はじめに
双極性障害(BD)はクレペリンが提唱した躁うつ病に由来しますが、統合失調症(SZ)と共通する現象も多く、鑑別診断が難しいことがあります。クレペリンは140年前に「躁うつ病」と「早発性痴呆」を区別しましたが、両者を単一のスペクトラムとする見解も提唱されています。それにもかかわらず、SZとBDは個別の障害であり、異なる治療が必要です。このレビューでは、SZとBDを区別する証拠を探ります【36:1†source】。
方法
本研究は、PubMedとGoogle Scholarで「genetic differences」「neurobiological differences」「clinical differences」などの検索語を用いて、SZとBDの共通点と相違点に関するシステマティックレビューを行いました。2023年6月30日に初回の検索を行い、54件の適格な論文を選びました【36:2†source】【36:5†source】。
結果
疫学とリスク要因
SZの生涯有病率は約1%で、遺伝的素因だけでなく都市生活、貧困、幼少期のトラウマなどのエピジェネティックなリスク要因も関連します。SZは思春期後期に発症することが多く、遺伝的素因は生涯にわたり影響し続けます。一卵性双生児の一致率は33%であり、遺伝だけでなく環境要因も重要です【36:3†source】。
BDは、抑うつ、混合、躁または軽躁のエピソードを特徴とします。DSM-5やICD-11の診断基準に基づきますが、抑うつエピソードが主な負担となります。BDも遺伝的素因と環境要因が関与し、特に幼少期のトラウマが影響します【36:3†source】。
遺伝的データ
SZとBDの遺伝的相関は明白ですが、SZではコピー数変異(CNV)や希少変異がより重要であり、BDでは多くの遺伝子座が関与します。iPSC技術を用いた研究が進展しており、遺伝的リスクアレルの機能特性解明に寄与しています【36:3†source】。
神経画像データ
SZとBDを区別する神経画像研究は、微細な差異を示していますが、明確な一意の所見はありません。発症年齢の一致も必ずしも単一の障害を示すものではありません【36:3†source】。
認知機能
SZとBDの認知機能には異なるプロファイルがあり、特に前駆的な知的機能と実行機能において差異があります。認知機能の低下はSZでは進行性であり、BDではエピソード間の回復が見られることが多いです【36:3†source】。
議論
SZとBDは重篤な脳障害であり、共通点も多いが、異なる治療が必要です。環境ストレッサーは両障害の発症と再発を引き起こし、エピジェネティックな変化を促進します。SZとBDは、現在の診断ツールや遺伝的・臨床データでは完全には区別できない場合もあります【36:4†source】。
結論
本レビューは、SZとBDが独立した障害であることを支持する多くの証拠を提供しますが、一部の患者では現在の診断ツールやデータでは十分ではない場合があります。今後の研究では、SZとBDの個別治療を最適化するためのさらなる差異の解明が求められます【36:5†source】。
この要約は、SZとBDに関する主要なポイントを含んでいますが、詳細な情報を理解するためには原文を参照することをお勧めします。
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概要
この論文は、統合失調症と双極性障害が連続体の一部なのか、それとも異なる疾患なのかという疑問を呈し、遺伝学、神経画像、認知、臨床経過における共通点と相違点を分析し、この問題に取り組んでいます。統合失調症と双極性障害の両方が遺伝的素因と環境要因の複雑な相互作用によって起こる重度の精神疾患であることを示唆するエビデンスをレビューしています。著者は、これらの疾患を区別する明確な境界を裏付ける証拠を強調していますが、重複する部分も認めています。結論として、統合失調症と双極性障害が連続体の一部なのか、それとも独立した疾患なのかという疑問は、さらなる研究が必要な課題として残されています。現在のエビデンスは別個の疾患であることを支持していますが、診断の不確実性を克服するために、将来的にはビッグデータに基づく人工知能の応用が考えられます。
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統合失調症と双極性障害の診断における主な課題は、両方の障害に症状や神経生物学的所見が重複していることです1。統合失調症と双極性障害は 130 年以上にわたって別々の障害として研究されてきましたが、明確な診断と治療計画の策定が難しいグレーゾーンが常に存在してきました2。
統合失調症と双極性障害の診断における主な課題を以下に示します。
●症状の重複: 統合失調症と双極性障害は、気分や陽性症状など、さまざまな領域で共通の症状がみられます3。しかし、急性症状のみに焦点を当てると、医師は誤った方向に導かれる可能性があります4。
●明確なバイオマーカーがない: 神経画像検査は診断の不確実性を解消するものではありません5。神経画像検査では、障害間の微妙な違いが裏付けられていますが、統合失調症と双極性障害を明確に区別するものはまだ見つかっていません5。
●疾患経過の理解の難しさ: 統合失調症と双極性障害を区別する上で最も重要な基準の 1 つは、疾患の経過です4。しかし、病歴がない場合、最初のエピソードを遡って分析することは困難な場合があります3。
