概要
このテキストは、認知行動療法(CBT)の効果に関する研究論文からの抜粋です。論文は、さまざまな精神的および身体的な問題に対する CBT の有効性を、さまざまな研究デザインと比較条件に基づいてレビューしています。また、研究分野におけるギャップと、今後の研究が必要な分野も特定しています。
CBT治療効果に関する研究文献レビュー
はじめに
本章では、認知行動療法(CBT)の治療効果に関する実証文献をレビューします。まず、証拠の性質について説明し、現在の文献の限界と知識のギャップについての議論を行い、今後の研究への提案を行います。
証拠の性質
- ランダム化比較試験(RCT)
- RCTは、心理療法研究における有効性を判断するためのゴールドスタンダード
- 利点:適切に管理、比較可能性が高い
- 限界:「有効性」ではなく「efficacy」を扱う(実際の臨床現場での結果ではない)
- 有効性の種類
- 絶対的有効性:治療が何らかの効果があるかどうか
- 相対的有効性:他の治療法と比較して優れているかどうか
- 複合的有効性:他の治療法との併用が有効かどうか
- 長期的有効性:急性期に得られた効果が持続するかどうか
- メタ分析
- 複数の研究結果を統合し、定量的な評価を可能にする
- 利点:効果量の定量化、サンプルサイズと効果量の考慮、査読者バイアスの排除
- 限界:研究間の方法論的差異の影響
- 定性的レビュー
- RCTが不十分または利用できない場合に、研究の定性的データや重要な追加情報を要約する
- レビューの対象
- 成人における20の疾患または問題に関するCBT結果の文献
- 各疾患・問題について、CBTの有効性に関する6つの内容領域を調査:
- 研究で調査されたCBTの特定の要素
- 絶対的有効性(統制群あり/なし)
- 他の心理療法との相対的有効性
- 薬物療法との相対的有効性
- CBTと薬物療法の併用と比較した相対的有効性
- 長期的有効性
疾患・問題ごとのCBTの有効性
気分障害
- 単極性うつ病
- 絶対的有効性:多数のメタ分析により、CBTの有効性が確認されている
- 相対的有効性:他の心理療法との比較では、優れている、同等であるという結果が出ており、結論は出ていない
- 薬物療法との比較:急性期では同等の効果、CBTは治療終了後の効果持続で優れている
- CBTと薬物療法の併用:単独療法よりも効果的である可能性がある
- 長期的有効性:最長2年間、効果が持続することが示されている
- 双極性障害
- CBTは薬物療法の補助療法として、短期的および治療後最長9年間の再発率を低下させる効果がある
- CBTと薬物療法の併用は、他の心理療法と薬物療法の併用と同等の効果がある
不安障害
- 特定の恐怖症
- 行動療法(BT)が最も効果的だが、脱落率と治療受け入れ率の低さが課題
- 認知要素と行動要素を組み合わせたCBTは、より許容性が高い
- CBTは、一部の恐怖症で12ヶ月以上の長期的な効果が確認されている
- 社会不安障害
- CBTは中程度から大規模な絶対的有効性を示す
- 相対的有効性:他の心理療法や薬物療法との比較では、結論が出ていない
- グループCBTは、費用対効果と忍容性の高さから、最適な治療法と考えられる
- 長期的有効性:最長12ヶ月間、効果が持続することが示されている
- 強迫性障害(OCD)
- CBTの絶対的有効性は、十分に裏付けられている
- 認知再構築と曝露反応妨害(ERP)を組み合わせたCBTが一般的
- 薬物療法との比較:明確な結論は出ていない
- CBTと薬物療法の併用:単独療法よりも効果的である可能性がある
- パニック障害(広場恐怖症の有無にかかわらず)
- CBTの絶対的有効性は、十分に実証されている
- 曝露と認知再構築を組み合わせたCBTが一般的
- 認知要素の追加は、うつ病症状と脱落率の減少に効果的
