祖母の世代の未解決の問題が、母の代の未解決の問題を生み、さらにそれが、患者さんの世代の未解決の問題につながっている場合、ジェノグラムをさかのぼって、家族内の問題伝達のような形で解釈されることがある。
三世代で問題は形を変えることもあるし、三世代で同じ問題を反復する場合もある。
夫婦間の劣位優位の問題とかは、親の様子を学習して子供の世代に引き継がれるが、一方で、明治大正昭和平成で変化がある。学歴問題はだいたい同じ形で保存されて引き継がれてゆくこともある。
多世代家族療法に限らず、家族療法の場合は、個人が単位ではなく、家族システムが問題の単位と言われる。個人ではなくシステムが問題。明治には明治のシステム問題があり、家父長制の葛藤がある。平静には平成のシステム問題があり、核家族制なのに、支配的な祖母の問題とかもある。この場合は、財産の問題もあり、子供の側も、財産を当てにしているので、兄弟で祖母の世代のご機嫌を取ったりする。
症例によっては、鮮やかに三世代理論が当てはまったりするので、かなり興味深い。
システムの問題。
個人ではなく、間の問題。関係の問題。
なぜこの家族の家系は同じような過ちを犯すのだろう?虐待の歴史を繰り返す家系、アルコール依存症の歴史を繰り返す家系、離婚を繰り返す家系など。
多世代家族療法は、多世代伝達モデルとほぼ同義で、特定の派閥ではなく考え方の近い理論の総称です。このモデルの根幹となる理論はマレー・ボーエンやボゾルメニ・ナージによるところが大きく、その後も様々な療法家によって受け継がれています。
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多世代家族療法は、精神分裂病(統合失調症)の家族の研究をしていたマレー・ボーエン博士によって提唱された家族療法です。家族の関係性は世代から世代と伝承されていくと考え、その伝承を多世代伝達過程と呼びます。多世代家族療法では、3世代以上にわたる家族システムの歴史的・発達的プロセスを視野に入れ、個人の心理や家族内の相互影響関係、世代間伝達を統合的に理解しながら、個人・夫婦・親子を援助します。
家族療法は、家族全体が協力して問題を解決することを目指す心理療法です。家族内での役割や責任の再設定を行うことで、問題解決だけでなく、家族全体の絆を深めることができます。
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多世代家族療法 Multi-Generational Family Therapy(MGFT)は、3世代以上にわたる家族のダイナミクスを調査して、現在の問題に対処し、長期的な変化を促進する治療アプローチです。
この方法は、家族のパターン、行動、未解決の対立が世代を超えて受け継がれ、現在の関係や個人の機能に影響を与えることを認識しています[1][2]。
主要原則
世代間パターン: MGFTは、前の世代からの感情的な重荷や未解決の問題が現在の家族のダイナミクスにどのように影響するかを探ります[1]。
全体論的理解: このアプローチは、個人をその拡大家族の文脈内で考慮し、提示された問題に対するより包括的な見解を提供します[1]。
ボトムアップアプローチ: Andolfiモデルなどの一部のモデルでは、最年少世代(多くの場合子供)から始めて、上に向かって家族の歴史とダイナミクスを探ります[2]。
利点
多世代家族療法には、いくつかの利点があります。
- コミュニケーションの改善: 世代間のパターンに対処することで、家族のメンバーは世代を超えてより効果的にコミュニケーションをとることを学びます[1]。
- 問題解決の強化: 家族は協力して課題に対処するためのより優れたスキルを身に付けます[1]。
- 共感の向上: 異なる世代の経験を理解することで、家族内での思いやりとサポートが促進されます[1]。
- 文化的感受性: MGFT は、伝統と価値観が関係にどのように影響するかを認識し、文化的要因が家族のダイナミクスに与える影響を認識しています[1]。
- 長期的な変化: このアプローチは、根本的な体系的な問題に対処することで、持続可能な肯定的な結果を生み出すことを目指しています[1]。
MGFT を検討する場合 多世代家族療法は、次のような場合に効果的です。
