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概要
この文書は、行動療法の概要、基本概念、主要なアプローチ(応用行動分析、新行動主義的媒介刺激-反応モデル、社会認知理論)、共通特性、第三の波(弁証法的行動療法、アクセプタンス&コミットメント・セラピー)、他の心理療法との関係、歴史、現状、パーソナリティ理論、異常行動の説明、学習理論の応用、行動の学習と社会認知理論、個人変数、行動分析と社会認知理論の比較、心理療法の理論、プロセス、評価方法、治療技法、認知再構成、自己主張訓練、行動リハーサル、自己制御、現実生活での行動ベースの技法、治療期間、マニュアル化された治療、治療効果のメカニズム、応用(不安障害、パニック障害、強迫性障害、PTSD、うつ病、摂食障害、統合失調症、児童の問題、行動医学、心血管疾患の予防と治療、その他の適用)、事例研究、行動療法の今後の課題について詳細に解説しています。
主なテーマと重要なアイデア・事実
行動療法の基礎
- 定義と歴史: 行動療法は、1950年代後半に心理的障害の評価と治療を体系的に行うアプローチとして登場し、初期は現代学習理論(古典的条件づけとオペラント条件づけ)の応用として定義された。「行動療法は、心理療法の中では比較的⾰新しい分野です。1950年代後半になって初めて、⼼理的な障害の評価と治療を体系的に⾏うアプローチとして登場しました。初期の⾏動療法は、現代学習理論を臨床の問題に応⽤することとして定義されていました。」
- 進化: その後、実験心理学の進歩や臨床実践の革新に対応して大きく変化し、多様な理論や手続きを含むようになった。「しかし、その後⾏動療法は⼤きく変化し、性質や範囲も広がりました。実験⼼理学の進歩や臨床実践の⾰新に対応し、より複雑で⾼度なものになっています。もはや単に古典的・オペラント条件づけ理論を臨床に応⽤するものとは⾔えません。」
- 主要なアプローチ: 現代の行動療法には、応用行動分析、新行動主義的媒介刺激-反応モデル、社会認知理論の3つの主要なアプローチがある。「現代の⾏動療法には、次の3つの主要なアプローチがあります。1. 応⽤⾏動分析(Applied Behavior Analysis)2. 新⾏動主義的媒介刺激-反応モデル(Neobehavioristic Mediational Stimulus-Response Model)3. 社会認知理論(Social-Cognitive Theory)」
- 応用行動分析: 観察可能な行動のみに焦点を当て、認知的な過程を排除する。「応⽤⾏動分析は、観察可能な⾏動のみに焦点を当て、認知的な過程を排除します。」B.F.スキナーの徹底的行動主義に基づく。強化、罰、消去、刺激制御などの手続きを用いる。「基本的な考え⽅ ⾏動はその結果によって決まる(=⾏動は「強化」や「罰」といった結果の影響を受ける)。」
- 新行動主義的媒介刺激-反応モデル: 刺激と反応の関係に媒介変数(認知的な要因など)の重要性を考慮する。古典的条件づけの原理を応用し、系統的脱感作法や曝露療法を用いる。「行動は刺激と反応の関係によって説明されるが、媒介変数(認知的な要因など⽬に⾒えない内部プロセス)も重要と考える。」
- 社会認知理論: 行動は、外部の刺激、外部の強化、認知的媒介過程の3つの要因が相互に影響し合って決まると考える。アルバート・バンデューラ(Albert Bandura)の理論に基づき、認知療法の技法も取り入れる。「行動は以下の3つの要因が互いに影響し合うことで決まる。1. 外部の刺激(環境からの働きかけ) 2. 外部の強化(報酬や罰) 3. 認知的媒介過程(考え⽅や解釈)」
- 共通特性:人間の行動に関する心理学的モデル(精神力動モデルとは異なる)。
- 実験や観察に基づいた科学的方法へのこだわり。「科学的⽅法へのこだわり 実験や観察に基づいた科学的なアプローチを重視します。」
- 「異常行動」を病気とみなさない場合がある。「「異常⾏動」を病気とみなさない場合がある。かつて病気や病的な症状とされていた多くの異常⾏動(例︓不安反応、性⾏動や反社会的⾏動の問題)は、むしろ**「⽣き⽅の問題(problems of living)」**と考えられます。」
- 異常行動も通常の行動と同じ方法で学習・維持される。「異常⾏動も通常の⾏動と同じ⽅法で学習・維持される。異常⾏動は、普通の⾏動と同じ学習メカニズム(古典的条件づけ・オペラント条件づけ)によって獲得され、⾏動療法によって治療できます。」
- 過去より「現在」の行動を重視する。「過去より「現在」の⾏動を重視する。⾏動の背景にある過去の出来事(原因)を深く分析するのではなく、現在の⾏動を引き起こしている要因を評価します。」
- 問題を細かく分解し、個別にアプローチする。
- 個別対応の治療。
- 問題の原因を知ることは必須ではない。「問題の原因を知ることは必須ではない ⾏動を変えるために、その問題がなぜ起こったのかを理解する必要はありません。」
- 科学的な手法へのこだわり(明確で検証可能な概念的枠組み、実験心理学・臨床心理学に基づいた治療法、効果測定可能で再現可能な治療技法、治療法・理論の実験的評価、新しい研究手法の利用)。
- 行動療法の「第三の波」: 1990年代に始まり、個人の内面的な体験(思考や感情)の問題をより深く扱うことに焦点を当てる。従来のCBTが内面の体験を十分に扱えていないと主張。「第三の波︓個⼈の内⾯的な体験(思考や感情)の問題をより深く扱うことに焦点を当てる。」
- 弁証法的行動療法(DBT): 受容と変化のバランスを重視し、マインドフルネスを取り入れる。「DBTの特徴は、⾏動変容への伝統的な焦点に加えて、**受け⼊れること(Acceptance)の価値を重視する 点です。ラインハンは、これを治療の中⼼的な弁証法(対⽴する2つの概念の統合)**と考えています。」マインドフルネスの5つの基本スキル(観察する、記述する、判断しない、現在にとどまる、一度に1つのことに集中する)を導入。境界性パーソナリティ障害(BPD)の治療のために開発されたが、他の臨床問題にも応用されている。「「クライアントがここで学ぶことは、今この瞬間に起こっていることを、逃げたり終わらせようとしたりせずに、意識的に経験することです。」(ラインハン, 1993, p. 63)」、「「記述を学ぶことは、感情や思考を⽂字通りに受け取らないことを学ぶことでもあります。」(ラインハン, 1993, p. 64)」
- アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT): 経験回避ではなく受容を促し、認知的脱フュージョン、コミットメントを重視する。関係フレーム理論(RFT)に基づいている。「ACTの⽬的は、患者に経験回避が問題を解決しないことを理解させ、思考や感情を受け⼊れることを 学ばせること。」、「思考と現実を区別すること。」、「コミットメントとは、⾃分の⼈⽣において重要なものを意識的に選び、それを実現するための⾏動を とること。」
他の心理療法との関係
- 他の短期志向的で指示的なアプローチと共通点が多い。
- 認知行動療法(CBT)は、REBT(論理情動行動療法)やベックの認知療法から概念を取り入れている。「例として、認知⾏動療法(CBT)は、アルバート・エリス(Albert Ellis)の論理情動⾏動療法(REBT)やアーロン・ベック(Aaron Beck)の認知療法からいくつかの概念を取り⼊れています(OʼLeary & Wilson, 1987)。」
- DBTやACTは「受け入れること」を重視する一方、認知療法は考えや信念に異議を唱える。「DBTやACTでは、「受け⼊れること(acceptance)」を重視します。⼀⽅で、認知療法では、考えや信念に異議を唱えることが主要な技法です。」
- 多重様式療法と多くの共通点を持つ。「行動療法と多重様式療法には多くの共通点があります。アーノルド・ラザルス(Arnold Lazarus, 1981)が挙げる多重様式療法で最もよく使われる技法の多くは、行動療法の標準的な⼿法です。」
- 精神分析療法とは、人間の発達の説明(学習モデル vs 無意識の葛藤)、焦点(現在の環境要因 vs 過去の無意識の葛藤)において根本的に異なる。「⾏動療法は、⼈間の発達を学習モデルや教育モデルに基づいて説明します。精神分析療法は、無意識の葛藤が異常⾏動の原因だと考えますが、⾏動療法ではこの考えを否定します。」
- 家族療法・システム療法でも家族を治療に含める重要性は認識するが、すべての問題に対して家族全体を治療する必要はないと考える。「行動療法でも家族を治療に含める重要性は認識されていますが、すべての問題に対して家族全体を治療する必要はないと考えます。」
- 実存療法・人間性心理学とは、ACTの「体験の回避」という点で共通点がある。「ACTが焦点を当てる「体験の回避」という問題は、ゲシュタルト療法やロジャーズの来談者中⼼療法と重なる部分があります。」
歴史
- 行動主義の登場(1900年代初頭): ジョン・B・ワトソンが中心人物。「アメリカでは、**ジョン・B・ワトソン(J. B. Watson)**が⾏動主義の中⼼⼈物でした。」環境が行動を決定する、内面的な働きを否定する、すべての行動は学習の結果と主張。「ワトソンの⾏動主義の主張1. 環境が⾏動を決定する重要な要因である。2. 個⼈の内⾯的な働き(感情や思考など)を否定する。3. すべての⾏動は学習の結果として理解できる。」B・F・スキナーの徹底的行動主義も大きな影響を与えた。
- 学習心理学の実験研究: イワン・パブロフの古典的条件付け、E. L. ソーンダイクの行動に対する結果の影響。「20世紀初頭、ロシアではイワン・パブロフ(Ivan Pavlov)が古典的条件付けの基礎を築きました。同時期、アメリカでは**E. L. ソーンダイク(E. L. Thorndike)**が、行動に対する結果(報酬と罰)の影響を示す研究を⾏いました。」
- 第二次世界大戦後の行動科学: 条件付けと学習原理の研究が支配的。動物実験が盛んに行われた。
- 初期の実践例: メアリー・カバー・ジョーンズの子どもの恐怖克服、O. ホバート・モウラーとE. モウラーの夜尿症治療。「1. 1924年︓メアリー・カバー・ジョーンズ(Mary Cover Jones)⼦どもの恐怖を克服するための⾏動的⼿法を発表しました。2. 1938年︓O. ホバート・モウラー(O. Hobart Mowrer)とE. モウラー(E. Mowrer)夜尿症(おねしょ)の治療に条件付け原理を応⽤しました。」
- 行動療法の始まり(1950年代):南アフリカ: ジョセフ・ウォルピの『相互抑制による心理療法』。古典的条件づけに基づき、不安を神経症の原因と考え、系統的脱感作法を開発。「1958年に、ウォルピは**『相互抑制による⼼理療法(Psychotherapy by Reciprocal Inhibition)』**という本を出版しました。」、「不安をすべての神経症的反応の原因と考えました。不安とは、⾃律神経系における持続的な反応であり、古典的条件付けによって習得されるものだとしました。」
- イギリス: ハンス・アイゼンクの行動療法の定義(現代の学習理論を行動および感情障害の治療に応用)。「行動療法とは、「現代の学習理論を⾏動および感情障害の治療に応⽤すること」である。」
- アメリカ: B・F・スキナーの行動分析の臨床への応用。「スキナー(Skinner)の徹底的⾏動主義は、⾏動療法だけでなく、⼼理学 全般に⼤きな影響を与えました。」
- 1960年代後半: 社会学習理論(バンデューラ)の導入(代理学習、象徴的過程、自己調整機構)。
- 1980年代〜1990年代: 認知と感情の重要性が強調され、DBTやACTなどの新しい行動療法が登場。「1980年代〜1990年代︓認知過程や感情が治療において重要な役割を果たすことが強調されるようになりました。」
行動療法の現状
- 臨床心理士の日常治療で認知行動療法(CBT)の原理や手法が多く用いられている。「現在の専⾨的な⼼理療法の発展を⽀配している単⼀のテーマは存在しない。しかし、私たちの調査結果は、認知⾏動療法の選択肢が、最も強⼒な理論的な焦点のひとつ、もしくは最も強⼒な焦点であることを⽰唆している。」(Smith, 1982)
- 専門家の予測では、将来的に最も使用される可能性が高い技法としてCBTが挙げられている(コスト抑制と治療効果の実証の必要性から)。
- 行動療法は、少数派の革新的な運動から心理療法の世界で確固たる地位を築いた。
- アメリカの大学院プログラムで重視されている。
- 心理学博士課程の教員の半数以上が何らかの形で行動療法に関わる理論を強調している。「この調査から、半数以上(56%)の教員が、何らかの形で⾏動療法に関わる理論を強調していることが 分かります。」(Sayette & Mayne, 1990)
- 行動療法専門の学術誌が多数存在し、行動療法家が主要な臨床心理学雑誌の編集者や編集委員を務めている。
- 行動療法家が自らを認知行動療法家(CBTセラピスト)と名乗る傾向が強まっている。Association for Advancement of Behavioral Therapy(AABT)がAssociation for Behavioral and Cognitive Therapies(ABCT)に名称変更(2005年)。
パーソナリティ理論
- 行動療法内には様々な理論の違いがあり、特にパーソナリティ理論において顕著。
- アイゼンクの特性理論: 性格を内向性-外向性と神経症傾向-感情の安定性の2つの主要な次元で分類。性格は遺伝的に決定されると主張するが、行動療法の実践にはほとんど影響を与えていない。「アイゼンク(Eysenck, 1967)は、**特性理論(Trait Theory)**を発展させました。」
- スキナーの応用行動分析: 観察可能な行動と環境要因のみを研究し、目に見えない要素は考慮しない。人間性を無視しすぎると批判される。「応⽤⾏動分析は、スキナー(Skinner)のラジカル⾏動主義に基づいています。」
- 社会的学習理論: 行動は、個人と環境の相互作用によって決まると考える(バンデューラ、ミシェル)。「行動は、個⼈と環境の相互作⽤によって決まると考える⽴場です。」
- 行動を予測する際に、個人の性格か状況かの議論があるが、ミシェルは状況の種類、行動のタイプ、個人差、評価の目的によって要因が変わると主張。「ミシェル(1973)の主張行動を予測する要因は、以下の条件によって変わる。1. 状況の種類2. 行動のタイプ3. 個⼈差(性格)4. 評価の⽬的」
- 特性理論は行動の一貫性の欠如や過剰な一般化の問題があり、精神分析理論は実証研究で臨床的判断の有効性がほとんど支持されていない。「研究によると、性格は時間をかけても⽐較的安定しています。しかし、⾏動は状況によって変わることが多く、特性理論には以下の問題があります。」、「しかし、実証研究では、精神分析に基づく臨床的判断の有効性はほとんど⽀持されていません。(Mischel, 1973, p. 254)」
- 社会認知理論は、状況によって異なる人間の行動(差別的性質)を説明しやすい。「社会認知理論(social learning theory) は、彼⼥がこれらすべての特性を持ち合わせている可能性を⽰唆する。」
- 異常行動の説明において、行動主義は学習原理(例:リトル・ハンスの恐怖症を古典的条件づけで再解釈)を重視するのに対し、精神分析は無意識の葛藤を原因と考える。「行動主義(behavioral approach) の観点では︓ウォルピ(Wolpe)とラフマン(Rachman) は、このケースを古典的条件付け(classical conditioning) の観点から再解釈した。」
- 特性理論は個別の治療方針決定にはあまり有効ではないが、学習理論は治療効果の説明に役立つ(古典的条件づけ、オペラント条件づけ)。「特性理論(trait theories) は、個⼈間の違いを説明するために⽤いられる。例えば、ミネソタ多⾯⼈格⽬録(MMPI)などの性格検査は、⼤まかなスクリーニングや集団⽐較には役⽴つが、個別の治療⽅針の決定にはあまり有効ではない。」
- 行動の学習には意識と環境の出来事に対する認知的評価が重要とする社会認知理論。強化は情報的・動機づけの機能を持つ。「学習には「意識」と「環境の出来事に対する認知的評価」が重要である。」代理学習(モデリング)も重要な概念。「⼈は、他者の行動や出来事を観察することで、新しい知識や行動を学ぶことができる。」
