを指摘しています。これは、行動療法が優れているとする主張を否定するものです。


まとめと結論

この研究のレビュー結果は、行動療法や精神力動的療法が必ずしも他の治療法に比べて優れているわけではないことを示しています。特に、人間性心理学的アプローチにおいては、治療の結果がより顕著であることが多く、これがゲシュタルト療法の有効性を示唆する証拠となっています。

また、これらの研究結果は、ゲシュタルト療法が単に症状の軽減を目的とした治療にとどまらず、クライアントの全体的な体験や成長を促進する方法であることを証明しています。ゲシュタルト療法は、特に関係性に重きを置き、その場での体験を通じて深い治療効果をもたらすことが多いため、他の療法と比較しても同等、あるいはそれ以上の効果を示すことがあります。

治療関係の質や、クライアントとの相互作用の中で展開される技法の多様性を重視するゲシュタルト療法は、科学的な研究でもその効果が実証されつつあります。そのため、今後はさらに多くの実証研究が行われ、ゲシュタルト療法が提供する価値や効果が、より広く認識されることが期待されています。


ゲシュタルト療法の効果に関する研究

さまざまな患者、診断、治療環境を対象とした研究の結果を総合すると、ゲシュタルト療法は重度の障害を持つ患者にも効果的であることが示されています。これは、ゲシュタルト療法が統合失調症、パーソナリティ障害、気分障害や不安障害、薬物依存、心身症などの幅広い臨床疾患に適用できることを意味します。また、予防的な健康ケアの分野でも有効であることが確認されています。治療の効果は長期的に安定しているとされています。

精神科の患者は、ゲシュタルト療法を受けた後、以下のような大幅な改善を示しました。

  • 主要な症状の軽減
  • パーソナリティの機能改善
  • 自己概念(自分自身の理解)の向上
  • 対人関係の改善

患者自身も、この療法が非常に役に立ったと評価しました。また、看護スタッフの評価によると、患者の対人接触やコミュニケーション能力が向上したと報告されています(Strümpfel, 2006)。


症状別の効果

特に、うつ病、不安、恐怖症に対する効果が大きかったことが確認されています。

  • 薬物依存患者に対する研究では、社会療法とゲシュタルト療法の併用により、70%の患者が長期間にわたり薬物を断つことに成功しました。また、うつ症状が軽減し、人格発達が促進されました。
  • **心身症(ストレスなどが原因で身体症状が出る病気)**の患者では、痛みが55%軽減し、薬の使用量も減少しました。

ゲシュタルト療法の適用範囲

以下のようなさまざまな状況においても、ゲシュタルト療法の有効性が確認されています(Strümpfel, 2006)。

  • 学業の成績が伸び悩んでいる子ども
  • 子どもに問題があると感じる親
  • 夫婦関係の改善
  • 予防医療(病気を未然に防ぐためのケア)
  • 出産準備中の妊婦

長期的な効果

17件の研究では、治療終了後半年から3年の間にわたる追跡調査が行われました。その結果、すべてのケースで効果が持続していることが確認されました(ただし、わずか数時間のグループ療法を受けたケースでは効果が持続しませんでした)。

また、ゲシュタルト療法を受けた患者は、再発した症状に対処するための戦略を学ぶことができたと報告されています(Strümpfel, 2006)。


他の心理療法との比較

Schigl(Strümpfel, 2004, 2006に引用)の研究では、数百人のゲシュタルト療法・体験療法の患者を追跡調査しました。結果は以下の通りです。

  • 63%の患者が、最初に設定した目標を「完全に」または「ほぼ達成」したと報告
  • 向精神薬(精神を安定させる薬)の使用量が半減
  • 精神安定剤の使用が75%減少

さらに、ある研究では、独立した研究チームが特定のクリニックの評価データを分析しました(Strümpfel, 2006)。117例のデータをもとに、以下の3つの治療法の効果を比較しました。