- 異なる世代間のコミュニケーションが途絶えている
- 家族のメンバーが誤解されている、または耳を傾けてもらえていないと感じている
- 繰り返し起こる対立が複数世代にまたがっている
- 行動パターンが世代を超えて受け継がれている
- 人生の重要な出来事が複数世代に影響している
- 異なる年齢層の家族のメンバーの間に結束力が欠けている
- 長年の問題やトラウマが未解決のままである[1]
テクニック
ジェノグラム: このツールは家族の世界の地図として機能し、最年少世代から始めて、ボトムアップで家族の発達を探求するためのプラットフォームを提供します[2]。
リフレーミング: セラピストは、子どもの症状をリフレーミングして問題の関係的な意味を見つけ、子どもとの特別な同盟関係を確立します[2]。
世代間質問: これらの質問は、親や祖父母が過去の歴史で経験した逆境を探ります[2]。
境界の拡大: 治療プロセスに友人やコミュニティのメンバーが参加することもあります[2]。MGFTは、多世代のパターンとダイナミクスに取り組むことで、家族の感情的な絆を変え、提示された問題を解決することを目指しています。現在の問題は、家族の深い傷や未解決の対立の「氷山の一角」に過ぎないことが多いことを認識する[2]。
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マレー・ボーエンの「家族システム理論(Family Sytstems Theory)」
ボーエンは、個人の症状、適応、成長の過程を家族システムとの関係を通して論じ、8つの概念から成り立ちます。さらに、その大前提に2つの概念があります。
大前提 個別性-集合性と知性システム-感情システム
ボーエンの理論の前提には、「個別性と集合性」「知性システムと感情システム」の二対概念があります。
個別性と集合性
個人は人間関係の中で、個別性と集合性の二つの自然なエネルギーが互いに衝突を保つように働きあっています。
個別性は、物的にも精神的にも自立したいという本能的動因に根ざすものです。
一方で、集合性は他者との接触を持ちたいという人間の本能的欲求から来るものです。
どちらも必要であり、個別性と集合性のエネルギーはホメオスタシスの状態でバランスを保とうとします。精神衛生上、両者のバランスを取ることが大切です。
知性システムと感情システム
人間の心理系システムは、さらに「知性システム」と「感情システム」に分かれます。
知性システムは、大脳皮質の機能と関連を持ち、その産物を知的機能といいます。
感情システムは、大脳辺縁系と関連性を持ち、その産物を感情的機能といいます。
生きる上では、両者のシステムが必要であり、どちらが優位というのはありません。大切なのは、両者の調和が保てることで、状況に応じて両者を使い分けることです。この調和を保ている心理状態のことを「分化」といいます。
しかし、両システムの分化の度合いが低い場合、使い分けが難しく、行動と思考は感情に支配されてしまいます。分化していない状態を「融合」といい、感情システム優位となります。
ボーエンは、分化度が高いことが人間が機能するために重要であるとします。
個別性-集合性と知性システム-感情システムの関係
ボーエンはこの二対の概念は関連しているとします。分化度が高い場合は、環境に左右されずに、「個別性」と「集合性」のバランスを保つことが可能です。しかし、分化度が低い場合、外界の影響の波を容易に飲み込んでしまうため、「集合性」の影響を強く受けやすいです。
特に、他者の存在を必要とする極度の集合性を持つ者は、他者の言動に感情的に反応する傾向があり、これを「感情的反応性」といいます。他者を求めるために依存的となる一方で、他者からの拒絶を避けるため、一見独立的で権威的な態度を取るというジレンマに陥りやすくなります。
さらにボーエンは、人間関係が長続きするのは、両者の分化度・集合性が同程度の場合であるとしています。つまり、パートナーや友人として選ぶ相手は、個人と同程度の集合性の欲求と分化の持ち主である可能性が高いということです。
