GAF(機能の全体的評定)尺度 「WHODAS 2.0(世界健康機能評価表)」

GAF(機能の全体的評定)尺度とは?

GAF(Global Assessment of Functioning、機能の全体的評定)尺度は、精神科や心理学の領域で使われる評価ツールの一つです。これは、個人がどの程度の日常生活を送れているか、社会的な役割を果たしているか、精神的な健康状態がどれだけ安定しているかを評価するために使われます。GAF尺度は、0から100までの数字で表され、数字が高いほど、機能が良好であることを示します。

GAF尺度の理論的背景

GAF尺度は、精神的な健康状態を包括的に評価するためのツールとして開発されました。特に、個々の患者の精神状態を一つの数字で表すことができるため、治療の進展を追跡するのに便利です。

GAFのスコアは、以下の3つの要素を評価します:

  1. 心理的な機能:感情や思考の安定性、現実検討力など。
  2. 社会的な機能:家族や友人、職場などでの人間関係の維持能力。
  3. 職業的な機能:学校や仕事での役割を果たす能力。

GAF尺度の歴史

GAF尺度は、1980年代にアメリカ精神医学会(APA)が発表したDSM-III(精神疾患の診断と統計マニュアル第3版)に初めて導入されました。この尺度は、臨床医が患者の全体的な機能を評価し、それを基に診断や治療計画を立てるために使用されました。

その後、1994年に発表されたDSM-IVにおいてもGAF尺度が引き続き使用されました。しかし、DSM-5(2013年)では、GAF尺度が廃止され、新しい評価方法が導入されました。GAFが廃止された理由の一つは、その評価が主観的であり、臨床医によって結果が異なる可能性が高いという批判があったからです。

GAF尺度の応用

GAF尺度は、患者の治療経過をモニタリングするために広く使用されていました。例えば、入院中の患者が退院する際に、その人がどの程度の日常生活を送れる状態になっているかを判断するために使われました。また、GAFスコアが低い場合、その患者はより集中的な治療が必要とされる可能性が高いと判断されました。

GAF尺度は、スコアによって以下のように分類されます:

  • 91-100: 優れた機能を示し、ストレスの影響をほとんど受けない。
  • 81-90: 軽度の不安やストレスを感じることはあるが、全体的には良好な機能を維持している。
  • 71-80: 一時的なストレスがあるが、社会的にも職業的にも問題はない。
  • 61-70: 一部の症状や問題があるが、全体的には良好な機能を示している。
  • 51-60: 中等度の症状や社会的、職業的な機能の障害が見られる。
  • 41-50: 重度の症状や機能障害があり、日常生活に大きな支障がある。
  • 31-40: 行動が現実から逸脱し、日常生活がほとんど機能していない。
  • 21-30: 幻覚や妄想が頻繁に現れ、自傷行為や他害行為のリスクが高い。
  • 11-20: ほとんどの時間を現実から離れて過ごし、生活能力が極端に低い。
  • 1-10: 危険な行動が見られるか、生活維持が不可能な状態。
  • 0: 評価不能。

GAF尺度の利点と欠点

利点:

  • シンプルで使いやすい:スコアリングが簡単で、どの臨床医でも比較的一貫した評価が可能です。
  • 治療の進捗が分かりやすい:患者の状態が改善しているかどうかを一目で確認できます。

欠点:

  • 主観性が高い:評価者の経験や観点に依存するため、同じ患者でも異なるスコアがつくことがあります。
  • 一部の症状を過小評価する可能性:スコアが全体的な機能を評価するため、特定の症状の深刻さが見逃されることがあります。

GAF尺度の廃止とその後

2013年にDSM-5が発表された際、GAF尺度は廃止されました。その代わりに、WHO(世界保健機関)が開発した「WHODAS 2.0(世界健康機能評価表)」が採用されました。WHODAS 2.0は、身体的、心理的、社会的な機能をより詳細に評価するツールで、より客観的なデータを提供できるとされています。

結論

GAF尺度は、精神科医療において一時期非常に有用なツールとして使用されましたが、その限界も明らかになり、現在ではより客観的で包括的な評価ツールに置き換えられています。しかし、GAF尺度の考え方は、精神医療の進展に重要な役割を果たしており、過去の臨床経験を理解する上で非常に価値があります。

WHODAS 2.0(世界健康機能評価表)とは?

