今年のノーベル文学賞に決まった韓国の作家、ハン・ガンさん(54)が7日夕(日本時間8日未明)、ストックホルムで受賞記念講演を行い、自身を執筆に駆り立ててきたのは、世界に対するさまざまな「問い」だったと語った。
「世界はどうしてこんなに暴力的で苦しいのか」「同時に、世界はどうしてこんなに美しいのか」
韓国語で行った講演で、ハンさんは自身を執筆に向かわせてきた動力は、「この二つの問いの間の緊張と内的な闘争」だったと話した。
ハンさんは1970年、韓国南西部の光州で生まれた。家族と共に光州から引っ越してまもなく、戒厳令下で民主化を求める市民や学生が軍に武力弾圧された光州事件が起きた。
12歳の時、起きた出来事を証拠として残すために秘密裏に制作された「光州アルバム」という冊子を大人たちに内緒で読んだ。殺害された人々の写真とともに、献血のために大学病院に並ぶ人々の写真もあった。「人間は人間にこんな行動をするのか」という疑問が自身の中に刻み込まれたと言う。
「ずっと前に私は人間に対する根源的な信頼を失ったが、どうしたら世界を抱きしめることができるのか。その不可能な謎に向き合わなければ前に進めない」と気づき、取りかかったのが、光州事件をテーマとする「少年が来る」の執筆に向けた作業だった。
当初は、「現在が過去を助けることができるか」「生者が死者を救うことができるか」という問いが浮かんでいた。だが、次第にこうした問いは覆され、「過去が現在を助けている。死んだ者たちが生きている者を救っている」と感じるようになったという。
肉食を拒否し、日に日にやせ細っていく女性を描いた「菜食主義者」は、「私たちはどれほど深く暴力を拒否できるか」という問いから生まれた。多数の住民が犠牲になった済州島4・3事件をテーマとする最新作「別れを告げない」を書いた時には、「私たちはどれだけ愛せるか。どこまでが限界か。どれだけ愛すれば私たちは人間のままでいられるか」という問いの中にいた。
一つの長編小説を書くたびに、「問いに耐えながら、その中に生きる」といい、一つの問いが終わりに近づき小説が完成すると、「次の問いが鎖のように、またはドミノのように重なって続き、新しい小説を書き始める」のだという。
今後は「ゆっくりとしたペースではあるが書き続ける」つもりだ。「今まで書いた本を後にしてもっと前に進む。いつのまにか角を曲がって、過去の本が見えなくなるまで。生が許す限り、できるだけ遠くまで」と話す。
「温かい血が流れる体を持つ私が感じる生々しい感覚を電流のように文章に吹き込もうとし、その電流が読む人に伝わると感じる時には驚き、感動する。言語が私たちをつなぐ糸だということを、生命の光と電流が流れるその糸に、私の問いがつながっているという事実を実感する瞬間に。その糸につながってくれるすべての方々に感謝する」と結んだ。