融合度の高い者同士が互いに高度の集合性と融合を示しあい、極度の融合関係に埋もれてしまう状態になり、これを「感情的補充性」といいます。分化度の高低の影響は、親密な人、特に家族間に大きな影響を与え、世代間伝達していきます。
ボーエンの8つの概念
ボーエンは個別性-集合性と知性システム-感情システムが、家族システムでどのように働くかについて8つの概念にまとめております。これらは、個人・核家族・多世代にわたる拡大家族・社会という次元で展開します。
中でも、数ある家族療法の中で特徴的なのが、その「多世代的展望」です。治療者は目の前の症状の理解みならず、多世代にわたり伝達される家族病理の反映としてそれを理解する必要があります。
概念1 三角関係
ボーエンによれば、二人で構成される感情システムは不安であり、そのような感情システムは第三者を引き込みます。三人で構成される人間関係のシステムが、安定したシステムの最小単位だと考えられ、これを「三角関係」と呼びます。
三角関係が形成されると、緊張状態にあった元々の二者関係は緊張が和らぎます。融合関係にある二人は離れて、一人は第三者と融合関係を形成し、他は遊離状態になります。
結果、前者は新しい融合関係の中で、遊離した後者は緊張関係からの解放という形で不安の低減を経験します。
例えば、夫婦関係がうまく行かない場合も、子どもができ、妻が母親として子どもにつきっきりで、子も母親べったりの場合、夫婦の緊張関係は和らぎます。
しかし、子どもが反抗するようになり、第二の融合関係が緊張してくると、遊離していた者が再度融合関係に引き戻されることがあります。
前例の母親が夫に「あなた、父親でしょう。協力して、この子をどうにかしてください」とでも言うように。このようにして第一の融合関係と第二の融合関係がそれぞれの緊張緩和を求めて交互に強くなるパターンを示して、三角関係が形成されます。
また、前例のように、中等度の緊張関係にある家族システムの三角関係は、融合度の高い一辺と、遊離関係である二辺で形成されることが多いです。誰と誰が融合関係の一辺を形成し、他の誰が遊離関係の二辺を形成するかは、時と場合によって異なります。
三角関係は相互依存によって形成され継続される関係であるので、その中に単純な因果関係を求めるのは、家族システムの観点に立てば誤りです。いくつかの連鎖した複数の因果関係で理解することが望ましいです。
前例の家族をみても、子どもの母親に対する反抗的行動は、単に母親の過保護的態度(原因)に対する反発(結果)とは割り切れません。母の子に対する過保護的態度は、夫との遊離関係との裏腹の関係だからです。このように考えると子どもの行動は、夫婦関係の緊張緩和のために副産物ということができます。
さらに、妻が子育てに熱中することで、夫は仕事に熱中することができ、子育てに対して夫が寛大な態度を取ることができる場合が多く、この場合、父親の遊離した受容的態度が逆に、子の反抗的行動の原因と考えることもできます。
概念2 核家族の感情過程
夫婦関係が緊張状態の時や、外からのストレスがある場合は、個人または家族システムの安定を保つために次の四種類のメカニズムを利用します。
このうち前三種は夫婦間の問題として留まりますが、子の損傷の場合は夫婦間の問題が夫婦の世代に止まらず、子の世代に伝播されます。
①感情的遊離
夫婦関係で感情的反応を回避することです。例えば、口を聞かない、目を合わせない、寝室を別々にすることや、互いにデリケートな話題を避けることも挙げられます。
そのような場合、夫婦関係外の物事や関係性の充足を求める(集合性の充足)ようになあり、その代表例が浮気です。浮気をする者は融合度が高いとされます。ワーカホリックも同様に感情遊離の顕れとされます。
また、分化度の高い夫婦もお互い自分の興味があることにエネルギーを注ぎ込むという意味で表面的には感情遊離的傾向があるかもしれません。しかし、分化した夫婦は、自分からそう選択しているという点で感情遊離とは区別されます。
感情遊離の場合は、相互の感情的反応を避けるために「自動的」に起こっていうるのであり、そこに「選択制」は含まれません。そして、感情遊離は、通常夫婦が希望する以上に遊離状態になります。
②夫婦衝突
緊張関係に対する反応として衝突する方法で、以下のサイクルを辿ります。
