実存メモ56
自分が本質的に孤立していることを認識すると、「満たされることのない願望」が生まれる。
例:「守られたい」「何か大きな存在の一部になりたい」「他者と完全に一体化したい」
人間の脳は、群生動物として適した機能に進化してきた。
脳は、一人ですべてを処理することを目指していない。
多分、15人、30人、60人程度の集団を作り、その中で交信しあい、補い合い、励ましあいながら、生きてきた。そうしたことに最適化した脳が生き残ってきたと思われる。
生殖の都合があるので、男女二人は基本の単位であるが、それは生物学的受精のプロセスであって、出産にも子育てにも、集団で関わってきた。利他的遺伝子が機能している。
この観点からは、孤立は不利な状況であって、避けたほうがよい。そこで不安信号が発信される。そして人間は孤独を解消する方向で行動する。集団と個人が妥協できて、むしろ協働できる地点を探す。それは個人にとっても集団にとってもよいことだ。
脳はそのようにできているのだから、そのように働かせた方がよい。
個体の脳の特性と、集団の特性との関係で、うまく協働できない場合がある。そのときは孤独に悩む。孤独がいやだったら妥協しろという信号でもある。
それでもなお孤独を維持し、集団と妥協しないのは、不安を高めるし、生存確率を低下させる。しかしそのほうがいいと感じる個体も存在する。一種の性格障害と映るのだろうと思う。高貴なタイプの自己愛性格などがそうだろう。
DNA原理と脳原理の関係もある。
そもそも生物はDNA原理で生きている。脳は、生物が遺伝子の乗り物として高性能であるように、道具として進化してきた。だから、基本的には、脳原理は、遺伝子原理に逆らうことはない。しかし、脳原理が人間において急激に進化したのは最近のことであり、まだ折り合いがついていない部分が数多くある。遺伝子の生存確率を固めるためには、集団主義のほうがよい。一方で、脳は、進化の途中であり、個人主義の方針で生存確率を上げることができないかと考えたりする。自分が犠牲になって集団に奉仕することは脳が承知しない場合がある。その時孤独が生じ、不安が生じる。
遺伝子原理は数世代先のことまで計算に入れて、有利な戦略を採用する。しかし脳はそこまでは発達していない。脳原理は、短期的な利益を優先してしまうことがある。
脳は、自分が遺伝子の道具にすぎないことを忘れる。脳原理を遺伝子原理よりも優先しようとしたりする。そこで障害が発生する。
脳原理がもっと進歩すれば、解決される。まだ子供なのである。