認知行動療法における重要な概念であるスキーマ、自動思考、core beliefs(中核信念)について、解説します。
スキーマ
スキーマとは、私たちの心の中にある「物事の見方や解釈の枠組み」のことです。幼少期からの経験を通じて形成され、世界や自分自身、他者に対する基本的な考え方や信念のパターンを指します[1]。
スキーマは以下のような特徴を持っています:
- 長期的に形成される
- 安定していて変化しにくい
- 無意識のうちに働く
- 新しい情報の解釈や記憶に影響を与える
例えば、「世界は危険な場所だ」というスキーマを持っている人は、些細な出来事でも脅威と感じやすく、常に用心深く行動する傾向があります。
自動思考
自動思考は、ある状況に直面したときに、瞬間的に浮かぶ考えやイメージのことです[2]。これらは通常、意識せずに生じるため「自動」と呼ばれます。
自動思考の特徴:
- 素早く、自然に生じる
- 状況に対する即座の解釈や評価を含む
- 必ずしも現実的や合理的ではない
- 感情や行動に大きな影響を与える
例えば、テストの結果が思わしくなかった時に「自分は頭が悪いんだ」という自動思考が浮かぶかもしれません。
Core Beliefs(中核信念)
Core beliefsは、自分自身、他者、世界に対する最も根本的な信念や考え方のことです。これらは幼少期から形成され、私たちの思考や行動の基盤となっています[1]。
Core beliefsの特徴:
- 非常に強固で変化しにくい
- 普遍的で絶対的な信念として機能する
- 自動思考やスキーマの基礎となる
- しばしば意識されずに働く
例えば、「自分は価値のない人間だ」や「世界は公平だ」といった信念がcore beliefsに当たります。
スキーマ、自動思考、Core Beliefsの関係
これら3つの概念は、以下のように関連しています:
- Core beliefsは最も深層にあり、スキーマや自動思考の基盤となります。
- スキーマはcore beliefsに基づいて形成され、日常的な状況解釈の枠組みとなります。
- 自動思考は、特定の状況下でスキーマやcore beliefsが活性化されることで生じます。
例えば:
- Core belief: 「自分は失敗する人間だ」
- スキーマ: 「新しいことに挑戦するのは危険だ」
- 自動思考: (新しい課題を与えられて)「きっとうまくいかないだろう」
認知行動療法におけるアプローチ
認知行動療法では、これらの概念を理解し、不適応的な思考パターンを特定・修正することで、心理的問題の改善を目指します[1][2]。
主なアプローチ:
- 自動思考の特定と修正
- 状況、感情、自動思考を記録する
- 自動思考の妥当性を検証する
- より適応的な代替思考を見つける
- スキーマの修正
- 不適応的なスキーマを特定する
- スキーマの起源を探る
- 新しい経験を通じてスキーマを更新する
- Core beliefsの再構築
- 否定的なcore beliefsを特定する
- core beliefsを支持する・反駁する証拠を集める
- より適応的なcore beliefsを形成する
まとめ
認知行動療法では、スキーマ、自動思考、core beliefsという3つの層の思考パターンに注目します。これらは互いに関連し合い、私たちの感情や行動に大きな影響を与えています。
therapy(療法)の目標は、これらの思考パターンを意識し、より適応的なものに変えていくことです。そうすることで、ネガティブな感情や問題行動を減らし、より健康的で充実した生活を送ることができるようになります。
認知行動療法は、単に「前向きに考えよう」というだけではなく、科学的な方法で思考パターンを分析し、具体的な技法を用いて変化を促します。この過程で、自己理解が深まり、人生の様々な課題に対処する力が身につくのです。
Citations:
[1] https://www.heartfullife.jp/cbt/schema-therapy/
[2] https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/04.pdf
[3] https://www.kwansei.ac.jp/cms/kwansei_i_industrial/2021/pdf/ronsyu48-kato.pdf
[4] https://terapi.jp/column/automatic-thoughts-improvement/
[5] https://utsumi-mcl.com/cbt/ct.html
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スキーマ療法には、以下のような具体的な実践テクニックがあります:
- スキーマの特定と評価
- スキーマ質問票を用いて、クライアントの不適応的スキーマを特定します。
- ライフヒストリーの聴取を通じて、スキーマの起源を探ります。
- 認知的技法
- スキーマの妥当性を検証するために、証拠の吟味を行います。
- より適応的な新しい見方を見出すために、認知的再構成を行います。
- 経験的技法
- イメージ rescripting: トラウマ的な記憶を想起し、新たな結末を想像します。
- チェアワーク: 空の椅子を用いて、健康的な大人の自分と傷ついた子どもの自分との対話を行います。
- 行動的技法
- 行動実験: 新しい適応的行動を試し、スキーマに反する経験を積みます。
- 段階的曝露: 恐れている状況に徐々に向き合います。
- 対人関係的技法
- 制限的再養育: セラピストが健康的な親のモデルとなり、クライアントの情緒的ニーズを満たします。
- 関係性のパターンの分析と修正を行います。
- モード・アプローチ
- 様々な自己モードを特定し、健康的な大人モードを強化します。
- モード対話を通じて、不適応的なモード間の葛藤解決を図ります。
- セルフケアの促進
- リラクセーション法や自己慰撫のスキルを学びます。
- 健康的な生活習慣の確立を支援します。
これらのテクニックを組み合わせて用いることで、クライアントの不適応的スキーマの修正と、より健康的な対処方法の獲得を目指します。セラピストは、クライアントの個別のニーズに合わせてこれらの技法をカスタマイズし、段階的に適用していきます。
Citations:
[1] https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC9306742/
[2] https://www.apa.org/pubs/videos/core-conflictual-relationship-theme-method
[3] https://en.wikipedia.org/wiki/Core_conflictual_relationship_theme
[4] https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32252696/
[5] https://nikhelbig.at/research-core-conflictual-relationship-theme-method-ccrt/