  1. ゲシュタルト療法+精神力動療法(フロイトの理論をベースとした心理療法)
  2. 精神力動療法のみ
  3. 行動療法

その結果、ゲシュタルト療法を含む治療を受けた患者は、心理社会的・身体的な面で平均以上の改善を示しました

また、Elliottら(2004)が行った112件の研究を対象としたメタ分析(複数の研究を統合して分析する手法)では、人間性心理学的アプローチの中でも、ゲシュタルト療法の効果が特に大きいことが示されました。


社会的・対人関係の向上

興味深いことに、認知行動療法(CBT)を受けた患者は社会的な交流を増やす傾向がありましたが、ゲシュタルト療法と交流分析(Transactional Analysis)を組み合わせた療法を受けた患者の方が、より安定して人間関係を維持できることが確認されました。

さらに、Strümpfel(2004, 2006)の研究によると、ゲシュタルト療法の特に優れた点は、社会的・対人的・関係性の機能の向上にあることが分かりました。

臨床研究では、ゲシュタルト療法を受けると、以下の能力が大きく向上することが示されています。

  • 人との接触を築く力
  • 人間関係を維持する力
  • 攻撃性や対立を管理する力

ゲシュタルト療法の基本的なアプローチ

ゲシュタルト療法では、クライアントの「今、この瞬間の自己体験」を重視し、感情を活性化することを重視します。この方法は、非常に効果的な心理療法の手法であることが確認されています。

Orlinsky, Grawe, & Parks(1994)のメタ分析では、「体験的対決プロセス(experiential confrontation process)」がポジティブな治療結果をもたらす強力な要因であると指摘されています。これは、セッション中に患者の体験や行動に直接注意を向けることで、より深い変化を促す方法です。


ゲシュタルト療法の再評価

ゲシュタルト療法の積極的な介入手法は、セッション内での体験の質を高めることに適しているとされています。また、問題や症状の軽減、対立の解決能力の向上につながることが示されています。

「ゲシュタルト療法は適用範囲が狭い」という過去の評価は、これらの研究結果を踏まえて見直す必要があるでしょう(Strümpfel, 2006)。


心理療法の比較と限界

心理療法の比較研究によると、ゲシュタルト療法の効果は他の療法と同等か、それ以上であることが示唆されています(Strümpfel, 2006)。

ただし、心理療法の有効性を研究データだけで完全に理解することは難しいとされています。

  • 治療のプロセスは非常に複雑であり、単純なデータだけでは評価できない
  • セラピスト自身の個性やスタイルが、治療効果に大きく影響する可能性がある

最終的に、セラピストが自分に合った療法を選ぶことが、成功の鍵となるかもしれません。

以下に、逐語的かつ高校生にも理解しやすいように噛み砕いた日本語訳を提供します。

多文化社会における心理療法

ゲシュタルト療法の創始者たちは、みな社会的・政治的に周縁にいた人々でした。彼らの中にはユダヤ人もおり、またフリッツ・パールズやローラ・パールズのように、ヨーロッパでの迫害から逃れてきた移民もいました。中には同性愛者もいました。彼らは、既存の文化的価値観に当てはまらない人生を歩む人々が、自分自身の生き方を探求できるような、プロセス重視の理論を作ろうとしていました。そのため、心理療法の「成功」のために特定の目標(例えば、「性的に成熟した大人になること」など)を設定するのではなく、**「気づき(アウェアネス)」**というプロセスそのものを目標にしました。

世界中のゲシュタルト療法士たちは、多文化・異文化に関わる活動に携わり、それについて執筆もしています。これには、メンタルヘルスサービスの提供、地域社会の支援、組織コンサルティングなどが含まれます(Bar-Yoseph, 2005)。

Heiberg(2005)は、ノルウェーに住む非ヨーロッパ系移民にインタビューを行い、「恥」と「恥をかかされる経験」が彼らの生活のあらゆる場面に影響を与えていることを明らかにしました。インタビューを受けたほとんどの人は、白人のセラピストによる心理療法を受けた経験がありましたが、その中でもゲシュタルト療法を受けた人は特に満足度が高く、自分の経験(特に「恥」の感情)を自分の言葉で自由に探求できることを喜んでいました。