- 個人変数を考慮することで、行動の予測精度が向上し、治療効果も高まる。「個⼈変数を考慮すると、行動の予測精度が向上し、治療効果も⾼まる(OʼLeary & Wilson, 1987)。」
心理療法の理論とプロセス
- 行動療法では、クライアントが新しい対処スキルを学び、不適応な習慣を断ち切るための「修正学習経験」を重視する。「行動療法(Behavior Therapy) では、クライアントが新しい対処スキルを学び、コミュニケーションを改善し、不適応な習慣を断ち切り、⾃⼰を傷つけるような感情的葛藤を克服するための「修正学習経験(corrective learning experiences)」を重視する。」
- セラピストの役割は、クライアントに別の選択肢を提示し、結果分析を助けること。「セラピストの役割は、クライアントに「別の選択肢を提⽰し、それぞれの結果を分析する⼿助けをすること」 である。」
- 治療目標の選定では、クライアントの意向を尊重するが、精神疾患を持つ場合は他の専門家との連携も重要。「精神疾患を持つクライアント(例︓精神病を抱えており⼊院中の患者)の場合、治療⽬標を決定するのが特に難しくなる。」
- 倫理的な問題として、セラピストは社会的影響力を自覚し、クライアントの権利と尊厳を守る必要がある。「重要な倫理的問題は、セラピストがこの影響⼒を⾃覚しているかどうかである。」
- 問題の特定と評価では、初発時期、深刻さ、頻度、対処法、クライアントの考え、過去の治療経験などの情報を集める。「行動療法において最初に⾏うことは、クライアントの抱える問題を特定し、理解することである。セラピストは、問題の具体的な側⾯について詳しく情報を集める︓問題が最初に発⽣した時期(初発時期)、問題の深刻さ(重症度)、問題がどのくらいの頻度で起こるか(頻度)、クライアントがその問題に対処するために何をしてきたか、クライアントが⾃分の問題についてどう考えているか、過去に他の治療を受けたことがあるか、またその結果どうだったか」信頼関係の構築が重要。「こうした詳細な質問に答えてもらうためには、クライアントとの間に「信頼関係」と「相互理解」を 築くことが重要である。」機能分析を用いて、問題行動を維持している環境要因や個人的要因を特定する。「セラピストは、クライアントの問題を「機能分析」という⽅法で詳しく調査する。」
- 評価方法として、行動面接(「なぜ」より「どのように」「いつ」「どこで」「何が」を問う)、誘導イメージ法、ロールプレイ、生理的記録などが用いられる。「代わりに、「どのように(how)」「いつ(when)」「どこで(where)」「何が(what)」といった質問をする。例︓「⼈混みで不安になるのは、どんな状況のときですか︖」(〇)」、「クライアントの特定の状況に対する反応を評価するために、「問題となる状況を頭の中で再現してもらう」⽅法がある。」、「もう⼀つの⽅法は、「クライアントに問題のある状況を演じてもらう」ことである。」、「近年の技術の進歩により、さまざまな「⽣理的反応(physiological reactions)」を測定できるようになった。」自己報告は思考・感情の評価に重要であり、臨床家の判断や性格テストより行動予測に優れることが多い。「それでも、クライアントの「⾃⼰報告(self-report)」は、思考・空想・感情の評価において重要である。実際、⾃⼰報告は「臨床家の判断」や「性格テストの得点」よりも、クライアントの行動を予測するのに優れていることが多い(Mischel, 1981)。」
- 自己モニタリング(詳細な日記記録)や行動観察(環境内での直接観察)は問題行動のパターン発見に役立つ。「クライアントは通常、特定の出来事や⼼理的反応について、詳細な⽇記をつけるよう指⽰される。」、「クライアントの⽬に⾒える問題⾏動(overt problem behavior)の評価は、本来、クライアントが⽇常⽣活を送る環境の中で直接観察されるべきである。」
- 心理検査や質問紙(例:恐怖質問紙、ベックうつ病尺度、自己主張尺度、結婚調整尺度)は、問題の初期深刻度や治療効果の追跡に有用だが、機能分析には不十分。「⾏動療法の専⾨家は、⼀般的に標準化された⼼理診断テスト(psychodiagnostic tests)をあまり 使⽤しない。」、「しかし、⾏動療法の専⾨家は、以下のようなチェックリストや質問紙を活⽤する︓Marks and Mathews 恐怖質問紙(Fear Questionnaire, 1979)、Beckうつ病尺度(Beck Depression Inventory, 1979)、Rathus⾃⼰主張尺度(Rathus Assertion Inventory, 1973)、Locke and Wallace 結婚調整尺度(Marital Adjustment Inventory, 1959)。」
- 治療技法の選択は科学的研究のエビデンスに基づいて行うが、不十分な場合はセラピストの臨床判断、患者の特徴、利用可能なリソースなどを考慮する。「治療技法を選ぶ際には、科学的な研究によってその技法が特定の問題に対して有効であると証明されているかどうかを重視する。」
治療技法
- 認知再構成は、感情障害が不適応な思考によって引き起こされると考え、思考を変えることを目指す。ベックの認知療法がよく用いられる。「この治療技法の前提は、「感情の障害(不安やうつなど)は、少なくとも⼀部は不適応な思考(dysfunctional thinking)によって引き起こされる」という考え⽅である。」
- 自己主張訓練は、感情表現や権利主張が苦手なクライアントに対し、適切な方法をモデルとして示し、行動リハーサルを通して練習させる。「⾃⼰主張が苦⼿なクライアントは、感情を表現することや、⾃分の権利を主張することができないことが多い。」グループ療法も有効。「特に、⾃⼰主張訓練(Assertiveness Training)は、グループ療法に適している。」
- 行動リハーサルは、積極的傾聴、フィードバック、自己開示などのコミュニケーション能力向上に効果がある。「⾏動リハーサル(Behavior Rehearsal)には、以下のような幅広いコミュニケーション能⼒を向上さ せる効果がある。」行動的夫婦療法でも重要。「**⾏動的夫婦療法(Behavioral Marital Therapy)**において、これらのスキルは重要な要素となる(Margolin, 1987)。」
- 自己制御手続きには、自己モニタリング(具体的で短期的な目標設定が重要)、「成功する⾃⼰制御の基本は「⾃⼰モニタリング」である。」自己指導訓練、漸進的筋弛緩法、バイオフィードバックなどがある。「⾃⼰制御のための⽅法の⼀つとして、⾃⼰指導訓練がある。」、「⾃⼰制御の⽅法の⼀つとして、漸進的筋弛緩法(Progressive Relaxation Training)が広く使われている。」、「⽣理的な⾃⼰制御を助ける⽅法。⼼理⽣理学的な障害(Psychophysiological Disorders)の治療に利⽤される。(Yates, 1980)」
- 現実生活での行動ベースの技法として、トークン・エコノミー(明確なターゲット行動、バックアップ報酬、トークン、交換ルール)がある。「オペラント条件づけの代表的な⼿法の⼀つ。基本要素︓1. ターゲット⾏動の明確な定義(Clearly Defined Target Behaviors)2. バックアップ報酬(Backup Reinforcers)3. トークン(Tokens)4. 交換ルール(Rules of Exchange)」学校や精神科病院などで用いられる。
- 治療期間はケースによって異なるが、一般的に短期間。詳細な行動評価後、早期に治療を開始し、効果を定期的に評価し、必要に応じてアプローチを変更する。終了は段階的に行う。「⾏動療法の期間は、ケースによって異なる。⼀般的には短期間の治療が多いが、25〜50回のセッションが⼀般的で、100回以上の治療はまれ。治療の⻑さは、患者の進捗によって決まる。」
- マニュアル化された治療(標準化された治療指針に基づく)は、CBT分野で発展しており、効果が検証され、一貫性があり、普及・訓練が容易になるなどの利点があるが、臨床判断の制限や個別対応の難しさの批判もある。「マニュアル化された治療とは︖標準化されたマニュアル(治療指針)に基づいて⾏われる治療法。近年の臨床実践における新しく、議論のある発展の⼀つ。認知⾏動療法(CBT: Cognitive Behavioral Therapy)の分野で特に発展してきた(Wilson, 1998)。」
治療効果のメカニズム
- 恐怖症治療における曝露療法のメカニズムについて、従来の理論(恐怖の消去学習)に対し、バンデューラは自己効力感の向上によるものだと主張。「従来の理論(Mowrer, 1947)︓恐怖を引き起こす状況に繰り返し曝露すると、条件づけられた恐怖が消える(消去学 習)。異論(Bandura, 1986)︓曝露療法の効果は、恐怖の消去ではなく**「⾃⼰効⼒感(Self-Efficacy)」の向上によ るもの**ではないか︖」
- 自己効力感(特定の課題遂行や目標達成の自信)の向上が重要。「⾃⼰効⼒感とは︖「⾃分は恐れていた状況に対応できる」と感じること。」研究では、実際の曝露、モデリング、系統的脱感作などが自己効力感を向上させ、恐怖を減少させることが示されている。「Banduraの実験では、以下の⽅法で⾃⼰効⼒感が向上すると、恐怖が減少することが⽰された。1. 実際の曝露(Real-Life Exposure)2. シンボリック・モデリング(Symbolic Modeling)3. 隠れたモデリング(Covert Modeling)4. 系統的脱感作(Systematic Desensitization)」
応用
- 行動療法は、様々な心理的障害(不安障害、パニック障害、強迫性障害、PTSD、うつ病、摂食障害、統合失調症など)や、教育、医療、地域社会の問題に幅広く適用可能。「⾏動療法(ビヘイビア・セラピー)は、さまざまな⼼理的障害を持つ⼈々に対して効果的な治療法として使 ⽤されています(Kazdin & Wilson, 1978)。また、この療法は、教育、医療、地域社会での⽣活の問題にも幅広く適⽤できます。」
- 不安障害: 単純な恐怖症は段階的曝露療法で克服可能(一度限りの曝露療法も効果的との研究あり)。パニック障害には、身体感覚への誤った解釈を変えるCBTや、曝露療法を含むパニックコントロール治療(PCT)が効果的。強迫性障害には、曝露反応予防療法(ERP)が最も効果的(脳のグルコース代謝の変化も確認)。PTSDには、曝露療法を中心としたCBTが有効(フラッシュバック、回避、過覚醒、感情麻痺の改善)。「多数の厳密に管理された研究により、行動療法が不安障害に対して効果的な治療法であることが証明されて います。」、「**単純な恐怖症(特定のものや状況に対する強い恐怖)**は、数回の治療セッションのうちに克服可 能。」、「**曝露反応予防療法(Exposure and Response Prevention, ERP)**が最も効果的な治療法とされ ています。」、「最も効果的な治療法は、曝露療法です(Foa, Hembree, Cahill, Rauch, & Riggs, 2005)。」
- うつ病: ベックの認知療法(CBT)は、成人の重度うつ病に効果的で、抗うつ薬と同程度か長期的に見てより効果的。行動活性化(BA)もCBTのフルパッケージと同程度に効果的との研究あり。マインドフルネス認知療法(MBCT)は再発予防に効果的。行動的夫婦療法は、婚姻問題のあるうつ病に用いられる。比較研究では、行動活性化と認知療法は抗うつ薬と同程度かそれ以上に効果的で、長期的に持続し、費用も少ない可能性。「いくつかの厳密に管理された治療効果の研究によって、CBTがうつ病、特に成⼈の重度のうつ病に効果的であることが確認されています。特に重要なのは、CBTが抗うつ薬と同じくらい効 果的であるように⾒える点です(DeRubeis, Brotman, & Gibbons, 2005)。」、「研究の結果、行動活性化(BA)は、CBTのフルパッケージと同じくらい効果的で、治療終了時だけでなく、6ヶ⽉後と2年後の追跡調査でもうつ病を減少させる効果が確認されました(Gortner, Gollan, Dobson, & Jacobson, 1998)。」
- 摂食および体重に関連する障害: 神経性過食症(BN)には、マニュアルベースのCBTが過食・排出行動の排除、食事パターンの正常化、認知の歪み修正に効果的(薬物療法より長期効果の証拠が多い)。過食症(BED)にもCBTは過食に効果的だが、顕著な体重減少は見られない。肥満に対する包括的な行動的体重管理プログラムは短期的に効果があるが、長期的な維持が課題。「Fairburnら(1993)のBNに対するCBTは、過⾷や排出⾏動を排除し、厳格なダイエットをより正常で柔軟 な⾷事パターンに置き換え、体型や体重の個⼈的な重要性に関する認知の歪みを修正することを⽬的としています。」、「CBTは、BED患者の過⾷および関連する精神的問題にも効果的ですが、顕著な体重減少は⾒られません(Wilson, Grilo, & Vitousek, 2007)。」、「肥満に対する包括的な行動的体重管理プログラムは、改善された⾷習慣、ライフスタイルの変更、適切な栄 養、運動の増加などを含み、軽度から中等度の肥満に対する治療法として広く認識されています。短期的に は良好な結果が得られます。」
- 統合失調症: 初期はトークン・エコノミープログラムが中心(自己ケア能力向上、奇異な行動減少、社会適応促進に効果)。薬物療法と併用されることが多い。「行動療法の初期には、統合失調症患者の治療は精神病院でのトークン・エコノミー(報酬システム)プログ ラムが中⼼でした。」
- 児童の問題: 夜尿症はベルとパッド法で高い改善率。トイレでの失敗も行動療法で改善可能。「夜尿症(おねしょ)は最も効果的に治療される⼩児の問題の⼀つです。ベルとパッド法は、多くの報告で 80%以上の改善率を⽰しています。」
- 行動医学: 健康や病気に関連する行動と生物医学的知識を統合し、予防、診断、治療、リハビリテーションに応用する学際的分野。行動療法はこの分野の成長を助けた。「行動医学とは、「健康や病気に関連する⾏動および⽣物医学的な科学の知識や技術の開発と統合、そしてこ の知識や技術を予防、診断、治療、リハビリテーションに応⽤する学際的な分野である」(Schwartz & Weiss, 1978, p. 250)と定義されています。行動療法は、この分野の急速な成⻑を助けました。」
- 心血管疾患の予防と治療: 喫煙、肥満、運動不足、ストレス、高血圧、過剰なアルコール摂取などのリスク因子に対する行動治療プログラムが有効。「特定の行動パターンは、不要または早期の⼼⾎管疾患のリスクを⾼めることがわかっています。これらの⾏ 動パターンを修正することは、⼼⾎管疾患の発症を⼤幅に減少させる可能性があります。」
- その他の適用: 緊張型頭痛、様々な痛み、喘息、てんかん、睡眠障害、癌患者の放射線治療による吐き気、入院や手術に対する子どもの恐怖、アルコール依存症、境界性パーソナリティ障害と薬物依存症のある自殺を考える成人、自殺を考える青少年など。「行動療法は、以下のような多様な健康に関連する問題に成功裏に適⽤されています。」、「また、行動療法は、以下の疾患にも成功裏に適⽤されています。」
- 広場恐怖症のCBTの例として、曝露の階層化、反復と体系的曝露、恐怖反応への準備、実生活でのサポート、曝露後の分析、宿題と進捗記録の重要性が説明されている。「認知⾏動療法(CBT)の⼀例として、**広場恐怖症(アゴラフォビア)**の治療を紹介します。」
- 治療の補完として自己主張訓練が必要な場合や、再発予防トレーニング(イメージトレーニングで再発を予測し対処法を学ぶ、認知の誤りの防止)の重要性。「⼀部のクライアントには、実⽣活での曝露に加えて、⾃⼰主張訓練が必要であったり、抑圧された怒りに対処する⽅法を習得する必要がある場合もあります。」、「治療が成功した後、セラピストは再発予防トレーニングに取り組みます。」
