ハイプ・サイクル

注目の新技術が登場すると、まずは過度な期待が生まれて過剰な投資が行われる。その後、「幻滅期」が訪れて期待が一気にしぼむ──これがハイプ・サイクルだ。

 この時点で、技術の利用が進まないことや、利益が上がらない事態を多くの人が心配し始める。だが、昼と夜が入れ替わるがごとく、技術は復活することがある。

 期待が膨らんだ時期に実行した投資が大規模インフラとして結実する。やがて技術の広範な採用が実現する。世界が期待するAIの未来にも、このハイプ・サイクルが当てはまるだろうか。

 いくつかの過去の技術の発展は確かにこの指標で説明できる。鉄道はその典型例だ。19世紀の英国は鉄道ブームに沸き、英自然科学者のチャールズ・ダーウィンや英思想家のジョン・スチュアート・ミルなど、多くの人が大きな収益を期待して鉄道株に大金を投入。その結果、株式市場でバブルが起き、やがて株価は暴落した。

 鉄道会社はその後、ブームの間に調達した資金を活用して英国全土に線路を敷設し、英国経済の復興に貢献する。ハイプ・サイクルはこれで完成だ。

 最近では、インターネットが同様の進化を遂げた。この技術には1990年代に大きな期待が寄せられ、すべての買い物が数年内にオンラインに移行すると未来学者は予測した。ところが2000年に株価が暴落し、garden.comやpets.comなど大手企業135社が破綻した。

 しかし、重要なのは、それまでに通信各社が光ファイバーケーブルに数十億ドルを投資していたことだ。それが今日のインターネットの基盤となっている。

 もちろんAI分野では、鉄道バブルやネットバブルの際に見られた大規模な破綻はまだ起きていない。むしろ、現在の不安の広がりを、AIの世界規模の成功が間近である証拠だと考える人もいる。

 米経済評論家のノア・スミス氏はこう語る。「AIの未来は他のすべての技術と同じ経過をたどるだろう。多額の資金でインフラを大規模に整備した後、AIを使用した生産性向上の難しさが広まり、ブームは大きく後退。それから、人々が使い方を理解するにつれて人気が徐々に戻ってくる」

 本当にそうなるだろうか。それは疑わしい。

 AI革命をけん引する欧米企業の株価は7月にピークを迎えて以降、約10%下落した。また、ChatGPTなどのサービスを支える大規模言語モデルの能力を疑問視する人も増加傾向にある。

 大手テック企業各社はすでにAIモデルに数百億ドルを投じており、今後さらに大規模な投資を行うと表明している。

 しかし、米国勢調査局の最新データによると、商品作りやサービスにAIを活用している米国企業はわずか5.1%で、今年初めに記録したピークの5.4%から減少した。そして、今後数カ月間も同程度の落ち込みが予想されている。

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ダーウィンやミルが鉄道に大金を投入したとは。

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