「私たちは過去を作り出す」
つまり、「現在の状態」、「現在の生き方」がどのような過去を思い出すかを決めているのです。
ーーー
過去が現在を決定していると考えるのは、緩い意味での決定論であり、
かこのテンプレートが現在の思考・感情・行動に影響を与えていると考える。
当然と言えば当然である。
一方、現在の状態が「過去」を決めるのも当然のところがある。
「過去」を考えたり感じたりしているのは「現在」なのだから、
どんな思考・感情・行動も「現在」の強い影響のもとで、発生しているはずである。
「過去」が発生しているとは、普通ではない言い方である。
「回想」するときには、「現在」を基盤にして、「過去」を生成すると言ってもいいだろう。
確かに「過去」はすでに確定している客観的なものである。
過去の時点でのビデオ記録など、客観的な材料もあるだろう。
しかし事件のビデオを見て、客観的証拠があるから、診断ができるというものでもない。
客観的過去は一つの材料であるが、「現在」の状態で「回想」する「主観的過去」が、その人の精神状態を理解するには大切だ。
事情を解きほぐして言えば、
・「客観的過去」はもちろんあって、そのせいで体に傷が残っていたりする。心理的にも影響を残し、現在を形成する。
・「昔、その時感じた主観的過去」も大切で、それは強い記憶として残っていて、テンプレートのひとつとして、現在の状態に影響している。
・「客観的過去」と「昔、その時感じた主観的過去」との両方が、「現在」の精神状態を形成している。
・言い換えれば、「客観的過去」と「脳内のテンプレート」が現在に影響する。
・「現在」の状態で過去を「回想」すると、「客観的過去」と「昔、その時感じた主観的過去」の両方を材料にして、現在の「主観的回想」を「作り出す」。本人にとっては、それが「現在思うところの過去」である。
・典型的で強烈な例でいえば、幼児期の性的虐待体験などである。「現在の陳述」からは、客観的過去は得られない。しかしそれよりも「現在回想して、現在生成する過去」を聞く方が、「現在」のその人の状態を理解するには役に立つ。
ーーーーー
認知症の人は過去を忘れてしまう。現在を形成する材料にもならない。
妄想症の人は過去を妄想で作り上げてしまう。それは過去を語っているのではなく、現在を語っている。