CBT(認知行動療法)におけるフォーミュレーションは、患者の問題や症状の理解を深め、それに基づいて治療計画を立てるための枠組みや手法です。フォーミュレーションは、患者の考え方、感情、行動、身体反応の相互関係を明確にし、問題の維持に寄与している要因を特定するのに役立ちます。
フォーミュレーションの目的
- 問題の理解: 患者の症状や困難を理解し、それらがどのように発展し、維持されているかを明らかにします。
- 治療計画の立案: 個々の患者に適した治療法を選択し、治療目標を設定します。
- 治療のガイド: 治療中に患者の進捗を評価し、治療の方向性を調整します。
フォーミュレーションの主要要素
- 問題のリスト化: 患者が抱える具体的な問題や症状をリストアップします。
- 維持因子の特定: 患者の考え方や行動が、どのようにして問題を維持しているかを分析します。
- 引き金となる要因の特定: 患者の症状がどのような状況や出来事によって引き起こされるかを探ります。
- 背景要因: 患者の過去の経験、発達歴、家族環境など、現在の問題に影響を与えている可能性のある要因を検討します。
フォーミュレーションのプロセス
- 情報収集: 初期の評価や面接を通じて、患者の現在の問題、過去の経験、生活状況などに関する情報を集めます。
- 問題の構造化: 集めた情報を基に、問題がどのように関連しているかをモデル化します。一般的には、「状況→思考→感情→行動→結果」という連鎖を用いて、問題を構造化します。
- 仮説の設定: 患者の問題の原因や維持因子に関する仮説を立て、それに基づいて治療計画を立案します。
- 治療の実施と評価: 立てた仮説に基づいて治療を進め、適宜、フォーミュレーションを見直し、修正します。
フォーミュレーションの種類
- ケースフォーミュレーション: 患者全体を対象に、複数の問題を包括的に捉えるフォーミュレーション。
- 問題特異的フォーミュレーション: 特定の問題や症状に焦点を当て、その問題に特化したフォーミュレーション。
具体例
たとえば、社会不安障害を抱える患者の場合、次のようなフォーミュレーションが考えられます。
- 状況: 職場での会議
- 思考: 「自分が発言すると、みんなが馬鹿にするに違いない」
- 感情: 不安、緊張
- 行動: 発言を避ける、会議中に視線をそらす
- 結果: 短期的には不安が軽減するが、長期的には自信を失い、社会不安が悪化する
このようなフォーミュレーションに基づいて、認知の修正や行動実験を通じて治療を進めることができます。
フォーミュレーションは、治療者と患者が協力して作り上げるものであり、治療の進展に応じて柔軟に見直し、調整していくことが重要です。
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医学的診断と比較してみましょう。
CBT(認知行動療法)におけるフォーミュレーションと医学における診断は、どちらも患者の問題を理解し、適切な治療方針を立てるための重要な手段ですが、その目的やアプローチにはいくつかの違いがあります。
1. 目的
- CBTにおけるフォーミュレーション:
- 患者の心理的問題を多角的に理解し、個々の問題の背景や維持因子を特定することに重点を置きます。これにより、患者にとって最適な治療アプローチを設計し、治療計画を個別化します。
- 医学における診断:
- 主に病気や疾患の特定を目的とし、標準化された基準に基づいて病名を決定します。診断に基づいて、治療方針や薬物療法などの医療行為が決定されます。
2. アプローチ
- CBTにおけるフォーミュレーション:
- 患者の考え方、感情、行動、およびその背景にある信念や過去の経験を関連付けて分析します。個々の患者の特性や環境に基づき、問題をどのように維持しているかを理解するための仮説を立てます。
- 医学における診断:
- 臨床検査や患者の症状、身体所見に基づいて診断が行われます。診断基準は一般に、特定の疾患に関連する症状の組み合わせや検査結果に基づいています。
3. 柔軟性
- CBTにおけるフォーミュレーション:
- 動的であり、治療の進行に応じて見直しや修正が行われます。患者の進展や新たな情報に基づいて、フォーミュレーションは調整されることが一般的です。
- 医学における診断:
- 一度診断が確定すると、通常は変更されることは少ないです。ただし、新しい症状の出現や検査結果に基づいて再評価が行われることもあります。
4. 患者との協働
- CBTにおけるフォーミュレーション:
- 患者との協働が重視され、治療者と患者が共に問題を理解し、治療方針を決定するプロセスです。患者が自分の問題についての洞察を深め、自己管理のスキルを高めることを目的としています。
- 医学における診断:
- 診断は主に医師の専門知識に基づいて行われ、患者に対して一方的に伝えられることが多いです。診断後、患者は医師の指示に従って治療を受けることが一般的です。
5. 扱う対象
- CBTにおけるフォーミュレーション:
- 主に心理的および行動的問題を対象とし、それらがどのように患者の生活に影響を与えているかを評価します。
- 医学における診断:
- 身体的疾患や障害を特定し、具体的な治療法を決定するために行われます。これは、心理的な疾患にも適用されますが、その場合も診断基準が重視されます。
結論
CBTにおけるフォーミュレーションは、患者の個別の経験や心理的過程に焦点を当て、治療の方向性を柔軟に調整するためのツールです。一方、医学における診断は、標準化された基準に基づいて疾患を特定し、その疾患に対する治療法を決定するプロセスです。両者は治療の目的やアプローチが異なるものの、患者の健康と福祉を改善するために重要な役割を果たしています。
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1.医学モデルでは、病気の原因をまず考える。
感染症、腫瘍、遺伝、外傷、病原物質との接触、などの分類がまず考えられます。
たとえばアスベストに接触していたから肺がんになったとかですね。
実際の診察では、症状としては何があるか、それらはどのように始まって、どのような経過をたどっているか。
症状と経過から、ある程度、病気と病因の絞り込みができる。
そして、診断に必要な検査をする。結果が出たら診断する。
医学モデルの原初的なものは、単一因子による単一疾患です。
尿酸が過剰になって体内の特定部位に蓄積して炎症を起こし、痛みとなる。
最近では、生活習慣病などが言われていて、食事習慣とか運動習慣とかが問題とされ、
またさらに、それに伴い、精神面での特徴なども言われ、それぞれの面で改善を要する。
しかしそれは昔の病因とは少し違う。
医学的病因は最初の形では、解剖学的変化が起こり、それが原因で機能の変化が起こり、それが病気と認識される。解剖学的変化は、肉眼的なものもあるし、顕微鏡的な場合もある。顕微鏡的な変化はたとえばβアミロイドと認知症のような場合である。
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病気の場合は症状というが、心理的な悩みの場合は、症状というよりも、「悩み事」に近い。
悩み事は、身体の機能変化の原因となる形態変化を探して終わりというわけにはいかない。
医学的症状と違い、主観的な悩み事の場合は、形態変化はいつも見つかるわけではない。
医学の内部にも、もちろん、生活全体を見る、人生全体を見る、困りごとの全体を把握して対処する、そのような流れはあった。
アルコール症で困っている人の場合には、家族をはじめとする対人関係の問題、経済的問題、場合によっては犯罪や法律も関係したり、また一方、生活習慣の見直しとか、断酒会への参加、また職場の問題なども医学の範囲で扱うようになってきた。そのためにチーム医療で当たったりする。チームでやるなら、給料の安い人にたくさん働いてもらった方がいいので、医療水準もその程度のものになる。
病因としても、形態変化が機能変化を起こし、病気が成立するというだけではなく、病気として成立するためにも、心因性のものがないか、状況因としてはどのようなものがあるかなどは考慮する場合が多くなった。
状況因などと言う言葉が使われたこともあり、通常医学とはやや異なる例もあった。
生物学的・心理的・社会的要因を複合的に診断把握し、治療するとの考えも広がっている。
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悩み事を抱えて来院する人に対して、病気かどうかを範囲して、それで終わりではなくなってきている。
そうなると次は、こうした悩み事を全体としてうまく把握することができないかとの話になる。
旧来医学式の原因が分かったとして、それがもし遺伝的なものだとしたら、もう少し遺伝子技術などが進歩しないと無理な面はある。
だから、患者さんの困りごとの全般を理解し、治療することも簡単ではないのであって、む
典型例
タイプ診断
ディメンショナルな診断
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