- 行動療法の効果を評価するための研究戦略として、単一事例実験デザイン(ABAデザイン、複数ベースラインデザイン)、実験室ベースの研究、治療パッケージ戦略(分解戦略)、比較研究戦略(治療なし対照群、注意プラセボ対照群)などが用いられる。「行動療法の効果を評価するために、行動療法⼠はさまざまな研究戦略を開発しています。単⼀事例実験デザ インは重要です。」、「実験室ベースの研究では、特定の問題に対して適⽤された特定の技術を厳密に管理された条件下で評価する ことができます。」、「治療パッケージ戦略では、複数の⽅法が含まれた治療プログラムの効果を評価します。」、「⽐較研究戦略は、異なる治療技術が互いにどれほど優れているかを調べることを⽬的としています。」効果研究(厳密な管理下)と有効性研究(実際の臨床現場)の違い。「薬理学的および⼼理学的な治療法の効果についての研究には、効果研究と有効性研究の違いがあります。」行動療法は、多くの臨床障害に対して有効性が確立されている(エビデンスに基づく心理療法リストで最も多い)。第三世代行動療法(DBT、ACT)の研究も進んでいる。多文化社会においては、文化に応じたCBTの提供や、様々な文化的背景を持つ人々からのエビデンスの必要性が指摘されている。「グローバリゼーションは、多⽂化的なメンタルヘルス専⾨家の訓練を促進し、⾏動変化の普遍的 な原則を適⽤し、⽂化的に特有な治療を実施することを可能にします。機能的分析は、認知⾏動療 法の中で、異なるクライアントの⽂化に関連する内容を特定できる柔軟で個別化された⽅法で す。」(⽥中松美, 2008, p.191)
事例1: メリッサの治療(神経性過食症のCBT)
- 22歳の大学院生、体重指数は正常範囲内だが、過食と自己誘発性嘔吐、体重減少のための不健康なダイエットを繰り返している。Beck Depression Inventory (BDI) のスコアは高く、臨床的なうつ病の可能性が高い。
- 初回セッションで、問題の経緯、関連問題、社会的交流などを質問し、共感を示し、治療への勇気を称賛。Chris Fairburnの自助本を紹介し、摂食行動の自己モニタリングを依頼。メリッサは課題の目的を理解し、取り組む意欲を示した。
- 第2回セッションで、自己モニタリング記録を確認し、正確な記録を励ます。自助本の読了を確認し、励まされたことを聞く。セッションの議題(過食・嘔吐の理由、過食しなかった日との違い)を設定。BNの認知行動モデル(体型・体重への過度な心配→不健康なダイエット→生理的・心理的理由による過食→嘔吐などの代償行動→恥→不健康なダイエットの継続)を説明。ダイエットをやめることへの不安を示すメリッサに、ダイエット継続と中止の利点・欠点を書き出す宿題を出す。
- 第3回セッションで、自己モニタリングと宿題を確認。メリッサは不健康な行動を変える価値を認識。健康的な食事パターン(規則的な3食と間食、安全な食品の選択可、体重測定は週1回)への変更を説明。頻繁な体重測定への不安を示すメリッサに、2週間の実験として提案し同意を得る。
- 第4〜5回セッションで、自己モニタリング、規則的な食事、週1回の体重測定を達成し、過食が止まり、うつ病スコアも改善(BDI=16)。しかし、依然として制限的な食事を続け、「禁断の食品」への恐怖が残る。アイスクリームを食べる行動実験を勧め、メリッサは過食の衝動を感じず、コントロール感を得る。
- 第6〜7回セッションで、不健康なダイエットの克服に焦点を当てる。過食はなくなったが、時折ボーイフレンドとの対立後に嘔吐で自己肯定感を得ようとする。
- 第8〜10回セッションで、自己主張訓練を行い、感情表現や尊重を求めることができるようになる。その結果、ボーイフレンドと別れ、新しい関係を築く。自尊心と気分が向上(BDI=6)、嘔吐も止まる。
- 依然として体型・体重への過度な心配(太っていると感じる、体のチェック)、体の露出を避ける行動が残る。Dr. Jonesは、体のチェックと回避をやめる重要性を説明し、チェックしない行動実験を勧める。不安を感じるも、体重は安定し執着も減少。好きな服を着たり、社会的な活動に参加することを勧める。
- 第13〜14回セッションで、マインドフルネスを用いた治療(全身鏡の前に立ち非評価的に観察)を実施。メリッサは最初は不安を感じ批判的に見ていたが、練習により否定的な感情を手放せるようになる。「太っている」という思いから距離を置き、「普通の体重の女性だ」と認識できるようになる。宿題として、鏡を見る目的と時間を決め、太っていると感じた時に体をチェックしないようにする。
- 最終2回のセッションで、再発予防に焦点を当てる。メリッサは個人の維持マニュアルを作成し、改善点、今後の注意点、再発時の対策をまとめる。自信を持ち、改善状態を維持する準備が整ったと感じて治療終了。
行動療法の今後の課題
- 効果的な治療法の普及と採用: エビデンスに基づいた効果的な治療法が十分に普及していない。医療保険などで求められる効果証明のため、更なる普及が必要。実践的な研究を増やし、大学での研究成果を臨床現場で有効活用する必要がある。
- 段階的治療(ステップケア)アプローチ: 患者のニーズに応じた段階的な治療提供。簡潔で広く使える方法が求められているが、どの患者に簡単な方法が適切かを見極めることが重要。
- 治療法の幅広い適用: 全ての患者に適応できる最善の治療法開発のため、臨床研究者と実践者の協力が必要。
- 治療効果のメカニズムの理解: 治療法がどのように作用して効果を発揮するのかを明らかにすることが、革新的で強力な介入方法の開発に繋がる。
- 心理学と生物学の進展への対応: 遺伝学や神経科学の進展に対応し、脳の仕組みの理解を深め、行動変容のための新しい理論や治療法を生み出す必要がある。
注釈付き参考文献とケースリーディング
多数の参考文献とケースリーディングが紹介されており、各文献の概要や焦点が簡潔に説明されている。これらは、行動療法とその応用に深く理解するための参考となる。
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行動療法研究ガイド
クイズ
- 行動療法が心理療法分野に登場したのはいつ頃で、初期の行動療法は何を応用したものとして定義されていましたか?
- 現代の行動療法における3つの主要なアプローチを挙げ、それぞれが認知的な概念や手続きをどの程度重視するかについて簡潔に説明してください。
- 応用行動分析の基本的な考え方と、行動とその結果の関係を変えるために用いられる主な手続きを3つ説明してください。
- 新行動主義的媒介刺激-反応モデルの基本的な考え方と、このアプローチが特に関心を持つ分野、そして用いられる主な技法を2つ挙げてください。
- 社会認知理論の基本的な考え方を、行動を決定する3つの要因に触れながら説明し、このアプローチの特徴を1つ挙げてください。
- 行動療法の基礎となる2つの柱は何ですか?また、行動療法における「異常行動」に対する基本的な考え方を説明してください。
- 行動療法の「第三の波」とは何ですか?第一の波、第二の波との違いを簡潔に述べ、第三の波を代表する2つのアプローチを挙げてください。
- 弁証法的行動療法(DBT)における「受容と変化のバランス」という概念を、具体的な例を挙げて説明し、DBTで重視される重要な治療戦略を1つ挙げてください。
- アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)における「経験回避」とはどのような概念ですか?また、ACTの基本的な治療原則を3つ挙げてください。
- 行動療法と精神分析療法との根本的な違いを、異常行動の原因に対する考え方の違いに焦点を当てて説明してください。
クイズ解答
- 行動療法は1950年代後半に心理療法分野に登場しました。初期の行動療法は、古典的条件づけとオペラント条件づけの原理や手続きを含む現代学習理論を臨床問題に応用したものとして定義されていました。
- 現代の行動療法には、応用行動分析、新行動主義的媒介刺激-反応モデル、社会認知理論の3つの主要なアプローチがあります。応用行動分析は認知的な過程を排除し、新行動主義的媒介刺激-反応モデルは媒介変数を考慮するものの認知を重視せず、社会認知理論は認知理論を大きく取り入れています。
- 応用行動分析の基本的な考え方は、行動はその結果によって決まるということです。行動とその結果の関係を変えるために用いられる主な手続きには、行動の頻度を増やすための強化、望ましくない行動を減らすための罰、強化を止めることで行動を弱める消去があります。
- 新行動主義的媒介刺激-反応モデルの基本的な考え方は、行動は刺激と反応の関係によって説明されるが、認知的な要因などの媒介変数も重要と考えることです。このアプローチは特に不安の研究に関心を持ち、系統的脱感作法や曝露療法などの技法を用います。
- 社会認知理論の基本的な考え方は、行動は外部の刺激、外部の強化、認知的媒介過程の3つの要因が互いに影響し合うことで決まるということです。このアプローチの特徴として、人間は自己変革を行う主体であると強調することが挙げられます。
- 行動療法の基礎となる2つの柱は、人間の行動に関する心理学的なモデルと、実験や観察に基づいた科学的方法へのこだわりです。行動療法では、「異常行動」を病気とみなさない場合があり、「生き方の問題」として捉えることがあります。
- 行動療法の「第三の波」とは、1990年代に始まり21世紀にかけて発展してきた最新の流れで、個人の内面的な体験(思考や感情)の問題をより深く扱うことに焦点を当てています。第一の波は観察可能な行動を直接変えることに重点を置き、第二の波である認知行動療法(CBT)は認知的要因を重視するようになりました。第三の波を代表するアプローチには、弁証法的行動療法(DBT)とアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)があります。
- 弁証法的行動療法(DBT)における「受容と変化のバランス」とは、行動変容への焦点に加えて、受け入れることの価値を重視する考え方です。例えば、摂食障害の患者に対して、健康的な生活習慣を受け入れ、変えられないことは受け入れつつ、他の重要な課題に取り組むことが求められます。DBTで重視される重要な治療戦略の1つに、マインドフルネスがあります。
- アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)における「経験回避」とは、ネガティブな思考、感情、記憶、感覚などを避けようとすることです。ACTの基本的な治療原則には、経験回避は問題を悪化させることを理解させ、思考や感情を受け入れること(受容)、思考と現実を区別すること(認知的脱フュージョン)、人生において重要なものを意識的に選び行動すること(コミットメント)があります。
- 行動療法は、異常行動も通常の行動と同じ方法で学習・維持されると考え、現在の環境要因に焦点を当てますが、精神分析療法は無意識の葛藤が異常行動の原因だと考え、過去の無意識の葛藤に焦点を当てます。
論述形式の質問
- 行動療法の発展における主要な人物とその貢献について、初期から「第三の波」までを概説し、それぞれの理論が現代の心理療法にどのような影響を与えているか考察してください。
- 認知行動療法(CBT)が現代の心理療法において主流となっている理由を、行動療法の歴史的変遷、他の心理療法との比較、そして医療制度の変化といった観点から分析してください。
- 弁証法的行動療法(DBT)とアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)は、従来の行動療法や認知行動療法とどのように異なり、どのような臨床問題に対して特に有効であると考えられていますか。それぞれの理論的背景と主要な技法を比較検討してください。
- 行動療法における評価(アセスメント)の重要性と、行動面接、誘導イメージ法、ロールプレイ、生理的記録、自己モニタリング、行動観察など、様々な評価方法の特徴と目的について論じてください。
- 行動療法が様々な臨床問題(不安障害、うつ病、強迫性障害、摂食障害など)に対して有効であるとするエビデンスについて、具体的な研究事例を挙げながら説明し、行動療法の今後の課題と展望について考察してください。
用語集
- 行動療法(Behavior Therapy): 心理的な障害の評価と治療を体系的に行うアプローチで、学習理論を基盤とする。
- 古典的条件づけ(Classical Conditioning): 生得的な反応と中性的な刺激を結びつける学習過程。
- オペラント条件づけ(Operant Conditioning): 行動とその結果(強化や罰)の関係を通して行動が変化する学習過程。
- 応用行動分析(Applied Behavior Analysis): 観察可能な行動に焦点を当て、行動の原理を社会的に重要な問題に応用するアプローチ。
- 新行動主義的媒介刺激-反応モデル(Neobehavioristic Mediational Stimulus-Response Model): 刺激と反応の間に、目に見えない内部プロセス(媒介変数)を想定する行動主義のモデル。
- 社会認知理論(Social-Cognitive Theory): 行動は、環境、個人の認知、そして行動そのものが相互に影響し合うことによって決定されるとする理論。
- 強化(Reinforcement): 行動の頻度を増やす結果。
- 罰(Punishment): 行動の頻度を減らす結果。
- 消去(Extinction): 強化されなくなった行動が徐々に減少する過程。
- 刺激制御(Stimulus Control): 特定の刺激の存在下でのみ行動が生じるようになること。
- 系統的脱感作法(Systematic Desensitization): 不安を引き起こす刺激に段階的に曝露しながら、リラクゼーション反応を対立させることで不安を軽減する技法。
- 曝露療法(Flooding): 不安を引き起こす刺激に集中的に曝露することで、回避反応を減少させる技法。
- アルバート・バンデューラ(Albert Bandura): 社会認知理論の提唱者。
- 認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy – CBT): 認知療法と行動療法を組み合わせた心理療法。
- 第三の波(Third Wave): 1990年代以降の行動療法の新しい流れで、受容やマインドフルネスを重視する。
- 弁証法的行動療法(Dialectical Behavior Therapy – DBT): 感情調整困難や対人関係の問題を持つクライアントのために開発された治療法で、受容と変化の弁証法的バランスを重視する。
- アクセプタンス&コミットメント・セラピー(Acceptance and Commitment Therapy – ACT): 心理的苦痛を受け入れ、価値観に基づいた行動を促進する治療法。
- マインドフルネス(Mindfulness): 今この瞬間に注意を向け、評価せずに受け止める心の状態。
- 経験回避(Experiential Avoidance): ネガティブな思考、感情、感覚などを避けようとする傾向。
- 認知的脱フュージョン(Cognitive Defusion): 思考と現実を区別するプロセス。
- コミットメント(Commitment): 価値観に基づいた目標を設定し、それに向かって行動すること。
- 機能分析(Functional Analysis): 問題行動を引き起こし、維持している要因を特定するための評価方法。
- 自己効力感(Self-Efficacy): 特定の課題を遂行し、目標を達成できるという自己評価。
- 曝露反応予防療法(Exposure and Response Prevention – ERP): 強迫性障害の治療法で、強迫観念によって引き起こされる不安に曝露し、強迫行動を抑制する。
- トークン・エコノミー(Token Economy): 特定の望ましい行動に対してトークンを与え、それを報酬と交換できるようにするシステム。
- マニュアル化された治療(Manual-Based Treatments): 特定の精神疾患に対する標準化された治療手順。
- 行動活性化(Behavioral Activation – BA): うつ病治療の行動療法の要素で、患者の活動性を高め、ポジティブな強化を増やすことを目指す。
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行動療法とはどのような心理療法ですか?
