Bipolar Spectrum: A Review of the Concept and a Vision for the Future-2

概要

この論文は、双極性障害のスペクトラム概念を歴史的、経験的に検証しています。著者は、躁病と抑うつの両方のエピソードを繰り返す広義の躁うつ病というクレペリンの概念からこの概念がどのように導き出されたかを説明し、DSM-IIIによってこの概念が失われた経緯を論じています。DSM-IIIでは、再発性の気分エピソードを片方の極性だけに限定することで、広義の躁うつ病を双極性障害と単極性障害に二分しました。このアプローチは、カール・レオンハルトを始めとするクレペリン批判者の見解に従ったものです。そのため、DSM-III 以降のアメリカの精神医学は、多くの人が主張するようなネオ・クレペリンではなく、ネオ・レオンハルトであると著者は論じています。アキスカルやコウコプロスが提唱した双極性スペクトラムというアプローチは、クレペリンの提唱した躁うつ病という幅広い概念に立ち返るものです。この論文では、このアプローチに対する賛否両論の意見を論じ、境界性パーソナリティ障害が類似しているという誤った主張を含め、よくある誤解を明らかにし、批判しています。また、抗うつ薬が逆効果になる可能性や、誤診を防ぐために双極性障害の診断における正確性の重要性についても論じています。最後に著者は、双極性スペクトラム障害の概念は、DSM-5では認められなかったものの、将来の精神医学的分類に含めるべきであるという、国際双極性障害学会(ISBD)の専門家タスクフォースの勧告について言及しています。


双極性障害スペクトラム: 概念のレビューと将来展望のためのビジョン

出典別目次

双極性障害スペクトラム: 概念のレビューと将来展望のためのビジョン S. ナシル・ガエミ タフツ医療センター精神医学部、タフツ大学医学部、ボストン、マサチューセッツ州、アメリカ合衆国

要約

本論文は、双極性スペクトラムの概念を歴史的かつ経験的にレビューするものです。双極性障害という概念がどのようにクレペリンに由来するものでありながら、DSM-III によって失われてしまったのかを説明します。DSM-III では、いずれかの極性の気分エピソードの再発に基づく広義の躁うつ病という概念を、非再発性の片極性のみの気分エピソードを許容することに基づき、双極性障害と単極性障害に二分しました。このアプローチは、カール・レオンハルトや他のクレペリン批判者の見解に従ったものでした。したがって、DSM-III 以降のアメリカ精神医学は、多くの人が主張するようにネオ・クレペリンではなく、ネオ・レオンハルトであると言えるでしょう。アキスカルやククプロスが最初に提唱したように、双極性スペクトラムのアプローチは、クレペリンの本来の広義の躁うつ病の概念に立ち返るものです。本稿では、このアプローチの賛否両論について考察し、境界性パーソナリティ障害が類似しているという誤った主張を含め、よくある誤解を明らかにし、批判します。

キーワード

双極性スペクトラム、レオンハルト、クレペリン、DSM-5、混合状態、ククプロス、アキスカル

目次

  1. 双極性障害≠躁うつ病: 躁うつ病(MDI)の概念の変遷と、DSM-III における双極性障害と大うつ病性障害(MDD)への分離について解説する。MDI は再発性の気分エピソード(躁状態またはうつ状態)を特徴とするのに対し、双極性障害は躁状態の存在の有無に焦点を当てている。 (約200字)
  2. 診断の妥当性確認: DSM-III が MDI を双極性障害と MDD に分離した根拠となった、症状、家族歴、経過、治療反応、バイオマーカーという 5 つの診断基準について検証する。 (約50字)
  3. DSM-III 以降: レオンハルトの二分法を支持したペリスとアンストの研究、そしてアキスカル、ククプロス、グッドウィンらによる批判を取り上げる。アキスカルは双極性スペクトラムを提唱し、ククプロスは混合状態の重要性を強調した。 (約75字)
  4. 双極性スペクトラムの概念: アキスカルのサブタイプ分類、ククプロスの混合状態の定義、アンストの長期的な観察結果、そして著者の提唱する「双極性スペクトラム障害」の定義について概説する。 (約50字)
  5. 躁状態の優位性: ククプロスの提唱する「躁状態の優位性仮説」を紹介し、躁状態をうつ病の根本原因と捉える視点を解説する。 (約50字)
  6. パーソナリティ「障害」: 境界性パーソナリティ障害と双極性スペクトラムの鑑別について論じ、両者の根本的な違いを明確にする。境界性パーソナリティ障害は解離性症状を特徴とするのに対し、双極性障害は精神運動性の亢進が中心となる。 (約75字)
  7. 抗うつ薬による転帰: 双極性スペクトラムの概念は、抗うつ薬が奏効しない患者を特定し、気分安定薬や抗精神病薬による適切な治療を提供する上で重要であると論じる。 (約50字)
  8. DSM-IV 以降の双極性スペクトラム: DSM-5 に双極性スペクトラム障害が導入されなかったこと、NIMH による DSM カテゴリーへの批判、そして ISBD の診断基準タスクフォースの提言について述べる。 (約75字)
  9. 結論: 将来の研究においては、双極性スペクトラムの定義を用いた検証を進め、臨床現場でのより良い治療成果に繋げていくべきであると結論付ける。 (約50字)

提供された資料に基づき、主要なテーマとアイデアを捉えた8つの質問と、その回答をまとめました。

双極性スペクトラム障害:よくある質問

1. 双極性障害と躁うつ病は同じものですか?

