パレイドリア

パレイドリアとは?

パレイドリア(Pareidolia)とは、視覚刺激や聴覚刺激を受け取ったときに、自分がふだんからよく知っているものが見えたり思い浮かべてしまうという知覚現象をさします。パレイドリアには複数の種類があり、空に浮かぶ雲の形から動物や何かの物体を思い浮かべたり、月の表面の凹凸にウサギが見えたり、イタリアの地図がブーツに見えてしまう場合などがあり、それらは視覚的なパレイドリア現象によるものだとされています。

パレイドリアの例

またポピュラー音楽における曲を逆再生したときに何かしらのメッセージが聞き取れたりするバックワード・マスキングにおいては、聴覚性のパレイドリア現象が発動しているといわれています。本来は「顔」ではないものが「顔」に見えてしまう場合は、顔パレイドリア現象と呼ばれています。たとえば壁や天井のしみ、雲の模様などに無意識のうちに「顔」を見つけてしまうことなどがそうです。

人間の「顔認識能力」は非常に高く、顔のように見える刺激はほかの刺激と比べて検出性能が向上することが確認されています。しかし、このパレイドリアという現象がなぜ引き起こされるのかについての詳細なメカニズムは明らかにされていません。人間がもつ防衛本能のひとつとして古来から脅威をいち早く検出して外敵を判別するべく、人間や動物の顔かどうかを識別する能力が発達したことが影響しているのではないかとの仮説があります。

シミュラクラ現象との違い

また、パレイドリアとよく似た現象として、シミュラクラ現象というものがあります。シミュラクラ現象とは、点や線が模様やデザインとして逆三角形に配置されているときにそれを顔であるかのように認識するという視覚現象で、パレイドリア現象の一種とされています。たとえばコンセントの差し込み口を見たときに人の顔を思い浮かべたりする場合があげられます。パレイドリア現象やシミュラクラ現象をふまえて考えると、心霊写真と呼ばれるものの多くはこの理屈で説明できるともいわれています。

マーケティングや画像認識領域で活用されるパレイドリア効果

さらにパレイドリアは、漠然としてあいまいなインクのしみのような図版から何が見えるかを回答することで被験者の思考や感情を引き出して精神状態を洞察する、ロールシャッハ・テストにも活用されています。マーケティングの分野では、顔パレイドリアを含む広告がより多くの消費者の関心を集めることについての研究が蓄積されていたり、パレイドリアが生じた車のフロントデザインが「かっこいい」などの評価を集めてそれが歩行者の行動に影響を与えたという報告もあります。

パレイドリアは画像認識領域でも注目を集め、2015年にGoogle社のエンジニアによって作成・リリースされたコンピュータービジョンプログラムDeep Dreamはパレイドリアの理論をもとに展開され、アルゴリズムのパレイドリアを介して幻覚的な画像を生成するAIアートの先駆けとして注目されました。日本で「顔パレイドリア現象の強度が脳活動に及ぼす影響」について研究し、顔パレイドリア現象の可能性について示している論文では、次のようにまとめられています。

顔のあるなしは、広告の作り方に大きな影響を与えると考えられ、顔パレイドリア現象は、意図的に実際の顔を提示せずに顔の印象を与えることもあり、また、意図せずに顔の印象を与えてしまう場合がある。

このように多様なジャンルで応用されるパレイドリアですが、出発点はあいまいなものに意味を与えてしまう人間の知覚の不思議です。認知心理学では感覚情報にもとづいて対象を捉えることを知覚と呼びます。その際の捉え方はその人の視点の軸足や前後の文脈、置かれている周囲の状況などによっても左右されます。人間が不確かな対象を理解しようとする際には、経験や知識を総動員して判断しますが、その際に何に注目してどの部分に何を見るかはその人がもつ知識や経験、バックグラウンドに影響を受けてしまうのが興味深いところです。

まとめ

視覚刺激や聴覚刺激を受け取ったときに、自分が知っているものが見えたり思い浮かべてしまうという知覚現象パレイドリアについてまとめました。人の知覚にはあいまいであやふやな部分が数々あります。まだ解明されていない反応や現象も少なくありません。常に最新の研究成果やアプローチの情報を入手するスタンスが必要な領域です。

タイトルとURLをコピーしました