夫婦衝突は、夫婦関係に見られる融合と不安の悪循環に伴うジレンマをもっとも安定して解決する方法の一つで、このサイクルが続く限り、子どもを巻き込んで三角関係になる可能性は少ないです。また、夫婦衝突の結果が子どもに対して罪悪感を抱くような感情反応がない限りは、後述する子を損傷する危険性は少ないと考えられます。
③配偶者の不適応
融合関係を存続させるために、配偶者の一方が妥協的・犠牲的態度をとります。この態度は、例えば、無理をしてでも過剰に責任を取るという形の場合もあれば、逆に自分は無能であるという態度をとり相手を立て、相手に強く依存することもあります。
夫婦の一方がこのような過剰な態度を取る場合、普通、その相手は逆の方向に過剰な態度をとります。そのようにして夫婦間のバランスは保たれる「補充関係」となります。
このような補充関係は、ストレスが短期のもので極度でなければ、適応的メカニズムと言えます。しかし、ストレスが極端または慢性化した場合、犠牲を払う配偶者は不適応状態になります。一方で、他方は再び補充的立場をとり、その結果、夫婦は不適応-過剰適応関係が強化され永続します。
④子の損傷
両親が共同の融合性を子(一人の場合も複数の場合もある)に伝播することです。その一例は、三角関係の項でも描写しましたが、母親の過保護と父親の責任回避と黙認という形で顕れます。
ボーエンは、この三角形での親の片方との過剰融合が子の病理の原因であると考えます。実臨床でも、子どもの問題の背景に夫婦の問題が多く潜んでいることが多く、この子の損傷の過程を「家族投影過程」と呼びます。
概念3 家族投影過程
家族投影過程とは、両親の融合がどのように伝播されるかについての基本過程です。前述のように、夫婦融合関係に伴う緊張を解消するために、子どもとの三角関係を形成し、片方の親と子どもが融合します。特に母親と子どもが融合することが多いです。
家族投影過程の影響で、子に症状(精神病・行動障害など)が顕れる場合、その症状は、家族システム内の緊張度(不安度)と融合度の関数として考えられます。
三角関係形成と付随して形成される母子融合関係は、必然的に子の分化の機会を妨げます。その結果、子は感情に飲み込まれやすかったり、環境に影響を受けやすいといった分化度の低い人間特有の傾向を示すようになります。特徴的な例として、親や周囲の大人の期待に応えすぎてしまう「オーバー・アチーバー」があります。
また、母親との極度の融合は、同時に母親以外の人間から遊離していることが多いので、子は非社交的な傾向を示すことが多く、人間関係や社会適応の経験は限られます。
その結果、その子が思春期になって自主性を持とうとする時点で、うまく適応できない可能性が高いです。さらに、子が個別性を主張することは、融合したい母親の欲求と相反するため、母から真摯な支持を得られにくいです。
また、父にとっても母との緊張した融合関係を再度発見しなければならないという危険性が出てきます。そのため、子どもの自主性は、親からは反抗という名目の下、圧殺される危険性があります。そのため、思春期・青年期に精神症状が出現しやすいです。
夫婦に子が二人以上いる場合、家族投影過程の影響は子によって異なります。一人の子が三角関係に引き込まれ、夫婦の感情を吸収すればするほど、他の子たちが連結した三角関係に引き込まれて家族投影過程の影響を受けるという可能性は減少します。
夫婦の融合度が高く、子の一人が夫婦の感情性を吸収しきれない場合は、他の子も徐々に三角関係に引き込まれやすくなります。家族投影過程の影響を受けやすいものとしてボーエンは以下の子らを挙げています。
概念4 分化の尺度
ボーエンは、感情と知性の分化の概念を用いて、個人の感情的成熟度を測定するための尺度を考えました。この尺度は0から100までの幅があります。ボーエンは分化度60以上の人は稀であるとしています。
分化の尺度は、直接精神病理とは関係ありません。分化度の低いものは、ストレスに影響されやすく、結果として発病しやすいですし、障害が一度起きれば慢性化しやすいです。しかし、環境からのストレスが限られていれば、それなりに適応できます。
逆に、分化度がある程度高くても、環境でのストレスが高く継続すれば、知性と感情の分化を保つことが困難であり、その結果、適応不全が見られます。