Gaffney(2008)は、北アイルランドの分断された社会における心理療法の指導(スーパービジョン)の難しさについて執筆しました。Bar-Yoseph(2005)は、多文化環境で活動するゲシュタルト療法士による記事を編集し、その中にはアメリカのセラピストによる寄稿も含まれています。


多文化的な心理療法で求められること

ほぼすべての研究に共通しているのは、セラピストが自分自身の社会的・文化的・政治的な立場を意識することが、効果的な異文化間交流には不可欠であるという点です。

この理由は二つあります。

  1. セラピスト自身の文化的な価値観を相対化できるようになる
    • これにより、クライアントと関わる中で強い感情が生じても、それを適切に扱うことができるようになります。
  2. セラピストは「専門家」という立場にいる一方で、クライアントは社会的に周縁化されている場合が多い
    • この違いを意識することで、より深い対話を生み出すことができます。

Billies(2005)、Jacobs(2005a)、McConville(2005)は、この点について詳しく論じており、特に**「人種によって分断されたアメリカ社会における白人のセラピストの在り方」**について掘り下げています。

また、すべての研究に共通しているのは、ゲシュタルト療法の「場(フィールド)理論」が、クライアントとの体験的な対話を深めるために役立つということです。

さらに、ゲシュタルト療法では「対話的な態度(ダイアローグ)」が重要視されます。これは、セラピストがクライアントと関わる中で、クライアントから学び、影響を受けることを厭わない謙虚な姿勢を指します。この態度によって、セラピストは自身の偏見に気づきやすくなり、クライアントも「自分の意見が尊重されている」と感じることで、心理的な接触(コンタクト)が生まれやすくなります。


ケース例:ミリアムの物語

背景

ミリアムは、感情がこもらず平坦な声で話すことが多く、自分の言葉に意味があるとも感じていないようでした。彼女は幼少期に恐ろしい虐待を受けた経験があり、家を出てから35年経った今でも、常に怯えたような表情をしていました。まるで、いつまた虐待が始まるかわからないという恐怖の中で生きているかのようでした。

彼女は、**「自分は人を必要としないし、求めてもいない」**と主張し、自分のために心理療法を受けたいとは言いませんでした。ただし、仕事のスキルを向上させるためなら、セラピーが役に立つかもしれないと考えていました。

ミリアムはセラピーに対して強い警戒心を持っていましたが、ある時、セラピストの講演を聞き、「この人なら自分のことを理解してくれるかもしれない」と、かすかな希望を感じました


ミリアムの内面世界

ミリアムの心理状態は、極度の孤立に支配されていました。

  • 彼女は自分の孤独を恥じていましたが、それが唯一の「安全な場所」でもありました。
  • 人と関わると、恐怖・怒り・恥の感情が押し寄せてきました。
  • 彼女は常に自分を責め、「自分は周りに害を与える存在だ」と信じていました。
  • 自分の欲求やニーズを認めることができませんでした。なぜなら、それを認めると「ターゲット」にされ、恥をかかされ、消されてしまうと感じていたからです。
  • 現実感がなく、「自分の考えや知覚が本当に現実なのか」がわからないことが多くありました。
  • 感情が何かを理解できず、「自分には感情がない」とさえ思っていました。
  • あまりに現実感がなく、「自分は宇宙人かもしれない」と空想することもありました。

孤独と他者とのつながりの間で揺れる心

ミリアムの根本的な葛藤は、「孤独」と「他者との一体感」の間で揺れ動くことでした。

  • 本当は人とつながりたいと思っているのに、そのことを認めるのが怖い。
  • いざ人と関わろうとすると、恐怖に襲われる。
  • 他人と一緒にいると、完全に相手に「溶け込みたい」という衝動に駆られる。
  • しかし、少しでも距離を感じると、それが「拒絶」と感じられ、耐えられなくなる。
  • この不安や緊張を調整する方法がなく、結果として「恥ずかしさ」に支配され、孤立してしまう。
  • セラピストとの関係でも、少しでも親しくなると急に離れてしまう。