行動療法は、1950年代後半に登場した、心理的な問題の評価と治療を体系的に行うアプローチです。初期は現代学習理論、特に古典的条件づけとオペラント条件づけの原理を臨床に応用するものと定義されていました。しかし、その後大きく変化し、実験心理学の進歩や臨床実践の革新に対応して、より複雑で高度なものになっています。現在では、多様な理論や手続きを含む幅広いアプローチを特徴とし、他の心理療法とも重なり合う部分が増えています。
行動療法の基本的な考え方にはどのようなものがありますか?
現代の行動療法には主に3つのアプローチがあります。(1)応用行動分析、(2)新行動主義的媒介刺激-反応モデル、(3)社会認知理論です。これらのアプローチは、認知的な概念や手続きをどの程度重視するかにおいて異なります。しかし、行動療法に共通する基本概念として、異常行動を病気とみなさない場合があること、異常行動も通常の行動と同じ方法で学習・維持されること、過去より現在の行動を重視すること、問題を細かく分解して個別にアプローチすること、個別対応の治療、問題の原因を知ることは必須ではないこと、そして科学的な手法へのこだわりなどが挙げられます。
行動療法の「第三の波」とは何ですか?
「第三の波」とは、1990年代に始まり21世紀にかけて発展してきた行動療法の最新の流れを指します。従来の行動療法(第一の波)が観察可能な行動の直接的な変化に焦点を当て、認知行動療法(第二の波)が認知的要因を重視するようになったのに対し、第三の波は個人の内面的な体験(思考や感情)の問題をより深く扱うことに焦点を当てます。代表的なアプローチとしては、弁証法的行動療法(DBT)とアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)があります。
弁証法的行動療法(DBT)はどのような特徴を持ち、どのような問題に適用されますか?
DBTは、行動変容への伝統的な焦点に加え、受け入れること(Acceptance)の価値を重視する点を特徴とし、受容と変化のバランスを重視します。また、マインドフルネス(今この瞬間に注意を向け、評価せずに受け止める練習)を重要な治療戦略として取り入れています。DBTはもともと境界性パーソナリティ障害(BPD)の治療のために開発されましたが、不安障害、うつ病、摂食障害など幅広い臨床問題にも応用されています。
アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)はどのような理論に基づき、どのような概念を重視しますか?
ACTは行動主義に基づき、スキナー以降の新しい言語と認知の理論である関係フレーム理論(RFT)を取り入れています。ACTの基本的な治療原則は、経験回避(ネガティブな思考や感情を避けようとすること)が問題を悪化させるという考えに基づき、思考や感情を受け入れること(Acceptance)、思考と現実を区別する認知的脱フュージョン、そして自分の人生において重要な価値観に基づいた行動をすること(Commitment)を重視します。ACTは多くの臨床問題に適用可能であり、異なる障害に共通するプロセスを強調するため、基本的なスキルの習得が比較的容易であるとされています。
行動療法は他の心理療法とどのように異なりますか?
行動療法は、伝統的な精神力動モデル(無意識に注目するフロイトの理論など)とは根本的に異なる心理学的なモデルに基づいており、実験や観察に基づいた科学的なアプローチを重視します。認知療法とは、考えや信念に異議を唱えることを主要な技法とするのに対し、DBTやACTでは「受け入れること(acceptance)」をより重視します。精神分析療法とは、無意識の葛藤が異常行動の原因だと考える点に対し、行動療法では学習モデルや教育モデルに基づいて説明し、現在の環境要因に焦点を当てます。
行動療法はどのような心理的問題や行動に対して効果が認められていますか?
行動療法は、不安障害(単純な恐怖症、パニック障害、強迫性障害、心的外傷後ストレス障害など)、うつ病、摂食および体重に関連する障害(神経性過食症、過食性障害、肥満)、統合失調症、自閉症、夜尿症など、幅広い心理的問題や行動に対して効果が認められています。また、禁煙、肥満、運動不足、ストレス、高血圧、過剰なアルコール摂取、薬物乱用といった健康に関連する問題や、医療治療へのアドヒアランスの向上にも応用されています。
行動療法の今後の課題は何ですか?
行動療法の今後の課題としては、証拠に基づいた効果的な治療法の普及と採用、患者のニーズに応じた段階的治療(ステップケア)アプローチの推進、より幅広い問題に対応できる治療法の開発、治療効果のメカニズムのより深い理解、そして心理学と生物学の進展への対応などが挙げられます。また、多文化社会における心理療法のあり方についても、異なる文化的背景を持つ人々に対する文化に応じた行動療法の提供や、多様な人口からの証拠の必要性が強調されています。
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行動療法について
行動療法は、心理療法の中では比較的新しい分野であり、1950年代後半に、心理的な障害の評価と治療を体系的に行うアプローチとして登場しました。初期の行動療法は、古典的条件づけとオペラント条件づけの原理や手続きといった現代学習理論を臨床の問題に応用することとして定義されていました。行動主義を複雑な人間の行動に適用したものと考えられていました。
しかし、その後行動療法は大きく変化し、性質や範囲も広がり、実験心理学の進歩や臨床実践の革新に対応し、より複雑で高度なものになっています。もはや単に古典的・オペラント条件づけ理論を臨床に応用するものとは言えません。現在の行動療法はさまざまな理論や手続きを含む多様なアプローチを特徴とし、その理論的な基盤、方法論、治療効果についても活発な議論が行われています。また、他の心理療法とも重なり合う部分が増えていますが、行動療法に特有な基本概念は明確であり、他の非行動的な治療体系との共通点や違いも容易に識別できます。
行動療法の歴史的発展
行動療法の発展は、学習心理学の実験研究と深く結びついています。
- 20世紀初頭には、ロシアのイワン・パブロフが古典的条件付けの基礎を築き。同時期、アメリカではE. L. ソーンダイクが、行動に対する結果(報酬と罰)の影響を示す研究を行いました。
- アメリカのジョン・B・ワトソンは、すべての行動は学習の結果として理解できると主張し、行動療法の発展に大きな影響を与えました。しかし、彼の内面的な働きを完全に否定する考え方は、後の行動療法家によって否定され、より精密な行動主義が発展しました。
- その中でも、B・F・スキナーの徹底的行動主義は、行動は環境とその結果(報酬・罰)によって変わるとし、実験を重視し、行動療法の理論を発展させ、心理学全般に大きな影響を与えました。スキナーは内面的な働きは説明に必要ないと考えました。
- 第二次世界大戦後、アメリカの実験心理学では、条件付けと学習原理の研究が支配的になり、動物実験を用いた行動研究が盛んに行われました。これは、従来の精神分析療法に対する挑戦でもありました。
- 行動療法の正式な始まりは、1950年代に南アフリカ、イギリス、アメリカの3つの国でそれぞれ関連性を持ちながら独立して発展しました。
- 南アフリカでは、ジョセフ・ウォルピが1958年に『相互抑制による心理療法』を出版し、学習理論を使って成人の神経症を治療する方法を詳しく説明しました。彼はパブロフの古典的条件付けの原理とハルの刺激-反応(S-R)学習理論に基づき、不安をすべての神経症的反応の原因と考え、系統的脱感作などの具体的な技法を開発しました。
- イギリスでは、ハンス・アイゼンクが1959年の論文で、行動療法を「現代の学習理論を行動および感情障害の治療に応用すること」と定義し、学習理論を重視しました。彼は行動療法を応用科学と捉え、検証可能かつ反証可能であることを特徴としました。
- 1960年代後半には、社会心理学、人格心理学、発達心理学など他の分野からも新しい治療戦略が取り入れられるようになり、特にアルバート・バンデューラの社会的学習理論は、代理学習(モデリング)、象徴的過程、自己調整機構といった概念を強調しました。
- 1980年代〜1990年代には、認知過程や感情が治療において重要な役割を果たすことが強調されるようになり、**弁証法的行動療法(DBT)やアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)**といった新しい行動療法が登場しました。
行動療法の基本概念
現代の行動療法には、次の3つの主要なアプローチがあります:
- 応用行動分析(Applied Behavior Analysis): B.F.スキナーの徹底的行動主義に基づき、観察可能な行動とその結果の関係を変えることを目指します。強化、罰、消去、刺激制御といった手続きを用い、認知的な過程は科学的な分析の対象とはしません。行動はその結果によって決まると考えます。
- 新行動主義的媒介刺激-反応モデル(Neobehavioristic Mediational Stimulus-Response Model): 古典的条件づけの原理を応用し、パブロフ、ガスリー、ハル、モウラー、ミラーらの理論に基づきます。行動は刺激と反応の関係によって説明されるが、媒介変数(認知的な要因など目に見えない内部プロセス)も重要と考えます。系統的脱感作法や曝露療法などの技法を用い、特に不安の研究に関心を持ちます。イメージなどの私的な出来事も、行動と同じ学習の法則に従うと考えます。
- 社会認知理論(Social-Cognitive Theory): アルバート・バンデューラの理論に基づき、行動は外部の刺激、外部の強化、認知的媒介過程の3つの要因が互いに影響し合うことで決まると考えます。環境からの影響をどう認知し、解釈するかを変えることで、行動や感情を変えていくことを目指します。人間は自己変革を行う主体であると強調し、認知療法の技法も積極的に取り入れ、認知の修正を重視します。現在では、行動療法と認知療法を組み合わせた**認知行動療法(CBT)**が主流となっています。
これらのアプローチは、認知的概念や手続きをどの程度重視するかにおいて異なります。
行動療法の基礎となる2つの柱は以下のとおりです:
- 人間の行動に関する心理学的なモデル: 伝統的な精神力動モデルとは根本的に異なる考え方です。
- 科学的方法へのこだわり: 実験や観察に基づいた科学的なアプローチを重視します。
これらの原則に基づく重要な考え方として、以下が挙げられます:
- 「異常行動」を病気とみなさない場合があり、「生き方の問題(problems of living)」と考えられます。
- 異常行動も通常の行動と同じ方法で学習・維持され、行動療法によって治療できます。
- 過去より「現在」の行動を重視し、現在の行動を引き起こしている要因を評価します。行動の評価や治療では、具体性を重視します.