ストレスによって左右される分化度を「機能的分化度」といい、環境によって左右されない個人の固定した分化度を「基本的分化度」といいます。
機能的分化度を高めることは重要ですが、ボーエンは基本的分化度を高めることを重要視しました。
概念5 多世代伝達過程
前術の家族投影の過程は、核家族に限らず、拡大家族、多世代に渡ります。
融合関係にある夫婦が子どもを三角関係に引き込めば、子の基本的分化度が低くなる可能性は大きいです。むしろ、両親と最も深い融合関係の三角関係を構築する子は、両親よりも低い基本的分化度を示すことが多いです。
その子が症状を顕そうが、顕さまいが、その子の分化度(第二世代)は、孫の分化度(第三世代)に影響します。そして、第四世代、第五世代・・・と続きます。したがって、各世代で基本的分化度の低い子の系譜を辿れば、下図のように子孫は徐々に分化度が低くなると考えられます。
このような観点に立てば、治療を必要とする症状を訴える患者は、その症状の源は、数世代に遡るものと考えられます。ボーエンは、統合失調症の発病には、普通8-10世代にわたる多世代伝達過程を必要とすると考えます。
この立場では統合失調症のみならず、犯罪行動、アルコール中毒や、肥満症などの身体疾患でされ、多世代伝達過程の産物と考えます。
概念6 感情的切断
親との感情的融合の度合いが強ければ強いほど、その子は基本的分化度が低いと述べました。そのため、成人した後も基本的分化度が低く、集合性の欲求が強いと親への極度な解消されない愛着心を持ちます。
そのような極度な愛着心に対する反動的な働きかけとして頻繁に見られるのが、感情的切断です。子が原家族から巣立たなければならない時点での解消できない愛着心、不安の一時的解決法であるとも考えられます。
実際には、親と離れて住むといった行動、親と話すことを避けるなどがあります。源家族からの感情的切断は、家族と同意を得てなされる場合もあれば、家族の反対を押し切ってなされる場合もあります。
しかし、感情的切断は新しい問題を生み出します。融合度の高い者は、他者の支持を強く要求するにも関わらず、本来は集合性の欲求満足の源となる源家族から自分を遊離するため、より高度の融合的人間関係を源家族外に形成する可能性が高くなります。
その際に、より健康的な感情的結びつきを再建設することで、症状の改善が見られることがあります。
概念7 同胞での位置
家族投影過程と多世代伝達過程の概念からも、個人の同胞での位置(つまり長男か末子か、一人っ子かといった位置)が、その個人の分化度へ重要な影響を与えると考えられます。それと同時に、将来子孫の分化度に影響を与えます。
さらに、ボーエンは実際の同胞の位置のみでなく、「機能的位置」を重要視しました。
例えば、長男であっても、次の子との間が離れている場合、その長男は一人っ子的機能を強く持つかもしれません。また、長子が何かしらの理由で長子としての機能を果たせrぬ場合、次子が機能的長子となる場合もあります。
例からも分かるように、実際の位置と機能的位置は必ずしも一致しません。
概念8 社会感情過程
前に述べた七つの概念を結びつけた家族システムの理論を社会システムのレベルに応用したのが、社会感情過程です。ボーエンは、家族システムに見られる個別性と集合性のエネルギーの相互作用が、社会システムでも同様に見られると考えました。
家族評価の方法
評価といい、診断という用語を利用しないのは、家族の一員が「病気」という意味合いを避けるためです。家族内に問題が起こっている時には、家族の感情的反応性は高まり、理性的な把握が難しくなり、治療者が理性的に家族システムの不適応を評価する必要があります。
症状は、家族内の感情の不均衡と考え、8つの概念を使って、主に3つの事項を評価していきます。
①主訴の歴史
病歴聴取と似ており、すなわち主訴となる症状がどのようなものか、誰に症状が現れているのか、どのような経過だったのかの情報を収集します。この段階での操作は、病歴をとることと類似しています。
しかし、ここでは症状の顕在化や悪化した日時も正確に記録し、その日時と他の不安度を高めるような事件との関連性を発見することが重要です。
例として、妻の母の死と、夫婦の別居と、子の登校拒否の日時の関連性などです。
②核家族の歴史