このように、彼女は**「人と関わりたい」という気持ちと「関わるのが怖い」という気持ちのバランスを取ることができませんでした**。

4年目のセラピーでの出来事

ミリアムは、この時点で感情を認識し表現することが以前よりずっと上手になっていました。しかし、他の人との「境界」をうまく保ちながら関わることは、まだとても難しいままでした。この日のセッションの始めは、彼女にとって特別なものでした。というのも、セラピストと「つながっている」という感覚を初めて持てただけでなく、人生で初めて「記憶とつながる」ことができたからです。そのため、彼女はとても嬉しそうでした。

しかし、この**「お祝いのような雰囲気」**は、その後、絶望とパニックへと変わっていきました。なぜなら、ミリアムはセラピストとの距離を縮めたいと強く願う一方で、それに対する恐れも同じくらい強く感じていたからです。この葛藤に苦しみながら、ミリアムとセラピストは一緒にこの問題に取り組みました。

この日のセッションでは、以前から何度も繰り返されていたやりとりがありました。ミリアムは「ただ自分の恐れを乗り越えて、心の奥深くに隠れている『みすぼらしくて孤独な洞窟の少女』に触れてほしい」と必死に求めました。しかし、セラピストが**「待ってくれている」**ことを、ミリアムはむしろ「見捨てられた」と感じてしまいました。


セッションの会話

ミリアム(P):「あなたは、なんでそんなに我慢強いの!?」

セラピスト(T):「……それは悪いことなの?」(ためらいながら)

P:「今はそうよ!」

T:「なぜ……?」

P:(沈黙)「……何かを示しているのよ。」(怖がりながら、苛立ち、混乱した様子で)

T:「今、私の『我慢強さ』は、あなたにとって何を意味しているの?」

P:「私は、このままずっと必死にもがき続けるしかないってことよ!」

T:「……つまり、私は遠くから見ているだけで、一緒にこの問題を乗り越えてくれるわけじゃない、そう感じている?」

P:「その通り……」

T:「つまり、あなたは、私がただ見ているだけじゃなく、一緒に乗り越えていくという証がほしいんだね。あなたを放っておいたり、溺れさせたりはしないという証が。」(静かに、真剣に)


触れられたい気持ちと、触れられることへの恐れ

その後も、**「人と触れ合いたいという気持ち」と「それに対する恐れ」**についての対話が続きました。ミリアムは、初めて「触れられたい」という気持ちを口にしました。これは彼女にとって、とても大きな一歩でした。しかし、同時に彼女はパニック状態になってしまいました。

  • 「触れられることが怖い」
  • 「自分が無防備になってしまうのが怖い」
  • 「触れられることを求めたのに、拒絶されるかもしれないのが怖い」

セラピストは、ミリアムの「触れられたい」という気持ちを大切にしながらも、同時にその「恐れ」にも配慮することが大切だと説明しました。しかし、ミリアムはこの「慎重な対応」を、むしろ「見捨てられた」と感じてしまいました。セラピストは、「ただ恐れを乗り越えさせる」のではなく、無理に境界を越えないことでミリアムが** dissociation(解離:自分の感覚や意識がバラバラになること)**に陥らないように気をつけていました。


セラピストとのやりとり(続き)

T:「……だから、私たちは、あなたの『恐れ』も『願い』も両方を大切にしないといけない。」(ミリアムは恐怖で硬直し、解離しそうな様子)
「……今、あなたはパニックになりかけているね。話して……」

P:(苦しそうに小さな声で)「……無理……」

T:(優しく)「無理、なんだね……『無理』って、どういう意味……?」

P:「……もしあなたが私に触れたら……私は消えてしまう気がする……でも……私は……私は……触れられることで『つながり』たいの……消えたくないの!」(泣きながら)

T:「そうか、じゃあ、あなたの『恐れ』の部分は、『触れられると消えてしまう』と言っているんだね。でも、それをちゃんと考えたうえで、ひとつ提案がある。
……私が少し動いて、指先がほんの少し触れるくらいの距離に座る。それでどう感じるか試してみない?」

