ロジャーズ03 要約

ロジャーズ03 要約

人間の本質と自己実現傾向:
クライエント中心療法は、「人間を能動的で自己調整的な存在として捉える」ことを基本とし、「人間を一つの『人格』として捉えるというイメージは、クライエント中心理論を、人間を診断上のカテゴリーに還元するようなアプローチと区別するものである」(Schmid, 2003, p.108)。ロジャーズは、すべての生物には「自らを維持し、向上させようとする内在的な傾向」、すなわち「自己実現傾向(actualizing tendency)」が存在すると仮定しました。これは、より広範な秩序と複雑性に向かう「形成傾向(formative tendency)」の一部である可能性も示唆されています。人間は常に、より高い複雑性へと進化しながら、自己実現の潜在能力を満たそうとしています。

セラピストの役割と態度:
クライエント中心のセラピストは、クライエントの成長と自己実現に向かう内的資源を信頼し、「たとえその人が障害を抱えていたり、環境的制約を受けていたりしても、それは変わらない」。この信頼は、「非指示的態度(nondirective attitude)」として実践に表れます。心理療法の目的が人間の成長と発達への解放であるならば、それに反する手段は許されません。セラピストはクライエントと人間同士として向き合い、「開かれた、誠実な、共感的な人間」としての姿勢を学び、「存在のあり方(way of being)」としての共感的理解を深めることが求められます。無条件の肯定的関心と共感的理解は、単なる技法ではなく、「本物でなければならない」。セラピストは、クライエントの要望に自発的かつ柔軟に対応し、基本的な信頼と尊重の姿勢を示します。

クライエント側の基本概念:
クライエント側のプロセスにおける基本概念には、「自己概念(self-concept)」、「評価の所在(locus of evaluation)」、「体験(experiencing)」があります。自己概念の中心的な要素である「自己評価(self-regard)」は、治療を求めるクライエントにおいてしばしば欠如しています。治療の成功は自己に対する肯定的な態度の変化と関連しており、自己評価の向上に伴い、クライエントは価値基準や判断の基盤を他者から自己自身へと移行させる傾向があります。これは「評価の所在」の内部化と呼ばれます。

セラピーにおける重要な条件:
ロジャーズは、セラピーにおける建設的な性格変化のために、セラピストが提供すべき以下の3つの核となる条件を提唱しました。
1.共感的理解(Empathic Understanding): クライエントの内的枠組みを理解し、感情や意味を共有しようと努めること。「カウンセラーの関わりは、クライエントが表現する感情を一緒になって能動的に体験することになります。」(ラースキン, 1947/2005, pp. 6-7)。正確さ以上に、理解しようとする姿勢と、誤解があった場合の訂正を受け入れる姿勢が重要です。
2.無条件の肯定的関心(Unconditional Positive Regard): クライエントを評価や判断なしに、ありのまま受け入れ、尊重すること。「…セラピストがクライエントを部分的ではなく、すべてを尊重するとき、クライエントの前進が起こる可能性が高くなります。」(ロジャーズ, 1986a, p. 198)。
3.一致性(Congruence): セラピストが自己の体験、意識、表現の間で矛盾がなく、本来的であること。「『治療的成長を促す態度条件の中で、最も基本的なもの』」(ロジャーズ & サンフォード, 1985, p. 1379)。自己の問題や感情をクライエントに押し付けるのではなく、感じていることを否定せず、関係の中で持続的に存在する感情については、それを表現し、オープンである意志を持つことを意味します。「私にとって、一致しているということは、私が今この瞬間に抱いている感情を自覚し、それを表現することを厭わないことを意味する。それは、この瞬間において真実であり、誠実であることだ」(Baldwin, 1987, p. 51)。

非指示性(Nondirectiveness):
クライエント中心療法は、セラピストが指示や解釈を与えるのではなく、クライエント自身の自己決定と自己治癒力を信頼する非指示的なアプローチを特徴とします。セラピストはクライエントの選択を尊重し、治療の方向性、頻度、期間などをクライエント自身が決定する重要なパートナーと見なします。「クライエントに関するすべての問題において、クライエント自身が最も優れた専門家であると考えられているのです。」

パーソナリティ変化のプロセス:
ロジャーズは、「パーソナリティ変化の分子(molecule)」という概念を提唱し、セラピーとはこのような「変化の瞬間(moment of movement)」の連続であると考えました。これらの瞬間は、現在この瞬間に起こる出来事であり、何の障壁もなく純粋に経験され、過去に完全に経験されたことがなく、自己概念と統合できるような「受け入れられる経験」です。

価値の条件と不一致な自己:
成長の過程で、子どもは他者からの評価や条件によって自分の価値が決まると学び、「価値の条件(conditions of worth)」を獲得します。その結果、自分の真の感情や経験と自己概念との間にずれが生じ、「不一致な自己(incongruent self)」が形成されます。「このようにして……親の態度は単に内在化される(introjected)だけでなく…… 自分自身の感覚的・内臓的な経験に基づいているかのように、歪められた形で体験されるのである。」(Rogers, 1951, pp. 500-501)。

ジムリングの新しいパラダイム:
ロジャーズの同僚であるフレッド・ジムリングは、「隠された感情」という概念に対する矛盾を指摘し、「自己は常に変化する」という新しいパラダイムを提唱しました。この理論では、「隠された感情」を探るのではなく、クライエントの「現在の状況の文脈」に焦点を当てることが重要とされます。自己は固定的な実体ではなく、「語り」と「視点」の中に存在し、新しい文脈を持つことで変化します。「もしセラピストが、クライエントの意識にない内容に注意を向けるとしたら、それはクライエントの内的な視点(internal frame of reference)とは異なったものになってしまいます。そうなれば、クライエント中心療法の『必要な条件』を満たさなくなってしまいます」(Zimring, 1995, p. 36)。共感的な理解は、「Me(客観的な自己)」から「I(主観的な自己)」への移行を促し、自己体験を強化します。

クライエント中心療法と他の心理療法との比較:
クライエント中心療法は、合理情動行動療法(REBT)や行動療法など、他の心理療法とはいくつかの点で異なります。REBTはセラピューティックな関係をそれほど重視せず、セラピストが指示を与え、クライエントの非合理的な思考を指摘することに焦点を当てますが、クライエント中心療法はクライエント自身の方向性を尊重し、思考や認識を受け入れます。行動療法は外部からの制御によって行動の変化が生じると考えますが、クライエント中心療法では行動の変化は個人の内面から自然に発展すると考えます。

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