Schizophrenia: an integrated sociodevelopmental-cognitive model Oliver D Howes 2014

統合された社会発達・認知モデルに基づく統合失調症

概要

統合失調症は大きな負担となっている疾患です。これまで、ドーパミン仮説や神経発達仮説が病因を説明しようとしましたが、完全には解明されていません。最近、認知モデルが注目されていますが、このモデルもドーパミンや神経発達について言及していません。本研究では、遺伝的変異や幼少期の脳への危険がドーパミン系を過敏にし、過剰なドーパミン合成と放出を引き起こすことを示します。社会的逆境が認知スキーマに偏りを生じさせ、その結果、パラノイアや幻覚が引き起こされ、最終的には精神病的信念が硬化します。

統合失調症の臨床的特徴

統合失調症は人口の約1%に影響を及ぼし、世界での健康負担のトップ10の原因の一つです。臨床的には、精神病(陽性症状)と陰性症状、認知障害が特徴です。患者は幼少期に認知、社会、運動の微妙な障害を示し、思春期・若年成人期に不安や気分の落ち込み、社会的引きこもりを経験します。その後、初回の精神病エピソードが出現します。抗精神病薬は精神病を治療し、再発リスクを減少させますが、他の症状にはほとんど効果がなく、副作用も問題です。

ドーパミンの機能不全

ドーパミン仮説は、抗精神病薬がドーパミンD2/3受容体をブロックし、ドーパミン系を活性化する薬物(アンフェタミンなど)が精神病症状を引き起こすことに基づいています。しかし、分子イメージング研究のメタアナリシスでは、D2/3受容体の利用可能性の変化は一貫しておらず、むしろ前シナプスのドーパミン合成能力の増加、ドーパミン放出の増加、基底シナプスドーパミンレベルの増加が確認されています。

神経発達仮説

神経発達仮説は、出生前後の危険と統合失調症との関連性、発症前の子供たちに見られる発達上の異常、発症時に見られる構造的脳欠損に基づいています。出生時の低体重や帝王切開、低酸素症、感染症などがリスクを高めるとされています。発症前には認知、社会、運動の問題が見られ、構造的脳変化も確認されています。

発達上の障害がドーパミン系に与える影響

発達期の障害は、成人期においても持続し、ドーパミン合成能力の増加やドーパミン放出の増加を引き起こします。例えば、出生前の炎症にさらされた動物は、成人期にドーパミンレベルの増加やアンフェタミンへの反応性の増加を示します。

社会的リスク要因

移民や都市での生活、幼少期の逆境(親の喪失や虐待)なども統合失調症のリスクを高めます。都市生活はストレス課題に対する脳の反応を強めることが示されています。

社会的ストレスがドーパミンに与える影響

社会的孤立は慢性的なストレス因子であり、ストレスに対するドーパミンの放出を増加させます。例えば、社会的不安定や社会的敗北は、アンフェタミンへの感受性を高め、ドーパミン放出を増加させます。

ドーパミン系の感受性と感作

ドーパミン系は薬物やストレスに対する感作を示し、これは後の挑戦に対する反応を増強させます。例えば、出生前の炎症にさらされた動物は、アンフェタミンへの感作が強まり、その後のストレスに対するドーパミン放出も増加します。

遺伝、神経発達、ドーパミン系

統合失調症の遺伝的要因は多くの変数を含みますが、遺伝と環境の相互作用が重要です。ドーパミン関連遺伝子(ドーパミン受容体やCOMT遺伝子など)は多く研究されていますが、その影響は一貫していません。前シナプスのドーパミン合成や放出に関わる遺伝子に関する研究はまだ少ないです。

結論

本研究では、統合失調症の発症と経過を理解するために、社会的、発達的、認知的な要因がどのように相互作用するかを示しています。ドーパミン系の機能不全、神経発達の影響、社会的ストレスの影響が統合失調症の病因に重要な役割を果たしていることが明らかになりました。

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統合された社会発達-認知モデルによる統合失調症:文献レビュー