(セラピストが移動し、ミリアムは小さくうなずく。彼女はまだ恐怖と必死に戦っている。)

T:「じゃあ、私があなたの指のひとつに触れるよ……深呼吸して……どう?」

P:(泣きながら)「……私、こんなに『触れられることが怖い』んだね……いい感じと、最悪な感じが交互に押し寄せてくる……」

T:「だからこそ、ゆっくり進める必要があるんだよ……もし急ぎすぎたら、あなたは恐怖に押しつぶされて、消えなくちゃいけなくなる。だから、ゆっくり……ゆっくり……」
「……あなたの指先は、とても『生きている』感じがするよ。」

P:「……うん……まるで、私の命が指先に全部詰まっているみたい……消えていない、ちゃんと温かい……」


その後の変化

このセッションのあと、ミリアムは1週間のワークショップに参加しました。そして、帰ってきたときに彼女は驚きながら報告しました。

「1週間ずっと、『自分の身体にいる』ことができた!」

たとえ触れられても、解離せずにその場にいることができたのです。それ以来、ミリアムは**「自分が続いている感じ(連続性)」**を持てるようになり、それをさらに深めることができるようになりました。

「『作り上げる』ことができる」という感覚は、私にとって新しくてワクワクすること。

さらにセラピーを続けるうちに、ミリアムはずっと悩んできた「自分が異質な存在だ」という思いや、「自分がバラバラになってしまう感覚」が、少しずつ解消されていきました。彼女は以前よりも「人間らしく」感じられるようになり、他の人との親密な関係も、もっと自然に楽しめるようになりました。

ゲシュタルト療法の概要

ゲシュタルト療法(Gestalt Therapy)は、心理療法の一つであり、哲学的・歴史的にゲシュタルト心理学、場の理論(Field Theory)、実存主義(Existentialism)、および現象学(Phenomenology)と深く関連しています。ゲシュタルト療法の基本原則は、フリッツ・パールズ(Fritz Perls)、彼の妻ローラ・パールズ(Laura Perls)、そして彼らの協力者であるポール・グッドマン(Paul Goodman)によって最初に開発・説明されました。

ゲシュタルト療法のセラピストは、**「接触(Contact)」「意識(Conscious Awareness)」「実験(Experimentation)」を特に重視します。この療法では、「今、この瞬間(Present Moment)」**を大切にし、患者が自分の経験をどのように感じ取っているか(現象学的な意識)を重視します。

ゲシュタルト療法の変化の多くは、「私(I)」と「あなた(Thou)」の対話、つまりセラピストと患者の対話によって生じます。そのため、ゲシュタルト療法のセラピストは、自分自身の過去の経験や、セッション中に感じたことを率直に患者に伝えることが推奨されています。

ゲシュタルト療法の技法

ゲシュタルト療法では、さまざまな技法が使われます。

  • 集中訓練(Focusing Exercises)
  • 演技(Enactment)
  • 創造的表現(Creative Expression)
  • 精神的実験(Mental Experiments)
  • ガイド付き空想(Guided Fantasy)
  • イメージ療法(Imagery)
  • 身体意識(Body Awareness)

しかし、これらの技法自体が重要なのではなく、**「ゲシュタルト療法の理論に基づいているかどうか」**が重要です。理論に合うものであれば、どのような技法も取り入れられる可能性があります。

現代の心理療法との関係

現在、心理療法の分野では大きな変化が起こっています。特に、**「医療保険制度(Managed Care)」**の制約が、臨床実践に影響を与えています。現代の心理療法は、人間の成長を重視する考えが発展している一方で、特定の症状に焦点を当てた治療が増えてきています。また、「治療マニュアルに従えば、患者は改善できる」という考え方が広まっています。

ゲシュタルト療法は、多くの創造的な技法を生み出しました。しかし、これらの技法が単なる「症状を取り除くための手段」として使われると、本来のゲシュタルト療法とは異なるものになってしまいます。ゲシュタルト療法の基本的な考え方は、人間を「型にはめる」ことではなく、**「人間が自由に成長すること」**を目的としています。