- 問題を細かく分解し、個別にアプローチします。
- 個別対応の治療を行います。
- 問題の原因を知ることは必須ではありません。
- 科学的な手法へのこだわりを持ち、明確で検証可能な概念的枠組みを持ち、実験心理学や臨床心理学に基づいた治療法を用い、効果を測定でき再現可能な治療技法を使い、治療方法や理論を実験的に評価します。
行動療法の「第三の波」
1990年代に始まり、21世紀にかけて発展してきた最新の流れを「第三の波」と呼びます。これは、個人の内面的な体験(思考や感情)の問題をより深く扱うことに焦点を当てるものです。ヘイズらは、従来のCBTが人々の内面の体験の問題を十分に扱えていないと主張し、CBTの認知理論は科学的分析よりも常識的な考えに依存していると述べました。
第三の波を代表する2つのアプローチは以下の通りです:
- 弁証法的行動療法(Dialectical Behavior Therapy: DBT): ラインハン(1993年)によって開発され、行動変容への焦点に加え、受け入れること(Acceptance)の価値を重視し、マインドフルネスを重要な治療戦略として取り入れています。もともと境界性パーソナリティ障害(BPD)の治療のために開発されましたが、不安障害、うつ病、摂食障害など幅広い臨床問題に応用されています。
- アクセプタンス&コミットメント・セラピー(Acceptance and Commitment Therapy: ACT): ヘイズら(2006年)によって提唱され、経験回避が問題を悪化させるという考えに基づき、思考や感情を受け入れること、認知的脱フュージョン、そして価値観に基づいた行動へのコミットメントを重視します。ACTは多くの臨床問題に適用されており、その治療原則は心理学の科学に基づいており、幅広い障害に適用できることが人気の理由の一つです。
他の心理療法との関係
行動療法は、他の心理療法、特に短期間で指示的なアプローチを取るものと多くの共通点を持っています。認知行動療法(CBT)は、アルバート・エリスの論理情動行動療法(REBT)やアーロン・ベックの認知療法からいくつかの概念を取り入れています。しかし、DBTやACTは、考えや信念に異議を唱える認知療法とは異なり、「受け入れること」を重視します。
精神分析療法とは、人間の発達を学習モデルや教育モデルに基づいて説明する点で大きく異なり、無意識の葛藤を重視する精神分析の考え方を否定します。行動療法は現在の環境要因に焦点を当てるのに対し、精神分析療法は過去の無意識の葛藤に焦点を当てます。
行動療法の応用範囲
行動療法は、伝統的な心理療法よりもあらゆる種類の心理的障害に対して幅広く適用でき、社会的・経済的に不利な立場にある少数派集団を含む、多様な患者層に対しても有効であることが示されています。
具体的な適応例としては、以下のようなものが挙げられます:
- 不安障害: 単純な恐怖症、パニック障害、強迫性障害などに対して効果的であり、段階的曝露療法や曝露反応予防療法などが用いられます。
- 心的外傷後ストレス障害(PTSD): 曝露療法を中心とした認知行動療法が効果的です。
- うつ病: 認知行動療法(CBT)だけでなく、行動活性化(BA)も効果的であることが示されています。
- 摂食および体重に関連する障害: 神経性過食症(BN)に対して、マニュアルベースの認知行動療法(CBT)が有効です。
- 統合失調症: 家族介入や認知行動療法が、薬物療法と併用して用いられることがあります。
- 子どもの障害: 行動障害、攻撃性、非行、過活動、自閉症、小児精神病、夜尿症などに対して、トークン・エコノミーや嫌悪的技法などの行動的技法が用いられます。
- 行動医学: 喫煙、肥満、運動不足、ストレス、高血圧、過剰なアルコール摂取、薬物乱用など、健康や病気に関連する行動パターンの修正に役立ちます。
行動療法の評価方法
行動療法では、クライアントの問題を特定し、理解するためにさまざまな評価方法を用います。
- 行動面接: 「なぜ」を問う質問よりも、「どのように」「いつ」「どこで」「何が」といった具体的な質問を重視します。クライアントの自己報告は重要ですが、矛盾や回避的な発言がないか注意深く観察します。
- 誘導イメージ法: 問題となる状況を頭の中で再現してもらい、その際にどのような考えが浮かんだかを尋ねます。
- ロールプレイ: クライアントに問題のある状況を演じてもらい、対人関係の問題を評価します。
- 生理的記録: 近年の技術進歩により、心拍数や皮膚電気伝導度などの生理的反応を測定し、客観的な評価を行います。
- 自己モニタリング: クライアントに、特定の出来事や心理的反応について詳細な日記をつけてもらい、問題行動と関連するパターンを発見します。
- 行動観察: クライアントの目に見える問題行動を、日常生活を送る環境の中で直接観察します。
- 心理検査: Marks and Mathews 恐怖質問紙、Beckうつ病尺度、Rathus自己主張尺度、Locke and Wallace 結婚調整尺度などを用いて、問題の初期の深刻度を測ったり、治療の効果を追跡したりします。
行動療法の治療技法
行動療法には多様な治療法があり、科学的な研究によってその技法が特定の問題に対して有効であると証明されているかどうかが重視されます。
- イメージを活用した技法:
- 系統的脱感作: 不安を引き起こす状況を段階的にイメージしながら、リラックスした状態を保ち、不安反応を弱めます。
- 隠蔽感作: 問題行動に関連する嫌悪的な結果を想像することで、問題行動を抑制します。
- 認知再構成: 不適応な思考が感情の障害を引き起こすと考え、そのような思考を特定し、論理的に考え直すよう促します。ベックの認知療法に基づくことが多いです。
- 自己主張訓練: 感情を表現したり、自分の権利を主張することが苦手なクライアントに対して、適切な表現方法をモデルとして示し、行動リハーサルなどの練習を通じて対人スキルを向上させます。グループ療法も有効です。
- 自己制御: 自己モニタリング、自己指導訓練、漸進的筋弛緩法、バイオフィードバックなどを用いて、クライアントが自分の行動をコントロールできるように支援します。
- 現実生活での行動ベースの技法: トークン・エコノミーなど、オペラント条件づけの原理に基づいた技法を、学校や施設などさまざまな場面で活用します。
- 曝露療法: 不安を引き起こす対象や状況に段階的に曝露することで、恐怖反応を減少させます。
治療期間とマニュアル化された治療
行動療法の期間はケースによって異なりますが、一般的には短期間の治療が多く、25〜50回のセッションが一般的です。治療は詳細な行動評価から始まり、効果を定期的に評価しながら進められ、段階的に終了していきます。
近年では、マニュアル化された治療が認知行動療法(CBT)を中心に発展しており、特定の精神疾患に対して、決められた数の治療技法を用い、治療の順序や回数も固定化されています。これにより、科学的研究で効果が検証され、心理療法をより一貫したものにし、広く普及させやすくなりますが、セラピストの臨床判断が制限されるという批判もあります。
心理療法のメカニズム
行動療法の研究では、特定の治療法が効果的であることが証明されており、トークン・エコノミーはオペラント条件づけによって効果があることが示されています。恐怖症治療における曝露療法のメカニズムについては、従来の恐怖の消去学習という考え方だけでなく、自己効力感の向上が重要であるという議論もあります。自己効力感とは、「自分は恐れていた状況に対応できる」と感じることであり、恐怖の対象に対処できるという信念の変化が重要です。
行動療法の現状と今後の課題
行動療法は現在、心理療法の主流となっていますが、証拠に基づいた効果的な治療法が十分に普及していないという課題があります。今後は、患者のニーズに応じた段階的治療アプローチの導入、より幅広い問題に対応できる治療法の開発、治療効果のメカニズムのさらなる理解、心理学と生物学の進展への対応などが重要な課題となります。
行動療法は、心理療法の分野に対する方法論的な厳密さと革新性を提供し、他の心理療法よりも多くの厳格な評価を受けており、最も徹底的に検証されています。第三世代行動療法であるDBTやACTについても、効果を示す証拠が徐々に増えてきています。多文化社会においては、文化に応じた認知行動療法を提供することの重要性も指摘されています。
メリッサという摂食障害の大学院生の事例は、認知行動療法が過食や自己誘発性嘔吐といった神経性過食症(BN)の症状に対して、自己モニタリング、行動実験、認知再構成、自己主張訓練などを通して有効であることを示しています。
行動療法は、その理論的基盤を広げ、治療技法を多様化させながら、心理療法の分野において引き続き重要な役割を果たしていくと考えられます。
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この資料によれば、現代の行動療法には主に3つのアプローチがあり、それぞれ異なる基本概念を持っています。また、これら3つのアプローチに共通する基本的な考え方も存在します。
現代行動療法の3つの主要なアプローチ:
- 応用行動分析(Applied Behavior Analysis): このアプローチは、B.F.スキナーの徹底的行動主義に基づいています。
- 基本的な考え方: 行動はその結果によって決まる、つまり行動は強化(報酬)や罰といった結果の影響を受けます。
- 治療の方法: 行動とその結果の関係を変えることを目指し、強化、罰、消去、刺激制御といった手続きを用います。
- 特徴: 観察可能な行動のみに焦点を当て、考えや感情といった認知的な過程は科学的な分析の対象とはみなしません。
- 新行動主義的媒介刺激-反応モデル(Neobehavioristic Mediational Stimulus-Response Model): このアプローチは、古典的条件づけの原理を応用しており、パブロフ、ガスリー、ハル、モウラー、ミラーらの理論に基づいています。
- 基本的な考え方: 行動は刺激と反応の関係によって説明されますが、認知的な要因などの目に見えない内部プロセスである媒介変数も重要と考えます.
- 治療の方法: 特に不安の研究に関心を持ち、系統的脱感作法や曝露療法などの技法を用います。
- 特徴: イメージなどの私的な出来事も、行動と同じ学習の法則に従うと考えます。
- 社会認知理論(Social-Cognitive Theory): このアプローチは、**アルバート・バンデューラ(Albert Bandura, 1986)**の理論に基づいています。
- 基本的な考え方: 行動は、外部の刺激(環境からの働きかけ)、外部の強化(報酬や罰)、そして認知的媒介過程(考え方や解釈)の3つの要因が互いに影響し合うことで決まります。
- 治療の方法: 環境からの影響をどのように認知し、解釈するかを変えることで、行動や感情を変えていきます。
- 特徴: 人間は自己変革を行う主体であることを強調し、認知療法の技法も積極的に取り入れ、認知の修正を重視します。現在では、行動療法と認知療法を組み合わせた**認知行動療法(CBT)**が主流となっています。
行動療法の共通特性: 上記の3つのアプローチには概念的な違いがありますが、行動療法を実践する専門家は共通する基本概念を持っています。その基礎となる2つの柱は、人間の行動に関する心理学的なモデル(伝統的な精神力動モデルとは異なる)と、実験や観察に基づいた科学的方法へのこだわりです。
これらの原則に基づいた重要な考え方として、以下の点が挙げられます:
- 「異常行動」を病気とみなさない場合があり、むしろ**「生き方の問題(problems of living)」**と考えることがあります。
- 異常行動も通常の行動と同じ方法で学習・維持されると考え、行動療法によって治療可能であるとします。
- 過去よりも「現在」の行動を重視し、現在の行動を引き起こしている要因を評価します。行動の評価や治療では、具体性を重視し、個人の行動を特定の状況で何をしているかによって理解します。
- 問題を細かく分解し、それぞれに対応する方法を計画します。
- 患者ごとに問題が異なるため、個別対応の治療戦略を立てます。
- 問題の原因を知ることは必須ではなく、行動を変えるためにその問題がなぜ起こったのかを理解する必要はありません。
- 科学的な手法へのこだわりを持ち、明確で検証可能な概念的枠組み、実験心理学や臨床心理学に基づいた治療法、効果を測定でき再現可能な治療技法、実験的な評価、新しい研究手法を用いた厳密な評価を重視します。
これらの基本概念が、行動療法の多様なアプローチを理解する上で重要となります。
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この資料では、行動療法の絶え間ない進化の中で、1990年代に始まり21世紀にかけて発展してきた最新の流れが、「第三の波」として解説されています。ヘイズ、フォレット、ラインハン(2004年)がこの用語を提唱しました。
「第三の波」が登場した背景には、それまでの行動療法に対する批判がありました。ヘイズらは、従来の認知行動療法(CBT)が人々の内面的な体験(思考や感情)の問題を十分に扱えていないと主張しました。また、CBTの認知理論は科学的分析よりも常識的な考えに依存しているとも指摘しています。
「第三の波」を代表する2つの主要なアプローチとして、以下のものが挙げられています:
- 弁証法的行動療法(Dialectical Behavior Therapy: DBT)
- **マルシャ・ラインハン(Marsha M. Linehan, 1993年)**によって開発されました。
- DBTの特徴は、行動変容への従来の焦点に加えて、受け入れること(Acceptance)の価値を重視する点であり、ラインハンはこれを治療の中心的な弁証法(対立する2つの概念の統合)と考えています。
- DBTでは、従来の行動療法の技法に加え、**マインドフルネス(今この瞬間に注意を向け、評価せずに受け止める練習)**を重要な治療戦略として取り入れています。
- アクセプタンス&コミットメント・セラピー(Acceptance and Commitment Therapy: ACT)
- **ヘイズら(Hayes et al., 2006年)**によって提唱されました。
- ACTは行動主義に基づいていますが、スキナー以降の新しい言語と認知の理論である**関係フレーム理論(Relational Frame Theory, RFT)**を取り入れています。
- ACTの基本的な考え方の一つに**経験回避(ネガティブな思考、感情、記憶、感覚などを避けようとすること)**があり、ACTでは経験回避が最終的には問題を悪化させると考えます。
- ACTの目的は、患者に経験回避が問題を解決しないことを理解させ、思考や感情を**受け入れること(Acceptance)**を学ばせることです。
このように、「第三の波」は、従来の行動療法や認知行動療法が十分に扱えなかった内面的な体験に着目し、受容やマインドフルネスといった新たな概念を取り入れた、行動療法の最新の発展段階と言えます。
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この資料では、**弁証法的行動療法(Dialectical Behavior Therapy: DBT)**は、行動療法の「第三の波」を代表する2つのアプローチの1つとして紹介されています。DBTは、**マルシャ・ラインハン(Marsha M. Linehan, 1993年)**によって開発されました。
DBTの最大の特徴は、行動変容への伝統的な焦点に加えて、受け入れること(Acceptance)の価値を重視する点です。ラインハンは、この**「受容と変化(Acceptance and Change)のバランス」**を治療の中心的な弁証法(対立する2つの概念の統合)と考えています。
**受け入れること(Acceptance)**について、ラインハンはそれを単なる諦めではなく、積極的な自己肯定のプロセスであると述べています。この考え方は、有名な「セレニティ・プレイヤー(Serenity Prayer)」にも例えられています。例えば、摂食障害の患者は自分の価値を体型や体重で判断する傾向がありますが、DBTでは、健康的な生活習慣を受け入れ、変えられないことは受け入れつつ、他の重要な人生の課題に取り組むことの必要性を強調します。
さらに、DBTでは、従来の行動療法の技法に加え、**マインドフルネス(今この瞬間に注意を向け、評価せずに受け止める練習)**を重要な治療戦略として取り入れています。資料には、マインドフルネスの5つの基本スキルが紹介されています:
- 観察する(Observe): 感情を排除しようとせず、そのまま観察します。「クライアントがここで学ぶことは、今この瞬間に起こっていることを、逃げたり終わらせようとしたりせずに、意識的に経験することです。一般的に、出来事に注意を向ける能力は、出来事から距離を置く能力と対応しています。出来事を観察することは、その出来事自体とは異なるものです」(ラインハン, 1993, p. 63)。
- 記述する(Describe): 思考や感情を言葉にします。「記述を学ぶことは、感情や思考を文字通りに受け取らないことを学ぶことでもあります。例えば、恐怖を感じたからといって、その状況が必ずしも脅威であるとは限りません……思考はしばしば文字通りに受け取られます。つまり、『私は愛されていない』という考えが、事実としての『私は愛されていない』と混同されるのです」(ラインハン, 1993, p. 64)。
- 判断しない(Be Nonjudgmental): 自分自身や経験を「良い」「悪い」「価値がある」「価値がない」と評価しません。観察し、記述し、意識する際に、判断をしない姿勢を取ることが重要です。
- 現在にとどまる(Stay in the Present): 直接経験していることに意識を向けつつ、それと一定の距離を保ちます。「ワイザーとテルチ(1999)は、空を移動する雲を眺めることを例に挙げています。彼らは経験に完全に意識を向けていますが、同時にそれを外側から観察しているのです」(p. 759)。
- 一度に1つのことに集中する(One-mindfully): 例えば、食事をするときは、テレビを見たり本を読んだりせずに、食べるそのものに集中します।