目次

Schizophrenia: an integrated sociodevelopmental-cognitive model

  • Oliver D Howes, BM BCh, MA, MRCPsych, PhD, DM1 and Robin M Murray, FRS, FRCPsych
  • 序論:統合失調症の謎と課題統合失調症の有病率、症状、疾患経過、治療法、既存の仮説の概要を説明する。ドーパミンや神経発達、認知バイアスが統合失調症に関係していることを示唆する。
  • 統合失調症におけるドーパミン機能障害ドーパミン仮説の根拠となる研究結果をまとめ、統合失調症におけるシナプス前ドーパミン合成と放出の亢進を示唆する分子イメージング研究を紹介する。
  • 統合失調症と他の精神疾患におけるドーパミン機能障害の特異性と精神病との関連性統合失調症におけるドーパミン機能障害の特異性、統合失調症の診断におけるドーパミン機能障害の潜在的な有用性、統合失調症のリスクのある個人におけるドーパミン機能障害に関する研究を考察する。
  • 神経発達仮説神経発達仮説の根拠となる証拠をまとめ、出生前後の危険因子、発達障害のマーカー、統合失調症の発症時における構造的脳変化に関する研究を紹介する。
  • ドーパミン系への発達障害の影響動物を用いた研究で、子期における炎症性刺激、出生時仮死、帝王切開などの発達障害が、成体期のドーパミン系に持続的な変化をもたらすことを示す。
  • 社会的危険因子移民、都市部での生活、小児期の逆境などの社会的要因が統合失調症のリスクを高めること、これらの要因がストレス反応に長期的な影響を与える可能性があることを説明する。
  • 線条体ドーパミンへの社会的ストレスの影響動物を用いた研究で、社会的隔離や急性ストレスが線条体におけるドーパミン伝達を活性化し、ドーパミン放出とドーパミン合成を増加させることを示す。統合失調症患者やそのリスクのある人は、心理社会的ストレスに対するドーパミン反応が亢進していることを示す研究を紹介する。
  • ドーパミン系の感受性と感作環境的障害に対するドーパミン系の感受性、ドーパミン系の感作(反復刺激に対する反応の増幅)、相互感作(過去の課題への曝露が、その後の異なる課題に対するドーパミン反応を亢進させること)について説明する。
  • 遺伝子、神経発達、ドーパミン系統合失調症における遺伝子の役割、統合失調症のリスクに関係する神経発達プロセスに関与する遺伝子(ニューレグリン1、DISC1、TCF4、mir137、ニューログラニン、ニューレキシン1など)、コピー数多型(CNV)と統合失調症のリスクとの関連、ドーパミン系に影響を与える遺伝子変異に関する証拠を論じる。
  • シナプス後ドーパミンシグナル伝達シナプス後ドーパミンシグナル伝達の可能な役割、統合失調症におけるシナプス後ドーパミンシグナル伝達に関与する遺伝子変異やタンパク質発現の変化(AKT1、GSK-3β、DARPP-32など)に関する研究を検討する。
  • 認知理論とドーパミン機能障害との関連統合失調症の症状を説明しようとする認知モデル、社会的逆境が脅威的な世界観や認知バイアスの形成につながるという仮説、ストレスが異常な意識体験を引き起こし、認知バイアスによって妄想的解釈が生じるという仮説を説明する。
  • 状態から特性へ:統合された社会発達モデル社会発達-認知モデルを提案し、遺伝的脆弱性、神経発達障害、社会的逆境、ドーパミン機能障害、認知バイアス、ストレスの相互作用が統合失調症の発症と経過にどのように寄与するかを概説する。
  • 強みと限界モデルを支持する証拠をまとめ、神経発達的および社会発達的リスク因子と統合失調症の関連性、統合失調症におけるシナプス前ドーパミン機能障害を強調する。また、モデルの限界、特に環境的リスク因子とドーパミン機能障害との関連性に関するヒトでの証拠の限界を認める。
  • 意義と今後の展望モデルの意義、統合失調症の予防と治療のための新たな標的を強調する。ドーパミン機能の発生軌跡、ドーパミン系に影響を与える遺伝子と環境リスク因子との相互作用、神経発達とドーパミン系に対するその後の社会的影響との相互作用、認知スキーマの役割を理解するためのさらなる研究の必要性を強調する。

結論

本レビュー論文は、統合失調症の病因に関する既存の研究を包括的に概観し、ドーパミン、神経発達、社会発達、認知理論を統合した新しいモデルを提案している。このモデルは、統合失調症の複雑な性質を理解するための貴重な枠組みを提供し、将来の研究の方向性を示唆し、より効果的な予防・介入戦略の開発に役立つ可能性がある。

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既存の研究に基づいて、統合失調症の病因について以下の5つの主な理論やモデルが考えられます:

1. ドーパミン仮説

ドーパミン仮説は、統合失調症がドーパミン神経伝達物質の異常によって引き起こされるという理論です。この仮説では、特に前シナプスのドーパミン合成と放出能力の異常が強調されています【14:1†source】。ドーパミンシステムの調整異常は、報酬学習の障害や動機付けの減少などを引き起こし、これが陰性症状や無気力を説明する可能性があります【14:3†source】。

2. 神経発達仮説

神経発達仮説は、統合失調症が脳の発達過程における遺伝的および環境的要因の相互作用によって引き起こされるという理論です。このモデルでは、neuregulin1やDISC1などの遺伝子が発達プロセスに影響を与えることが示されています【14:1†source】。さらに、神経発達過程における遺伝子調整が統合失調症のリスクに影響を与えることが提案されています【14:2†source】。

3. 社会発達モデル

社会発達モデルでは、社会的逆境やストレスが統合失調症の発症に重要な役割を果たすとされています。ストレスや社会的な不利な状況がドーパミンシステムを感作させ、異常なドーパミン放出を引き起こし、それがさらにストレスを増加させるという悪循環が形成されると考えられています【14:3†source】。

4. 認知理論

認知理論は、統合失調症の症状が認知機能の障害や異常な信念体系によって説明されるというものです。ドーパミンシステムの異常が認知スキーマを歪め、経験を解釈する際に精神病的な解釈を引き起こすとされています【14:3†source】。

5. 統合モデル

統合モデルは、ドーパミン仮説、神経発達仮説、社会発達仮説、および認知理論を統合したものです。このモデルでは、遺伝的要因、環境的リスク、および社会的逆境が相互作用し、ドーパミンシステムの異常とそれによる認知および行動の障害を引き起こすとされています【14:3†source】。

これらの理論やモデルは、それぞれが統合失調症の異なる側面を説明するものであり、病因の理解には多角的なアプローチが必要とされています。

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