フリストン(Karl Friston)とフリス(Chris Frith)は、統合失調症(SCZ)を「不連続症候群(disconnectivity syndrome)」と考える理論を提唱しています。この理論は、脳内の異なる領域間の連携や接続に問題が生じることが統合失調症の主な原因であるとしています。以下に、フリストンとフリスの理論の主要なポイントをわかりやすく説明します。
1. 不連続症候群の基本概念
- 脳のネットワークモデル: フリストンとフリスは、脳を多くの相互接続されたネットワークとして捉えています。これらのネットワークは、情報を伝達し、統合するために連携して機能します。
- 統合失調症の特徴: 統合失調症は、このネットワーク間の連携がうまくいかなくなる「不連続」が特徴です。つまり、脳の異なる領域が正しく連携できず、情報の伝達や統合が阻害されるという考え方です。
2. 予測コーディング理論
- 予測コーディング: フリストンは、脳が常に外界の情報を予測し、その予測を更新することで機能していると考えます。この予測と実際の情報との誤差を最小限に抑える仕組みが「予測コーディング」です。
- 統合失調症における予測エラー: 統合失調症では、予測と実際の情報との誤差(予測エラー)が正しく処理されないことが多いです。これにより、誤った認識や幻覚、妄想が生じるとされています。
3. 統合失調症における脳ネットワークの異常
- 機能的接続の乱れ: 統合失調症患者の脳では、異なる領域間の機能的接続が乱れています。これは、脳波(EEG)や機能的磁気共鳴画像法(fMRI)による研究で確認されています。
- ネットワークの分離: 特にデフォルトモードネットワーク(DMN)やサリエンスネットワーク(SN)などの重要なネットワーク間の連携が不十分であることが示されています。
4. 理論の意義と臨床的応用
- 診断と治療: この理論は、統合失調症の診断や治療に新たな視点を提供します。機能的接続の乱れをターゲットとした治療法の開発が期待されています。
- 個別化医療: 脳のネットワークモデルを用いることで、個々の患者に適した個別化医療の実現が可能になると考えられます。
まとめ
フリストンとフリスの理論は、統合失調症を脳のネットワーク間の連携の問題として捉えることで、従来の脳の局所的な異常に焦点を当てるアプローチとは異なる視点を提供します。この「不連続症候群」の考え方は、統合失調症の理解を深め、新しい診断法や治療法の開発に貢献しています。
フリストンとフリスによる統合失調症の不連続症候群(disconnectivity syndrome)についての代表的な論文は「Schizophrenia: a disconnection syndrome?」です。この論文は、1995年に『Clinical Neuroscience』に掲載されました。彼らの理論は、統合失調症が脳内の異常な接続(disconnectivity)によって引き起こされるとするもので、特に前頭前野と他の脳領域の機能的な結びつきの障害が症状の一因であるとしています。この理論は、脳の異常な接続パターンが幻覚や妄想などの症状を引き起こすというもので、多くの神経科学研究に影響を与えています。