大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)とは、哺乳類の脳において感情や記憶、動機付けなどの高度な機能を司る一連の構造群を指します。大脳辺縁系は、脳の内側部分に位置し、主に大脳半球の下部および内側に広がっています。以下に、大脳辺縁系の主要な構成要素とその機能について詳しく説明します。
たとえばこんな図があります。出典は https://epomedicine.com/medical-students/limbic-system-simplified/
https://qbi.uq.edu.au/brain/brain-anatomy/limbic-system こちらにも簡潔な説明があります。
主な構成要素
- 海馬(Hippocampus)
- 役割: 長期記憶の形成と空間認識に関与します。新しい記憶の統合や既存の記憶の検索に重要な役割を果たします。
- 扁桃体(Amygdala)
- 役割: 感情の処理、特に恐怖や怒りなどの強い感情の生成と調整に関与します。また、感情に基づいた記憶の強化にも寄与します。
- 帯状回(Cingulate Gyrus)
- 役割: 感情の調整、痛みの処理、注意の制御に関与します。行動の選択や意思決定にも影響を与えます。
- 視床(Thalamus)
- 役割: 感覚情報の中継点として機能し、感覚信号を大脳皮質に伝達します。また、意識や覚醒状態の維持にも関与します。
- 視床下部(Hypothalamus)
- 役割: 自律神経系や内分泌系の調節を担い、体温、空腹、渇き、睡眠、性行動などの基本的な生理機能を制御します。
- 海馬傍回(Parahippocampal Gyrus)
- 役割: 記憶の形成や空間認識に関与し、海馬との連携で情報の統合を行います。
大脳辺縁系の主な機能
- 感情の生成と調整
- 扁桃体を中心に、喜び、悲しみ、恐怖、怒りなどの基本的な感情を生成し、それらの感情反応を調整します。
- 記憶の形成と保持
- 海馬は新しいエピソード記憶(個人的な経験や出来事)を形成し、長期記憶として保持する役割を果たします。また、記憶の検索や再生にも関与します。
- 動機付けと報酬
- 嗅球や視床下部などが関与し、食欲、性欲、社会的行動などの基本的な動機付けを制御します。報酬系とも関連し、快楽や満足感の感じ方に影響を与えます。
- 自律神経系の調節
- 視床下部を通じて、心拍数、血圧、消化活動などの自律神経系の機能を調整し、体内環境の恒常性(ホメオスタシス)を維持します。
臨床的意義
大脳辺縁系の機能不全や損傷は、さまざまな神経精神疾患と関連しています。例えば:
- うつ病や不安障害: 扁桃体や前頭前皮質との連携異常が関与すると考えられています。
- アルツハイマー病: 海馬の萎縮が初期症状として現れ、記憶障害を引き起こします。
- 統合失調症: 情動の調整や記憶機能の障害が見られ、大脳辺縁系の異常が一因とされています。
- PTSD(心的外傷後ストレス障害): 扁桃体の過活動や海馬の機能低下が関与し、強烈なトラウマ記憶が再体験されることがあります。
まとめ
大脳辺縁系は、感情、記憶、動機付け、自律神経の調節など、人間の高度な行動や心理機能を支える重要な脳のネットワークです。その複雑な相互作用により、私たちの行動や思考、感情が形成され、日常生活を円滑に送るための基盤となっています。神経科学や心理学の研究においても、これらの機能や構造の理解は、さまざまな精神疾患の治療や予防に向けたアプローチを考える上で重要です。