そのため、ゲシュタルト療法は、単なる症状の除去や適応を目的とする現代の医療制度に対して、「人間には、自分の人生を意識的に選択する権利がある」という立場をとります。

短期療法と長期療法の適応性

ゲシュタルト療法は、その柔軟性・創造性・直接性のため、短期療法(短期間で行う治療)にも長期療法(長期間にわたる治療)にも適用できます。ゲシュタルト療法では、直接的な対話と実験を通じて、重要な気づきが得られることがあります。この適応性は、医療保険制度の制約や、精神保健治療の資金に関する問題への対応にも役立っています。

ゲシュタルト療法の発展

1960年代に、フリッツ・パールズは「ゲシュタルト療法は、今後の時代に重要な心理療法となる」と予測しました。そして、実際にその予測は的中しました。

1952年の時点では、ゲシュタルト療法に関わる人はわずか十数人でした。しかし、現在では、世界中に数百のゲシュタルト療法のトレーニング機関が存在し、数千人のゲシュタルト療法の専門家が活躍しています。

しかし一方で、十分な学問的な訓練を受けずに、数回のワークショップに参加しただけで「ゲシュタルト療法を実践している」と名乗る未熟なセラピストも増えています。そのため、ゲシュタルト療法を受けたいと考える人や、学びたいと考える人は、セラピストの訓練や経験をしっかり確認することが重要です。

ゲシュタルト療法の今後

ゲシュタルト療法は、心理療法の分野に多くの創造的で有用な革新をもたらしてきました。これらの技法や考え方は、今やゲシュタルト療法だけでなく、他の心理療法にも取り入れられています。

今後、ゲシュタルト療法はこれらの技法をさらに発展させ、より洗練されたものにしていくでしょう。ゲシュタルト療法の基本原則には、次のようなものがあります。

  • 実存的な対話(Existential Dialogue)
  • セラピストと患者の双方が直接的な体験を重視すること(Phenomenological Experience)
  • 「自己調整の力(Organismic Self-Regulation)」への信頼
  • 実験と意識の強調
  • 「変化の逆説的理論(Paradoxical Theory of Change)」
  • セラピストと患者の接触(Contact)の重要性

これらの原則は、今後もゲシュタルト療法だけでなく、他の心理療法においても活用され続けるでしょう。

注釈付き参考文献

Kepner, J. (1993). Body process: Working with the body in psychotherapy. San Francisco: Jossey-Bass.
Kepnerの著書は、ゲシュタルト療法に特に関心がない人でも、身体のプロセスとともに言語的コミュニケーションに注意を払いながら患者と効果的に関わりたいと考える人にとって有益な内容となっています。本書は、ゲシュタルト療法が掲げるホリスティックなアプローチを美しく描いています。Kepnerは、観察される身体のプロセスと自身が体験する身体のプロセスの両方にどのように注意を向け、それを進行中の心理療法にどのように統合するかを説明しています。また、セラピストの創造性と患者の準備が整ったときに、ゲシュタルトの気づきを生む実験がどのように行われるかも示されています。

Polster, E., & Polster, M. (1973). Gestalt therapy integrated. New York: Vintage Books.
本書は、最も読みやすく、楽しい心理療法の書籍の一つです。ゲシュタルト療法が実際にどのように行われるのかを知りたい人のために、多くの具体的な事例(ヴィネット)が紹介されています。本書は臨床理論のレベルで書かれており、ゲシュタルト療法の基本である「プロセス」「今ここ(Here and Now)」「接触(Contact)」「気づき(Awareness)」「実験(Experiments)」について説明しています。文章が非常に生き生きとしているため、読者はゲシュタルト療法の経験がどのようなものかを、優れた熟練の実践者たちによる実例を通して実感できるでしょう。Polster夫妻による、同じく洞察に富んだ読み応えのある別の文献として、A. Roberts(編) (1999). From the Radical Center. Cleveland, OH: Gestalt Institute of Cleveland Press. があります。