ラインハン(1993)は、もともとDBTを**境界性パーソナリティ障害(BPD)**の治療のために開発しました。しかし、受容やマインドフルネスといったDBTの基本概念は、不安障害、うつ病、摂食障害など幅広い臨床問題の治療にも応用されています(ヘイズ, フォレット, ラインハン, 2004)。リンチとコッツァ(2009)は、自傷行為(NSSI)を行動的観点から研究し、NSSIの原因としてネガティブな感情があることを示し、DBTがこの困難な障害の治療にどのように有用であるかを説明しています。
このように、DBTは、受容と変化の弁証法、そしてマインドフルネスを核とした、行動療法の新たな展開を示す重要なアプローチです。
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この資料では、**認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy: CBT)は、行動療法の進化における重要な段階である「第二の波」**に位置づけられています。CBTは、認知的要因(考え方・解釈)を重視するようになった行動療法です。現在では、行動療法と認知療法を組み合わせたCBTが主流となっています。
CBTの起源と影響: CBTは、アルバート・エリス(Albert Ellis)の論理情動行動療法(REBT)やアーロン・ベック(Aaron Beck)の認知療法からいくつかの概念を取り入れています。資料によれば、CBTはエリスのREBTよりもベックの認知療法に近いとされています。これは、ベックが感情的な苦痛を引き起こす非機能的な信念を修正するために、行動手法の重要性を強調しているためです。
CBTの基本的な考え方: CBTの前提となる考え方の一つは、感情の障害(不安やうつなど)は、少なくとも一部は不適応な思考(dysfunctional thinking)によって引き起こされるというものです。治療の目的は、この不適応な思考を変えることにあります。また、社会認知理論の視点を取り入れ、環境からの影響をどのように認知し、解釈するかを変えることで、行動や感情を変えていくと考えます。
CBTの治療法: CBTでは、認知的な戦略と行動的な戦略を組み合わせた多様な治療法が用いられます。
- 認知再構成(Cognitive Restructuring): クライアントの不適応な思考パターンを特定し、論理的に検討し、より現実的で適応的な思考に変容させることを目指します。資料には、パニック発作のクライアントに対する認知再構成の具体的な例が示されています。
- 行動課題(Behavioral Tasks): クライアントの思考や信念を検証するために、現実の状況で行動を試すことを促します。
- 曝露療法(Exposure Therapy): 不安や恐怖を引き起こす状況に意図的に繰り返し身を置くことで、それらの感情に慣れ、回避行動を減少させることを目指します。系統的脱感作もこの一種です。
- 行動活性化(Behavioral Activation: BA): 患者がより活動的になるのを助け、日常生活における楽しみや達成感を増やすことで、うつ病を改善させることを目指します。研究では、BAはCBTのフルパッケージと同じくらい効果的であることが示されています。
- 自⼰モニタリング(Self-Monitoring): 自分の思考、感情、行動を記録することで、問題行動のパターンや引き金となる状況を把握します。
- 自⼰主張訓練(Assertiveness Training): 感情を適切に表現したり、自分の権利を主張したりするためのスキルを習得します。
CBTの適用範囲: 資料では、CBTが多様な心理的問題の治療に広く使われると予測されており、実際、多くの厳密に管理された研究により、その効果が証明されています。
- 不安障害: 単純な恐怖症、パニック障害、強迫性障害、PTSDなどに対して効果的な治療法とされています。特に、パニック障害に対しては、薬物療法よりも長期的な効果が期待できることが示されています。強迫性障害に対しては、曝露反応予防療法(ERP)が最も効果的であるとされています。PTSDに対しては、曝露療法を中心としたCBTが効果的です。
- うつ病: 成人の重度のうつ病に対して効果的であり、抗うつ薬と同等の効果を示す研究もあります。行動活性化は、CBTの重要な要素であり、単独でも効果があることが示されています。
- 摂食障害: 神経性過食症(BN)に対して、マニュアルに基づいたCBTが過食や排出行動を減らし、食事パターンの正常化や体型・体重に対する認知の歪みを修正する上で効果的であることが示されています。
- 統合失調症: 薬物療法で改善しにくい症状や急性の精神病エピソードに対して、CBTが用いられるようになってきており、有望な結果も出ていますが、まだ決定的ではありません。
- 子どもの障害: 行動療法とともに、子どもの様々な問題(行動障害、攻撃性、多動、自閉症、夜尿症など)に対して用いられています。
CBTと他の療法との関係:
- 行動療法: CBTは、従来の観察可能な行動の直接的な変容に重点を置いた行動療法(第一の波)から、認知要因を重視するようになった発展形(第二の波)と位置づけられます。
- 精神分析療法: 精神分析療法が無意識の葛藤に焦点を当てるのに対し、CBTは現在の思考や行動に焦点を当てます。
- 第三の波の行動療法(DBT、ACT): CBTが思考内容の修正を目指すのに対し、DBTやACTは思考や感情を受け入れることを重視します。
CBTの現状と将来: 現在、CBTは心理療法の世界で確固たる地位を築いており、認知行動療法家(CBTセラピスト)と名乗る傾向が強まっています。医療制度の変化により、効果が証明されたコスト効率の良い治療が求められる中で、CBTはますます重要な役割を果たすと考えられています。
CBTの効果に関する研究: CBTの効果と有効性は、他のどの心理学的治療法よりも集中的に研究されており、効果研究や有効性研究によってその有効性が示されています。イギリスの国立臨床優秀機関(NICE)などのガイドラインでも、多くの精神疾患に対する推奨される治療法の一つとしてCBTが挙げられています。
CBTのマニュアル化: CBTは、効果が科学的研究で検証された**マニュアルに基づいた治療(manual-based treatment)**が広く開発されている分野です。マニュアル化された治療は、治療の標準化、普及の促進、セラピストの訓練の容易化などの利点がある一方、クライアント一人ひとりに合わせた柔軟な対応が難しくなるという批判もあります。しかし、支持派は、セラピストの臨床判断が主観的になりがちであるとし、マニュアル化された治療が統計的な予測と一致している点を強調しています。
このように、認知行動療法(CBT)は、認知と行動の両面に焦点を当て、多様な心理的問題に対して科学的根拠に基づいた効果的な治療法として、現代の心理療法において中心的な役割を果たしています。
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行動療法は進化しており、「三つの波」として分類されています。それぞれの波を簡潔に説明します。
- 第一の波: 観察可能な行動を直接変えることに重点を置いた、従来の行動療法です。古典的条件づけとオペラント条件づけの原理に基づいて、問題となる行動そのものを修正しようとするアプローチです。
- 第二の波: **認知的要因(考え方・解釈)を重視するようになった、認知行動療法(CBT)**です。第一の波の行動療法に、認知的な側面を取り入れたもので、不適応な思考や信念が感情や行動に与える影響に着目し、それらを修正することを目指します。
- 第三の波: 個人の内面的な体験(思考や感情)の問題をより深く扱うことに焦点を当てる、最新の流れです。従来のCBTが内面の体験を十分に扱えていないという批判から生まれ、思考や感情をコントロールしようとするのではなく、それらを受け入れ、価値のある行動へとコミットメントしていくことを重視します。弁証法的行動療法(DBT)やアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)がこの波を代表するアプローチです。
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応用行動分析(Applied Behavior Analysis, ABA)は、現代の行動療法における主要な3つのアプローチの一つであり、他の2つのアプローチ、すなわち新行動主義的媒介刺激-反応モデルと社会認知理論とは、認知的概念や手続きをどの程度重視するかという点において大きく異なります。
応用行動分析の最も際立った特徴は、観察可能な行動のみに焦点を当て、認知的な過程を排除することです。このアプローチは、B.F.スキナー(1953)の徹底的行動主義に直接基づいており、行動はその結果によって決まるという基本的な考え方を持ちます。具体的には、行動は「強化」や「罰」といった結果の影響を受けると考え、治療では以下のような手続きを用いて行動とその結果の関係を変えることを目指します:
- 強化(Reinforcement): 行動の頻度を増やすために報酬を与える
- 罰(Punishment): 望ましくない行動を減らすために不快な刺激を与える
- 消去(Extinction): 強化を止めることで行動を弱める
- 刺激制御(Stimulus Control): 特定の状況で行動を引き出したり防いだりする
応用行動分析は、思考や感情といった認知的な過程を「私的な出来事」とみなし、科学的な分析の対象とはしません。
一方、新行動主義的媒介刺激-反応モデルは、行動は刺激と反応の関係によって説明されると考えますが、媒介変数(認知的な要因など目に見えない内部プロセス)も重要であると捉えます。このアプローチは古典的条件づけの原理を応用しており、イワン・パブロフをはじめとする学者たちの理論に基づいています。「イメージ(心の中で思い浮かべること)」などの私的な出来事も、行動と同じ学習の法則に従うと考えます。
さらに、社会認知理論は、認知理論を大きく取り入れています。アルバート・バンデューラ(Albert Bandura, 1986)の理論に基づいており、行動は以下の3つの要因が互いに影響し合うことで決まると考えます:
- 外部の刺激(環境からの働きかけ)
- 外部の強化(報酬や罰)
- 認知的媒介過程(考え方や解釈)
社会認知理論では、環境からの影響をどう認知し、解釈するかを変えることで、行動や感情を変えていくことを目指し、認知療法の技法も積極的に取り入れます。経験そのものではなく、それをどう解釈するかが心理的な問題の原因と考える点が、観察可能な行動のみに焦点を当てる応用行動分析との明確な違いです。
このように、応用行動分析は、行動の直接的な結果と環境要因に着目し、認知的な側面を分析対象としない点で、内部プロセスや認知を重視する新行動主義的媒介刺激-反応モデルや社会認知理論とは根本的に異なると言えます。
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行動療法の評価において、セラピストはクライアントに「なぜ(why)」を問う質問をあまりせず、代わりに**「どのように(how)」、「いつ(when)」、「どこで(where)」、「何が(what)」といった種類の質問をより重視します**。
資料には、具体的な例として以下のように記載されています:
- 「なぜあなたは人混みで不安になるのですか?」(×)
- 代わりに、「人混みで不安になるのは、どんな状況のときですか?」(〇)
このように、「どのように」「いつ」「どこで」「何が」といった質問は、クライアントの具体的な行動、状況、およびそれに関連する要素を明確にするのに役立ちます。これにより、セラピストは問題となっている行動を詳細に理解し、機能分析を行う上で重要な情報を得ることができます。
一方、「なぜ」という質問は、時にクライアントを過去の原因の探求に向かわせたり、抽象的な説明に終始させたりする可能性があるため、行動療法ではより具体的な情報収集を目的とした質問が優先されると考えられます。
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認知行動療法(CBT)が主流となる背景には、複数の要因が挙げられます。
まず、臨床心理士の理論的な傾向として、1982年のアメリカの臨床心理士を対象とした調査によると、多くの臨床家が行動療法の原理や手法を日常の治療で使用しており、今後ますます多様な心理問題の治療に使われる可能性が高いと結論付けられています。この調査結果は、行動療法がすでに一定の影響力を持っていたことを示唆しています。
次に、専門家の将来予測において、1990年代にアメリカの心理療法の専門家パネルが、将来的に最も使用される可能性が高い技法として認知行動療法(CBT)の技法を挙げました。その理由として、アメリカの医療制度の変化、具体的にはコストを抑えることとより多くの人に医療保障を提供することが進んでいる点が挙げられています。CBTは、これらの要件に適合しているため、今後も重要な役割を果たすと考えられています。
さらに、行動療法から認知行動療法への移行という明確な流れが存在します。行動療法家が自らを認知行動療法家(CBTセラピスト)と名乗る傾向が強まっており、その象徴として、2005年にはAssociation for Advancement of Behavioral Therapy(AABT)がAssociation for Behavioral and Cognitive Therapies(ABCT)に名称を変更しました。この名称変更は、認知的な要素が行動療法においてますます重要視されるようになったことを示しています。
また、アメリカの大学における行動療法の教育においても、1960年代以降、著名な大学の臨床心理学の大学院プログラムで行動療法が重視されるようになり、博士課程では行動療法を中心とした教育を行うプログラムも登場しました。1990年の調査では、半数以上(56%)の心理学博士課程の教員が、何らかの形で行動療法に関わる理論を強調していることが示されています。このような教育現場での重視も、CBTの普及に貢献していると考えられます。
加えて、**マニュアル化された治療(Manual-Based Treatments)**の発展もCBTが主流となる背景の一つです。エビデンス(科学的根拠)に基づいたCBTの治療マニュアルが、多くの精神疾患向けに作成されており、科学的研究で効果が検証されている点、心理療法をより一貫したものにし、広く普及させやすくする点、セラピストの訓練が容易になる点などが利点として挙げられます。
そして、研究効果の面からも、行動療法の効果と有効性は他のどの心理学的治療法よりも集中的に研究されており、特に認知行動療法の治療法は、NICE(国立臨床優秀機関)による評価で非常に良い結果を出しており、特定の気分障害や不安障害に対して、最も推奨される心理療法とされています。アメリカ心理学会(APA)も、行動療法が最も多くの「実証的に支持された治療法」を占めていると評価しています。
これらの要因が複合的に作用し、効果が証明され、コスト効率が良いという社会的なニーズにも合致した認知行動療法が、現代の心理療法において主流な位置を占めるようになったと考えられます。
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系統的脱感作法は、現代の行動療法の主要なアプローチの一つである新行動主義的媒介刺激-反応モデルに基づいています。このアプローチは、古典的条件づけの原理を応用しており、具体的には以下の学者の理論に影響を受けています:
- イワン・パブロフ(Ivan Pavlov)
- E.R. ガスリー(E.R. Guthrie)
- クラーク・ハル(Clark Hull)
- O.H. モウラー(O.H. Mowrer)
- N.E. ミラー(N.E. Miller)
系統的脱感作法の基本的な考え方は、不安を引き起こす状況に徐々に慣れさせることで、その状況に対する不安反応を弱めるというものです。この技法は、特に不安の研究に関心を持って用いられます。
具体的な手順としては、まず「不合理な不安を引き起こす特定の出来事」を特定し、その後、クライアントが恐れる状況を「軽度のストレスから強い恐怖まで」段階的に並べたリスト(刺激階層)を作成します。
治療の際には、クライアントは深くリラックスした状態で、これらの状況を刺激階層の順にイメージしていきます。Wolpe(1958)は、Jacobson(1938)の漸進的筋弛緩法を活用し、リラックスと不安が同時に存在しえないという原理を利用しました。もし特定の場面が強い不安を引き起こした場合、クライアントはその場面のイメージを中断し、リラックスを取り戻します。その後、その場面を再びイメージするか、刺激階層を調整します。最終的に、クライアントが不安を感じることなくその場面を想像できるようになったら、次の場面に進みます。
系統的脱感作法はイメージを活⽤した技法の一つであり、可能であれば、実際の状況にさらされる「現実的な暴露(real-life exposure)」の方がより効果的であり、不安障害の治療に最適な方法とされています。
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弁証法的行動療法(DBT)の中核となる概念は、主に以下の2点です。
- 受容と変化(Acceptance and Change)のバランス: DBTの最大の特徴の一つは、行動変容への従来の焦点に加え、自己や現実をありのままに受け入れること(Acceptance)の価値を重視する点です。マーシャ・ラインハンは、この受容と変化の統合を治療の中心的な弁証法(対立する2つの概念の統合)と考えています。
- 資料では、摂食障害の患者の例を挙げて、自分の価値を体型や体重で判断する傾向のある患者に対し、健康的な生活習慣を受け入れ、変えられないことは受け入れつつ、他の重要な人生の課題に取り組むことの重要性を説明しています。
- ラインハンによれば、受容は単なる諦めではなく、積極的な自己肯定のプロセスです。
- マインドフルネス(Mindfulness)の導入: DBTは、従来の行動療法の技法に加えて、マインドフルネス(今この瞬間に注意を向け、評価せずに受け止める練習)を重要な治療戦略として取り入れています。
- 資料には、マインドフルネスの5つの基本スキルが紹介されています:
