心理療法の効果に関する論文のなかにドードー鳥評決,という言葉が使われることがあります。心理療法には共通の要因がある,ということを述べる論文で使われています。
このドードー鳥は現存しません。モーリシャス島で 17 世紀末に絶滅した鳥なのですが,ルイス・キャロルが『不思議の国のアリス』(1865)に登場させたため,現在でも名を知られているのです。
『不思議の国のアリス』の第 3章。ずぶぬれになったさまざまな動物たちが身体を乾かすために競走をします。勝った人に賞品が出ることになっていました。レースは混乱してしまいます。終了後誰が勝ったのでしょうか。ドードー鳥は皆の身体が乾いた頃にストップをかけてこう言いました。「みんなが勝った。だから全員が賞品
をもらえる」と。
P-F スタディの開発者として有名なアメリカの臨床心理学者ローゼンツヴァイク(1907-2004)は心理療法の効
果に関する研究を概観して,心理療法の効果には潜在的な共通要因が大きいと提唱しました(1936)。彼はルイス・キャロルの熱烈なファンだったことからドードー鳥のセリフを副題に使うことにしたのです(Duncan, 2002 の本人インタビューより)。
イギリスの心理学者アイゼンク(1916-97)は『心理療法の効果』という論文を 1952 年に発表しました。アイゼンクによれば,心理療法を受けた神経症の人は 2年以内にその 3 分の 2 が改善したことは認められるといいます。しかし,彼は同時に,心理療法を受けなかった人でさえも 2 年以内に同程度の改善がある,と指摘したのです。心理療法に効果がないとは言わないが,何もしないときと同じではないか,との主張は問題を巻き起こし,心理療法の効果とは何か,効果を比較したり検証したりする方法はどうすればいいか,ということが検討されはじめます。
アメリカの臨床心理学者ルボースキィ(?-2009)らは 100 ほどの心理療法の効果に関する研究をレビューして,心理療法に効果があるとする仮説は有効だと論じました(1975)。その時の論文の副題は「最後にドードー鳥が“みんなが勝って全員が賞をもらう”って本当?」です。この論文以降,心理療法の効果を論じるときにドードー鳥の登場が増えていきます。ドードー鳥の「評決・推論・仮説・効果」などはいずれも心理療法の効果に共通要因を認める考え方のことを指しています。
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文 献
Duncan, B.L.(2002)The founder of common factors: a conversation with SAUL ROSENZWEIG. Journal of Psychotherapy Integration, 12, 10-31.
Luborsky, L., Singer, B. & Luborsky, L.(1975)Comparative studies of psychotherapies: Is it true that “Everyonehas won and all must have prizes” ?Archives of General Psychiatry, 32,995-1008.
Rosenzweig, S.(1936)Some implicit common factors in diverse methods of psychotherapy: “at last the Dodo said,‘Everybody has won and all must have prizes.’”American Journal of Orthopsychiatry, 6, 412-415.