WHODAS 2.0(World Health Organization Disability Assessment Schedule 2.0)は、WHO(世界保健機関)が開発した評価ツールで、個人がどの程度日常生活を送ることができるか、また社会的・職業的な役割を果たす能力がどの程度あるかを評価するために使用されます。これは、身体的・精神的障害がどれだけ日常生活に影響を与えているかを測定するためのツールです。

WHODAS 2.0の理論的背景

WHODAS 2.0は、ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health、国際生活機能分類)に基づいています。ICFは、個人の健康状態を「機能」と「障害」、「活動」と「参加」という観点から包括的に評価するための枠組みを提供します。WHODAS 2.0は、このICFの概念を具体的な評価ツールに落とし込んだものです。

WHODAS 2.0の構成と評価法

WHODAS 2.0は、36項目の質問から構成されており、6つのドメイン(領域)に分かれています。それぞれのドメインは、個人がどのような活動や役割をどの程度果たしているかを評価します。

  1. 認知(Understanding and Communicating): 理解力やコミュニケーション能力に関する評価。
  • 例: 他人の話を理解する、意思を伝える。
  1. 移動(Mobility): 身体の移動能力に関する評価。
  • 例: 歩行、座る・立つ、階段を上る。
  1. セルフケア(Self-care): 自分自身の世話をする能力に関する評価。
  • 例: 身だしなみ、入浴、食事を摂る。
  1. 日常生活活動(Getting along with people): 他者との関係や家庭内での役割に関する評価。
  • 例: 家族や友人と交流する、家庭内での役割を果たす。
  1. 社会参加(Life activities): 仕事や学校、コミュニティでの役割に関する評価。
  • 例: 仕事や勉強を行う、社会活動に参加する。
  1. 日常活動(Participation in society): 社会参加全般における困難さの評価。
  • 例: 社会的な活動に参加する、社会的な役割を果たす。

WHODAS 2.0の評価方法

WHODAS 2.0は、自己評価形式で行われることが一般的ですが、他者による評価やインタビュー形式でも実施可能です。各質問に対して、過去30日間にどの程度困難があったかを5段階で評価します。

  • 0: 困難なし
  • 1: 軽度の困難
  • 2: 中等度の困難
  • 3: 重度の困難
  • 4: 極度の困難またはできない

各ドメインの評価を合計し、全体のスコアを算出します。このスコアは、個人の生活機能がどれだけ制限されているかを示す指標となります。

WHODAS 2.0の利点と欠点

利点:

  • 包括的な評価: 身体的な障害だけでなく、精神的・社会的な側面も評価できるため、全体的な生活機能を把握することができます。
  • 国際的な標準: WHODAS 2.0は世界中で使用されており、異なる文化や言語にも対応しています。

欠点:

  • 時間がかかる: 36項目の質問に答えるには時間がかかり、評価の実施にはある程度の負担が伴います。
  • 主観的な要素: 評価者の主観に依存するため、個人によって結果が異なることがあります。

WHODAS 2.0の応用

WHODAS 2.0は、臨床現場での患者の評価だけでなく、研究や政策立案のためにも使用されています。また、医療や福祉サービスの提供者が、どのような支援が必要かを判断するためのツールとしても役立っています。

結論

WHODAS 2.0は、個人の生活機能を包括的に評価するためのツールとして、精神的・身体的な健康状態を理解する上で非常に有用です。評価結果は、適切な治療や支援を提供するための基盤となり、個々のニーズに応じたケアが可能になります。

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