- 観察する(Observe): 感情を排除しようとせず、そのまま観察する。
- 記述する(Describe): 思考や感情を言葉にする。感情や思考を文字通りに受け取らないことを学ぶことでもあります。
- 判断しない(Be Nonjudgmental): 自分自身や経験を「良い」「悪い」などと評価しない。
- 現在にとどまる(Stay in the Present): 直接経験していることに意識を向けつつ、それと一定の距離を保つ。
- 一度に1つのことに集中する(One-mindfully): 例えば、食事をする時は食べることに集中する。
- 資料には、マインドフルネスの5つの基本スキルが紹介されています:
これらの核となる概念に基づき、DBTはもともと**境界性パーソナリティ障害(BPD)**の治療のために開発されました。しかし、受容やマインドフルネスといったDBTの基本的な考え方は、不安障害、うつ病、摂食障害など幅広い臨床問題の治療にも応用されています。
資料では、DBTは行動療法の「第三の波」を代表するアプローチの一つとしても位置づけられており、個人の内面的な体験(思考や感情)の問題をより深く扱うことに焦点を当てていると説明されています。
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行動療法において、古典的条件づけとオペラント条件づけは、心理的な問題の理解と治療に応用される基本的な学習原理です。初期の行動療法は、まさにこれらの現代学習理論を臨床問題に応用することとして定義されていました。
古典的条件づけの応用
古典的条件づけは、刺激と反応の関連性を学習するプロセスです。行動療法では、この原理を利用して、不安や恐怖反応などの情動的な問題を扱います。
- 系統的脱感作法(Systematic Desensitization): 不安を引き起こす刺激(条件刺激、CS)とリラックス反応を意図的に結びつけることで、不安反応を弱める技法です。クライアントは、不安階層を作成し、リラックスした状態で最も低い不安レベルの刺激から順にイメージしていきます。最終的には、以前は不安を引き起こしていた刺激に対して、不安を感じなくなることを目指します。これは、逆条件づけの原理に基づいています。
- 曝露療法(Flooding): 不安を引き起こす状況に一気に直面させることで、恐怖反応を弱める技法です。古典的条件づけの消去の原理を利用し、回避行動を阻止することで、条件刺激と嫌悪的な無条件反応(恐怖)の関連性を弱めます。
- 嫌悪療法(Aversion Therapy): 望ましくない行動と不快な刺激を意図的に結びつけることで、その行動を減少させる技法です。例えば、アルコール依存症の治療で、アルコールの匂いや味と吐き気を誘発する薬物を組み合わせることがあります。これにより、「アルコール」=「不快」という新しい条件づけを形成します。隠蔽感作もこの一種で、嫌悪的な結果を想像することで望ましくない行動を抑制します。
- リトル・ハンスの事例の再解釈: フロイトはリトル・ハンスの馬に対する恐怖を無意識の葛藤による転移と考えましたが、行動主義の観点からは、過去の**馬に関連する恐怖体験(例えば、荷馬車を引いていた馬が倒れて死んだ場面を目撃したこと)**が、「馬」と「恐怖」の条件づけを成立させ、恐怖症が生じたと説明されます。
オペラント条件づけの応用
オペラント条件づけは、行動の結果によってその行動の頻度が増減するプロセスです。行動療法では、この原理を利用して、適応的な行動を増やし、不適応な行動を減らすことを目指します。
- 強化(Reinforcement): 行動の後に好ましい結果(報酬)を与えることで、その行動の頻度を増やします。
- 正の強化: 行動の後に良い結果が得られると、その行動が増えます(例:良い成績を取ると褒められるため、もっと勉強する)。
- 負の強化: 不快な状況を避けることで、行動が強化されます(例:広場恐怖症の人が混雑した場所を避けることで不安が軽減され、外出がますます難しくなる)。
- 罰(Punishment): 行動の後に不快な刺激を与えることで、その行動の頻度を減らします。
- 消去(Extinction): 強化を止めることで、 ранее強化されていた行動を弱めます。例えば、強迫性障害の患者が安心を求める行動に対して、周囲が反応しないようにすることで、その行動が減少することがあります。
- 刺激制御(Stimulus Control): 特定の状況で行動を引き出したり防いだりするように、環境を操作します。例えば、過食症のクライアントが特定の状況下で過食しやすい場合、その状況を避ける、または別の行動と結びつけるようにします。
- トークンエコノミー(Token Economy): 望ましい行動を行った際にトークン(報酬と交換できるもの)を与え、不適切な行動に対してトークンを没収するシステムです。これは、病院や学校などの集団環境で、患者や生徒の行動変容を促すために用いられます。
- 行動活性化(Behavioral Activation): うつ病治療などで用いられる技法で、楽しい活動や目標達成につながる行動を増やすことで、気分を改善します。これは、行動と気分の関連性をオペラント条件づけの原理に基づいて利用しています。
このように、古典的条件づけとオペラント条件づけは、行動療法の基礎となる重要な原理であり、さまざまな具体的な技法を通じて、多様な心理的問題の解決に役立てられています。現代の行動療法は、これらの古典的な学習理論に加えて、認知的な要因や社会的な学習の要素も取り入れた、より複雑で洗練されたアプローチへと発展しています。
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認知行動療法(CBT)は、他の心理療法と比較していくつかの重要な点で異なります。資料から読み取れる主な違いは以下の通りです。
- 焦点:
- CBTは、思考(認知)、感情、行動の相互作用に焦点を当て、感情的な苦痛は少なくとも一部には不適応な思考によって引き起こされると考えます。治療の目的は、この不適応な思考を変えることにあります。
- これに対し、初期の行動療法は、観察可能な行動を直接変えることに重点を置いていました。
- 精神分析療法は、無意識の葛藤が異常行動の原因だと考え、過去の無意識の葛藤に焦点を当てます。行動療法は、この考えを否定し、現在の環境要因に焦点を当てます。
- **DBT(弁証法的行動療法)やACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)**は、「受け入れること(acceptance)」を重視します。ACTは、ネガティブな思考や感情を避けようとする経験回避が問題を悪化させると考え、思考や感情を受け入れることを学びます。
- **論理情動行動療法(REBT)**は主に言語的アプローチであり、論理と理性を使って人生哲学を変えることを目的としています。
- 技法:
- CBTは、認知再構成という技法を用いて、不適応な思考を特定し、考え直させ、行動課題を通して思い込みを修正します。また、行動活性化といった行動療法的な要素も取り入れ、患者がよりアクティブになるのを助けます。
- 初期の行動療法は、古典的・オペラント条件づけの原理に基づいた技法(系統的脱感作、曝露療法、強化、罰など)を用いていました。
- DBTは、行動変容に加えて、マインドフルネスのスキルを重要な治療戦略として取り入れています。
- ACTは、認知的脱フュージョン(思考と現実を区別すること)などの技法を用い、思考の内容よりもその機能的な結果に対処することに重点を置きます。
- 精神分析療法は、自由連想や夢分析などの技法を用います。
- 目標:
- CBTは、具体的な問題の解決や症状の軽減を目指す、問題焦点型で時間制限的なアプローチであることが多いです。
- 精神分析療法は、より深い洞察や人格の変容を目標とすることがあります。行動療法は、問題の原因を知ることは必須ではないと考え、行動の変化そのものを主な目標とします。
- 理論的基盤:
- CBTは、ベックの認知療法が行動療法の技法の重要性を強調しているため、エリスのREBTよりもベックの認知療法に近いとされています。
- 初期の行動療法は、現代学習理論(古典的・オペラント条件づけ)を主な理論的基盤としていました。
- 社会認知理論は、行動は外部の刺激、外部の強化、そして認知的媒介過程の3つの要因が互いに影響し合うことで決まると考え、CBTにも影響を与えています。
- 科学的根拠:
- 資料は、CBTが多くの精神疾患に対して効果的な治療法であることが、多数の厳密に管理された研究によって証明されている点を強調しています。CBTは、薬物療法と同等かそれ以上に効果的である可能性があり、特に長期的な効果の維持において優れている場合があります。
- 行動療法全体としても、他の心理療法よりも多くの厳格な評価を受けており、最も徹底的に検証されていると述べられています。
要するに、認知行動療法(CBT)は、思考、感情、行動の相互作用に焦点を当て、認知再構成や行動実験といった具体的な技法を用いながら、問題解決と症状軽減を目指す、科学的根拠に基づいた短期集中的な心理療法であると言えます。これは、無意識に焦点を当てる精神分析療法、受容を重視するDBTやACT、行動そのものの変容を主眼とする初期の行動療法、論理的思考による変容を目指すREBTなど、他の多くの心理療法とは異なる特徴を持っています。
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行動療法が依拠する二つの基礎的な柱は以下の通りです:
- 人間の行動に関する心理学的なモデル
- このモデルは、伝統的な精神力動モデル(無意識に注目するフロイトの理論など)とは根本的に異なる考え方です。行動療法は、行動を学習や教育のモデルに基づいて説明します。
- 科学的方法へのこだわり
- 行動療法は、実験や観察に基づいた科学的なアプローチを重視します。明確で検証可能な概念的枠組みを持ち、実験心理学や臨床心理学に基づいた、または一致した治療法を用い、効果を測定でき、再現可能な治療技法を使うことなどが含まれます。
これらの二つの柱は、行動療法を他の非行動的な治療体系と識別する上で重要な基本概念となります。
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行動療法の詳細なタイムライン
1900年代初頭:
- 行動主義の登場: ジョン・B・ワトソンが、主観的な心の働きを重視する当時の心理学を批判し、環境が行動を決定する重要な要因であり、内面的な働きを否定し、全ての行動は学習の結果として理解できるとする行動主義を提唱。
- 学習心理学の実験研究:イワン・パブロフがロシアで古典的条件付けの基礎を築く。
- E.L. ソーンダイクがアメリカで、行動に対する結果(報酬と罰)の影響を示す研究を行う。
1924年:
- メアリー・カバー・ジョーンズが子どもの恐怖を克服するための行動的手法を発表。
1938年:
- O. ホバート・モウラーとE. モウラーが夜尿症(おねしょ)の治療に条件付け原理を応用。この方法は現在も広く使用されている。
第二次世界大戦後:
- アメリカの実験心理学で、条件付けと学習原理の研究が主流となる。動物実験が盛んに行われる。
1950年代:
- 行動療法の始まり: 南アフリカのジョセフ・ウォルピ、イギリスのハンス・アイゼンク、アメリカのB・F・スキナーらがそれぞれ独立して行動療法を発展させる。
- 1953年: B.F. スキナーが徹底的行動主義に基づいた応用行動分析の基礎を示す。
- 1958年: ジョセフ・ウォルピが『相互抑制による心理療法(Psychotherapy by Reciprocal Inhibition)』を出版。学習理論を用いた成人の神経症治療法を詳述し、系統的脱感作法などの技法を紹介。
- 1959年: ハンス・アイゼンクが行動療法を「現代の学習理論を行動および感情障害の治療に応用すること」と定義する論文を発表。
1960年代:
- 行動療法の拡大: 理論と研究が拡大し、社会心理学、人格心理学、発達心理学など他の分野からも新しい治療戦略が取り入れられる。
- 1960年代後半: アルバート・バンデューラの社会的学習理論が、代理学習(モデリング)、象徴的過程、自己調整機構といった概念を強調し、行動療法に大きな影響を与える。
- アメリカの著名な大学の臨床心理学大学院プログラムで行動療法が重視されるようになる。
- 行動療法を中心とした教育を行う博士課程プログラムが登場。
1970年代:
- 強迫性障害に対する曝露反応予防療法(ERP)が効果を示すようになる。
- ポールとレンツが慢性精神病患者に対するトークン・エコノミー(報酬システム)プログラムの効果を示す研究を行う。
1980年代〜1990年代:
- 認知過程や感情が治療において重要な役割を果たすことが強調されるようになり、認知行動療法(CBT)が主流となる。
- 新しい行動療法として、弁証法的行動療法(DBT)やアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)が登場する。
- ダレル・スミスによるアメリカの臨床心理士を対象とした調査で、認知行動療法の技法が広く使用されていることが示される。
- アメリカの心理療法の専門家によるパネルが、将来的に最も使用される可能性の高い技法として認知行動療法(CBT)を挙げる。
- アーノルド・ラザルスが多重様式療法を提唱。
1990年代:
- ヘイズ、フォレット、ラインハンが行動療法の最新の流れを「第三の波」と呼ぶ。
- SayetteとMayneによるアメリカ心理学会認定の博士課程プログラム教員の調査で、半数以上の教員が何らかの形で行動療法に関わる理論を強調していることが示される。
- マルシャ・ラインハンが弁証法的行動療法(DBT)を境界性パーソナリティ障害の治療のために開発。
- Fairburnらによる神経性過食症(BN)に対するマニュアルベースの認知行動療法(CBT)が登場。
2000年代:
- 行動療法家が自らを認知行動療法家(CBTセラピスト)と名乗る傾向が強まる。
- 2005年: Association for Advancement of Behavioral Therapy(AABT)が、Association for Behavioral and Cognitive Therapies(ABCT)に名称を変更。
- Tom Ollendickらの研究で、単純な恐怖症に対する最大3時間の1回限りの曝露療法が効果的であることが示される。
- David Clarkらの研究で、パニック発作の根本原因である「身体感覚への誤った解釈」を変える認知行動療法(CBT)が抗うつ薬よりも効果的であることが証明される。
- David Barlowらによる「パニックコントロール治療(Panic Control Treatment, PCT)」の効果が示される。
- Foaらの研究で、曝露療法が心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状を顕著に改善することが示される。
- DeRubeis、Brotman、Gibbonsらの研究で、CBTがうつ病、特に成人の重度のうつ病に効果的であり、抗うつ薬と同じくらい効果的である可能性が示される。
- Hayesらによるアクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)に関する研究が進む。
2025年 (資料に記載された日付):
- 2025年3月12日 – 2025年3月22日: 資料「CT07 行動療法(Behavior Therapy)2025-3」が作成された期間。この資料は、行動療法の概要、基本概念(応用行動分析、新行動主義的媒介刺激-反応モデル、社会認知理論)、共通特性、第三の波(DBT、ACT)、他の心理療法との関係、歴史、パーソナリティ理論、異常行動の説明、学習理論の応用、行動の学習と社会認知理論、個人変数、行動分析 vs. 社会認知理論、心理療法の理論、心理療法のプロセス、評価方法、評価と治療技法、治療技法、認知再構成、自己主張訓練、行動リハーサルの指導、自己制御、現実生活での行動ベースの技法、治療の期間、マニュアル化された治療、行動療法の理論、認知的メカニズム、応用(不安障害、パニック障害、強迫性障害、PTSD、うつ病、摂食障害、統合失調症、小児の問題、行動医学、心血管疾患の予防と治療、その他の適用、広場恐怖症の治療例、治療の補完と再発予防、エビデンス、研究戦略、研究の効果、第三世代行動療法の研究、行動療法の有効性の研究、多文化社会における心理療法、メリッサの治療ケーススタディ)、行動療法の今後の課題について記述している。
主要登場人物と簡単な経歴
- G. テレンス・ウィルソン (G. Terence Wilson): 資料「CT07 行動療法(Behavior Therapy)2025-3」の冒頭に名前が記載されており、行動療法に関する知識の提供者であると考えられる。摂食障害などの研究で著名な心理学者である可能性が高い(資料内のケーススタディに関する言及などから推測)。
- B.F. スキナー (B. F. Skinner, 1904-1990): アメリカの心理学者。徹底的行動主義を提唱し、オペラント条件付けの原理を確立。応用行動分析の理論的基盤を築いた。
- イワン・パブロフ (Ivan Pavlov, 1849-1936): ロシアの生理学者。犬を用いた実験で古典的条件付けを発見。
- E.R. ガスリー (E.R. Guthrie, 1886-1959): アメリカの心理学者。行動主義の学習理論家の一人。
- クラーク・ハル (Clark Hull, 1884-1952): アメリカの心理学者。新行動主義の代表的な理論家で、刺激-反応(S-R)学習理論を提唱。
- O.H. モウラー (O.H. Mowrer, 1907-1982): アメリカの心理学者。二要因学習理論を提唱し、不安障害の理解に貢献。夜尿症の治療に条件付け原理を応用した。
- N.E. ミラー (N.E. Miller, 1909-2004): アメリカの心理学者。学習と生理的過程の研究、特にバイオフィードバックの分野で貢献。