いいえ、同じではありません。DSM-IIIが1980年に発表されて以降、精神医学では躁うつ病は大きく二つに分けられるようになりました。一つは躁病エピソードの存在を必須とする狭い定義の「双極性障害」であり、もう一つは躁病エピソードを伴わない幅広い抑うつ症状を含む「大うつ病性障害(MDD)」です。DSM-III以前は、再発性の気分エピソードを特徴とする疾患概念として、躁うつ病(MDI)という言葉が広く使われていました。現在の双極性障害は、このMDIに含まれる一部の患者を表す概念に過ぎません。

2. 双極性スペクトラムとは何ですか? なぜ重要なのですか?

双極性スペクトラムとは、古典的な双極性障害(タイプI)と単極性うつ病の間に位置づけられる、様々な気分状態を含む概念です。これは、DSM-III以降失われてしまった、クレペリンが提唱した幅広い躁うつ病の概念に立ち返るものです。双極性スペクトラムには、気分循環性障害、軽躁病エピソードを伴ううつ病(双極II型障害)、抗うつ薬誘発性軽躁病、双極性障害の家族歴を持つうつ病などが含まれます。双極性スペクトラムを考慮することは、抗うつ薬治療が適さない患者を特定し、適切な治療(気分安定薬や抗精神病薬など)に導くために重要です。

3. 双極性スペクトラム障害と診断されると、どのような治療法がありますか?

双極性スペクトラム障害の治療には、気分安定薬や抗精神病薬が有効とされています。しかし、具体的な薬剤の種類、投与量、期間については、まだ十分な研究が行われていません。

4. 双極性スペクトラム障害と境界性パーソナリティ障害はどのように違いますか?

双極性スペクトラム障害と境界性パーソナリティ障害は、どちらも気分の変動や衝動性を示すことがありますが、全く異なる疾患概念です。双極性スペクトラム障害は、脳と身体の病気であり、遺伝的要因や生物学的異常が認められます。一方、境界性パーソナリティ障害は、幼少期のトラウマ体験に関連した、解離症状を特徴とするパーソナリティ障害です。

5. 抗うつ薬は双極性スペクトラム障害に効果がありますか?

双極性スペクトラム障害の患者では、抗うつ薬に対して反応が低い、あるいは悪化するケースが多くみられます。抗うつ薬の使用により、軽躁病エピソード、急速交代型、症状の悪化などが引き起こされる可能性があり、最悪の場合、自殺企図のリスクを高める可能性も示唆されています。

6. DSM-5では、双極性スペクトラム障害はどのように扱われていますか?

残念ながら、DSM-5では双極性スペクトラム障害は独立した疾患概念として認められていません。これは、過剰診断を懸念するあまり、狭い診断基準を採用し続けているためです。しかし、このような狭い診断基準では、双極性スペクトラム障害のような有病率の低い疾患を見逃してしまう可能性があります。

7. 今後の双極性スペクトラム障害の診断はどうなるのでしょうか?

近年、米国国立精神衛生研究所(NIMH)は、DSMの診断基準は科学的根拠が乏しいことを認め、新たな診断基準として「Research Domain Criteria (RDoC)」を提唱しています。また、国際双極性障害学会(ISBD)も、双極性スペクトラム障害を含む新しい診断基準「RDC-21」を開発中です。これらの新しい診断基準は、科学的根拠に基づいた、より適切な診断と治療の実現に貢献することが期待されています。

8. 双極性スペクトラム障害に関する最新の研究はどこで入手できますか?

国際双極性障害学会 (ISBD) や米国国立精神衛生研究所 (NIMH) のウェブサイトで、最新の研究や情報を入手することができます。また、精神科医や専門医に相談することで、個別の症状や治療法に関する情報を得ることもできます。


双極性スペクトラム概念:復習と理解のための学習ガイド

この学習ガイドは、双極性スペクトラム概念に関する提供された資料の理解を深めることを目的としています。資料の重要な側面を復習し、知識をテストするためのクイズと、さらに考察を深めるためのエッセイの質問が含まれています。

クイズ

以下の質問に簡潔に答えてください。(各2~3文)

  1. Kraepelinの躁うつ病(MDI)概念と、DSM-IIIにおける双極性障害の定義の違いを説明してください。
  2. DSM-IIIで採用された、精神医学的診断の5つの妥当性検証基準を挙げてください。
  3. AkiskalとKoukopoulosが提唱した、双極性スペクトラム概念への異なるアプローチを対比させてください。
  4. Angstのチューリッヒコホート研究は、当初DSM-IIIの双極性/単極性の二分法を支持していましたが、後に双極性スペクトラム概念を支持するようになりました。この変化の理由を説明してください。
  5. 躁病の優位性仮説とは何か、そしてそれが双極性スペクトラム概念にどのように関係しているかを説明してください。
  6. 双極性スペクトラム障害と境界性パーソナリティ障害の症状の類似点を2つ挙げてください。
  7. 双極性スペクトラム障害と境界性パーソナリティ障害を区別する際に役立つ、非症状の特徴を2つ挙げてください。
  8. 双極性スペクトラム概念を理解することの臨床的な意義は、抗うつ薬治療に関連してどのようなものですか?
  9. NIMHはDSMのカテゴリーについて、科学的研究の基盤としては不十分であるとの見解を示しました。その理由を説明してください。
  10. ISBDの診断タスクフォースは、将来の精神医学的診断において何を推奨していますか?