- 薬物療法との比較:同等の効果、CBTが優れているという結果も
- CBTと薬物療法の併用の有効性:結論が出ていない
- CBTは、費用対効果の高い治療法
- 長期的有効性:平均16.8ヶ月間、効果が持続することが示されている
- 心的外傷後ストレス障害(PTSD)
- トラウマに焦点を当てたCBT(TFCBT)が最も広く研究されている
- TFCBTとEMDRは、慢性PTSDに対して有効性が確認されている
- TFCBTは、一部の研究で薬物療法よりも効果的
- 早期介入としてのCBTの効果:さらなる研究が必要
- 全般性不安障害(GAD)
- CBTの絶対的有効性は、短期的には確認されている
- 長期的有効性:さらなる研究が必要
- 薬物療法との比較:明確な結論は出ていないが、CBTの方が忍容性が高い可能性
- 他の心理療法との比較:精神力動療法よりも有効、支持療法よりも部分的に有効、行動療法との比較では結果はまちまち
摂食障害
- 神経性過食症(BN)
- CBTは、他の心理療法の中でも、有効性が確認されている
- 認知要素を含むCBTが効果的
- 薬物療法との比較:CBT単独の方が優れている
- 長期的有効性:さらなる研究が必要
- 過食症(BED)
- CBTは、有効性が確認されているが、体重減少効果は限定的
- CBTとIPTは、同等の効果がある
- CBTと薬物療法の併用:有効性が示唆されている
- 神経性食欲不振症(AN)
- CBTの有効性を示す証拠は限られている
- 体重回復後の再発リスクを軽減する効果が示唆されている
- 薬物療法の効果:明確な結論は出ていない
- 長期的有効性:さらなる研究が必要
その他の疾患
- 統合失調症
- CBTは、薬物療法の補助療法として有効
- 陽性症状と陰性症状の両方に効果的
- 他の心理療法よりも効果的
- 長期的有効性:12ヶ月以上、効果が持続することが示されている
- 夫婦間の悩み
- 認知行動的夫婦療法(CBMT)は、有効性が確認されている
- 行動の変化と関係認知の改善に効果的
- 怒りと暴力行為
- CBTは、怒りの管理に効果的
- 暴力犯罪者の再犯率を低下させる効果がある
- 性犯罪
- CBTは、性犯罪者の再犯率を低下させる効果がある
- 特に、ホルモン療法と併用したCBTが有効
- 慢性疼痛
- CBTは、慢性疼痛の治療に有効
- 痛みの経験、気分、認知的対処、行動、社会的役割機能の改善に効果的
- パーソナリティ障害
- 境界性パーソナリティ障害(BPD)に対して、弁証法的行動療法(DBT)が有効
- その他のパーソナリティ障害に対するCBTの効果:さらなる研究が必要
文献の限界と今後の研究課題
- 文献の限界
- CBTと薬物療法の比較研究が少ない
- CBTと他の心理療法の比較研究が少ない
- 多様な集団に対するCBTの有効性に関する研究が少ない
- 再発予防におけるCBTの有効性に関する研究が少ない
- 併存疾患に対するCBTの有効性に関する研究が少ない
- 特定の障害に対する特定のCBTの有効性に関する研究が少ない
- 長期的な効果に関する研究が少ない
- 研究方法の限界:プラセボ効果、治療の忠実度、治療ラベルの問題
- 今後の研究課題
- CBTと薬物療法、他の心理療法の比較研究
- 多様な集団、再発予防、併存疾患に対するCBTの有効性に関する研究
- 特定の障害に対する特定のCBTの有効性に関する研究
- 長期的な効果に関する研究
- 研究方法の改善:対照群の選択、治療の忠実度の評価、治療の定義の明確化
結論
CBTは、多くの疾患や問題に対して有効な治療法であるという多くの証拠があります。 しかしながら、薬物療法や他の心理療法との比較、多様な集団への適用、長期的な有効性など、まだ解明されていない領域があります. 今後の研究では、これらの領域に焦点を当て、CBTの有効性に関する知識ベースをさらに充実させていく必要があります。