- アルバート・バンデューラ (Albert Bandura, 1925-2021): カナダ生まれのアメリカの心理学者。社会的学習理論(後の社会認知理論)を提唱。観察学習(モデリング)や自己効力感の概念を提唱し、行動療法と認知療法の発展に大きな影響を与えた。
- ジョン・B・ワトソン (J. B. Watson, 1878-1958): アメリカの心理学者。初期の行動主義の提唱者。客観的な観察可能な行動を心理学の研究対象とすることを主張。
- E. L. ソーンダイク (E. L. Thorndike, 1874-1949): アメリカの心理学者。試行錯誤学習の研究を行い、効果の法則などを提唱。道具的条件付けの基礎を築いた。
- メアリー・カバー・ジョーンズ (Mary Cover Jones, 1897-1987): アメリカの心理学者。子どもの恐怖症に対する行動療法の初期の研究を行った。「行動療法の母」とも呼ばれる。
- ジョセフ・ウォルピ (Joseph Wolpe, 1915-1997): 南アフリカ生まれの精神科医・心理学者。相互抑制の原理に基づいた系統的脱感作法を開発し、行動療法の発展に大きく貢献。
- ハンス・アイゼンク (Hans J. Eysenck, 1916-1997): ドイツ生まれのイギリスの心理学者。特性理論を提唱し、性格と精神疾患の関係を研究。行動療法を現代学習理論の応用と定義した。
- アーノルド・ラザルス (Arnold Lazarus, 1932-2013): 南アフリカ生まれの心理学者。多重様式療法(Multimodal Therapy)を提唱。初期にはウォルピと共同研究を行った。
- スタンリー・ラックマン (Stanley Rachman, 1934-2020): 南アフリカ生まれのイギリスの心理学者。恐怖症や強迫性障害の研究で著名。アイゼンクと共同で行動療法の学術雑誌を創刊。
- マーシャ・ラインハン (Marsha M. Linehan, 1943-): アメリカの心理学者。境界性パーソナリティ障害(BPD)の治療のために弁証法的行動療法(DBT)を開発。
- スティーブン・ヘイズ (Steven C. Hayes, 1948-): アメリカの心理学者。アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)の創始者の一人。
- ロバート・フォレット (Robert Follette): 行動療法の「第三の波」の概念提唱者の一人。
- デビッド・クラーク (David Clark): イギリスの心理学者。パニック障害に対する認知行動療法の研究で著名。
- デビッド・バーロウ (David H. Barlow, 1942-): アメリカの心理学者。不安障害、特にパニック障害に対する認知行動療法の研究で著名。「パニックコントロール治療(PCT)」を開発。
- ゲイル・スタイン (Gail Steketee): 強迫性障害(OCD)の研究者。
- エドナ・フォア (Edna B. Foa, 1937-): イスラエル生まれのアメリカの心理学者。心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対する曝露療法の研究で著名。
- クリス・フェアバーン (Christopher G. Fairburn, 1956-): イギリスの精神科医。摂食障害、特に神経性過食症(BN)に対する認知行動療法の研究で著名。マニュアルベースのCBTを開発。
- G. アラン・マーラット (G. Alan Marlatt, 1941-2011): アメリカの心理学者。依存症の再発予防に関する研究で著名。
- ピーター・ルウィンソーン (Peter M. Lewinsohn, 1933-): ドイツ生まれのアメリカの心理学者。うつ病に対する行動療法の研究で著名。
- アーロン・ベック (Aaron T. Beck, 1921-2021): アメリカの精神科医・心理療法家。認知療法の創始者。資料内では認知再構成の技法の基礎として言及されている。
- アルバート・エリス (Albert Ellis, 1913-2007): アメリカの心理学者。論理情動行動療法(REBT)の創始者。資料内では認知再構成との関連で言及されている。
- ダレル・スミス (Darrell Smith): 1982年にアメリカの臨床心理士の理論的傾向を調査した人物。
- ジョン・ノルクロス (John C. Norcross): 1990年代に心理療法の未来に関する専門家の予測をまとめた人物の一人。
- ロバート・セイエット (Robert B. Sayette) と リン・メイヌ (Lynn S. Mayne): 1990年に心理学博士課程の教員の理論的傾向を調査した人物。
- アルフレッド・アドラー (Alfred Adler, 1870-1937): オーストリアの精神科医。個人心理学を提唱。「生き方の問題(problems of living)」という考え方が行動療法の概念と類似していると指摘されている。
- ジークムント・フロイト (Sigmund Freud, 1856-1939): オーストリアの精神科医。精神分析の創始者。行動療法との対比において、無意識の葛藤や症状置換の概念が言及されている。
- メアリー・メイネ (Mary E. Mayne): Sayetteとの共同研究者。
- アーノルド・レイザラス (Arnold Lazarus, 1932-2013): 資料内で、多重様式療法を提唱した人物として紹介されている。また、ウォルピの影響を受け、行動療法の発展に貢献した初期の人物の一人としても言及されている。
- Sloane et al. (1975): 精神分析療法に対する行動療法の批判である「症状置換」の主張を否定する研究を行った研究者たち。
- Mathews, Gelder, & Johnston (1981): 広場恐怖症の治療に関する研究を行い、個人への行動療法が夫婦関係や対人関係の改善も引き起こすことがあることを示した研究者たち。
- Kazdin & Wilson (1978): 行動療法の適用範囲に関する研究を行った研究者たち。
- Miranda, Bernal, Kohn, Hwang, & La Fromboise (2005): 行動療法が社会的・経済的に不利な立場にある少数派集団を含む多様な患者層に対しても有効であることを示した研究者たち。
- O’Leary & Wilson (1987): 行動療法と認知療法の比較、および自己効力感と行動予測に関する研究を行った研究者たち。
- Hollon & Beck (1994): 行動療法と認知療法の効果比較に関する研究を行った研究者たち。
- Hayes, Follette, & Linehan (2004): 行動療法の「第三の波」について論じた研究者たち。
- Lynne et al. (2009): 自傷行為(NSSI)とネガティブな感情の関係を研究し、DBTがその治療に有用であることを説明した研究者たち(リンチとコッツァ)。
- Campbell-Sills, Barlow, Brown, & Hofmann (2006): 経験回避に関する研究を行った研究者たち。
- Harvey, Watkins, Mansell, & Shafran (2004): 経験回避が多くの臨床障害に共通して見られることを示した研究者たち。
- Wiser & Telch (1999): マインドフルネスの「現在にとどまる」スキルを説明する際に、空を移動する雲を眺める例を挙げた研究者たち。
- Lynch & Koerner (2009): 自傷行為に関する研究を行った研究者たち(資料内ではリンチとコッツァとして言及されている可能性が高い)。
- Alberti & Emmons (2001): 自己主張訓練に関する書籍の著者。
- Margolin (1987): 行動的夫婦療法に関する研究者。
- Bandura (1998): 自己効力感に関する研究者。
- Yates (1980): バイオフィードバックに関する研究者。
- O’Leary & O’Leary (1977): 学校におけるトークン・エコノミーに関する研究者。
- Kazdin (1977): 精神科入院患者に対するトークン・エコノミーに関する研究者。
- Ross (1981): 夜尿症の行動療法に関する研究者。
- Schwartz & Weiss (1978): 行動医学の定義を示した研究者。
- Melamed & Siegel (1980): 入院や手術に対する子どもの恐怖に対する行動療法の研究者。
- McCrady, Epstein, Cook, Jensen, & Hildebrandt (2009): アルコール依存症に対する行動療法の研究者。
- Harned et al. (2008): 境界性パーソナリティ障害および薬物依存症のある自殺を考える成人に対する行動療法の研究者。
- Miller, Rathus, & Linehan (2007): 自殺を考える青少年に対する行動療法の研究者。
- Meichenbaum & Turk (1987): 医療治療への遵守を高めるための認知行動療法の研究者。
- Fairburn et al. (1993): 神経性過食症に対するCBTマニュアルの著者。
- Wilson (1998): マニュアル化された治療に関する研究者。
- Davison & Lazarus (1995): マニュアル化された治療への批判を行った研究者。
- Dawes (1994): 臨床判断の限界に関する研究者。
- Ayllon & Azrin (1965): トークン・エコノミーに関する初期の重要な研究を行った研究者。ABAデザインの研究例として言及されている。
- Mowrer (1947): 恐怖症治療の従来の理論(恐怖の消去学習)を提唱した研究者(O.H. Mowrerと同一人物の可能性が高い)。
- Agras & Wilson (2005): 行動療法における学習原理をまとめた研究者(G. テレンス・ウィルソンと同一人物の可能性が高い)。
- Paul (1966): 性格特性と治療効果の関連を調査した研究者。
- Bandura (1977, 1986): 代理学習と自己効力感に関する研究を行った研究者。
- Mischel (1968, 1973, 1981): 社会的学習理論、性格の状況依存性、行動予測に関する研究を行った研究者。
- O’Leary & Wilson (1987): 個人変数を考慮することの有効性を示唆した研究者。
- Risley & Sheldon-Wildgen (1982): 精神疾患を持つクライアントの治療目標設定に関する倫理的な問題を指摘した研究者。
- Stolz (1978) & Wilson & O’Leary (1980): 行動療法の専門家がクライアントの権利と尊厳を守るための手続きを確立していることを示した研究者。
- Rosen & Keefe (1978): 生理的記録を用いた性的興奮の評価方法について記述した研究者。
- Marks & Mathews (1979): 恐怖質問紙(Fear Questionnaire)の開発者。
- Beck (1979): ベックうつ病尺度(Beck Depression Inventory)の開発者(アーロン・ベックと同一人物)。
- Rathus (1973): Rathus自己主張尺度(Rathus Assertion Inventory)の開発者。
- Locke & Wallace (1959): Locke and Wallace結婚調整尺度(Marital Adjustment Inventory)の開発者。
- Lilienfeld, Lynn, & Lohr (2003): 投影法の信頼性の欠如を指摘した研究者。
- Ellis (資料内): 論理療法(REBT)の創始者(アルバート・エリスと同一人物)。
- Jacobson et al. (1996): CBTの要素分析を行い、行動活性化(BA)の重要性を指摘した研究者。
- Gortner, Gollan, Dobson, & Jacobson (1998): 行動活性化(BA)の長期的な効果を示した研究者。
- Dimidjian et al. (準備中): 行動活性化(BA)治療とフルCBTアプローチの比較研究を行った研究者。
- Lewinsohn, Clarke, Hops, & Andrews (1990): 思春期のうつ病に対するピーター・ルウィンソーンによるアプローチの効果を示した研究者。
- O’Leary & Beach (1990): 一極性うつ病に対する行動的夫婦療法の研究者。
- Dobson et al. (2008): 認知療法、行動活性化、抗うつ薬の治療効果を比較した研究者。
- Wilson, Grilo, & Vitousek (2007): 過食性障害(BED)に対するCBTの効果を研究した研究者(G. テレンス・ウィルソンと同一人物の可能性が高い)。
- Wadden, Butryn, & Byrne (2004): 肥満に対する行動的体重管理プログラムの効果を研究した研究者。
- Perri (1998): 肥満治療における体重減少と再増加のパターンを研究した研究者。
- Paul & Lentz (1977): 慢性精神病患者に対するトークン・エコノミーの効果を研究した研究者。
- Baxter et al. (1992): 強迫性障害の行動療法による脳機能の変化を研究した研究者。
- Craske, Brown, & Barlow (1991): パニックコントロール治療(PCT)の効果を示した研究者。
- Barlow, Gorman, Shear, & Woods (2000): CBTと薬物療法のパニック障害に対する効果を比較した研究者(デビッド・バーロウが著者の一人)。
- Craske et al. (2005): プライマリーケアにおけるCBTの導入効果を研究した研究者(ミシェル・クラスケが著者の一人)。
- Barlow (2002): 強迫性障害の行動療法の効果をまとめた研究者(デビッド・バーロウと同一人物)。
- Foa, Hembree, Cahill, Rauch, & Riggs (2005): PTSDに対する曝露療法の効果を研究した研究者(エドナ・フォアが筆頭著者)。
- DeRubeis, Brotman, & Gibbons (2005): CBTとうつ病治療薬の効果を比較した研究者。
- Hollon, Stewart, & Strunk (2006): うつ病治療におけるCBTの長期的な効果を研究した研究者。
- Miranda et al. (2005): 少数派グループにおけるCBTの効果を研究した研究者。
- Jacobson et al. (1996): CBTの要素分析を行い、行動活性化の重要性を指摘した研究者。
- Martell, Addis, & Jacobson (2001): うつ病に対する行動活性化(BA)治療に関する書籍の著者。
- O’Leary & Beach (1990): うつ病に対する行動的夫婦療法の研究者。
- Dobson et al. (2008): うつ病に対する認知療法、行動活性化、抗うつ薬の効果を比較した研究者。
- Wilson (1997, 2004): 摂食障害に関する研究者(G. テレンス・ウィルソンと同一人物の可能性が高い)。
- Wilson, Grilo, & Vitousek (2007): 過食性障害に対するCBTの効果を研究した研究者(G. テレンス・ウィルソンが著者の一人)。
- Wadden et al. (2004): 肥満に対する行動療法の効果を研究した研究者。
- Perri (1998): 肥満治療の維持に関する研究者。
- Paul & Lentz (1977): 統合失調症に対するトークン・エコノミーの効果を研究した研究者。
- Ross (1981): 小児の行動問題、特に夜尿症の治療に関する研究者。
- Schwartz & Weiss (1978): 行動医学の定義を示した研究者。
- Melamed & Siegel (1980): 子どもの医療処置に対する恐怖への行動療法の応用を研究した研究者。
- McCrady et al. (2009): アルコール依存症に対する行動療法の研究者。
- Harned et al. (2008): 自殺傾向のある成人に対するDBTの研究者。
- Miller, Rathus, & Linehan (2007): 自殺傾向のある青少年に対するDBTの研究者(ラインハンが著者の一人)。
- Meichenbaum & Turk (1987): 医療へのアドヒアランスを高めるためのCBTの研究者。
- Tanaka-Matsumi (2008): 多文化主義と実証的に支持された心理療法の関連について調査した研究者。
- Woody et al. (2005): 実証的に支持された治療法を特定した研究者。
- Lieb et al. (2004) & Linehan et al. (2006): 境界性パーソナリティ障害に対するDBTの効果を支持する研究を行った研究者(ラインハンが著者の一人)。
- Hayes et al. (2006): ACTの効果に関する研究を行った研究者(ヘイズが筆頭著者)。
- Roemer & Orsillo (2009): マインドフルネスと受容に基づいた行動療法に関する書籍の著者。
- Bond (2004): ストレスに対するACTのケースについて記述した著者。
- Craske & Barlow (2001): パニック障害と広場恐怖症に関する章の著者(クラスケとバーロウ)。
- Foa & Franklin (2001): 強迫性障害に関する章の著者(フォアとフランクリン)。
- Linehan, Cochran, & Kehrer (2001): 境界性パーソナリティ障害に対するDBTに関する章の著者(ラインハンが筆頭著者)。
- Wilson & Pike (2001): 摂食障害に関する章の著者(G. テレンス・ウィルソンとケリー・パイク)。
- Wolf, Risley, & Mees (1965): 自閉症の子供に対するオペラント条件付けの適用に関する古典的なケーススタディの著者。
- Wolpe (1991): 行動療法の創始者の一人による複雑なケースの治療法を記述した著者(ジョセフ・ウォルピ)。