実存メモ70
救済者への依存
この恐怖を和らげるために、人はさまざまな防衛機制を用います。その一つが「救済者(レスキュー)への依存」です。
これは、「自分を死の淵から救ってくれる誰かを求める」という心理的メカニズムです。
しかし、これが過剰になると、受け身で依存的になり、必要以上にへりくだる性格が形成されます。
このような人々は、生涯をかけて「究極の救済者」を探し、その人を喜ばせようとします。
たとえば、ヤロムの患者であるエルヴァ(高齢の女性)は、ひったくりに遭ったことが原因でセラピーを受けることになりました。
彼女は、その出来事にひどくショックを受けていました。しかし、彼女のパニックの根底には、亡き夫への執着がありました。
彼女は心の奥底で、「夫が自分を守ってくれるはずだ」と信じ続けていたのです。
しかし、ひったくりに遭い、自分の無防備さを痛感したことで、その信念が揺らいでしまいました。
このように、人が持つ「救済者への依存」は、表面的にはまったく別の出来事として現れることもあるのです。
ドストエフスキー「カラマーゾフの兄弟」の中で、大審問官が言う言葉。
つまり、大衆は救済者を求めているのだから、その求めに応じて、救済者となる。
それだけである。
繰り返されてきた、そして今後も繰り返すに違いない、救済の物語。
本当に、救いのない話。