核家族の感情システムを把握するための情報収集です。夫婦の馴れ初めから始まり、その時の生活状態、結婚に至るまでの経緯、結婚、この誕生、現在に至るまでの状況に関しての日時(When)、関与メンバー(WHO)、誰がどのような行動をとったか(WHO)、どのように影響しているか(How)などのデータを集めます。
その中で、基本概念である三角関係、核家族の感情過程、家族投影過程を評価することができます。
③夫の拡大家族の歴史
④妻の拡大家族の歴史
核家族の歴史の段階では、夫と妻それぞれの原家族と、それ以前の家族を含めての多世代伝達過程、感情切断、同胞間の位置に関して理解するためのデータを収集します。
⑤家族評価の要約
家族評価の要約の段階は、家族療法の第一段階です。セラピストは、感情システムに圧倒されている家族メンバーが知性的になれるように質問を続け、特に2つの事項を強調し、家族療法へのオリエンテーションを与えます。
まず第一に、家族メンバーが症状を問題意識の焦点から外すように試み、症状が問題だと考えるのではなく、家族の感情的雰囲気が問題であると考えるように仕向けることが必要です。
そして第二に、家族構成員のストレスに対しての反応の仕方が、同時にストレスを持続させる結果になっていることを理解させます。他者を避難し、互いに相手が変わらなければという態度では、問題解決にならないという点を強調します。
感情的反応性が高くなっている家族にとって、このような冷静な態度をとることは容易ではないですが、治療者が始終分化した落ち着いた態度をとり、家族メンバーの中でもっとも分化していると思われるメンバーに働きかけることで、準備が整います。
家族介入の方法
冒頭でも述べましたが、ボーエンの基本的姿勢は、理論重視で、家族評価を正確に行うことを重視します。その上で、治療法はあくまで理論の応用です。治療者にとって重要なことは、家族評価を正確に行い、その理解を的確に治療に応用することです。
家族療法の形態も、家族構成員を一人ずつ対象にする場合、夫婦を対象にする場合、両親と症状を顕す子を対象とする場合、拡大家族全員まで対象にする場合、複数の家族を対象とする場合(複家族療法)と多様であり、評価をした上で適切な形態を選択する必要があります。詳細は後述します。
8つの概念の「分化度の尺度」のところで、家族システム療法の目的は、「機能的分化度」と「基本的分化度」を高めることが目標と述べました。家族システム療法の介入はそれぞれの分化度を高める二つの段階に分けられます。
第一の段階は「機能的分化度」の向上による、すなわち家族システム内のストレスと不安の解消です。第二の段階は、すなわち個々の構成員の「基本的文化度」の向上です。それぞれ述べます。
第一段階 機能的分化度を高める
家族の機能的分化のレベルを上げるということはすなわち、ストレスに耐える能力を増加し、不安を軽減し、その結果、症状も消滅することを目指します。通常、数日から一年程度で達成できるとされます。
ボーエンは、家族構成員全員を対象とした家族集団療法は不安の減少には効果がありますが、家族の分化度の増加には夫婦または個人を対象とした方が効果的であると考えていました。
すなわち、例え子が症状を呈していても、ボーエンは両親自身に基本的問題があると認めさせ、夫婦療法または夫婦別個の個人療法の形態をとることが多いです。実際は、問題の症状を呈している子と一度も会わず、両親に働きかけることも多いとのことです。
不安を軽減するために治療者は、両者と三者関係に入っても三角関係に引き込まれないように、知的な態度をとることが最大の介入になります。家族構成員間の激しい感情的交流を抑え、始終、中立的・不介入的そして知性的な態度を保持することで、家族の不安度は必然低下するからです。
また、家族システムの三角関係の中の一人を「非三角関係」に変化支えることによって、家族システムの三角関係の性質を変化させるというアプローチがあります。働きかける家族構成員は、治療に対するモチベーションが高く、分化度が高い者になります。
第一段階の目標を達成すれば、症状は改善していることが多く、この時点で面談が終了となる場合もあります。家族がより深い意味での基本的分化度の改善に対するモチベーションがある場合は、家族システム療法の第二段階に入ります。
