引用して解説
認知行動療法への批判と疑問点
うつ病に対する抗うつ薬の臨床試験の場合、偽薬(有効成分が入っていない)の投与群でも症状がある程度改善するため、薬剤を服用しているという希望や期待によって否定的な思考が改善していることが示唆されている[30]ことから、認知行動療法の効果もプラセボ効果ではないかという批判がある[要出典]。プラセボ効果に詳しいアービング・カーシュによれば、追跡調査で効果に違いがあり抗うつ薬では治療をやめると再発しやすいが、認知行動療法では長期的にみると再発率が抗うつ薬よりも低い[31]。しかし、認知行動療法の長期的効果研究については、患者も治療者も治療内容を認識している以上(これはどんな精神療法にも当てはまると言える)、治療急性期と同様に二重盲検が不可能であり認知行動療法の長期的効果研究法に大きな不備があると指摘されている[32]。
2013年にダグ・ベルガーは、認知行動療法の前提においては否定的な思考という症状がうつ病の原因であるとされているが、医学や精神医学の中では症状が病気の原因になっている唯一の例だと指摘し[32]、加えて(認知行動療法の研究の方法として)治療法を患者に対して二重盲検法によってランダムに割り振れないのではないかと疑問を呈している[32]。たとえ二重盲検法を用いても、患者も治療者も否定的な思考を修正することに積極的に取り組むことになり、希望による期待によってバイアス(偏り)が生じる[32]。また、研究の評価者は治療内容を認識していないが患者と治療者の両者が認識している単盲検(シングルブラインド)による効果の研究方法は、結果を歪ませてしまう[32]。2010年のメタアナリシスによると、二重盲検法による研究よりも単盲検のほうが効果が大きく出ている[33]。しかし、単盲検(シングルブラインド)の正式な定義は、患者のみが治療内容を認識しているしくみである[34]。
その上でベルガーは、うつ病における試験では50%の改善にて反応したとして評価するので、心理的な苦痛を和らげてはいるもののうつの根本的な部分は実際に変わっていないと批判している[32]。また「私はだめな人間」のような否定的な思考は抑うつ気分から生じているかもしれないが、治療者によって与えられる希望や支援によって緩和されるがそれでもなお苦痛は残っている[32](この改善率などの評価方法は、抗うつ薬の試験でも同様である)。心理療法の臨床試験の募集の際には既にバイアス(偏り)が生じており、心理療法に反応しないような重症のうつ病の者は臨床試験に採用されにくく、日常の臨床に適していないとも指摘している[35]。
ゆえに、ベルガーは二重盲検されているとはみなされないとし、根拠に基づく(EBM)とは言えず、これまでのデータは「統制されていない研究結果」にすぎない、としている[32]。さらにEBMでは、ランダム化比較試験(ランダムに割り付けられた二重盲検による試験)は、ランダム化比較試験が結合されたメタアナリシスについで証拠の強さが強い[36]。 また、医薬品の単盲検試験では被験者に割付群を知らせないが、心理療法のランダム化比較試験 (RCT) における単盲検では効果の評価者に割付群を知らせないという違いがある。心理療法のRCTの問題を克服する手法も開発されており、評価者がブラインド化された研究では効果量が50% – 100%高く出ることもない[37]。なお、抗うつ薬の二重盲検試験にも、副作用の有無によって医師と被験者に抗うつ薬と偽薬のどちらを投与したか見破られるという問題がある[38]。
しかしながら、抗うつ薬では別の疑問が存在し、得られたデータを解析し、偽薬と比べて臨床的に意味のある差がないことが判明している[39]。
重度の症状が有る場合は、苦痛を伴う事が少なからず有る事で苦痛に耐えきれず中途で断念する人が少なからずいる[要出典](医薬品の試験でも同様であり、例えば、抗精神病薬の試験では「18カ月で」74%が、効果がないか副作用のため試験から脱落している[40])。抗精神病薬は統合失調症に用いられる。認知行動療法の主な対象であるうつ病において使われている抗うつ剤の脱落率は、「6週間(1か月半)で」、SNRI系抗うつ薬で26.1%, SSRI系で28.4%である[41]ある。