これらの課題を克服するために、臨床医は疾患の経過、認知機能、遺伝学的および環境的要因など、幅広い要因を考慮する必要があります56。また、ビッグデータと人工知能を用いることで、診断の精度を高め、より効果的な治療法を開発できる可能性があります7。
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統合失調症と双極性障害は、どちらも脳に影響を与える深刻な病気ですが、区別できる異なる病気であるというエビデンスが増えています。 これらの病気は、遺伝学、神経画像、認知機能、臨床経過において共通点があるものの、主な違いは次のとおりです。
- 臨床経過: 統合失調症と双極性障害を区別する最も重要な基準の1つは、病気の経過です。 統合失調症は通常、青年期後半に始まり、持続的な機能障害を伴います。 一方、双極性障害は、うつ病、混合状態、躁病または軽躁病のエピソードが交互に起こるのが特徴で、通常15歳から30歳の間に発症します。
- 遺伝学: 統合失調症と双極性障害はどちらも遺伝率が高いですが、遺伝的構造が異なります。 ゲノムワイド関連解析(GWAS)では、統合失調症のリスクに関連するSNPと、双極性障害のリスクに関連するSNPがいくつか特定されており、一部は重複しています。 ただし、コピー数多型(CNV)やシーケンシングで特定されるまれな多型は、双極性障害よりも統合失調症の遺伝的構造においてはるかに重要な役割を果たしているようです。
- 神経画像: 神経画像検査では、統合失調症と双極性障害の両方に共通する脳の異常が明らかになっていますが、微妙な違いもあります。 たとえば、統合失調症では海馬の体積減少が観察されていますが、双極性障害では観察されていません。 逆に、双極性障害では前帯状皮質の灰白質の減少が見られますが、統合失調症では見られません。
- 認知機能: 統合失調症と双極性障害はどちらも認知機能障害を特徴としていますが、その程度と経過は異なります。 統合失調症では、認知機能障害は通常、精神病の発症に先行して、人生の早い段階(多くの場合、小児期/青年期)に現れます。 一方、双極性障害の認知機能障害は、通常、成人期後期まで、長年にわたる気分エピソードの再発後に現れません。 また、統合失調症の認知機能障害は、一般的に双極性障害よりも重度で広範囲に及びます。
- 症状: 統合失調症と双極性障害は多くの症状を共有していますが、病気の経過を詳しく調べることで鑑別診断を行うことができます。 ただし、医学的背景に関する情報がない場合は、最初のエピソードを遡って分析することが困難な場合があります。 統合失調症は、陽性症状(妄想、幻覚、思考障害など)、陰性症状(感情鈍麻、意欲減退、思考の貧困など)、認知機能障害を特徴としています。 双極性障害は、躁病エピソード(気分の高揚、活動過多、睡眠不足、判断力の低下など)とうつ病エピソード(気分の落ち込み、興味・喜びの喪失、疲労感、集中力の低下など)を特徴としています。 統合失調症と双極性障害の両方で精神病症状が現れることがあるため、鑑別診断が困難になる可能性があります。 ただし、統合失調症の精神病症状は通常、より持続的で重度です。
結論として、統合失調症と双極性障害は異なる病気であり、それぞれ異なる治療アプローチが必要です。
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統合失調症と双極性障害はどちらも、様々な認知領域に影響を与える認知機能障害を特徴としていますが、初期症状における共通点については、まだ解明されていません。情報源は、統合失調症における認知障害は、精神病の発症に先行して、しばしば小児期や青年期に早くから現れ、疾患の初期段階で顕著になることを示唆しています。対照的に、双極性障害の認知障害は、通常、成人期後期まで、長年の気分エピソードの再発後に現れません。 しかし、情報源はまた、双極性障害の初期段階における認知機能障害の経過に関する証拠はまだ乏しく、一貫性がないことにも言及しています。 さらに、情報源は、双極性障害が認知の安定性を特徴とするか、発症後の進行を特徴とするかは不明であると述べています。 したがって、統合失調症と双極性障害の初期症状における認知機能障害の共通点を明確に説明するには、さらなる研究が必要です。
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統合失調症と双極性障害は、どちらも脳に影響を与える病気ですが、脳の構造変化には共通点と相違点があります。
- 統合失調症と双極性障害はどちらも、脳の特定の領域の灰白質の減少と関連付けられています。
- 統合失調症と双極性障害の両方において、海馬は、脳の他のどの皮質下構造よりも体積の減少が大きいことが報告されています。 統合失調症と双極性障害における海馬のサブフィールドの異常を調べた21件のMRI研究の系統的レビューとメタアナリシスでも、この結果は裏付けられています。
- 統合失調症と双極性障害の両方で、脳梁の白質体積と異方性の低下が見られます。
統合失調症と双極性障害の脳構造変化における類似点にもかかわらず、両者を区別する明確な神経画像検査の所見はありません。 脳の構造変化の正確なパターンは、個人によって異なる可能性があり、これらの疾患の診断に神経画像検査を使用することは信頼できません。