第二段階 基本的分化の向上
第二段階は、基本的文化度の改善を目的とし、症状の改善と直接関係があると考えられる核家族の感情過程を理解することに加えて、多世代伝達過程の理解を重視します。この段階は数年の歳月をかけることもあります。
第二段階でも様々な治療形態が可能であり、それぞれの形態で目的が異なります。
個人療法
多世代伝達過程、源家族からの感情的切断などの感情過程を理性的に理解すること、個人が自分の分化度を高められるように働きかける。
夫婦療法
治療者の役割にて詳細を述べます。
複家族療法
3-4組の夫婦を集め行われる療法です。人組みの夫婦と30分ずつ夫婦と源家族との関係などを話し合い、他の夫婦は、治療を受けている夫婦のやりとりを観察して学習します。他の夫婦が源家族との関係性を深めて行く過程を観察することにより、自身の家族を客観視することができます。
治療者の役割
家族システム療法における治療者の役割は4つに分類することができ、これらの機能を果たすことで、家族構成員が互いに分化し、同時にそれぞれの原家族からも分化することができます。
夫婦間の関係を明確化させる
家族療法を求めてくる家族は、不安度が高く、結果感情的になりやすく、理性的な相互理解が妨げられます。特に、夫婦関係の問題はより感情的になりやすく、治療者は夫婦が互いの意見を理性的に聞き、相互理解が深められるように助力する必要があります。
治療者は夫婦が互いを理性的に理解するためのコーチ的役割を取り、以下のようなルールを定める必要があります。
・夫婦が発言する場合は、お互いではなく治療者に向かって行うようにする。
・夫婦間での発言は禁止する。
・セッション外では、夫婦間の関係については、夫婦のみで相談しないようにする。
・出来るだけ落ち着いた口調で、客観的に話すように指示する。
治療初期では、理性的な考えを重視し、感情的になっても、自分の感情について話すようにさせ、感情の直接の表現は避けるようにさせます。治療後期になるにつれて、主観的発言をしてもらうようにします。
非三角関係を保つ
介入の第一段階でも述べた通りで、治療者は夫婦と感情的結びつきを保ちながらも、三角関係に引き込まれない理性的な態度を保つ必要があります。
夫婦は直接的にも間接的にも治療者が自分の立場を支持するように働きかけます。
治療者が家族の一員を被害者だと考えて支持しようと考えたり、他の一員を加害者だと考えて批判的になる場合、それは治療者が家族の感情的システムに引き込まれてしまったと考えます。
感情システムの機能を教える
治療初期には、患者家族は感情を理性的に理解することは困難ですが、不安度がある程度低くなった治療中期では、成功例を引用したりすることにより、患者たちに感情システムの機能を間接的に教えることができます。
さらには、家族システム理論を直接教授することは、不安度を下げ、感情的反応性が低くなったと考えられる治療後期になります。
アイ・ポジション的立場をとる
「アイ・ポジション」とは、自分の考えや信念を冷静に説明し、行動に移すが、その際、他者が自分と異なる考えを持っていても、それを批判したり、他者と感情的な論争をしたりすることのない態度です。十分に分化した人がとる態度です。
治療者はこのアイ・ポジションを取ることにより、非三角関係を保ち、同時に家族の将来取るべき態度の見本となることができます。
まとめ 多世代家族療法で大切なこと
多世代家族療法をボーエンの家族システム理論を軸に述べてまいりました。
その主軸は「分化度をいかに高めるか」にあります。いかがだったでしょうか。
最後に、ボーエンが最も大事にしたことを述べて終わります。
ボーエンは、「理論」に基づく十分な患者・家族の理解にもっとも重きをおきました。人は実際に十分に理解していない表な事象に対してでも、自分の説明に固執しようとする衝動が強いです。特に、家族関係になると治療者も感情的になって場面に介入をしようとして、余計に悪くしてしまう場合があります。
目の前の患者・家族のために膨大な理論を紡ぎ、根拠を持って対峙するその姿勢に学ぶことは多くあります。
参考文献
遊佐安一郎 1984 家族療法入門—システム寺・アプローチの理論と実際— 星和書店
日本家族研究・家族療法学会編. 家族療法テキストブック. 金剛出版.