Kalsched, D.『トラウマの内的世界:個人の精神を守る元型的防衛』

ドナルド・カルシェッド Kalsched, D.の著書『トラウマの内的世界:個人の精神を守る元型的防衛』は、トラウマが個人の内的世界に及ぼす影響と、それに対する心の防衛メカニズムを深く探求した作品です。​カルシェッドは、トラウマによって引き起こされる内的な防衛システムや元型的なイメージが、どのようにして個人の精神を保護し、また時には成長を妨げるかを考察しています。​

本書では、トラウマを経験した個人の内的世界に現れる「内的対象」について詳述されています。​これらの内的対象は、トラウマから自己を守るための防衛メカニズムとして機能しますが、同時に自己の成長や癒しを妨げる要因ともなり得ます。​カルシェッドは、ユング心理学における神話的イメージや象徴を活用し、トラウマ後の複雑で変化する心の回路を解き明かしています。 ​

また、カルシェッドは、トラウマによって生じる防衛メカニズムや内なる保護システムに焦点を当て、それがいかにして人の成長や癒しを妨げると同時に、時には心を守る役割を果たしているかを示しています。​彼は、トラウマが個人の心と魂にどのような影響を与えるかを深く考察し、内的世界の複雑さを理解し、癒しの道筋を探るための新しい視点を提供しています。 ​

さらに、カルシェッドは、トリックスターの元型についても言及しています。​トリックスターは、未開文化でよく知られる人物像であり、物事の始まりから存在する神のイメージとして描かれます。​彼の本質的な特徴は、空想性と両価性であり、殺人者でありながら偉大なる善も為し得る存在として描かれています。​カルシェッドは、トリックスターの悪魔的側面が、分離や解離、自己破壊的な退行を引き起こす能力があると指摘しています。​しかし同時に、トリックスターは対立するものをともに含み、欠けている「第三」のものとなることで、トラウマ後に心を圧倒するような敵対する元型的力動の間を仲介する役割を果たすと述べています。 ​

本書は、トラウマによって形成された内的世界の複雑さを理解し、癒しのプロセスを探求するための貴重な視点を提供しています。​カルシェッドの洞察は、トラウマケアや心理療法の分野において、クライアントの内的世界を理解し、適切な支援を行うための指針となるでしょう。

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