クイズ解答

  1. KraepelinのMDI概念は、躁病エピソードまたはうつ病エピソードの再発に基づいた幅広いものでした。一方、DSM-IIIの双極性障害の定義はより狭く、躁病エピソードの存在に焦点を当て、再発性うつ病を別の疾患としました。
  2. DSM-IIIで採用された5つの妥当性検証基準は、症状、家族歴、経過、治療反応、生物学的マーカーです。
  3. Akiskalは、軽躁病を含む双極性II型の導入など、サブタイプ分類によるスペクトラム概念を提唱しました。一方Koukopoulosは、興奮や焦燥を伴ううつ病状態である「混合うつ病」を強調しました。
  4. Angstのチューリッヒコホート研究の長期追跡調査の結果、当初の双極性/単極性の二分法では説明できない、中間的な気分状態が多く存在することが明らかになりました。
  5. 躁病の優位性仮説は、うつ病は常に躁病の後に起こる、つまり躁病が火であり、うつ病はその灰であるという考えです。これは、躁病と鬱病は不可分であり、DSM-IIIによる分離は誤りであるとするKoukopoulosの主張の根拠となっています。
  6. 双極性スペクトラム障害と境界性パーソナリティ障害の症状の類似点は、気分の変動と衝動性です。
  7. 双極性スペクトラム障害を示唆する非症状の特徴として、双極性障害の家族歴と、数週間から数ヶ月続く重度のエピソード的経過が挙げられます。境界性パーソナリティ障害を示唆するものとしては、幼児期の性的虐待と、繰り返される自殺企図のない自傷行為が挙げられます。
  8. 双極性スペクトラム概念を理解することで、抗うつ薬が効果を示さず、むしろ躁転や急速交代性経過を悪化させる可能性のある患者を特定することができます。
  9. NIMHは、DSMのカテゴリーは信頼性は高いものの、妥当性に欠け、生物学的または遺伝的マーカーとの関連が乏しいため、科学的研究の基盤としては不十分であると考えています。
  10. ISBDの診断タスクフォースは、将来の精神医学的診断において、誤診を防ぎ、より適切な治療法を導くために、双極性スペクトラム障害の定義を含めることを推奨しています。

エッセイの質問

  1. Kraepelinの躁うつ病の概念から、DSM-IIIにおける双極性障害と大うつ病性障害への移行を批判的に評価してください。歴史的背景、研究、主要人物の影響について考察してください。
  2. 双極性スペクトラム障害の妥当性を支持する、症状、家族歴、経過、治療反応、生物学的マーカーに関するエビデンスを批判的に検討してください。
  3. 双極性スペクトラム障害と境界性パーソナリティ障害の類似点と相違点を対比させてください。鑑別診断の難しさ、誤診のリスク、両方の状態の患者に最適な治療法について考察してください。
  4. 躁病の優位性仮説について議論し、その妥当性を支持または反論するエビデンスを提示してください。この仮説がうつ病の理解と治療に与える影響について考察してください。
  5. DSMカテゴリーの限界と、NIMHのResearch Domain Criteria (RDoC)などの代替アプローチについて考察してください。精神疾患の分類における今後の課題と方向性について考察してください。

用語集

  • 躁うつ病 (MDI): Emil Kraepelinによって提唱された、躁病エピソードとうつ病エピソードの両方を特徴とする気分障害の広範な概念。
  • 双極性障害: 躁病エピソードと大うつ病エピソードの両方を特徴とする気分障害。
  • 大うつ病性障害 (MDD): 重度のうつ病エピソードが繰り返されることを特徴とする気分障害。
  • 双極性スペクトラム: 典型的な双極性障害と単極性うつ病の間に位置する、さまざまな気分障害を含む概念。
  • 軽躁病: 躁病エピソードよりも軽度の、気分が高揚し活動的になる期間。
  • 混合状態: 躁病症状とうつ病症状が同時に現れる状態。
  • 躁病の優位性: うつ病は常に躁病の前兆または結果として現れるという仮説。
  • 境界性パーソナリティ障害: 対人関係の不安定さ、自己イメージの障害、衝動性、感情の不安定さを特徴とするパーソナリティ障害。
  • Research Domain Criteria (RDoC): 精神疾患の新しい分類フレームワークを目指したNIMHの取り組み。
  • 国際双極性障害学会 (ISBD): 双極性障害の研究、教育、治療の進歩を目的とした専門家組織。
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