Wheeler, G. (2000). Beyond individualism: Toward a new understanding of self, relationship and experience. Hillsdale, NJ: Gestalt Press/Analytic Press.
本書は、ゲシュタルト療法が心理療法の分野にもたらしたパラダイムシフトを、シンプルで明快かつ印象的な形で読者に伝えます。著者は、具体的な実験(エクスペリメント)を紹介しながら説明を進めていきます。この本を読むことで、読者は自分自身の生き方に対する見方が変わることを避けられないでしょう。本書は、臨床的な実践に焦点を当てたPolstersの『Gestalt Therapy Integrated』(前述)と組み合わせて読むことで、ゲシュタルト療法に関心のある臨床家にとってバランスの取れた入門書となります。

Woldt, A., & Toman, S. (2005). Gestalt therapy: History, theory and practice. Thousand Oaks, CA: Sage Publications.
ゲシュタルト療法の分野では、さまざまなテーマに関する編集論文集が伝統的に出版されています。例えば、ゲシュタルト療法のグループ療法、恥の問題、カップルセラピー、関係性、文化的課題などに関する論文集があります。一般的に、どの分野でも編集された論文集は品質が均一ではなく、優れた論文もあれば平凡なものも含まれています。しかし、こうした論文集は、関心のある分野における複数の視点を知るために価値のあるものです。本書もその一例であり、各章に付随する議論、思考課題、実験(エクスペリメント)があるため、教科書としても使用できます。特に学生や指導者にとって有用であり、ゲシュタルト療法の基本を学んだ後に、現代の論争点や専門的な話題に進むための基礎として適しています。

Yontef, G. (1993). Awareness, dialogue and process: Essays on Gestalt therapy. Highland, NY: Gestalt Journal Press.
本書は、25年間にわたって執筆された論文をまとめたものです。一部の論文はゲシュタルト療法に初めて触れる人向けですが、大部分は高度な読者向けとなっています。これらの論文は、どの理論も直面せざるを得ない理論的・臨床的な難題について、洗練された考察を提供しています。本書は、ゲシュタルト療法の理論と実践の進化を包括的に追跡し、その将来の理論的枠組みを示すものです。


ケース・リーディングの説明部分の翻訳

Feder, B., & Ronall, R. (1997). A living legacy of Fritz and Laura Perls: Contemporary case studies. New York: Feder Publishing.
本書は、さまざまな臨床家がゲシュタルト的な視点からどのように実践しているかを紹介しています。多様なスタイルが掲載されているため、読者は自分自身に合ったスタイルを見つける手助けとなるでしょう。

Hycner, R., & Jacobs, L. (1995). Simone: Existential mistrust and trust. および Transference meets dialogue.
最初のケースはイスラエルで開催されたワークショップからの実例、二つ目は精神分析的視点を持つゲシュタルトセラピストによる興味深い事例報告です。二つ目のケースには、3回のセッションの逐語録が含まれています。また、後者のケースは、ゲシュタルト療法家2名と精神分析家2名によるパネルディスカッションで分析されており、その議論の詳細は Alexander, Brickman, Jacobs, Trop, & Yontef (1992). Transference meets dialogue. Gestalt Journal, 15, 61-108. に収録されています。

Lampert, R. (2003). A child’s eye view: Gestalt therapy with children, adolescents and their families.
本書は、子ども、青年、家族に対するゲシュタルト療法の実践について、豊富な事例を通して解説しています。

Perls, F. S. (1992). Jane’s three dreams.
本書には、三つの夢の逐語録が掲載されています。特に三つ目の夢のワークは、二つ目の夢で未解決だった問題を継続して扱うものとなっています。

Simkin, J. S. (1967, 1972).
Simkinによる著作や映像資料は、ゲシュタルト療法における夢の使用や非言語的コミュニケーションの重要性を示すものです。

Staemmler, F. (Ed.) (2003). The IGJ Transcript Project.
本書は、英国のゲシュタルトセラピストSally Denham-Vaughan によるケースを題材とし、欧米の4人のセラピストがそのセッションを分析するというユニークなプロジェクトです。この議論は、ゲシュタルト療法の実践を理解する上で貴重な資料となるでしょう。

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